青春は赤く染まりて   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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二組の子が「その情報古いよ!」とか宣言しながら1組に乱入してくるイベントがありましたが、モッピーは特に気にしませんでしたのでスルーして食堂での同席イベントから。


ウサミミ。あと華人娘

「ウサミミを食べたい」

 

『えっ』

 

 昼のIS学園の食堂にて、ふと私が呟いた一言に反応する者達が居た。何の気なしの独り言を聞かれていたか。無骨者の私とて、少々気恥ずかしい。コホンと咳払いしてからそちらを見れば、一夏とセシリル、そしてもう一人はツインテールの見知らぬ少女。見たところ中国人のようだが……誰だ?

 

「いや、え? ちょっと一夏、何言ってんのコイツ? 話の流れぶった切って突然……」

 

「あー、鈴。こいつの事だから多分何も聞いてなかったと思うぞ」

 

「―――いやいや、十分聞こえる距離で聞こえる声量の会話だったでしょ!? っていうか私の『あんた誰よ?』って問いに対する返答がコレって……」

 

「鈴、聞こえるかどうかはこの際重要じゃ無いんだ。自分が興味を抱かなければ『聞こえてても聞かない』……それがコイツなんだよ……」

 

 困惑した様子のツインテール少女に対し、一夏は比較的冷静に答えている。その言から察するに、彼らは彼らで何やら会話の途中だったようだが……そういえば、さっきから周囲で何事か囀る声が聞こえていた気もする。てっきり羽虫の飛び回る音かと思っていたが……やはり姉さんの事を考えていると周囲が見えなくなるな。

 

 

「―――それで結局、アンタ誰よ?」

 

「……? 何故わざわざ私に聞くんだ? 一夏に聞けばいいだろう」

 

「いや、目の前に本人が居るのに何でわざわざ一夏の口から聞く必要があるのよ?」

 

「いやいや、だから何故私が貴様如きに名乗らねばならんのだ?」

 

 

「……???」

 

「……???」

 

 

 ―――ダメだ、話が通じない。このツインテール、どうやら人の話を聞かないタイプらしい。それも、自分の考えを平然と相手に押し付ける系の。

 

「……何だろう、今すっごく『それはこっちのセリフだ』って叫びたい気分なんだけど……!!」

 

「お、落ち着け鈴! 気持ちは分かるが物に当たるな、っつーかそれセシリアの巻き髪(ドリル)ッ!」

 

「痛たたたっ!? ひ、引っ張らないで下さいな鈴さん! 私の、私の本体(ドリル)がぁっ!!」

 

 ……一気に騒がしくなったな。まあ何にせよ、わざわざ名も知らぬ少女の相手をしてやる理由も無い。これ以上の会話は不要、私は姉さんとの甘い一時の妄想をオカズに昼食を取る作業に戻らねば。誰に何を話しかけられようが知った事か、無視だ無視―――

 

 

「……それで一夏、何コイツ」

 

「篠ノ之箒。俺のファースト幼馴染で、ISを作った束さんの妹だ」

 

「ファースト……そういえば何時だったか、話だけは聞いたことがあったわね。地球上で唯一千冬さんと互角にやりあえるって言う何とも眉唾な……」

 

「いやー、本当の事なんだけどな……」

 

 

 ―――それにしても姉さんは本当に美味しそうだ。想像するだけで涎が止まらん。いや実際、体のどこを舐めても美味しいのだが(実証済み)、今この場で妄想しながら白米を食べてるだけで味が染み出してくる(気がする)。これはもう米の一粒一粒に姉さんが宿っていると言っても過言では無い……いや過言か。

 そもそも白米に限らず焼き魚だろうが味噌汁だろうが納豆だろうが、私が姉さんを想いながら食せば全て姉さんの味に変わる。これが示す真実は一つ、姉さんが宿っているのは()()()()ではなく()()()の方だったのだ。つまり今の私は姉さんと合一の存在、魂というか概念レベルで溶け合い混ざり合っているという事。何と無敵で素敵な交合だろうか。

 嗚呼姉さん、愛しの姉さん、私は正に今貴女と一つになっております。姉さんの方も私を、私の溢れる愛を感じてくれているでしょうか。願わくば私の愛が姉さんの脳髄を浸し犯し、全てを塗り潰す程の悦楽を与えん事を―――

 

 

「……ところで一夏さん、今更なのですが。結局鈴さんとはどういったご関係で?」

 

「ああ、鈴は俺のセカンド幼馴染……つまり箒の転校と入れ替わりで出会った親友で―――」

 

「ついでに言うと一夏の()()ね」

 

「―――ま、有体に言えば俺の()()だな」

 

 

「ぶふぅぅうううう!!!???」

 

「ああっ箒が吹いた食べかけご飯がセシリアの顔にー!?」

 

「突然のご褒美ですわーーー!? うっひょぉーーーい!」

 

「えっ何この子怖い」

 

 ぐッ、全力で姉さんに傾けた思考が断ち切られただと!? おのれ一夏―――いや待て、一夏に恋人!? ()()朴念仁の一夏に!? やたら雌を引き寄せる癖して一切気付かずスルーし続けるアイツが、彼女持ちで尚且つその自覚もある!!??

 

 

「おい中国の名も無き少女ぉ! 貴様一体どういうトリック使ったぁ!? どうやったらこの馬鹿が女心と恋心を理解すると言うんだ!!」

 

「いや名前あるから!? 私は(ファン)鈴音(リンイン)! 中国の代表候補よ!」

 

「そんな事どうでもいい、貴様は自分が何を為したか理解しているのか!? 一夏(おとこ)がIS動かした事なんか比べ物にならない一大事だぞ!!」

 

 意外と名が有るらしい少女の首根っこ掴んで締め上げながら問い詰める私は、心のどこかで自分が冷静さを失っている事を自覚する。だが仕方無いではないか、何ちゃら(いん)とか名乗ったこの少女が成し遂げたのはそれ程の奇跡なのだ。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 『織斑一夏に恋愛感情を理解させる』という難行は、私にとって『人類には永久に実現不可能な絵空事』という認識だった。何せ、ド直球(ストレート)に「好きです、付き合って下さい」と告白したとしても「ああ、俺も(友人として)好きだぜ。それで何所に付き合えばいいんだ? 買い物か?」とか宣う怪物なのだ、アイツは。それで撃沈した雌共を、今まで何度と無く目撃してきた。

 

 キスやそれ以上の肉体的接触で無理矢理でも理解させようと試みた連中も居たが、一夏は千冬や私でも本気にならなければ攻撃を当てることすら難しいレベルの自衛能力を有している。そこらの凡百な雑魚共では先ず触れる事すら叶わないだろう。

 しかも己の危機に対する超直感で無意識的に回避するので、行動で示されても相手の気持ちに気付く事は絶対に無い、というオマケ付き。実力行使すら封じられては成す術など無い。一夏が女性と恋仲になる姿など、今まで想像すら出来なかった。

 更に恐ろしいのは、それでいて『女子からの好感度が一切減衰しない』という一夏の特性である。女心を完膚なきまでに粉砕し尽くす癖して、アフターフォローまで含めて完璧に相手を懐柔するのだ。相手の心など全く理解してないのに、何故だか的確な言葉と行動を示して最終的には丸く収まる。……ここまで来ると一種のホラーだ。

 

 姉さんの分析に拠ると、これもまた一夏の先鋭化された自衛能力の発露らしい。曰く、その正体が分からないままでも『修羅場』の雰囲気だけは察知して、ニュータイプ的な"勘"でそれを回避するよう無意識的に行動を選択しているんだとか。

 もっと言うと、普段の鈍感さもまた同様。ある程度は生来の性格なのだろうが、本来あそこまで酷くは無かった筈だと姉さんは語る。

 それがやたら発情した雌に取り巻かれた環境に身を置いたが故に、『誰かと恋仲になれば他の誰かから逆恨みを受ける』という状況が生まれ、それを避けるため『誰とも恋仲にならない』という逃げ道を選択。ただし自らの意思で女を振ったのでは無用な軋轢が生まれ、それはそれで修羅場るので、危機回避の為の最適解は『意図せずして相手の好意を受け流す』事―――。

 

 以上の理屈を一夏は本能的に感じ取り、自覚もないまま実行しているのだ。私と千冬との日常(ころしあい)の間に挟まれる中で発達した防衛本能の賜物である。……って姉さんが言ってた。

 

 

 ちなみに姉さんがここまで一夏の対女性心理に詳しいのは、嘗て研究した事があるからだ。

 弟の将来に不安を感じた千冬が姉さんに頼み込み、その天災的頭脳による性格矯正作戦を執行した事がある。一夏の分析評価も、その時に行ったのだ。……作戦そのものは失敗に終わったが。

 姉さんの立てた作戦を(ことごと)くすり抜け躱し、最終的には「流石の束さんでもこれはお手上げかなー……」と虚ろな表情で匙を投げる姉さんが出来上がっただけだった。全くの徒労である。

 そんな無惨な姉さんの姿を見た時、私の心に浮かんできたのは怒りや憎しみよりも先ず『戦慄』だった。私はあの時あの瞬間まで、この宇宙には姉さんにとって不可能な事など何一つ存在しないのだと本気で思っていたのだから。

 形はどうあれそれを覆したあの男―――織斑一夏という幼馴染に対して、得体の知れない恐怖と畏怖を覚えたのも仕方のない話。要するに、奴の人外染みた鈍感さは私にとってある種のトラウマとなったのだ。……まあ、それはそれとしてボコボコにしてやったが。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 ―――さて。そんな私のトラウマを、姉さんすら敵わなかった一夏の鈍感さを越えて、奴と男女の関係になった女が目の前に存在している。

 

「それで……(いん)とやら、結局貴様は何をしたのだ?」

 

「"音"って……凰でも鈴でもなくその部分で呼ばれるのは初めてよ」

 

 食堂にわざわざ引っ張ってきた事務机を挟み、強めの卓上照明を音の顔に照射して、様相は完全に警察の取り調べである。……空気を読んだセシリルがカツ丼を買ってきた。実に気の利く友人(パシリ)だ。

 

 

「まあ……確かに、一夏の鈍感さは尋常じゃ無かったわね。我ながら想いが通じ合って恋人同士になれたのは奇跡だと思ってるし」

 

「俺ってそんなに鈍感だったか? 前々から言われてるけど、余り自覚は無いんだよな……」

 

「ぶっちゃけ私自身未だに夢なんじゃ無いかと疑ってるし、何かの間違いなんじゃ無いかと不安になる程度には鈍感よ。何で自覚無いのよ馬鹿なの?」

 

「そ、そこまで言われるのか俺……お前の彼氏なのに……」

 

 一夏の馬鹿が目に見えて落ち込んでるが、自業自得以外の何物でもないので無視。

 

「その鈍感を、一体全体どうやってひっくり返せると言うんだ。告白の先に人生の墓場が待っている限り、この男はそれを回避し続ける体質なんだぞ」

 

「うん、それは承知してるわ。伊達に『一夏ガチ勢』やってた訳じゃ無いしね……でも、だからこそ、その性質を()()すればいいんじゃないかって思いついたワケよ」

 

「逆用、だと?」

 

 怪訝な思いで聞き返せば、対面に座る音はニヤリとあくどい笑みを浮かべ……しかし似合わな過ぎて結局そんなにあくどく無い笑みを浮かべ、頬杖を突きながら答える。

 

「一夏は本能レベルで『我が身の危険を回避する』習性が刷り込まれてる。女の子に対する鈍感さもそれが原因……でも逆に考えると、『告白を真正面から受け止める』のが一番効率の良い『危機回避の手段』になる―――って状況さえ作り出せれば、一夏は()()()()()()()()って事でしょ?」

 

「……なるほど」

 

 理屈は通る。一夏があそこまで恋愛に鈍いのは、『修羅場の危機を避ける』為の無意識的手段。ならば告白をスルーした先に『修羅場以上の地獄』を用意してやれば、相対的に『相手の気持ちに気付く』方が安全となる。危険に対する嗅覚が異常発達している一夏なればこそ、その餌には食い付かざるを得まい。

 

 だがそれは飽くまで机上の空論。『もしもそのような状況を作り出すことが出来たなら』という仮定に基づいた話であるが、そもそもそこに辿り着くのが難しい。

 他のあらゆる可能性を排して、一夏が『自ら告白に気付き受け入れなければ危険』というシチュエーションを押し付けつつ、自身と結ばれる事によって起こるリスクを極力低減させる。言葉にすればそれだけだが、実現するには途方も無い労力が必要だろう。それをこの音という少女は、成し遂げたというのか。

 

 

「―――そりゃあ、成し遂げたわよ。一夏とくっ付くにはそれしか無かったし。他の恋敵(ライバル)達を時には煽って焚き付けて、またある時には宥めすかして、うまくバランスを取りながら一夏を逃げ場の無い修羅場に追い込みつつ、私自身はその唯一の避難場所としての役割を確立してキープする……もう殆ど綱渡りよ。一歩間違えれば私が修羅場に巻き込まれてただろうし、まるで時限爆弾の解体でもさせられてる気分だったわ……」

 

「初耳なんだが……鈴、お前俺に告白するためだけにそんな苦労してたんだな……何か悪い」

 

「今更気にしなくていいわよ、済んだ事だし。……でも本当、当時は死ぬかと思う大変さだったなぁ……同じことをもう一度やれって言われてもきっと出来ないわね、うん。まあ、私の一夏への『愛』が起こした奇跡だったって事で」

 

「愛って……そ、そう言われると俺も何か照れるな」

 

「ちょ、何よその反応! そんな満更でもなさげにされるとこっちまで恥ずかしく―――」

 

 

「『愛』の成した奇跡、とな……ふむ」

 

 公然とイチャつき始めた一夏達や一人黙々とカツ丼を処理するセシリルなどを見るともなしに眺めながら、私は聞かされた話に深く納得していた。同時に、長年のトラウマが解消された気分だった。

 

 理論の上では彼女の説明に筋は通るし、その実現方法も『愛』だと言われてしまえば納得するしかない。私自身、胸の内で姉さんへの愛情さえ真っ赤に燃やし続ければ、目の前にどんな不可能が立ちはだかろうとも粉砕突破する自信がある。それと同じ事だ。この音なる少女の一夏へ向ける愛は『本物』だった―――それだけの話。

 そして同時に、ある意味での安堵も得られた。嘗て姉さんは一夏の矯正に挑み、そして敗れた。万能にして無謬たる、神をも超越した我が姉・篠ノ之束をして不可能だった事跡……だがそれも、今にしてみれば()()()()だった。

 

 何故なら、一夏に対する深い深い『愛情』―――それこそ艱難辛苦を乗り越えてでも必ずやモノにしてみせる、という強い『恋心』こそが、奴を陥落させるのに必要不可欠な要素だったからだ。

 それを備えていた音()()()()()、あの馬鹿を振り向かせ結ばれるに至った。ならば姉さんにそれが出来なかったのも道理。

 否、他の誰に可能だとしても姉さんにだけは絶対に()()()だ。始めから()()()()()()()()()()

 

 

 だって姉さんの『愛』は、一片も余すことなくこの篠ノ之箒(わたし)にのみ注がれているのだから。一夏なんぞに僅かたりとも振り分けてやる余分など無い。姉さんから向けられる全ての愛情は私のモノだ。私だけのモノだ。誰にも譲らない、私だけの特権だ。

 

 

 ……そう考えると、今まで抱いていたトラウマが嘘のように氷解していくのを感じられた。確かに姉さんにも不可能はある。だがそれは当然の事で、私を愛してくれているのだから他の誰かを愛する事などできない―――なんて、どんな愚鈍でも分かる論理を今日(こんにち)に到るまで見落としていた自分を恥ずかしく思うくらいだ。

 少なくとも、もはや嘗ての苦い記憶に―――姉さんが経験した一夏に対する挫折に、恐怖や畏怖を感じる事は無いだろう。その一件は逆説的に、姉さんから私への『愛』の深さの証明でもあるのだから。

 

 

 

 ……しかし、ふむ。

 

「一夏の危険に対する防衛本能を利用した、と言ったな?」

 

「……? それがどうかした?」

 

 そう尋ねると、音はきょとんとした顔で返事を返す。彼女はまだ気付いていないようだが、それは即ちこういう事ではなかろうか。

 

「つまりお前が一夏と恋仲になれたのは、千冬との死闘に毎度意味なく巻き込んでコイツの防衛本能を磨き上げた私の()()()だと言えるのではないか?」

 

「何言いだすんだ箒、つーか意味なく巻き込んだっつったか今?」

 

「っていうか、そもそも一夏の防衛本能の所為でいらない苦労した気がするんだけど……」

 

「つまりお前は私に『恩返し』する必要があるな!」

 

『あっ聞いてなーい……』

 

 

 そう、これは図らずも私が一夏と音との関係を取り持つ為に骨を折ってやったも同然。似合わぬ例えだが、私が二人にとっての『恋のキューピッド』とやらになってやったような物だ。

 ならば当然、音も私と姉さんとの恋愛に協力する義務がある筈だ。

 

「という訳で、これから宜しく頼む。いやあ、実は姉さんから『箒ちゃんはもう少し世間一般の"普通の恋愛"を学ぶべきじゃないかな! かな!!』と懇願を受けてな、良い標本事例(サンプルケース)を探していたところで……」

 

「ええ……何かこの子、自己完結してるんだけど……」

 

「諦めろ鈴、歯向かうと『只では済まされない』って俺の第六感が警鐘を鳴らしっぱなしだ。ここは従うしかなさそうだぜ」

 

 何故か困惑した様子の音と、何故か遠い目をした一夏。私と姉さんとのラブラブ(死語)な未来の為の踏み台……もとい糧になってくれるだろうこのカップルを、今は心の底から祝福してやろうではないか。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「ところで箒さん、質問宜しいでしょうか」

 

「何だセシリル、言ってみろ」

 

 昼休みも終わりが近づいた頃、カツ丼を食べ終えたセシリルが唐突に口を開く。

 

「箒さんが始めに言ってた『ウサミミを食べたい』というのは、一体全体どういう意味だったのかと疑問に思いまして……」

 

「ああ、あれの事か」

 

 隣の席に座っていた一夏と音が(折角スルーしてたのに今聞いちゃう!?)とでも言いたそうな顔でセシリルを凝視しているが、無視して彼女の疑問に答える。

 

「言葉そのまま、『兎』の『耳』を食べたいという意味だ」

 

「それはまた……どういった趣向でして? お望みのようでしたら、今から野生の兎を狩って持ってきますが……これでも貴族ですので、狩猟(ハンティング)は嗜みですのよ?」

 

「いや、ウサミミと言っても本物の兎の話ではなく……そうだな、どうせなら一から語るとするか。どうせ大した話でもない」

 

 こほん、と一つ咳払いをしてから、興味津々で私の解説を待つセシリルと、ついでなので同席している一夏と音にも向けて話を聞かせる事にした。

 

「先ず前提として、だ。私の愛する姉さん……篠ノ之束は、人前に出る時いつも着ている一張羅がある」

 

「『アリスファッション』と『機械のウサミミ』ですわね」

 

 即座に返答するセシリルに頷いて見せる。

 

「その通り、ISを世界に公表した時も、それ以降マスコミに向けて何か発言する時も、各国首脳の前に姿を現す時も、常にその格好だ。それが姉さんにとっての『正装』だからな」

 

「……全くの興味本位なのですが。『正装』でない時の……プライベートにおける束様の服装、というのがどのようなものか、伺っても……?」

 

「ほう……知りたいのか? セシリル……私だけが知っている、私しか知り得ない、『私の』姉さんの私服姿の情報を、お前は厚かましくも『知りたい』と……?」

 

「おいセシリア早く謝れヤバいぞこの殺気ホントに殺す時のヤツだ!!」

 

「も、申し訳ございませんんんんん!?」

 

 床にひれ伏しながら震える声で許しを請うセシリル。そして即座に音の手を引き歩幅3歩分くらい後ろに退がる一夏。私がセシリルを『粛正』した場合に放とうとしていた斬撃の、ギリギリ数㎝範囲外の距離を保つ辺りが一夏の才を物語るが、まあ今回はセシリルも反省しているようだし不問とするか。

 

「全く、次は無いぞ……で、どこまで話したか……ああ、姉さんのウサミミだったな」

 

「は、はい……箒さんが食べたい『ウサミミ』というのは、もしかしなくても……?」

 

「無論、姉さんが付けてるウサミミの事だ」

 

「ちょっと待て箒」

 

 跪いたままのセシリルとのやり取りに、元の位置へ戻ってきた一夏から横槍が入る。

 

「束さんの付けてるあのウサミミって、確か謎機能の機械だったよな……?」

 

「そうだが?」

 

「……食べるのか?」

 

「食べたいが?」

 

「……機械だぞ?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「…………分かった、続けてくれ」

 

 死んだ魚のような目で先を促す一夏。一体何だったんだ。

 

「それで箒さん、どうしてそれを食べたいんですの?」

 

「だってほら、姉さんって美味しそうだろ? 食べたいだろ、姉さんの肉片一つでいいから消化し体に取り込んで一つになってみたいだろ?」

 

「唯一神すら超える万物の主、束様と一つに……なるほど、それは(たかぶ)りますわね」

 

「うむ、それを前提として、だ」

 

 

「……どうしよ一夏、私あの話が前提から理解できない」

 

「大丈夫だ鈴、あれを理解できるようになったら人として終わりだ」

 

 何かに対する恐怖で震える体を寄せ合って、ひそひそと密談を交わす微笑ましいカップルはさておいて、話を続けよう。

 

 

「姉さんを一度でいいから食べてみたい……だが姉さんの神聖な肉体を傷付けたりするのは言語道断、以ての外だ。姉さんの体を(性的な意味で)貪っていいのは伴侶である私だけだが、そんな私でも姉さんに傷を負わせてまで自らの欲望を果たすなどあり得ない。そんな大罪を犯す権利は私にも無い」

 

「ですが、一口だけでも束様を食してみたいという気持ちが存在するのもまた事実……見えてきましたわ。そこであのウサミミですのね?」

 

「そう、あのウサミミは姉さんが常時身に着けているものだからな。プライベートでも大体の時間はあれを頭に装着している。その日の気分や用途によって、付けるウサミミ装置の種類や形は様々だが……とにかく日常的に着用している以上、アレは姉さんの体の一部と言っても過言では無い」

 

 

「いや過言過言!」

 

 何やら一夏の声によく似た虫の羽音か何かが聞こえた気がするが、気にしない。

 

「要するに、あのウサミミを食べる事によって私は姉さんを害する事無く姉さんを味わい姉さんと一体化できるという寸法だ。どうだ、想像するだに素晴らしいだろう!? 興奮するだろう!?」

 

「流石は箒さん! こんなにも尊さに満ち溢れた発想、正に箒さんが束様に向ける全身全霊の愛情の賜物! 正しく人類史上のベストパートナー、天地開闢以来の熱愛夫婦ですわ!!」

 

「ふふん、そんなに褒めるな! 事実だとしても照れるじゃないか!」

 

 

「ふぇぇ、いちかぁ~……」

 

「大丈夫だ鈴、その内慣れる……というか慣れるしかない、俺みたいに。でなきゃ最悪、死ぬぞ(精神的に)」

 

「な、なんの慰めにもなってないわよぉ……」

 

 

 隣で互いを抱き合い良い雰囲気っぽくなってる一夏と音。だが何を他人事のようにしてるのか、お前たちにも関係のある話なんだぞ?

 

「―――そういう訳だから二人とも、早速協力してくれ。姉さんからウサミミを分けて貰う為にはどういう言い回しで頼んだものか……」

 

「えっ待って私達がそれ手伝うの!?」

 

「何を当たり前の事を、誰のおかげで一夏と付き合えたと思ってる?」

 

「いや俺達は―――あっ駄目だこの雰囲気、逃げられない時の奴だ。大人しく言う通りにした方が結局一番被害が少なくて済むパターンの」

 

「一夏がそう感じたならそうなんでしょうね……仕方ないか」

 

 二人とも何故かげんなりした表情だが、協力はしてくれるらしい。こういう時の一夏は従順で助かるな。

 

「で、私からアンタに対して一つ案があるんだけど……」

 

「ふむ、聞こう」

 

 

(お、おい鈴? どうする気だ?)

 

(いや、このままいくと一番精神ダメージ大きいのは篠ノ之博士じゃない。流石に気の毒だし、ちょっとくらい軽減できないかなって……)

「あー、それで、案ってのはね、―――――。」

 

 

 ―――その提案を聞いて、私は―――。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「―――という訳で、私は姉さんの下に馳せ参じた次第です」

 

「そ、そうなの……へぇ……」

 

 

 とある連休、箒ちゃんが突然私の研究室に舞い戻ったかと思えばそんな経緯(いきさつ)を説明されて、只今絶賛混乱中。いくら私が天才でも、こんな状況にぶち込まれて即座に対応策を練れと言われても無理ってもんだよ。

 

「で、私としては今すぐにでも姉さんのウサミミを摂取して満たされたい所なのですが……」

 

「わ、わーわー!? 待って箒ちゃんストップ早まらないでこれ食べられない素材で―――」

 

 と喚く間にも箒ちゃんはずいずいと私を壁際に追い詰め、遂に逃げ場を失った私を壁ドンの体勢で抑え込んだかと思うとどんどん顔を近付けてきて、そしてついに―――

 

 

 

「はむっ」

 

「ひゃうんっ!?」

 

 ―――私の耳を、ウサミミじゃない方の『本物の耳』を、甘噛みし始めた。

 

 

「はぐはぐ、んむー……どうれすか、姉はん?」

 

「っ、ど、どうって、はうぅ、言われても……あんっ!?」

 

 箒ちゃんの歯で舌で唇で、私の耳を良いように弄ばれる度にゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡り、艶のある喘ぎ声が漏れ出てしまう。箒ちゃんの愛情たっぷりな耳舐めは、執拗にして繊細。

 欲望の赴くままに私の耳を味わいながらも、決して自分勝手ではなく、むしろ私を()()()()()()()()っていう一生懸命な想いが伝わってくるから悪い気はせず……ってそうじゃなくって、何この状況!? 何で私は耳を責められてるの!?

 

「れろれろ……ぷはっ、それはですね姉さん。音が言うには、突然『ウサミミを食べたい』なんて頼んでも心の準備が必要だろうと。だから今回は姉さんの生の耳を存分に味わうに留め、姉さんに『耳を食べられる悦び』を堪能してもらいつつ気持ちに整理を付けて頂き、ウサミミの実食は次の機会という事で……」

 

「―――!」

 

 そ、そうか! ピーンと来たよ、鈴音ちゃん! こうして時間稼ぎして、次に箒ちゃんがウサミミを求めてくるまでに対策を取れって事だね!

 例えばちゃんと食べれる素材(というか食材)で作った食用ウサミミを用意しとけば、箒ちゃんを納得させられる! うん、そうしよう!! この時間稼ぎは値千金だよ!!

 いやぁ流石はいっくんの恋人、あの鈍感系男子を落とした手腕は伊達じゃ無いね! この遅滞作戦は君の出身国の偉人、蜀の軍師・諸葛孔明を凌ぐ策謀だよ(当社比)!

 鈴音ちゃんのナイスアシストを称えて、束さんから『天災』の称号を譲り渡そうじゃないか! ……あ、いらない? だよね、束さんにとっても黒歴史だし正直いらない―――

 

 

 

「……姉さん、今他の女の事考えてませんでした?」

 

「ギクギクゥーーー!? な、何の事かなーーー!?」

 

「……音ですか? 音ですね? 殺しますか殺しますよ殺してきていいですよね?」

 

「の、NO! NO NO! 殺すのも傷つけるのも迷惑かけるのも全部NG! いや、迷惑は既に掛けまくってる気がするけども! 私が愛してるのは箒ちゃんだけだから大丈夫だって!」

 

 急に目からハイライトを消して殺意を滲ませる箒ちゃんを宥めるように、必死で説得を行う私。すぐにでも不穏分子を抹殺しようと逸る箒ちゃんを全力で抱き止めて、どうにか気を逸らす。

 

「ほら箒ちゃん、今日は私の耳をゆっくりじっくり楽しむんだよね!? いくらでも弄っていいから……ううん箒ちゃんに沢山耳を虐めてもらいたいなー! 何かそんな気分だなー!」

 

「……そうでした。今日は姉さんにたっぷり耳で悦んで頂くと決めていたのに、私としたことが……下らない事に気を取られて姉さんから一瞬でも離れようとするなど、一生の不覚ッ……!」

 

「そ、そんなこの世の終わりみたいな絶望顔で落ち込まないで箒ちゃん! 私を想っての事なんだから全然気にしないよ! むしろ箒ちゃんのそういう、私の事を一心に考えてくれてるとこは大好きなんだからー!」

 

「だ、大好き……?」

 

「うん、大好きだよ箒ちゃん! すごく大好き! 大大大だ~いすき!!」

 

「ね、姉さん……姉さんッ!!」

 

「きゃわわっ!?」

 

 どうにか箒ちゃんの機嫌を取ろうと四苦八苦していたら、『大好き』って言葉に反応した彼女に突然押し倒された。息は荒く、動悸も激しく、顔は紅潮して、目には隠し切れない色欲が浮かび、一言で言って完全に発情しているご様子。こ、この流れは―――。

 

 

「も、もう辛抱堪らん……。ごめんなさい姉さん、必ず気持ちよくしますから―――!」

 

「あ、や、優しくして―――ゃっ、そこ、らめっ!?」

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 ……耳責めプレイで箒ちゃんに美味しく頂かれながら、多幸感に酔う頭の片隅でふと思う。

 

 

(―――首尾よく食用のウサミミを作れたとして、ひょっとすると私は食物を頭に乗っけ続けなきゃいけないってコト……?)

 

 

 ……後の事は後で考えよう。今はただ箒ちゃんから与えられる快楽の渦に身を任せて―――。

 いや、現実逃避なんだけどね?

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 あ、事前・事中・事後の一部始終はこっそりくーちゃんが撮影してました。今は箒ちゃんと一緒にその記録映像を眺めながらお食事中です。娘の将来が真剣に心配です。助けてちーちゃん。




という訳で一年ぶりの更新でした。

朧げに今後の展開も決まってるけど、何分朧げです故に。
ではまた一年後くらいに会えたらいいなぁ……(隔年更新を覚悟した表情)
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