魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE   作:黄金馬鹿

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主人公、大善戦


第十三話

 ジュエルシードモンスター。それは単体ならばなのはのような魔導士、つまりは攻撃魔法を覚えたそれなりに戦える魔導士であるならば、その知能の低さと単調さ故にそこまで苦戦するような相手ではないと聞いた。訓練の一環でジュエルシードモンスターのような物とシュミレーターで戦わされた時があったが、ライアンはそこまで苦戦はしなかった。

 が、ここにいるジュエルシードモンスターは何か違う。知能の低さと単調さはある。だが、それ以前に出力が違い過ぎる。

 通常のジュエルシードモンスターが一だとしたら、このジュエルシードモンスターは三。いや、それ以上はある。それ故に、人間の反応速度では到底ついていけない獣の反応速度を要求される戦いとなってしまっている。身体能力の強化とソニックムーヴで何とか互角に渡り合ってはいるものの、なのはの封印が当たらない以上、消耗していくのはライアンだ。

 

「走れ雷撃!」

 

 サンダーレイジ。フェイトの魔法の見よう見まねの魔法。雷撃の速さならば撃ち抜けると信じての一撃は当たってもジュエルシードモンスターを痺れさせる事無く、毛を焦がすだけに終わる。

 強い訳ではない。単純に火力が無い上に相手が速すぎる。バインドすらかからず、フルドライブをしていない故に低くなる火力。それ故に手応えのある一撃を与えられない。もしも、ライアンの立場がフェイトならば、速さで悠々とジュエルシードモンスターに追いつき、その動きを止めてなのはに打ち抜いてもらうだろう。だが、ライアンにはそれをするための速さも火力も無い。

 これはミッド式の魔法を使う魔導士の宿命とも言えるだろう。ミッド式は古代、近代ベルカから比べてみれば、火力が無さすぎる。防御魔法や補助魔法等はベルカの比では無い程の数と質があるが、攻撃魔法に関しては魔力弾と砲撃魔法位しか存在しない。

 フェイトのような近距離戦闘型のミッド式はかなり珍しい。それに、フェイトの魔法も火力が高い物は砲撃と魔力弾の高速発射。軽く矛盾している戦闘スタイルなのだ。

 それ故に純正なミッド式魔術士は火力が足りないという欠点が生まれてしまう。クロノもデバイス、デュランダルを使わない限りはなのはの砲撃を真正面からぶち抜く魔法は使えない。彼の本質は多彩な魔法と驚異的な読みにより相手の手を一手一手潰していく事。強力な一撃をぶち込み、一気に相手を倒し切る物ではない。

 それは劣化クロノとも言えるライアンにも言える事であり、様々な魔法を教わったが、それ等の魔法をミッド式に落とした事により、火力が下がってしまっている。そのため、ライアンの通常時の攻撃の中で一番強い魔法はヘイムダルディバインバスターしかない。なのはのように威力の高い砲撃をポンポン考えて撃てる程、ライアンは砲撃魔法が得意ではない。

 

「ショートバスター!」

 

 ジュエルシードモンスターの横を並走し、ディバインバスターのバリエーションの一つ、溜めを極限まで少なくし、威力を殺したバスターを牽制目的で放つ。しかし、ジュエルシードモンスターはそれを軽々と避け、ライアンに向けて牙を向け突撃してくる。

 それをプロテクションで防ぎ、受け流しN2Uに記録されている魔法の一つを起動する。

 

「海より集え、水神の槍! 彼方より来たれ、銀雪の吐息!」

 

 ライアンの周りの気温が一気に低くなっていく。そして、ライアンの肌に、バリアジャケットに氷が纏わり付く程の冷気にまでそれが至った瞬間、ライアンの周りに大小様々な氷塊が生まれる。

 限りなく黒に近いグレーの魔法。だが、ジュエルシードモンスターに対してなら白だ。

 無理矢理ミッド式に落としたためその大きさと精度、硬度ははやてには負けるが、この氷結魔法も十分に強力な物だ。

 N2Uを振り上げ、大小様々な氷塊が次々と合体していく。

 

「逆巻き連なり、天に座せッ!」

 

 そして合体したその氷塊は、直径十メートルもの巨大な氷塊となる。

 氷結の属性を持たせた魔法を放つのではなく、氷結させた物をぶつける、という非殺傷設定もなにも無い、単純な質量による攻撃。それ故に、ジュエルシードモンスターの魔法耐性も関係ない。一撃でぶち抜ける。

 

「……氷結魔法、ヘイムダルッ!!」

 

 それを見た瞬間、ジュエルシードモンスターはライアンにそれを撃たせてはならないと悟ったのか、一直線にライアンへと向かってくる。

 だが、させない。させてたまるものか。ライアンはすぐにそれを発射する。

 それは想像以上に速く、ジュエルシードモンスターは一瞬目を見開いたかのように見えたが、更にスピードを上げると、ヘイムダルに激突し――貫いた。

 ヘイムダルはジュエルシードモンスターの突進に負け、四散した。そして、その勢いのまま、ジュエルシードモンスターはライアンへ向けて突撃してくる。が、ライアンの読みはその上を行っていた。

 

「バインディングシールド!」

 

 直後、貼られたプロテクションとジュエルシードモンスターが激突する。直後、ジュエルシードモンスターの体のチェーンバインドが巻き付く。

 なのはが考案し実戦で使った近接戦闘型をぶっ殺すためだけのバインド付きプロテクション、バインディングシールド。なのははかなり硬いバインドを使えたが、ライアンはかなり弱いバインドしか出来ない。正に腕の差だったが、一秒でも拘束出来れば、この状況では確実に勝てる。

 ライアンはソニックムーヴで一旦距離を取り、再びN2Uを構えた。

 

「槍陣を成せ……白銀の破槌ッ!」

 

 そして、ライアンが機動のためのキーを口にした瞬間、四散した筈のヘイムダルの破片がジュエルシードモンスターを囲んだ。

 それを見た瞬間、ジュエルシードモンスターの抵抗が激しくなるが、ライアンは逃がさないために、すぐにその魔法を発動する。

 

「騙しの手品さ。ヘイムダル・ファランクスシフト」

 

 その直後、ヘイムダルの破片たちはジュエルシードモンスターの体と翼を貫き、体内で留まった。

 これによってジュエルシードモンスターは常に痛みと冷たさにもだえ苦しむことになる。逃げ出す事なんて不可能だ。更にライアンはヘイムダルへと指令を送る。

 

「連なり留めろ、白銀の鉄槌。ヘイムダル、再凝固」

 

 そして、ヘイムダルはジュエルシードモンスターの血液をそのまま凝固させ、ジュエルシードモンスターの体内から相手を凍らせる。

 一応、ジュエルシードモンスターを幾ら傷つけても願いを叶え取り込まれた元の動物は無傷で帰ってくる。だからこそのこんな非人道的な手段を取ったが、ジュエルシードモンスターの体内を知らないなのはとユーノから見たら、急にジュエルシードモンスターが止まったとしか見えないだろう。

 余りショッキングな場面は見せたくなかったが、幸いにもライアンは無傷。ジュエルシードモンスターはヘイムダルが当たったと思ったら動きを止めた程度にしか見えないだろう。

 

「なのはちゃん。封印を頼めるか?」

「あ、はい! ディバインバスター!」

『Divine buster』

 

 シーリングモードに変形していたレイジングハートからディバインバスターが放たれる。

 そして、ディバインバスターに呑まれたジュエルシードモンスターはそのまま溶けるように消えていき、その場にはジュエルシードと、それを暴走させたのであろう子犬が残った。

 子犬が落ちる前にライアンはソニックムーヴで子犬を回収し、境内に届けた。

 が、ライアンはそこまでやっても、顔を顰めたままだった。

 

「……ジュエルシードが三つ、ね」

 

 ボソッと呟き、空を見た。

 そこには、なのはが封印したジュエルシードが『三つ』あった。そう、三つだ。

 あのジュエルシードモンスターはジュエルシードを三つもその身に取り込んで暴走していた。それならば、確かに想像していたよりも遥かに強いのは当たり前だろう。

 だが、解せない。なのはは映画での三つ一辺に封印した、あの拡散ディバインバスターは撃っていないと言った。そして、三つのジュエルシードを取り込んだジュエルシードモンスターを相手にしたことはない、とも。

 これはライアンがこの事件に関わった事により、未来が変わった結果なのかもしれない。だが、ライアンは見た。あの時、魔力反応も無しに転移していった謎の人物を。境内に居た謎の人物を。

 顔などはフードを被っていたため、見えなかった。だが、ライアンは確信した。あの人物こそが、なのはに殺意を持っていると。フェイトを殺そうとしていると。過去を、変えようとしていると。

 

「……お前の思い通りには、させない」

 

 呟き、ライアンは飛び上がった。絶対に、なのはを殺させはしない。フェイトを殺させはしない。はやてを封印させたりはしない。そう、決心して。

 

 

****

 

 

「ライアンさん、お疲れさま」

「あぁ、お疲れ、なのはちゃん」

 

 ジュエルシードを回収し、ライアンとなのはは階段を椅子替わりにして座り、一息ついていた。

 ジュエルシードの回収は何の問題も無く終了。なのはとユーノは一気に三つものジュエルシードを回収できたことに喜んでいた。

 ユーノはすぐに周りに暴走していないジュエルシードは無いかを探しに行ったが、それを見届けた後のなのはは少し表情が暗かった。

 

「……なのはちゃん、顔が少し暗いけど、何かあった?」

 

 氷結魔法で氷を生み出して水分補給変わりに食べながら、ライアンは軽く質問した。

 なるべく、軽く聞いた方が軽く答えてくれるだろう、と思っての事だったが、なのはから帰ってきた言葉は、軽く受け止めるには少し重量オーバーを起こしていた。

 

「……その、わたし、この前も今回も、何も出来てないなって、思っちゃって…………」

 

 ライアンはその言葉に慰めの言葉を咄嗟に返す事は出来なかった。

 それをどう受け取ったのか分からないが、なのはは続けた。

 

「この前は困惑してて、封印で手一杯だったし……今日も、危ない事は全部ライアンさん任せだったから」

 

 なのははとても暗い声色で心情をぶちまけた。

 きっと、なのはは手伝いたかったのだろう。ユーノを、ライアンを。初めて授かった魔法という力を、もっと人のために使いたかったのだろう。だが、魔法の力を手にしていざ戦いに参加してみれば、なのはは後ろから見ているだけ。やった事は封印だけ。他の危険な事は全てライアン任せだ。

 ライアンは少し顔を顰めてどうしたものか、となのはに返す言葉を考えた。

 

「……そうだな、気にすんな。俺はそういうの全部考慮してんだからさ」

「でも、ライアンさんばっかり危険で、わたしは後ろから見てるだけなんて!」

「仕方ないだろ。なのはちゃんはまだ子供だし、魔導士としては未熟だ」

 

 魔法に触れてからたった一日。時間にしては二十四時間も経っていない魔導士がいきなり実戦に行く? しかも相手は非殺傷設定なんて使ってこない怪物?

 そんなの、ブラック企業管理局でもあり得なかった事だ。なのに、なのははそれをやろうとしている。

 後ろから見ているだけなのは嫌だっただろう。もっと役に立ちたかったのだろう。その気持ちは痛いほど分かる。ライアンも同じような気持ちを感じたことは十や二十では済まないのだから。

 

「それでも!」

「嫌、か? もっと、ユーノの手伝いをしたいか?」

「……」

 

 図星、なのだろう。なのはは黙り込み、俯いた。

 きっと、なのはは自惚れている。ユーノとライアンに褒められ尽した自分の才能に。自分は、ユーノとライアンと肩を並べて戦える、と。

 

「……そうだな、俺は子供が背伸びするのは仕方ない事だとは思うよ」

「こ、子供じゃないもん!」

「ランドセル背負ってる時点で子供だよ」

 

 うりうり、となのはの頭を乱暴に撫でてやれば、なのははやめてよー、とライアンの手を払おうとする。

 それに従い、なのはの頭から手を離し、ライアンは空を見上げて呟いた。

 

「なのはちゃん。魔法ってな、一朝一夕で出来る物じゃないんだ」

「え?」

「君の家族は剣術をやってるんだろ? なのはちゃんは、お父さんやお兄さんがそれを剣を初めて持った時から出来たと思うか?」

「それは……」

「お母さんの料理も、最初は失敗しただろう。だから、なのはちゃんが戦いについて来られないのは、仕方のない事なんだよ」

 

 よく、未来のなのはは言っていた。自分には特別な力がある。きっとエースになれると自惚れた教え子達に。自分達なら何でも出来ると言った教え子達に。

 努力しなきゃ、強くなれない。才能だけじゃ、どうしようも出来ない。けれど、努力だけで才能には追い付く事が出来る。それが、魔法だと。

 なのはは知っていた。努力をして上へ上へと昇り詰めた教え子を。己の事を凡人だと見下し、しかし最後には凡人らしい戦い方と考え方で、才能ある己の相棒と同じ場所に居続ける努力した凡人を。

 その考え方は、教えは、ライアンの心の中に何時でもある。だから、ライアンは努力をした。クロノのように万能型になろうと。なのはと組み、どんな時だって肩を並べて戦えるように、なのはの身内や同僚から魔法を授けてもらい。そして、劣化クロノのような立場だが、ライアンはなった。様々な状況下で戦える万能型に。努力だけで。

 

「もっと、魔法少女っぽく……主人公っぽく戦いたいか?」

「……うん」

「なら、俺と一緒に魔法の練習をしよう」

 

 きっと、なのはは一人にしておいても勝手に成長していく。勝手にライアンを抜かしていく。

 だが、その後押しはしたいんだ。未来で受けた恩を返すために。ちょっぴり背中を押してあげたいんだ。

 

「大丈夫だ。なのはちゃんは才能があるんだ。今日の敵だって、なのはちゃんが魔法を極めれば一撃さ」

 

 何も間違っていない。本当に一撃で倒せる。というか、この海鳴を一日で焦土にだって出来る。

 

「……ホント?」

「あぁ。俺を助けるため、一緒に魔法の練習をしよう」

 

 何だか、この言葉は情けない。だが、そうしてもらわないと近いうちに死にそうだ。ライアンはまだそこまで強くないから。

 そんなライアンの言葉を謙遜なのか、そのままの意味で受け取ったのか分からないが、なのははちょっと笑うと、今までのような満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、よろしくお願いします、先生」

「あー、いや……なんか先生って言われると違和感しかないから止めてくれ」

 

 なのはに先生と呼ばれると途轍もない違和感が沸く。それに、なんか変な背徳感というか、そんな感じの変な感情が沸いてくる。

 それが分かっているのか分かっていないのか、なのはは元気にはーい、と返事した。

 なにはともあれ、きっとなのはは近いうちにライアンを抜かす。それまでは、教え子として丁寧に教えていこう。ライアンは笑顔のなのはの頭を撫でながらそう決めた。

 この子、今年の冬には悪魔って呼ばれるんだよなぁ、と思いながら。




魔力的なダメージでの最高ダメージはヘイムダルディバインバスター。物理的なダメージの最高ダメージはヘイムダル。こいつ、もうタダの氷結魔法使いじゃねえか。

ちなみに二つとも魔法ランク的にはA+。クロノのブレイズカノンと同レベル。アクセルシューターよりもランクは下……ッ!

なんかヘイムダルディバインバスターとヘイムダルが活躍してますけど、これ、なのはの身内なら凍らされても自力で抜け出してきたリ氷塊も粉々に粉砕されるレベルなので実はそんなに強くないという。
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