青春は赤く染まりて   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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『ともかく私は私が最善と思う方法で姉さんの痕跡を追い、道中で若干の邪魔はあったものの特に問題も無く旅を続け、半年の後には姉さんの隠れ家……世界中を点々とする移動型ラボの現在地を突き止め、遂に追いつく事に成功する。』―――前話より抜粋

モッピーにとってはこの程度の認識なのです。



あと今回書いてて例のあの人の敬語に違和感しかなかった。


兎と実験鼠

 英国、首相官邸―――首相執務室。そこには現在、二人の女性が居た。

 

 一人はフォーマルなスーツに身を包んだ妙齢の女性。国際政治に少しでも関わる者なら……否、政治など興味の無い市井の一般市民でも多くの者が知っている顔だろう。グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国―――即ちイギリスの、現首相である。

 この女尊男卑の世においてなお、純粋な政治力の強さから男女問わず支持を集める実力者。内政・外政両面にて辣腕を振るい混迷する国際情勢を切り抜ける手腕は、嘗て冷戦期のイギリスを率いた『鉄の女』サッチャー首相の再来とも言われている。現代においてトップクラスの政治指導者の一人である。

 

 そんな彼女は今、困惑の表情を隠せずにいた。その困惑の原因となっているのは彼女の目の前で土下座しているもう一人の女。

 

 桃色の髪に機械的なウサ耳―――そう、世界中の人々がその名前を知っているだろう、インフィニット・ストラトスの開発者にして世界中に指名手配中の世界最重要人物、何より我らがモッピーの人生の全て。篠ノ之束博士その人である。

 

 首相がいつものように執務室で仕事をこなしていた折、突如部屋に束が飛び込んできて「まっことに申し訳ありませんでしたァーーーーー!!!」という雄叫びを上げながらジャンピング土下座、地に額を擦りつけたままの体勢で静止。そりゃ歴戦の政治家だって困惑もするってもんである。

 では何故、天下の篠ノ之束がこんな場所で土下座などしているのか。それを説明する為に、視点を束に移し少し時を巻き戻そう。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「はぁぁーーーー……」

 

 私の口から零れたのは、これで何度目かも分からない深い溜息。

 

「……箒ちゃん、大丈夫かな……」

 

 モニターやその他の電子機器の仄かな灯りだけが光源となる暗い室内。普段は嬉々としてそれらの機器を弄り、日夜新しい発明や研究を行っている私だけど、ここ数日は作業も進まず上の空。

 それというのも、私の妹……箒ちゃんが、イギリスの代表候補生と『決闘』を行うと聞いているから。他の全てに手が付かなくなってしまう程心配なのだ、箒ちゃんの事となれば特に。

 

 ……いや、箒ちゃんが『負ける』だとか『傷付く』だとか、そんな心配は全くしてないんだけど。あの子にはそんな心配するだけ無駄だって、この数年で嫌と言うほど思い知らされた。

 だから心配してるのは寧ろ逆。

 

「相手の子、死んじゃったりしないよね……一応、殺すの禁止って言っといたけど……」

 

 考えれば考える程不安になってくる。箒ちゃんは私の事大好きすぎて、その他の事物を全て『どうでもいい』って本気で思っているのだ。意図的に殺すような事は、私が『お願い』した以上絶対にしないだろうけど、……それでも実力差が大きすぎる以上、命に関わる事故の可能性が無いとは言い切れないし、箒ちゃんは絶対気にも留めない。

 何しろ()()箒ちゃんだ。私の親友であるちーちゃん(世界最強)と、この世で唯一真正面から切り結べる戦闘力バグなのだ。つーかあの二人何なの怖い。

 この私、『細胞レベルでオーバースペック』を自称する束さんでも、戦闘能力という面で見ればあの二人には到底及ばない。昔は私だって、ちーちゃんとも肩を並べる実力があった筈なんだけど……どうもちーちゃんと箒ちゃんが互いに影響しあった結果、人外を通り越して天変地異の領域まで互いの戦力水準を高め合ってしまったらしい。今となっては、私如きじゃ10秒もかからず瞬殺されるだろう。

 

 だけど箒ちゃんの真の『恐ろしさ』は戦闘技術じゃ無い。いや、確かに戦力的な意味でも十分に脅威なんだけど……それ以上に、精神面(メンタル)が極まり過ぎている、という点が大問題。……要するに、『あの子束さんの事好きすぎだろ!』って事なのだ。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 そも、箒ちゃんが私に恋愛感情を抱き始めたのは、あの忘れもしない爆発テロの日。あの時以来、ずっと私の事を想い続けてきた……らしいのだけれど、情けない事に、私はどっかのラノベ主人公並に鈍感だった。だから箒ちゃんが私を慕ってるのは知ってても、飽くまで『姉妹愛』の範疇だと思い込んでいた。

 そんな訳で、私が箒ちゃんの本当の想いを知ったのは、失踪して世間から姿を眩ましてから半年後―――誰も知らないし痕跡すら残っていなかった筈の束さん特製の移動ラボに、箒ちゃんが突然やって来た時の事だった。いや~、あの時は本当にびっくりしたよ。

 

 何がびっくりって、完璧に隠蔽されてた筈の私の秘密ラボを一体全体どうやって見つけたのか、って驚きが先ず一つ目。ちなみに後で聞いた話によると、「姉さんの匂いを追ってきたんだ」との事。世界中の諜報機関の執拗な追跡を考慮して、ラボ施設は念のため匂いも完全に消臭する仕様だったんだけど……何故か箒ちゃんは嗅ぎつけた。謎である。

 でもあの日、箒ちゃんが私の目の前に現れた時、そんな疑問を考えるヒマは無かった。何故って、目が合った直後に飛び掛られて、そのまま犯されたから。それが二つ目のビックリポイント。その瞬間まで箒ちゃんが私に恋愛感情を抱いているだなんて夢にも思わなかったから、心底混乱したよ。とはいえ、この件に関しては私に責任が有る。箒ちゃんの(ちーちゃんが言うには「これ以上無い程分かり易い」)愛情表現にまっっっったく気付きもせず、勝手な理由で彼女を一人ぼっちにさせてしまった私の落ち度。そうして溜まった寂しさと切なさが、再会の瞬間にスパークして箒ちゃんを野獣に変えたのだ。

 まあ私がいくら人の感情の機微に疎いとはいえ、一心不乱に私の身体を貪りながら「大好き」だの「愛してる」だの「結婚しよう」だのと宣う様子を見れば、向けられている感情がどのようなものか、流石に理解できる。理解してしまえば、私だって元々箒ちゃんの事は(妹として)大好きだったんだもん、それが『恋人としての大好き』に変わったとしても何ら不思議は無い。驚きはしたけど、受け入れるに吝かでは無かった。

 吝かでは無かったけど、行為に及ぶ前にシャワーくらいは浴びて欲しかった。おかげで、体中ベトベトになってしまった……()()()

 

 ―――そう、血糊。これが三つ目の、そして最大の驚愕だったんだけど……あの時の箒ちゃんの全身は、いつかの記憶の如く『真っ赤』に染め上げられていたのだ。ただし、箒ちゃんが怪我を負っていたとか、そういう事じゃ無かった。全身の血は箒ちゃんの血では無く、つまり他の誰かの血液……全て『返り血』。正直言って、かーなーりスプラッタな光景だった。そんな箒ちゃんに襲い掛かられた時は何かのホラーかと思ったよ。

 何て言うか、触れてはいけない話題のような気もしたけど、スルーする訳にも行かず。『行為』が終わって箒ちゃんが幾分冷静さを取り戻した頃を見計らい、それとなーく尋ねてみた。「返り血凄いね、どうしたの?」……全然それとなく無かった。私の方が冷静に戻れてなかったようだ。

 

 ともかく、聞いて見れば案外すんなり答えてくれた。箒ちゃんにとっては気にする程の事でも無かったらしい。曰く、「道中で邪魔が入ったから」。……詳しく解説すると、箒ちゃんは元々重要人物保護プログラムによって保護される筈だった。それを勝手に抜け出したもんだから、慌てた日本政府の追手は勿論、保護を外れた箒ちゃんの確保を目論む世界各国の刺客達が一斉に殺到したらしい。中には、誘拐どころか暗殺目的の連中も居たんだとか。

 私の足取りを追い世界中を旅した半年の間、休む間も無く入れ替わり立ち代わりやって来るエージェント達を……箒ちゃんは『邪魔』の一言で文字通り『切り捨て』て、一人残らず皆殺しにしてきたんだとか。その日も丁度、どっかの国の最精鋭特殊部隊を鏖殺し、同時に強襲してきたIS数機も操縦者ごと微塵切りにした、との事で……色々気が遠くなりそうだったよ。

 何が怖いって、箒ちゃん自身は各国の思惑も国際情勢も興味無く、ただ『姉さん(わたし)に会いに行く邪魔だから』というだけの理由で裏社会のパワーバランスを変えかねない大虐殺をやってのけ、その上で本人にとっては精々『路上の邪魔な小石を蹴飛ばした』って程度の認識だってトコ。

 どこで育て方を間違えたのか、或いは生来の性格だったのか、箒ちゃんは私の為ならば私以外の全てを、それこそ人命だろうが世界だろうが関係なく、気にも留めずに踏み躙る事ができてしまうのだ。

 

 

 そして、そんな箒ちゃんと一緒に隠遁生活を始めたのが、私の受難の始まりだった。

 

 

 ある時、某国の独裁者が演説中、私とISを否定し、侮辱するような発言をした。次の日、その独裁者は斬殺体で見つかり、いつの間にか出かけてた箒ちゃんが刀に付いた返り血を拭いながら帰ってきた。

 またある時は、ISを使って違法研究をしている企業を見つけて、IS開発者の私自らが警告し止めさせようと脅迫電話を入れれば応答したのは何故か箒ちゃん。後ろから聞こえる呻き声にツッコミを入れる前に、何かが倒壊する音。慌てて安否を問えば、「心配ありません、ビルを切り崩しただけです」……奇跡的に助かったその企業の経営者は、今や私の従順なペットを自称し私財を投げ打って宇宙開発事業を行っている。

 

 挙げていけばキリが無いけど、他にもISを侵略戦争に使った国家に私が不快感を示したら一週間後には政権崩壊してたり、ISを所有する過激派組織がいつの間にか束さんを崇拝する宗教組織に変えられてたり、欧米諸国のIS部隊の錬度の低さを嘆いたら『訓練』と称して抜き打ちで各国の軍事基地に襲撃をかけたり……箒ちゃんは、それはもう手の付けようが無いくらい暴れまわった。

 そして私は常に箒ちゃんの暴走に振り回され続けた。昔の束さんも、白騎士事件を起こしてみたりとか、世界を十分引っ掻き回してたとは思うけど……正直箒ちゃんほどじゃない。ていうか、箒ちゃんの暴れっぷりを見てるうち、私はむしろ真人間と化していった。自分で自分の事を狂人だと思ってた頃が懐かしい、もはや黒歴史だけど。自分以上の狂いっぷりを見てると、逆に冷静になってくるんだよね。「私がしっかりしないと色々アカン」って。

 

 そんな訳で、私は箒ちゃんが何かやらかす度に世界各国を巡って謝罪行脚を行う羽目になった。ついでに私が研究した最先端技術を『お詫びの品』として提供する事で、何とか許して貰えてる。というかむしろ、箒ちゃんに振り回される私の姿を見て、各国首脳は私の苦労を偲び同情してくれた。「苦労なさってるでしょうが、お強く生きて下さい」って……おかげで主要国家のトップの人たちとは大体友達。時々国際交流がてらに飲み会開いて、愚痴に付き合って貰ってる。私はこの歳になって初めてちーちゃん以外の友人を得て、人の暖かさを知ったのだった。……原因が原因だけに、素直に喜べないけど。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 で、今現在、箒ちゃんはIS学園に居る。私の研究の手伝いで、ISを動かしたいっくんのデータを取りにいって貰ってる訳だけど、私が傍に付いていられないのが不安な所。あの子は暴走したとしても、私の言う事には『何でも』従ってくれるので、万が一の時は私がストッパーになれる。……けど、逆に言えば私が傍に居ない時に暴走すれば止めようが無いという事。

 学園には唯一力尽くで箒ちゃんを止め得るちーちゃんが居るから、あんまりな事は起こらないと思っていた矢先の決闘騒ぎ。忘れてたよ、ちーちゃんは脳筋のバーサーカーだったね。箒ちゃんの暴走の方向性によっては、何の役にも立たないどころか一緒になって暴れる可能性すらある。……ああ、胃が痛くなってきた。

 

 

 

 こないだフランスの首相から貰った胃薬を水で喉奥に流し込んでいると、部屋の扉が開いた。

 

「束お母様! 箒お母様からお電話です!」

 

「!! は、早くこっちに持ってきて!」

 

 決闘の報告を聞くのは怖いけど、現実逃避もしていられない。部屋に入ってきた私の養子(むすめ)―――クロエ・クロニクル、愛称くーちゃんが持ってきた黒電話型通信デバイスを受け取ると、覚悟を決めて受話器を耳に当てる。

 

「も、もしもし……箒ちゃん……?」

 

『………………』

 

 ……無言。いつもの事なので気にせず続ける。

 

「箒ちゃん! 正気に戻って!」

 

『……はっ! すみません、姉さんの声に酔い痴れて……軽くイってました!』

 

「その報告はいらないっていつも言ってるしそろそろ慣れようね!?」

 

『だって、学園にいる間はこの電話でしか姉さん成分を補充できないんですよ!? 限られた時間だからこそ心行くまで堪能するしかないでしょう! そして姉さん成分が体中に染み渡れば絶頂するのも当然の生理現象です』

 

「束さんは麻薬か何かなのかな!? いや違う、そうじゃなくって決闘の報告を……」

 

 話が大いに脱線しかけたので軌道修正。……本心では聞くのが怖いけど。

 

『決闘ですか? ええ、予想外に楽しめました』

 

「うん、それは良いけど、その、相手の子は……」

 

『大丈夫です、言い付け通り殺していませんし死んでもいません。むしろ真理に目覚めました』

 

「そう、それなら良かっ……真理?」

 

 命に別状は無いと知り胸を撫で下ろしかけたのも束の間、不穏な言葉を耳にする。嫌な予感がするけど、まだだ、まだ問題が起こったと決まった訳じゃ……。

 

『今回手に入れた実験体(おもちゃ)を姉さんにも紹介しますね。……ほら、きちんと挨拶しろセシリル』

 

『は、ハイッ! お電話代わりました、セシリル・モルモットと申しますわ! 現世の女神である篠ノ之束様の御声を拝聴できました幸福、もはや今この瞬間が天国かと紛うほどで……』

 

「Oh...」

 

 確実に問題が起きてますねー(白目)。とりあえずイギリスに謝罪に行くのは確定として、何が起きているのかを知らなければ。……っていうか、セシリル?

 

「あの、束さんの記憶が正しければ、君って『セシリア・オルコット』じゃ……」

 

『………………』

 

「……セシリアちゃん?」

 

『……ハッ! すみません、束様の御声で軽くイってましたわ!』

 

「君もか!? 君もなのか!?」

 

 ―――これもう手遅れな奴だよ! 修正が効かないレベルで壊れちゃってる奴だよ! 束さん知ってるよ! 箒ちゃんが時々テロリストとかを捕まえてこの状態にするもん! こないだも亡国機業とかいう連中を……

 とか考えてたら、電話の向こう側で謎の打撃音とくぐもったような声。

 

「……えっと、セシリアちゃん?」

 

『すみません姉さん、セシリルの奴が失礼な真似をしたようなので粛清しました。……姉さんでイって良いのは私だけですからね』

 

「いや、箒ちゃんも良くないからね? っていうかその子の名前は……」

 

『? 何を言ってるんですか姉さん、私の記憶が確かならこいつは『セシリル・モルモット』ですよ……そうだよな?』

 

『ええ勿論! 確かに、私は今までセシリア・オルコットとして生きて参りましたが……束様の妹君であらせられる箒さんが間違いを犯す筈がありませんわ、つまり今まで間違っていたのは私の方だったのです!!』

 

「えぇー……?」

 

 なにいってんだこのこ。

 

『勿論、本国(イギリス)の方にも改名の手続き……もとい、真の名に戻るための通達を致しました! これで名実ともに私は『セシリル・モルモット』! そう、束様の為の実験鼠(モルモット)ですわ!!』

 

「待って、本当待って、色々追い着かないから! 天才だって理解できない事はあるんだよ!?」

 

『束様は常に人類の最先端の100歩以上先を行く素晴らしい発明をなさっていると聞き及んでおりますわ! そんな研究の為にこの身を奉げられる事の、なんと幸運な事か! ええもう、体中どこを弄って頂いても構いませんわ! 束様の崇高な人体実験の供物となれる事は人類の中でも特に選ばれた者のみに与えられる栄誉ですもの! もう脳味噌以外全てを機械に置き換えて頂いても……いえいえ、お望みとあらば私の脳だって!!』

 

「うぅ……誰か助けてぇ……」

 

 興奮気味に捲くし立てる英国の子。その過激すぎる発言は私の精神にトドメを刺すのに十分だった。涙目になって震える私と、それをビデオに撮るくーちゃん。……彼女は私の『可愛らしい姿』を記録するよう箒ちゃんから命じられているのだ、何も言うまい。

 その時、電話の向こうから再び打撃音とくぐもったような声、そして何かが飛び散る音。

 

『お騒がせしました姉さん、元凶は再び粛清し今度はカチ割りましたのでもう大丈夫です』

 

「あ……ありがとう箒ちゃん! 流石は私の妹! 愛しい人! 愛してるっ!」

 

 一体何をどうカチ割ったというのか、さっき聞こえたのは何が飛び散る音なのか、呻き声すら聞こえなくなったセシリアちゃんがどうなったのか……色々気になる事はあったが、今それを聞くと私の精神衛生上非常に宜しくないのは想像に易いので、とりあえずスルーする。

 

『それにしても此奴、脳を改造されたいなどと……』

 

「うん……流石に私もそこまではやらないよ、……いや人体実験とかもしないけどね!? 私は健全なマッドサイエンティストを目指して……」

 

『脳改造は姉さんの恋人(いもうと)である私にのみ許された特権ですしね』

 

 

 …………うん?

 

 

『それをこの女、私を差し置いて勝手な事を……まぁそれだけ『実験鼠(モルモット)』としての自覚があるという事だし、今回は大目にみてやるか。寛大さに定評の有る私だしな』

 

「箒ちゃん、今何か……」

 

 

『それより姉さん、そろそろ私の脳味噌弄って見ませんか? 姉さんの望むがままに私の脳を書き換えるんです、私の思考は愚か記憶も感情も心も想いも全てを姉さんの好き勝手にするんです……ああ、考えただけで脳が蕩けてしまいそうだ。私という存在が、篠ノ之箒という存在そのものが姉さん自身の手によって姉さんにとって一番都合の良い形に改変され最適化される、正しく姉さんの為だけの私に進化する……何て素晴らしく甘美な至福だろうか……! ああ、勿論私がどのように成り果てても姉さんへの無限の愛だけは絶対に失う訳がありませんので、安心して私の脳味噌くちゅくちゅして下さい。ああ、ああ、とてもとても気持ちが良いのだろうなぁ……あ、当然麻酔なんてかけないで下さいね、姉さんに脳を弄くられる苦しみも痛みも私にとっては快楽となるのですから、生の感覚をありのまま味わいたいのです。私の頭を開き、頭蓋骨に守られた最も大切な私の心の中枢を無理矢理覗き込んで、様々な器具を使ってくちゅくちゅくちゅくちゅ音を立てながらその柔らかな感触を堪能し、掻き混ぜて、姉さんを愛する私を、もっともっと姉さんを愛し付き従うワタシに変える、その快感を愉しんでください。そうして姉さんに心の内側から侵食され、頭の中側を弄繰り回されるゾクゾクするほど本能的な悍ましさこそが、私にとって至上の官能であり幸福なのです。自分がより深く姉さんの物に変わって行くのを実感できるその極上の一時は、最も信頼できる最愛の姉に自らの全てを曝し委ねているという至高の安心感と充足感、無上の歓喜を私の最もプリミティブな部分に刻み込んでくれる事でしょう……! 嗚呼姉さん、大好きです愛してます私は永遠に貴女の恋の奴隷です!!』

 

 

 もう私は限界だった。今は何も考えずゆっくり休みたかった。なので私はツッコミと考える事を放棄して、ただ一言、「私も愛してるよ箒ちゃん! 大好き!」と一応本心からの好意を伝えて電話を切ったのだった。

 そしてそのままベッドに飛び込むと泥のように眠った。布団の中で震えてたらくーちゃんが添い寝してくれた。私の養女(むすめ)、マジ天使。……最近は箒ちゃんから悪影響を受けてる気がしなくもないけど、しっかり教育して立派なレディにしてみせるよ!

 

 ……そうして眠った私の寝顔を、くーちゃんがカメラに収めて画像データを箒ちゃんに送っていたのを知ったのは次の日の朝のことだったけど、私はセシリアちゃんの件で謝罪するためイギリスに発たねばならなかったので、深く追求できなかった。くーちゃんの教育計画は前途多難である。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「……という訳で、本当に申し訳ありませんでしたっ……」

 

「……顔を上げてください、篠ノ之博士」

 

 そんなこんなで私は今、英国首相の前で土下座中。とりあえず関係各所に手を回して、セシリアちゃんの改名手続きは握り潰したし、本人にも考え直すようメールを送ったから公的な名前については多分大丈夫だろうけど、箒ちゃんの影響で自分の事をセシリルと呼ぶのは変わらないだろう。

 それより何より、本来イギリスの優秀な代表候補生だった筈のセシリアちゃんを、箒ちゃんが勝手に洗脳紛いの刷り込みを施して私の所有物(自称)に変えてしまった事は、この国にとって大きな痛手となるかもしれない。一応、セシリアちゃんも愛国心を失った訳では無いらしいので、今まで通り英国のエリートIS操縦者として活躍してくれる事を願うばかりだ(主に私の精神安定の為に)。

 

 そんな風に状況説明をしつつ、促されて顔を上げた私を首相は労わってくれる。本当ならイギリスにとっても見過ごせない出来事の筈なんだけど、生憎箒ちゃんの暴走には私だけでなく各国の首脳陣もいよいよ慣れてきてしまっている。今回以上の大事をやらかした回数も数知れず、今更動揺を顔に出す事もないあたり大物政治家とは肝の据わったものだと、改めて感心するよ。……感覚が麻痺してきている、とも言うかもしれないけど。本当ごめんなさい。

 

 

「あの、これ今回のお詫びって事で……私が作った新型BT兵器のデータです」

 

「毎度ご丁寧にどうも……『BTドリルビット』? あの博士、ドリルって……」

 

「……BT兵器を使用するだろう本人に希望を聞いたところ、ドリルが良いと。『セシリルの"リル"はドリルの"リル"ですわー!』だそうで……」

 

「……うちのセシリアが何かすみません」

 

 いたたまれなくなったのか頭を下げる首相の姿に、私も慌てて平身低頭、重ねて謝罪。

 

「いえいえ本当もう悪いのは全部私ですのでっ! だからどうか、おたくのセシリアちゃんの事はお咎め無しにしてあげて下さい! ……それと、あの、できれば、なんですけど……」

 

「ええ、貴女の妹さんの事ね? 今回の件に関しては深刻な被害も重大な影響もありませんし、何より今更な事です。水に流しましょう」

 

「……本当に、本当にありがとうございますっ……!!」

 

 箒ちゃんの事を許してもらえて、思わず顔が綻ぶ。

 

「まあ、傍迷惑なのは違いないので、少々自省を求めて欲しいのもいつも通りですけどね?」

 

「はいっ! 後で改めて言い聞かせておきますのでっ! ……全く、人様に迷惑をかけるような事はしないようにって、いっつも言ってるんだけどな……」

 

 ぶつぶつと箒ちゃんに対する不平不満を呟く私だったけど、ふと気付くと、首相はそんな私を微笑ましい表情で見つめていた。その顔は何だと目線だけで問いかければ、彼女はふっと笑ってこう言った。「相変わらず、妹さんの事が大好きなんですね」と。

 

 そりゃもう、いつも無茶苦茶やらかすし、世界中に迷惑かけまくってるし、私の言う事は聞くけど言わなきゃ聞かないし、気苦労ばかり増やして胃痛の原因になってる箒ちゃんだけど……それでも私は、手のかかる彼女の事が大好きなのだ。愛してるのだ。それだけは、例え世界が終わろうとも不変の事実。

 

 

 だから首相の笑顔に、私も満面の笑みで返した。

 

 

 

「自慢の、恋人(いもうと)ですからっ!!!」




脳くちゅ姦は洗脳レイプ系で時々使われる表現ですが、個人的には強姦でなく和姦でこそ脳くちゅすべきだと思います。
何よりも誰よりも大切な恋人に自分自身の構成要素のすべて、即ち記憶や感情、心や思考といった全てを預け、受け入れてもらっているという安堵。そして全てを愛する人の思うとおりに変えてもらえる、愛する人が望むとおりの自分自身になれるという期待。それらが入り混じった上で感じる生理的嫌悪感は容易く快楽や多幸感に転化し、底知れない充実感を得られることでしょう。

……といった個人の思想を叩きつけました。書いてて一番筆が進んだし楽しかった。
誰か束×箒のラブラブ脳くちゅ和姦同人とか描いて下さい。オナシャス!
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