魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE 作:黄金馬鹿
ライアンの警戒は意味の無かった物となり、無事平穏な朝を迎える事が出来た。
なのはが少し寝ぼけてよく分からない事を呟いていたが、それは特に問題ではなく、朝の時間はいそいそと過ぎていく。
ユーノは高町家の家族たちに可愛がられ、ライアンは余り人懐っこくないフェレットとして棚の上で寝たふりをしていた。そんな二人の朝食は急に買う事が決まったと言う事もあり、店で出す予定だったクッキーの余り。それをフェレットでも食べやすいように砕いた物を何枚か、だった。
人間の体であればかなり少なく、物足りない量だったが、フェレットの体であれば十分な量になる。ライアンもその時はユーノと共にクッキーを齧っていた。その際、桃子や姉の美由希、兄の恭也、父の士郎にも撫でられたが、まぁ気分が悪い物では無かった。
そして、暫くすると高町家の全員が家から出払う。士郎と桃子は高町家が切り盛りしている翠屋へ。恭也、美由希、なのはは学校へ。そうすると、家ではユーノとライアンの二人きりになり、かなり家の中が静かになってしまう。
「さて、ユーノ。お前、魔力の方はどうだ?」
「魔力ですか? ……まだちょっと枯渇してますね。結界とかは結構魔力を持っていかれますし、昨日の内に使い過ぎたのも……」
「じゃあ、俺の魔力を持っていくか? ヘイムダルディバインバスターは使えなくても氷結魔法も少しは使えるし」
「あ、ならお願いします。早いうちになのはのサポートに徹したいので」
なのはの家でフェレット二匹はそんな会話をし、ライアンはユーノへ魔力を譲渡する。それを受け取ってもユーノは少し顔を傾げ、まだ足りないかな、と呟いている。
それもその筈だ。ユーノの魔力量はなのはには届かないが、十分に多い。ライアンの魔力は平均から多少抜き出た程度しかないため、ユーノに己の魔力全てを譲渡しても半分程度しか満たす事は出来ないだろう。それに、魔力を譲渡される側にも譲渡する側の魔力が体に合わない、という問題だってある。それをどうにかするためにはより多くの魔力を譲渡する側が使わなければならない。インテリジェントデバイスがあればそこら辺は上手くやってくれるのだが、生憎レイジングハートはなのはの首にぶら下がっている。それに、言っても聞いてくれないだろう。
それはユーノも分かっているのか、ライアンに頭を下げた。
これではどれだけ譲渡しても結局、元の姿に戻れるのは数日、数週間はかかってしまうだろう。さっき渡した魔力もバインドを精一杯かけたらそれだけで無くなるレベルだろう。
ライアンは己の非力具合に少し溜め息を吐きながらも、ユーノのジュエルシードに関する説明を軽く聞き流しながら目を閉じた。
暫くはこんな毎日が続くだろう。転機は、フェイトがなのはと接触する時。確か、それは映画だと猫がジュエルシードを暴走させた結果だったが、なのは本人からはそれに限りなく近い事が起きた、とだけしか聞いたことが無い。多分、九歳のフェイトが相手なら手の内も完全に知っているのもあってそこそこの苦戦で退けられるかもしれないが、アルフと二人で来られたらスカリエッティから受け取ったISを使わないとキツい物があるだろう。
だが、今はそれを考えていても仕方がない。暫くは時の流れに身を任せてなのはを守り続けるだけだ。なのはとユーノの念話を聞きながら、ライアンは渡した分の魔力を回復させるために眠りに就く。
『……授業はちゃんと受けろよ? なのはちゃん』
『うっ……はい……』
その前に、マルチタスクがまだ使えないなのはに授業に集中するように釘を刺した。
だが、きっと明日にでもマルチタスクをマスターしているんだろうなぁ、と思ってしまうと、この世の理不尽さに泣きそうになった。
****
結局なのはとユーノはそれからも暫くは念話で話していたらしく、先生に当てられて慌てていたのをユーノから聞いた。流石にユーノは申し訳なさそうにしていたが、それもいい経験だろうと、仕方ないの一言で終わらせた。
学校から徒歩で帰ってくるなのはを迎えに、ライアンとユーノは揃って街の中を走る。フェレットの姿と言うのは走りにくく、全力で走っても子供と同じ位の速さでしか走れないため、もどかしかった。が、下校中の小学生に大学生くらいの男が声をかける、なんて事案でしかないため、フェレット形態で走るしかなかった。
ユーノもそれは同じらしく、慣れないフェレットの体に四苦八苦しているようだった。
『そういえば、ライアンさんはジュエルシードの事についても知っていたんですね』
『え? あ、あぁ。偶然同僚からその話を聞いたばかりでさ。それの保管となるとクッソ忙しくなりそうだから逃げてきたんだよ』
ユーノがライアンが既にジュエルシードについて知っていた事を言及してくるが、ライアンは何とか口八丁でそれを誤魔化した。
ユーノはそれを聞いて満足したのか、事情を知っている人がいるなら心強い、という事をライアンに念話で言ってきた。余りこういう事を既知の物として振る舞っていると、未来が変わりかねない。特に夜天の書に関しては最初からネタバレしてしまってはマズい事態になってしまうかもしれない。
そこらへんの演技力が今後の問題だと脳内のメモ帳に記録し、待ち合わせのポイントで人に見つからないようになのはを待つこと数分。走ってきたなのははライアンとユーノを見つけると、笑顔でこっちおいで、と手招きした。それを見てユーノはなのはの体を伝って肩に上り、ライアンは近くの高い場所から飛行魔法で若干衝撃を殺しながらなのはの肩に飛び移った。
「お待たせ、ユーノ君。ギル君」
まだ近くに人がいるからか、なのはは自分の声でそのまま話しかけてきた。ユーノはきゅい、と一回だけ鳴き、ライアンはなのはの肩で垂れていた。
なのははそれから暫くしてから歩き出し、念話で二人に話しかけてきた。
『今日はどうするの?』
『そうだね。なのはの特訓の為にも人目の少ない場所に行こうかなって』
『生傷増やして家に戻ったら心配されるだろ? だから、多少は魔法に慣れておかないとな』
『じゃあ、近くの神社の境内にいこっか。そこなら誰もいないと思うし』
そんな会話があり、三人は神社の境内へと向かう事にした。
この頃のなのははまだ運動音痴で走る体力もそこまでないため、徒歩でゆっくりと向かう事になったが、その際に中学生やら主婦の人やらになのはが見られ、肩に二匹のフェレットを乗せているためか、ちょっときゃーきゃー言われてた。羨ましいのかなのはが二匹の小動物によってより魅せられているのか分からないが、ライアンはそこまで悪い気にはならなかった。
歩いて十数分の所でなのはは神社の境内の前にある長い階段の前に着き、階段を見上げていた。どうやら、長い階段を上がるのが嫌みたいだ。二十年後のなのはなら涼しい顔で登り切ってみせるのだろうが、流石に子供の足と体力ではキツい物があるらしい。
『ほら、体力作りの一環だ。歩きでいいから登ろう』
『うぅ……はーい』
『あはは……頑張って、なのは』
なのはがレイジングハートに手を伸ばした所でライアンが注意し、なのはは渋々己の足で階段の一段目に足を置いた。
が、その瞬間、ライアンは物凄い魔力の波動を感じた。
昨日のジュエルシードの怪物の比ではない、魔力の放出。それはなのはもユーノも感じ取れたのか、一瞬にして顔つきが変わった。これが、ジュエルシード。願いを叶える程の魔力を持った、世界の一つや二つをいとも簡単に壊してしまう宝石の魔力。
それにライアンは思わず冷や汗を掻いてしまったが、なのはとユーノにとってはそこまで脅威に感じなかったらしく、すぐに顔を見合わせた。
『ジュエルシードだ、なのは! すぐに境内に向かうよ!』
『うん! でも……この階段は……』
誰かに見つかってしまうと被害者が出てしまう可能性があるし、管理外世界に魔法が露見してしまう可能性がある。が、なのはにとってこの階段はかなりキツい。登り切っても数秒は境内で休憩を要する事になってしまうだろう。
なのはがうぅ……と小さく困った声を発する。それを聞いてライアンはサーチャーを周りに飛ばし、誰もいないのを確認すると、フェレット化を解き、バリアジャケットを展開してなのはを横抱きにして持ち上げた。
「ふぇ!?」
「すまん、なのはちゃん。恥ずかしいだろうけど我慢してくれ!」
横抱き。つまりはお姫様抱っこ。それをされたなのはは顔が真っ赤になったしライアンも顔が真っ赤になった。
なのはは単純に恥ずかしさから、ライアンは心を寄せた女性の幼少期である少女をお姫様抱っこしたことによる、様々な心境から発せられる熱による顔の熱さから。
なのはは口の開閉を繰り返していたが、ライアンはなるべくなのはの顔を見ないようにして階段を駆け上がる。
だが、駆け上がり始めて数秒が経ったその瞬間。境内の方から黒い何かが飛び出し、ライアンの方へと落下し始めた。落ちてきた黒い何かは、犬のような、巨大なナニかだった。爪と牙は巨大化し、翼のような物を持った狼に似た顔の巨大な犬。
それを見た瞬間、なのはが小さく悲鳴を上げ、ユーノが魔法を発動しようとするが、襲い。その前にあのナニかはライアンごとなのはを食らい尽す。
それだけは避ける。それだけは許せない。ライアンはなのはを上へ投げ上げると、プロテクションを展開する術式を構築する……が、その中の一部の式を無くす事によって魔法に不具合を発生させ、プロテクションが完成するよりも速く、プロテクションの魔力が爆発を起こしてライアンの姿が完全に煙と炎で隠れる。
が、このままではライアンは食われる。それほどまでにナニかは速く、急にやってきた。それ故に、ライアンは切らざるを得なかった。虎の子である、ISを。
「IS発動……」
呟き、そして発動する。それに答え、ISは一瞬にして発動した。
直後、ライアンの居た場所をナニかは通り過ぎたが、そこには何も居らず、ナニかの攻撃は不発に終わった。そして、ライアンがISを発動した直後とも言える時には、ライアンは空高く放り投げたなのはを空中でキャッチし、魔法で滞空していた。
「……あ、あれ?」
「す、すごい……」
「あっぶねー……」
三者三様の呟きが空に消えていく。
なのはは何時の間にか空に居たことに戸惑い、ユーノはあの一瞬の出来事を大体把握していたようですごい、の一言を呟き、ライアンは一歩間違えたら愉快なオブジェになっていた事を再確認し、冷や汗をダラダラかいていた。
流石に今のは危なかった。ISが無かったら確実に体の部位がどこか無くなっていた。それに、反応が数秒でも遅れていたらなのはがやられていた可能性がある。
ふと境内の方を空から見てみると、誰かが転移したようにも見えたが、魔力の痕跡も無いため、気のせいだと割り切った。
「なのはちゃん、早くセットアップを。前衛は俺がするから、なのはちゃんは後衛を。ユーノは早く結界を張ってくれ」
「う、うん!」
「お願いします、ライアンさん」
なのはの上に乗っていたユーノが飛び、結界を展開する。そして、なのはは抱かれたままレイジングハートを服の内側から取り出し、握りしめる。
「レイジングハート、お願い! セットアップ!」
『stand by ready. set up.』
なのはの服が桜色の光に包まれ、バリアジャケットが展開され、手にはレイジングハートが握られる。
ちゃんとセットアップされたのを確認し、結界も張られたのを確認してからライアンはなのは離そうとしたが、ライアンのバリアジャケットを握りしめて離さない。
「……なのはちゃん?」
「は、離されたら落ちちゃう!!」
「いや、飛行魔法を……」
使えるだろ? と言おうとしたが、昨日なのはは一回も飛行魔法を使っていない。それ故に、飛べないと思い込んでしまっているのだろう。
それもそうだ。ライアンだって飛行魔法の特訓中は飛べたとしても恐怖がぬぐえなかった。今でこそ簡単に飛んでいるが、こうして飛ぶまでにはかなりの時間を要したのだ。
じゃあどうするか。なのはを抱えながらだと流石に戦えない。かといって地上からの固定砲台になられると守り切れないかもしれない。本当は才能故にすぐに飛べるのだから飛んでほしいが、それも無茶な話だろう。
ここはISを全力で使うしか、と考えたが、レイジングハートが発光と共にしゃべり始めた。
『No probrem. My master can fly.』
「え? レイジングハート?」
『flyer fin』
レイジングハートが魔法を発動した瞬間、なのはのバリアジャケットの靴から桜色の羽根が出現し、抱えられているなのはが浮力を持ってふわりと浮いた。
なのははそれに困惑しつつも何とかバランスを取り、ライアンの隣に滞空した。
「うわ、わわ……」
「なのはちゃん、大丈夫だ。制御はレイジングハートがしてくれるから心配はするな」
『Let me take care of that.』
「任せてって……うん、じゃあ、お願いね、レイジングハート」
『All right』
「じゃあ、やっこさんも来そうだし構えろ、なのはちゃん。N2U、セットアップ」
なのはが地上の固定砲台化の心配がなくなったライアンはN2Uをセットアップし、構える。
その直後、階段からあのナニか……ジュエルシードモンスターが飛び出し、なのはへと向かってすっ飛んでいく。ライアンはそれを認識し、すぐになのはの前に割り込み、プロテクションを展開する。
プロテクションにジュエルシードモンスターがぶつかり、物凄い衝撃がライアンに降りかかる。それを無視してプロテクションの表面を爆破してジュエルシードモンスターを吹き飛ばす。
「打ち砕け、ブレネン・クリューガー!」
それの追撃としてアギトの魔法を使い、炎弾を己の周りの生成し、それを放つ。
が、ジュエルシードモンスターは羽根を使って空中でバランスを取り、横へ向かって飛び、尻尾でブレネン・クリューガーを打ち消して見せる。
アギトの炎熱魔法なら、と考えての炎熱魔法だったが、やはりミッド式にダウングレードさせている以上、オリジナル程の火力は出ないしライアンの炎熱魔法も後天的な物であるため、炎熱魔法の融合騎、アギトのブレネン・クリューガーよりも遥かに劣った物しか使用できないため、追い詰める事が出来ない。こういう時、大人のなのはが居たら前に出てスイッチし、前衛後衛を切り替えながら戦えるのだが、なのははまだ魔法を触るのがこれで二回目。そんな上手く戦う事が出来ない。
なのはは魔法の適正や戦い方から固定砲台が向いている魔導士だ。それが何をトチ狂ったのか近接戦闘まで出来るようになってしまったのが大人なのはな訳で、今のなのはでは固定砲台としての働きも若干キツい物になるだろう。
「ちっ……ちょっと厄介な事になったな」
こうなってはライアンの火力ではどうしようも出来ない。
なら、決めるには氷結魔法しかない。
N2Uを槍のように構え、氷結魔法の発動準備にかかる。冷気がライアンの周りから放出され、ライアンの吐く息が白くなる。ヘイムダルディバインバスターとは違う、氷結魔法を主軸とした戦い方。フェイトのような高速戦闘型を相手取るために考えた、質量を生み出す氷結魔法ならではの戦闘方法。
「……知性を持たない獣畜生に負けるかよ」
なのはが一瞬身震いをする。それほどまでに、ライアンの周りの気温は一気に下がっていた。
後天的な炎熱、雷撃、氷結魔法適正者にして、古代ベルカの炎熱、氷結魔法をミッド式にダウングレードさせ覚えた属性魔法使いの中でもレア中のレア。エース・オブ・エースの身内から魔法を授かり、鍛えられたこの魔法で、こんな獣畜生に負ける事なんて出来ない。それでは、消えていった彼女達に示しが付かない。
冷気の中、ライアンはジュエルシードモンスターを睨み、歯向かうそれへ向け、矛先を振るった。
実は結構魔法のレパートリーは多かった主人公。けどなのはの身内からしたらクソ雑魚もいい所なのでした、まる
まぁ、主人公は多芸型で他の方々は一極集中型なので押し切られるからでもあるんですけどね。それでも管理局からしたら色んな所に適当にぶち込んでおけば勝手に対応してくれる優秀な馬車馬なので重宝されたそうな
あと、何気にクロノも炎熱と氷結の両方を使える万能型なんですよね。つまり主人公は色んな方面に対応できる劣化クロノ。多分、この時代のクロノにも負けるんじゃないかな(遠い目)