青春は赤く染まりて   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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誤字脱字の確認と文章の微修正を行っていただけなのに気が付いたら一夏君に知らない設定が生えていた。どうなってるの……



決闘準備

 あの赤い記憶の日。姉さんは私がテロに巻き込まれた事を知るや否や、慌てて自作の救護キットを持ち出して私の救助に駆けつけてくれた。分かっていれば防護服なり何なり用意したのだろうが、何しろ不測の事態である。炎の海の中に生身で飛び込み、自身が負う火傷など気にも留めずに私を救い出し、あの地獄から解き放ってくれた。

 やがて騒動も一息吐いた頃、押っ取り刀で駆けつけた救急隊員が私を病院に連れて行こうと身柄の引き渡しを要求したが、姉さんは自分の治療の方がよっぽど効率が良いと啖呵を切って私を手放さず、どう納得させたのか知らないが事実私を医者の手に委ねる事無く全快まで付きっ切りで看護してくれたのだった。

 

 そして私は事件の前と変わらない日常へ戻っていった。だが、一つだけ変わってしまった事……もう元の通りには戻せない事があった。戻す必要も無い、私にとって善い変化だったのだが。

 

 

 言うまでも無く、私が姉さんに抱いた想い―――恋心の事である。

 

 

 あの時、世界を侵す赤を……世界そのものと化して私を殺しに掛かった『赤』を、姉さんが一人で追い払ってくれたあの瞬間。『赤』を割って飛び込んで来た姉さんを瞳に映したあの(とき)から。

 私は、姉さんの虜になったのだ。世界で、否、宇宙で一番かっこよくて頼りになる優しい姉さんに、どうしようもなく恋焦がれてしまったのだ。

 以来、今日に至るまで私は姉さんに懸想し続けている。恐らく、いや確実に未来永劫死んでも姉さんを慕い続けるだろう。姉さんを愛し敬い添い遂げる事こそが私の生まれてきた意味なのだと、あの窒息しそうなほど濃密な『赤』の中で私は確信したのだから。

 

 

 

 

 それが私の原初の記憶。今も時々夢に見る。思い出として語れるようになった現在では、あの『赤』は私にとって恐怖の象徴でも無ければ忌避すべき死の呪いでも無い。私と姉さんの間に存在する何者も立ち入る事ができぬ愛情と恋情の象徴であり、私達の幸せな未来への門出となった祝福なのだ。故にそれは、誰が何と言おうとも、私にとっては悪夢では無く吉祥なのである。

 

 私はあの『赤』の記憶を、生涯忘れないだろう。この胸の内に宿った確かな恋心と共に。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「……ともかく、納得はせずとも謝罪はしておけ。一言で言って篠ノ之は面倒な女だ」

 

「よく分かりませんが、とりあえず謝った方が良い事は理解しましたわ」

 

 話は戻ってIS学園1年1組の教室。

 千冬の説得(私が超ド級のシスコンである、というかなりオブラートに包んだ説明)を受け、ドリルは(微妙な表情で)私に向き直った。というか、クラス中から向けられる視線が微妙に生温いモノに思える、何故だ。私はただ世の至宝たる姉さんを(かなり迂遠且つ意図せずに)侮辱したドリルに対し、正当で妥当な報復(弁明の余地も与えず制裁)を行おうとしただけなのに。そんな残念な者を見るような目を向けられる覚えは無いぞ。

 

 ともかく、必要な事だと判ったのだろう。ドリルは私に頭を下げた。

 

「申し訳ありませんでしたわ、篠ノ之さん。貴女の姉……篠ノ之博士を、侮るような言動の数々を謝罪いたします」

 

「……ふん、まぁ良い。今は見逃してやる」

 

 ……後でどうするかはさておき、な。

 そう心の中で呟きながらもこの場は矛を収める。こいつも一応は誠意を見せたのだ。姉さんの輝かしい栄誉や魅力を欠片も理解できているか怪しいこのドリルの謝罪に、果たしてどれだけの価値があるかは知らないが、暫く泳がす程度の猶予は与えてやっても良いだろう。私だって鬼ではないし良心もあるのだ、始末するのは次の機会ということで。

 

 しかしまあ千冬の奴、髪と同様頭までクルクルパーだと思っていたこのドリル女(名前は覚えてない)に、暴力を用いぬ言葉のみの説得で頭を下げさせるとは……。

 

「相手を説き伏せ、従えるカリスマ性……世界最強(ブリュンヒルデ)は伊達では無いということか、千冬」

 

「妙な部分に感心するんじゃない、お前が勝手に人との対話を諦めてるだけだろうが……というかここは学校だ、学生は教師に対して相応の礼儀を払え!」

 

 そう言って頭を出席簿で殴るちふ……織斑先生。私もすっかり素が出てしまい敬語が抜けていたという失態は自覚したので、甘んじて受ける。だが人との対話を諦めてる、とは失礼な。

 

「私は対話を諦めてるのではありません。ゴミのような愚民共の鳴き声に耳を傾ける暇があるなら姉さんの天使の如き美声を常に拝聴していたい、という信条に従っているだけで……」

 

「なお性質(たち)が悪いわ阿呆! 姉の発言以外は元より聞く耳無しか!」

 

「無論です、姉さん以外の生物との間に相互理解もコミュニケーションも必要ありません。ソレが姉さんにとって有益か害悪か、それさえ判断できれば充分でしょう?」

 

「極論が過ぎるのは相変わらずだな篠ノ之……そこも含めて授業後に説教だからな?」

 

「むう、解せぬ……」

 

 

 

 

 

 ……などという私達にとってある意味いつも通りの会話の後ろで、所在無さげに佇む男女二人。即ち本来の話題の中心だったクラス代表の候補者二人は、脱線しまくる私達を見ないフリしつつ、とりあえず拗れた話を纏めようと努めていた。ある種涙ぐましい努力である。

 

「あの……結局どうします? クラス代表……」

 

「え、ああ、やりたくは無いけど……舐められっぱなしもちょっとアレかなって……」

 

「えっと、なら、決闘……とか、どうでしょう?」

 

「あ、うん、じゃあそれで……」

 

 

 なんかわにゃわにゃした空気のまま、その場の流れで決闘が行われる事になったようだ。何とも締まらない話である。が、それを聞き逃す私ではない。即座に織斑先生との益体も無い会話を切り上げ、二人の談合に割って入る形で宣言。

 

「ならばその決闘! 私も参加させてもらおうか」

 

『え』

 

 二人の声が重なり、油の切れた歯車のようなぎこちない動きでこちらに向き直る。そして硬直。その瞳は明らかに怯えを湛えている。……先ほど殺しかけたドリルはともかく、何故一夏まで怯えているんだ。私は何の理由も無く幼馴染を殺しにかかったりはせんぞ。理由があれば別だが。

 というより、二人して何を驚いているのやら。折角『合法的』にドリルを『抹殺できる』機会が巡ってきたのだ、乗らないわけが無かろう? 私の事を機を見るに鈍な暗愚だとでも思っていたのだろうか。

 

「ほ、箒……今何て? 幻聴かな? 寧ろそうであれ……」

 

「私の耳には『決闘に参加する』と……じょ、冗談ですわよね?」

 

「幻聴でも冗談でも無いぞ、私も決闘に参戦する。そして貴様を……ふふ」

 

「ひぃっ!? わ、私をどうなさるおつもりですの!?」

 

「含みを持たされると余計に怖いぞ箒!?」

 

 現実逃避気味に再確認する二人の質問(むしろ願望)を一刀両断、ばっさり切り捨てると二人とも更に恐怖の色を強めた。特に怖がらせる心算は無かったのだがな。

 ともあれ、私に対する恐怖心のままに、二人はどうにか私の参加を阻もうと悪足掻きを始める。

 

「い、いえこれは飽くまでクラス代表を決めるための試合ですし……」

 

「そ、そうだぞ箒、これは俺たち二人の問題で、だからその、割り込みは……」

 

「……ふむ、それなら仕方無いな」

 

 二人が必死で言い訳じみた、……というか言い訳そのものな説得を行う。傍から見れば滑稽な事この上無いが、本人達は至って必死である所が更に哀れを誘う。だが、弁舌の内容自体は一理あるな。クラス代表を決める為の決闘だと言うのに、何の関係も無い私がしゃしゃり出るのもおかしな話だし、確かにそういうことなら仕方が無い。

 

「織斑先生、仕方が無いので私もクラス代表に立候補します。これで資格はある筈だ」

 

「…………仕方が無いので許可しよう」

 

「織斑先生ぇぇぇぇ!?」

「千冬ねぇぇぇぇぇ!?」

 

 二人の絶叫が教室中に響き渡る。やかましい。

 織斑先生殿は数瞬だけ迷ったようだが、結局はほぼ即断で私の参加を認めた。却下した場合の私の動きを量りかねたのだろう。実際、私の言が認められなければ、その内ドリルへの闇討ちを決行しようかと思ってたし。

 そうなるよりは、衆目と絶対防御のある環境で、自身による監督の下比較的安全に決着を着けさせる方がまだマシだという判断だろう。私を睨みながら「それで我慢しろ」とでも言いたげな表情だ。まあ妥当な妥協点だと思い、密やかに頷いてみせる事で了承の意を示す。良かったなドリル、闇討ち()中止になったぞ。

 

「では試合は一週間後に行う事とする! 山田先生、アリーナ貸切の手続きを」

 

「は、はいっ!」

 

 今までずっと存在感を消していた、というか会話に割って入れず右往左往してた童顔緑髪の教師(名前は知らん)が慌てて返事を返す。ちなみに渦中の男女二人は放心状態。そして織斑先生は何事も無かったかのように授業を始め、生徒たちは慌てて教科書を開く。カオスはここにあった。

 

 

 

(さて。来週までに「可能な限り事故に見せかけて絶対防御を抜き操縦者を死に至らしめる方法」を模索しておかねばな)

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 そして放課後。剣道場に私と一夏の姿はあった。

 

「と、いう訳でだ一夏。お前の剣を鍛え直してやる」

 

「いやいやいや何がどういう訳でこうなった!?」

 

 どうもこうも無く、決闘の為にお前を鍛え直してやろうという訳なのだが。中学に上がってからは剣道も止めたと聞くし、腕が鈍っている事だろうし。……別に、あのドリルへの制裁がお預けになった八つ当たりでは無い。多分。

 そう説明しつつ私は一夏に備品の竹刀を投げ渡し、自分も同じものを構える。

 

「とにかく構えろ一夏、そして黙って死ねぇぇぇぇ!!」

 

「やぁっぱり八つ当たりじゃねえかああああ!!」

 

 そして思いっきり斬りかかるが、間一髪で避けられる。ちっ、ちょこざいな。

 

「煩い、私だってフラストレーションが溜まってるんだ! 憂さ晴らしにくらい付き合ってくれてもいいだろう、何の為の幼馴染だ!」

 

「お前にとって幼馴染はサンドバッグか何かなのか!?」

 

「違うのか!?」

 

「俺の幼馴染が予想以上に冷たい!」

 

 そんな言葉を交わしあいながらも、私は息も吐かせぬ連撃を放つが、一夏はその尽くを躱し続ける。無論私とて幼馴染を本気で殺す心算も無し、加減はしているものの、本気で当てに行っているのは確かだ。それをこの男は当たり前の様にさぱさぱと掻い潜る。

 昔からこうだ。幼い頃から一夏は防御……特に回避技術に優れている。牽制程度の軽い攻撃ならともかく、決定的な一撃を加えるのは私や千冬でも一苦労である。全く、何をどうすればここまで回避特化の人間が出来上がるのやら。

 

 ……私と千冬との間で度々発生する殺し合い(けんか)に、毎度毎度一夏も巻き込まれていたような覚えはあるが、その事との関連性は不明だ。避け損なえば怪我では済まず、下手な受け方なら防御も危険なレベルの攻撃が飛び交う、もはや戦場とでも呼ぶべき環境が日常だったとしても、それが原因で一夏の回避技術が洗練された(されざるを得なかった)という証左にはならん。

 だから私は悪くない。と思う。思いたい。

 

 とにかく。私と離れて以降鈍りっきりだったろう一夏の回避技術を、一週間後の決闘までに万全の状態に戻してやるのが目的である。若干荒療治ではあるが、そのついでに私のストレス解消にもなるのだ、一石二鳥だろう。

 

「だからとっととくたばれ一夏ァァァァ!」

 

「何考えてるかは大体予想付くけどその一石二鳥は理不尽だぁああああっ!」

 

 絶叫する一夏の目には涙さえ浮かんで見えるが、それでも私の剣閃を紙一重で避け続ける。……もうちょっと殺す気でやるか。そうでないと当たらん。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 ―――そんな箒と一夏の立ち合いを剣道場の外から覗く者が居た。

 

「何ですの、アレ……」

 

 主席入学者にして英国代表候補生、我らが掘削機械(ドリル)ことセシリア・オルコット嬢その人である。

 あの騒動の時は箒の殺気に気圧され情けない姿を見せたが、放課後になる頃にはいつもの調子を取り戻していた。確かにあの殺気は凄まじいものだった。決して一般人が醸し出して良い気迫では無かったが、一週間後に行われるのはIS同士の試合。それならば代表候補生として訓練を積んできたエリートである自分に分がある―――そう思い至ったのだ。

 

 そうして漸く少しは気が楽になったセシリアが廊下を歩いていると、剣道場の方から何か物音が聞こえた気がした。何だろうと中を覗き込んだが最後、そこに広がっていたのはもはや異次元。

 

 

 

「避けるな一夏ァ!」

 

 片や残像で幾つにも分裂して見える剣撃を放っている箒。その剣速は段々とギアを上げて行き、遂には残像すら残らず竹刀の刀身が全く見えなくなる。ただ空気を裂く音と一拍遅れてやってくる衝撃だけが、そこに竹刀が振るわれたという事実の証明である。

 

「避けるに決まってるだろこんなのぉ!?」

 

 片やその全てを捌き切り一撃も食らう事の無い一夏。それは例え肉眼で捉えられない程の剣速になろうとも変わらない。本人的には全く余裕など無いが、というか必死すぎて無我夢中だが、それでも確かに避け切っている。

 

 

「……私、あんな方達と試合なんてしなければなりませんの?」

 

 一瞬弱音が口から漏れ、すぐに心中で自分を叱咤する。

 相手が優れた回避技術を持っていようが秀でた剣の使い手だろうが、行われるのは剣道では無くISの試合だ。ましてあの様子では二人とも接近戦が専門だろう。なら遠距離を得意とする自分ならば距離を詰めさせさえしなければ完封も―――と、考えた所で新展開。

 

 

 

「ええい、これならどうだっ!?」

 

「待て箒、斬撃を飛ばすのは反則だろ!? そういうのは千冬ねぇ相手にやれって!!」

 

 

 ―――事も無げに竹刀から衝撃波のようなものを飛ばし始めた箒と、当然の事のようにそれを受け流す一夏(実際彼の姉と幼馴染との喧嘩では斬撃が飛び交うのも日常茶飯事)を見なかった事にして、セシリアは踵を返した。あれはもう幻覚とか幻聴とか、その類の何かである。直視してはいけない。

 

 

「ちょ、分身もやめ……斬撃の設置!? いつの間にそんな芸当覚えたんだ箒っ、待っ、おああああああああ!!?」

 

 回避に関してなら彼女以上の男の断末魔が後ろから聞こえてきたが、セシリアには聞こえない。聞こえないったら聞こえないのだ。主に再び崩れかけた心の安寧の為に。尤も、完全崩壊は時間の問題だろうが。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「安心しましたわ! 私のようなエリートを相手にするのに、まさか訓練機では相手が務まる筈もありませんものね!」

 

 どっこい挫けぬオルコット。

 

 彼女はどこまでも誇り高い貴族であった。あのまま自信とプライドを砕かれたままでは、大好きだった亡き母にも、大嫌いだった亡き父にまで顔向けできない。残っていたなけなしの気概で自らを奮い立たせ、精一杯の虚勢を張っていた。

 

 元より彼女は代表候補生。IS操縦者としての実力は確かだ。ならば何を恐れる事がある、相手が幾ら規格外の身体能力を持っていようと、IS戦で分があるのは自分の方だ。相手もこちらと同じく専用機を持ってこそ、五分というもの。

 織斑一夏に専用機が与えられると聞いたセシリアは、先の台詞を挑発するように嘯いたのだ。

 

「織斑さんに関しては、これで手加減など考えずに済みそうですわね。では、そちらの篠ノ之さんはどうなのでしょうか? 彼女にも専用機が与えられるのですか?」

 

 だが、続けて言い放ったその言葉が余計だったのかもしれない。

 千冬がそれに答えるよりも早く、箒自身が回答した。

 

「与えられるも何も、もう持ってるぞ? 私は姉さんの妹だからな、天災(ねえさん)特製の第四世代機だ」

 

 

 第四世代機。世界各国が第三世代機の開発に躍起になり、セシリアの所有する専用機ブルー・ティアーズもその実証試験機に過ぎないというのに、第四世代機。

 

 始めの数秒は何を言われたのか分からなかった。段々とその事実を脳が認識していくにつれ、セシリアの表情は不気味なほど穏やかになっていく。そして瞳を閉じると、虚空を見上げ―――

 

 

 

「―――――――――」

 

「……オルコットさん? ……き、気絶してる……」

 

 それきり動かなくなったセシリアを不審に思った真耶が近付いて見れば、彼女は立ったまま気を失っていた。その顔はまるで悟りを開いたかのように安らかだったと言う。セッシーかわいそう。




やめて!

魔改造モッピーの身体能力で第四世代機まで使われたら、
既に折れかけのセッシーの精神が燃え尽きちゃう!

お願い、死なないでセッシー!

貴女が今ここで倒れたら、クラス代表はどうなっちゃうの?
SE(シールドエネルギー)はまだ残ってる!
モッピーさえ凌げば、IS素人の一夏なんか楽勝なんだから!

次回『セッシー死す』 決闘準備(デュエルスタンバイ)!


※ネタバレ:肉体的には生き残る予定。精神的には……うん
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