魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE   作:黄金馬鹿

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やっとここかぁ、と一息


第十七話

 あの未曾有の大災害から約一週間が経過した。一旦凍り付き、そして再生した海鳴は相当な被害を受けていたものの、一週間もすればそこそこ復興は進み、車が進んで人が働けるくらいには復興が完了していた。その間、ジュエルシードは一回も暴走を起こさず、ユーノは魔法でジュエルシードの索敵を行い、なのはとライアンは魔法の特訓をしていた。

 とは言っても、いつかのなのはのようなワンマンで攻撃を当てられたら休憩、等ではなく、まずは魔法に慣れるため、空き缶をシューターで打ち上げ続ける、という訓練を行った。これに関してはまだ魔法に不慣れなため、レイジングハートの力も借りていい、という事になった。何れはレイジングハート無しでやらせるつもりではある。

 

「はい、空き缶飛ばすぞー」

「よ、よし! 今度こそ!」

 

 ライアンがシューターで空き缶を飛ばし、なのはに当たるか当たらないか位の軌跡を描かせる。

 なのははレイジングハートに魔法の発動を任せ、シューターの加減と操作に集中する。

 

『Divine shoter』

「シュート!」

 

 加減されたシューターが空き缶に当たり、カンカン、と小気味のいい音を立てながら空き缶が空を舞う。だが、それが十を超えた所でなのはの表情が険しくなり、十三の所でシューターと空き缶が弾けて消えた。

 これが二十歳を超えたなのはなら目を瞑って書類仕事をしながら何時間も連続でやれるのだろう。しかし、まだ魔法に触れて一か月も経っていないなのはではこれが限界、という事だ。

 

「うう……難しい……」

「まぁ、最初の内はな」

「そ、そういうライアンさんは出来るの?」

「ミッド式を使ってる奴なら、少なくとも百はイケる」

 

 そう言い、ライアンはゴミ箱から拾ってきた洗った空き缶を空に放り投げると、シューターを出して空き缶を打ち上げる。それはなのはの物よりもスピードが速く、性格で加減もできている。

 それを見てなのははむー、と小さく唸った。才能があると言われたのにこうやって足踏みしているのが悔しいのだろう。可愛い奴め、とライアンは軽く笑ってから空き缶を打ちながらなのはと会話をする事にした。

 

「まぁ、俺は生まれた時から魔法に触れている訳だし。逆に言えば、魔法を使い始めて一か月も満たない内に十回以上も出来る事が異常だ」

「……そうなの?」

「俺がなのはちゃん位の歳の時は十回が限界だったからな。それでも結構上手いって言われた位だ」

 

 ライアンは確かにクロノの下位互換とも言えるが、クロノはミッド式の、ストレージデバイス使いとしては上位に名を連ねるレベルの猛者だ。そんな彼の足元にも及ばないのが普通だが、下位互換と言われる程、ライアンはストレージデバイスの使い方に長けている。それは、状況把握能力の高さと魔法の扱い、出力の調整、誘導等、その全てを一人で行える、という事であり、クロノの下位互換と言われるまでに追い詰めたライアンはミッド式の中でも優秀のカテゴリに入る魔導士だ。

 そんな彼なら、一時間位なら空き缶飛ばしを行い続ける事だって可能だ。だが、なのはは闇の書事件の頃には今のライアン並みに魔力操作も出来るし魔導士ランクもライアンより上のAAAランクだったと聞く。正直に言って泣きたくなる。

 

「まぁ、ミッド式ってのはベルカ式とはまた違った魔力運用が必要だからな。それを鍛えるにはこれが一番って訳だ」

 

 ベルカ式はカートリッジ使用を前提とした、爆発する魔力を如何に抑え込みながらも適切に運用していくかが課題になる魔法であり、ミッド式はカートリッジのような爆発的な魔力を運用する事ではなく、己の魔力を効率よく切り離しながら正確にそれを魔法に宛がっていき、それの暴発を防ぐために最後の最後まで己の手で操作していく。

 ベルカ式に関しては最早使って慣れろ、なのだがミッド式は吐くまで魔力運用の特訓を続けろ。これに限ってしまう。これが及第点までいけたのなら、後は実戦式の戦闘訓練。例えば、未来でなのはがやっていたような、教官対全員での模擬戦闘。教官に一発当てるまで終われま10だ。ライアンもこれをやった事はあるが、最初は本当に大変だった。参加した全員が一斉に飛びかかってもシューターだけで戦闘不能にさせられるのだから。

 最近ではライアンは一発程度ならそこまで苦労せずとも当てられるようになっていたため、なのはの訓練メニューもある程度のダメージを与えたら、に変わっていた。

 それを今のなのはにしてやれば、闇の書事件までには本来のなのはよりも少しは強くなれる筈である。

 

「ほーれ、パスするぞー」

「え、わわっ!?」

 

 なのはに四の五の言わせないために空き缶をなのはに向かって弾く。それを急いでシューターで打ち上げるなのは。

 しかし、こう見るとなのはの潜在能力という物は本当に底知れない。二十年後のなのはすら、まだ強くなれると本人が言っていた。ライアンからしたら、たった二十年で管理局のエースになれる方が可笑しいが。

 シューターの操作に悪戦苦闘しているなのはを見ていると、これも後一か月も経てば見れなくなるのか、と思ってしまい何だか寂しさを感じてしまう。取り敢えず、将来煽るためにビデオを撮っていると、レイジングハートが唐突に発光して喋りだした。

 

『It's time, master(時間です、マスター)』

「え、もう?」

 

 そこでなのはの集中力が切れたのか、空き缶がこの世から消滅する。シューターが弱すぎて空き缶が打ち上げられないならよく聞く話だが、まさか強すぎて消滅する、なんて悩みを聞くことになるとはなぁ、とライアンは苦笑いしながらも自分の腕時計を見る。

 確かに、その時間はなのはが親友であるアリサとすずかの元でお茶会する、という時間の三十分前だった。

 この時間にはここを出ておかないとなのはは約束した時間に間に合わない。なのはは少し名残惜しそうにライアンの方を見るが、早く行きなさい、と首を横に振ることでなのはに約束の方を優先させる。

 なのはは渋々バリアジャケットを解除し、レイジングハートを待機状態に戻す。

 

「もうちょっとでコツが掴めそうだったのに……」

「そう簡単に出来てたまるか」

 

 思わず素が出た。ライアンだって百を超えるためには年単位の練習が必要だったのに、あっさり突破されてたまるか。なのははそう? と小首を傾げているが、やはり比較対象が補助系魔法のエキスパート。補助系魔法に限れば天才の領域に入るユーノと何年も魔導士として特訓し続け、ある程度完成されたライアンでは、確かに自分はそんなに凄くないのでは、と思ってしまうだろう。

 ライアンだってまだ管理局に入隊する前の学生時代に安物のストレージデバイスを買って己の魔法適正から戦い方を考え、管理局に入ってからなのはに相談し、そしてそれを徐々に極めていき、N2Uを受け取ってから万能型としてやっとある程度完成したのだ。それを簡単に出来てたまるか、と言いたいが今年中には出来ちゃうんだよなぁ、と思うとなのはの才能が羨ましい。

 

「ほら、行ってきなさい。ユーノも途中で拾っていくんだろ?」

「あ、うん……ライアンさんは?」

「もうちょっとここでゆっくりしてる。俺はまぁ……部屋からテコでも動かなかった、って言っておいてくれ」

 

 ベンチで寝転がると、なのはは少し躊躇したが、すぐにまた後で、と言って走っていった。

 徐々に遠ざかっていく足音を聞きながら、N2Uから水のタブレットを取り出して口に放り込み、そのまま水分補給をする。

 本当に、なのはは凄い才能を持っている。魔導士からしたら、羨ましく思うし、純粋に凄いと思える才能を。魔法に触れてたった一か月程度の彼女が年単位で魔法に触れていたフェイトに勝った、というのもこうして実際に見ると頷ける、という物だ。

 そして、なのはが魔法の特訓に本腰を入れるのは、今日だ。

 ライアンは知っている。既にこの街には彼女の幼馴染にして相棒となる少女、フェイト・テスタロッサがいる事を。歴史のターニングポイントとなる彼女のことを。

 なのはとフェイトが初めて出会った時。それは二人からよく聞いていた。アリサとすずかとお茶会をしている最中、ジュエルシードが暴走……いや、正常に願いを叶え、巨大な子猫が出現した時、フェイトと出会ったと。

 恐らく、それは今日だ。魔法を知ってから大体二週間たった頃に出会った、となのはは言っていたから。時期的にも、完全に一致する。

 そして、ライアンがわざわざなのはに着いていかなかった目的。それは、まずフェイトとなのはの出会いを邪魔しない事。ライアンはどちらかと言えばなのは側だが、状況に応じては中立に立ち回る、管理局に付かない第三の勢力……あくまでもなのはの味方であると示すため。そして、場合によってはフェイトの味方だってすると示すため。

 それを、アルフに示すため。

 時間にしては一時間程度だろうか。それくらいの時間が経った辺りでライアンはジュエルシードが発動したのを感知した。その直後、ライアンが動いた。

 

「さてっと……広域結界展開。対象、魔術師」

 

 N2Uに内蔵されている広域結界魔術を発動。範囲はなのは達がいるであろう月村邸を巻き込まない程度に。そして、中に入った二人の魔導士。恐らく、フェイトとアルフの内、高速で動く方を結界からポイッと捨ててアルフだけを中に残す。

 そして、バリアジャケットとN2Uを展開して空へ飛びあがる。

 そこで暫く待っていると、何かが高速でここまで飛んでくるのを感知した。そっちを向けば、そこにはオレンジの髪をした、狼の耳と尻尾が生えた女性がいた。間違いない、フェイトの使い魔、アルフだ。

 

「……アンタ、何の用だい? わざわざアタシだけこうやって誘き寄せるなんて」

「目的も何も。俺は話しをしたいだけさ」

 

 アルフはかなり警戒している。ライアンとしてはなのはとフェイトの戦闘が終わるまでアルフと話をしていたいだけだ。

 タイムパラドックスを引き起こすかもしれない要因は、なるべく省く。今回は、なのはとフェイト。そして、アルフがそこに接触するという物を避けるための措置だ。万が一のために結界を用意しておいて正解だった。このまま放っておけば、アルフはなのはを殴り飛ばしていただろう。それがなのはのモチベーションに影響されると、少し困る。

 

「にしては、デバイスもバリアジャケットも用意して……やる気満々じゃないか」

「そりゃ、後ろから殴られたらたまらないし」

 

 流石に生身でアルフの攻撃を受けたら全治数週間の怪我を負うのは確実だ。だから、バリアジャケットとデバイスを展開していたのだが、裏目に出ていたようだ。

 アルフはフェイトのためなら何でもするが、そんな卑怯な真似をする性格ではなかった。せめてデバイスだけでも待機状態にしておくべきだった。

 

「…………そのバリアジャケット、管理局かい?」

 

 アルフが完全に警戒モードになり、ライアンに聞く。

 ライアンのバリアジャケットは管理局のデフォルトの物をリペイントして装飾を付けただけ。確かに、管理局の者だと思われるかもしれない。

 

「元、な。元。もう辞めたよ」

「元、か……そうかい、元か」

 

 アルフはそれを聞いて警戒を緩めたように見えた。それを見てライアンも軽く構えていたN2Uを下した。

 これなら平和的な解決が出来るかもしれない。ライアンはそう思い、軽く笑った――その瞬間、頬を思いっきりぶん殴られた。

 

「ぐはっ……!?」

「だったらここでくたばってもらおうか! 管理局の知り合いにでも連絡されたらマズいからね!!」

 

 何とか空中で気張る。しかし、その追撃として腹にも重い一撃を貰ってしまう。

 今朝食べたクッキーを吐き出しそうになるが、何とか堪え、腹に突き刺さった拳を自分の手で抑え込む。

 

「なにっ!?」

「悪いけど……そこそこ打たれ強いんだよ、俺は」

 

 主にヴィヴィオとスバルのせいで。思いっきり打ち込んだであろうアルフはそれでも気絶しないライアンに驚き、体が一瞬だけ硬直する。その隙を逃さず、スティンガーを生み出してアルフに零距離でぶつけ、距離をとる。

 アルフはそれに怯みこそしたが、大したダメージにはなっていない。やはり、硬い。いや、ライアンの火力が足りない。

 アルフは少し汚れた胸元を払って再び構えた。

 

「手ごたえはあったってのに……」

「いや、瘦せ我慢してるだけだから……今にも泣きたいから……」

 

 打たれ強いとは言っても、痛いものは痛い。ヴィヴィオとのスパー中、間違って思いっきりボディーブローを貰ったときの事を思い出した。あれは吐いた。

 バレないように回復魔法を使って腹に響く鈍痛を緩めながら、ライアンは当初の予定通り、話し合いに移ることにした。

 

「確かに俺は元管理局員だったが、今はもう管理局に味方する義理がない。今は現地で見つけた魔導士の女の子と一緒にジュエルシードを集めているだけだ」

「なるほど……つまり、それにアタシが邪魔だからここで仕留めると」

「違う。俺はあの子についているけど、出来る限り中立を維持するつもりだ」

「中立……ねぇ」

 

 やはり、怪しまれている。

 なのははユーノについているため、ジュエルシードを集めて管理局に届ける事が目的だと一発でわかる。だが、フェイト側はジュエルシードを集めて何をするのか分からず、下手をしたら一発で世界が滅ぶ物を私利私欲のために集めている。

 ライアンは目的は分かっているが、アルフから見たらライアンはジュエルシードを集めるもう一つの勢力に接触をしてきた管理局と繋がりのある怪しい人間だ。そんな人間が中立を謳ったとしても信じられないのは当然だろう。

 

「……悪いが、信じられない。それに、もう一人の魔導士に与しておきながら何が中立だ。フェイトが目の前に来たら敵対するんだろ?」

「だけど、俺は君達がなのはちゃんじゃなく、ジュエルシードと戦っている所を見たのなら、協力するつもりだ」

「大きなお世話だ。ジュエルシードなんてフェイトとアタシで何とかなる」

 

 まぁ、こうなるだろう。ライアンとしてはなのはと敵対しない限りは全力でフェイトの味方をするつもりである。だが、あちら側からはそれが信じられない。

 メリットが全く無いのだから。

 

「一応、それを言いたかっただけだ。これでも平和主義者なんだぜ?」

「だったら、そんな平和主義者様にはご退場願おうかな!」

 

 アルフが一瞬で飛びかかってくる。

 それをギリギリで避けながら、氷結魔法の発動準備にかかる。

 

「ん? 何だか肌寒く……まさか!?」

「察し良すぎんだろ! 縛れ、氷結の軛!!」

 

 アルフが一瞬でライアンが氷結魔法を発動しようとしたのを見抜き、距離をとる。それに驚きながらも、ライアンはザフィーラの鋼の軛に氷結属性を付与したオリジナル魔法でバインドにかかる。

 が、アルフはそれを目視で確認しながら避ける。

 何ていう反応速度。昔手合わせしてもらったときはかなり加減されていたのだと思い知りながら、ライアンは軛の出る魔法陣を先に設置し、次の魔法を発動する。

 

「リオ。お前の技、借りるぞ! 双龍円舞!!」

 

 足元に魔法陣を展開し、それをN2Uで叩くことによって発動。魔法陣から炎で出来た炎龍と雷で出来た雷龍を召喚する。それを見たアルフの表情が驚きで固まる。

 

「氷結だけじゃなくて炎熱と雷撃までだって!?」

 

 当たり前だ。三つの魔力変化を行えるミッド式の魔導士なんて珍しいなんて物ではない。最早絶滅危惧種レベルだ。この技の本来の持ち主、リオ・ウェズリーの炎熱と雷撃の二つの変換素質を持ち合わせている事すらかなり珍しいレベルなのだ。そこに希少な変換属性、氷結属性まで持っているとなれば、驚かざるを得ない。

 

「こう見えても多芸なんだよ。行け、双龍砕!!」

 

 それをアルフへ向けて飛ばす。アルフはそれをバインドと防御を使うことで凌いで見せる。やはり、オリジナルと比べれば威力が下がっているが、それでもアルフは防いでも防いでも追ってくるそれに苦戦している。

 だが、二人が同時に動きを止めた。それと同時に二つの龍も消滅した。

 

「……あっちの決着はついたみたいだな」

「そうだね。フェイトの勝ちだ」

 

 なんとなくだが分かる。少し遠くで戦っていた二つの魔力の内、よく知っている魔力が何もしなくなった。ここからなのはは元の歴史通り負けたのだと分かった。

 

「そうみたいだ」

 

 ライアンはアルフが戦闘の意思をなくしたのを確認したからデバイスを待機状態に戻した。

 

「まぁ、今回は応戦しちまったが……俺はあくまでも中立のつもりだ。覚えておいてくれ」

「けっ。だったら行動で示せってんだ、属性魔法使い」

「ごもっとも」

 

 アルフは一度ライアンを睨むと月村邸へと飛んで行った。

 それを見てから結界を解除し、ライアンは地面に降り立った。

 まさかアルフと戦闘になるとは思っていなかったが、行動で示せるのは大分後だろう。だが、共闘した際に後ろから狙われる可能性が低くなったと思いたい。

 ライアンはまだ痛む頬と鳩尾に回復魔法をかけながら、ベンチに座った。

 

「さて……後でなのはちゃんを慰めないとな」

 

 だが、今は休みたい。ベンチに寝転んでライアンは瞼を下した。

 起きた時には真夜中でフェレットのギルが消えた事で高町家がプチパニックになっていたのは語るべき事ではないだろう。




出来ればもっとキンクリしたい。

あと、ライアンが使える魔法の中にはvivid勢の物も少し含まれていたり。一応、ヴィヴィオとリオ、コロナと後数人の魔法は使用可能。Force勢は無理。

ちなみに、今のライアンとアルフが全力で戦えば手数の差でライアンが何とか勝てますが、フェイトと組まれると詰みます。勝てません。というかフェイト一人でも危ういレベルです。炎熱、雷撃、氷結が全部使えるのに弱い主人公とはこれ如何に……

まぁ、殺す気ならコフィンで終わるんですけどね
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