魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE 作:黄金馬鹿
温泉イベント、と言えば魔法少女物では鉄板のイベントだろう。大きなお友達が喜んでBD版で規制が解除されるのを楽しみにするイベント。流石にライアンはそこまで温泉イベントが大好き、という訳ではないが、今は温泉に入れない事を少し残念に感じていた。
ライアンは今、物凄くふて寝したい気分だった。というか、していた。
先週のなのはVSフェイトから一週間が経過した週末。なのははフェイトに負けてことで何かに火がついたのか魔法のキレがよくなり、ライアンが教える事をスポンジのように吸収していった。ライアンが年単位で取得していた物も数日で会得していた。泣きたくなった。
そんななのはの息抜きとも言えるこの日。高町家とバニングス家、月村家の合同での温泉旅行が開催された。とは言っても、バニングス家と月村家に関しては両親は忙しいためアリサ、すずか、その姉の忍、その従者のノエルとファリンが参加した。高町家はフルメンバーである。
勿論、その中にはユーノとライアンも入っている。入っているのだが、ユーノとライアンはフェレット形態だ。まさか温泉に浸かれるなんて思わない。つまり、ユーノとライアンは温泉を目の前にして入れないという生殺しを受けることになるのだ。
だが、何か忘れている気がする。主にユーノが淫獣と呼ばれる要因となった物を。
「ギルは本当に大人しいし、肩の上が好きね。全く動かないんだもの」
「ずっとアリサちゃんの肩の上で寝てるもんね」
アリサの肩の上が弄られなくて丁度いい。というのが本音なのだが、どうやらアリサはそれが気に入っているらしく、なのはがそっとライアンを回収しようとしてもかなり自然な体運びでライアンを触らせようとはしない。なのはが仕切りに大丈夫かと聞いてくるが、その度に問題はないと返す。
対してユーノは色んな所をたらい回しにされて疲れた様子だ。先週も猫に追われて大惨事になりかけたらしいので、災難だったとしか言いようがない。
魔法を使ってバレない程度に体をアリサの肩の上で拘束しているライアンはそれにマルチタスクの一つを割いているため寝れないのだが、寝ているふりで弄られないようにしている。そのお陰でアリサのお気に入りになれたが、寝れないのは少し辛い。もしも寝ようものなら肩からずり落ちる事は確定的に明らかだろう。
そんな感じで何とか寝ている体を作っていると、車が止まってエンジンが切られた。少し目を開けて外を見れば、和風の建物がある。あれが恐らく今回泊まる事になる温泉旅館なのだろう。
それを見てから溜め息が零れそうになるのを抑え、ライアンは再び目を閉じた。と、同時に魔法を使い続けた疲れからか寝落ちてしまい、アリサの肩から滑り落ちてしまった。しかも、落ちた位置が丁度アリサが手を付いた場所であり、ライアンは下敷きになってしまった。
「ぎゅっ」
「あっ!?」
直後、一瞬の鈍痛の後に再び寝落ちた。
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気が付くと、ライアンはなのはに抱かれた状態で旅館の部屋にいた。どうやら、アリサの掌底で気絶していたらしい。やはりこのツンデレ娘、末恐ろしい。
目が覚めたと言わんばかりに小さく一回鳴いてなのはに目が覚めたのを伝えてから、すぐになのはの肩の上に乗った。やはり肩の上が倫理的にも問題ないし一番落ち着く。
「あ、ギル君。目が覚めたの?」
『今さっきな……押しつぶされて気絶するとはフェレットの面汚しだ』
『いや、普通に死ねますから』
一方、ユーノは疲れ果てた挙句、すずかに抱かれているらしい。やはりこやつ、淫獣であったか。
だが、それに関しては後々裁かれると思われるので無視を決めておくことにする。が、無視できない子もいる。
ライアンを押しつぶしたアリサだが、ライアンが目が覚めてから結構視界の中に金色の髪が映り込んでくる。髪の持ち主がいる方へ向けると、アリサが何とも言えないような表情でこちらを見ている。どうやら、押しつぶした事による罪悪感と、嫌われたのでは、という懸念が彼女の中で渦巻いているらしい。
確かに普通のフェレットなら警戒を覚えるのだろうが、スーパーフェレットギル君は決してそんな事はしない。一度なのはの肩から腕を伝って地面に降り、アリサの足元で待機する。勿論、スカートの中が見えない絶妙な位置取りでだ。
そんなライアンを見たアリサは腰を下ろしてからゆっくりとライアンに手を伸ばした。その手を伝い、アリサの体を上って結局は肩に落ち着く。肩に乗られたアリサは何を思ったのか、ゆっくりと立ち上がり、なのはにこう告げた。
「やっぱこの子飼うわ」
「だめぇ!」
どうやら、ライアンの演じるギル君の人懐っこさはアリサお嬢様の何かに触れたらしい。暫くなのはとアリサが姦しく騒ぎ、ライアン、ユーノ、すずかはそれを見て軽く呆れていた。が、そんな時間は長く続かず、すぐにメンバー全員で温泉に行くことになり、なのは達は着替えとタオルを片手に部屋の違う大人組と合流して温泉へ向かった。
結局ライアンの扱いに関してはなのはは一歩も譲らず……譲られたら困るのだが、アリサはぶーたれていた。
なんやかんや言ってお嬢様のご機嫌を取るのも仕事の一つだろうとペチペチ頬を叩いてみたり頭の上に乗ってみたりしていたら、それが気に入られたらしく、若干ご機嫌になった。
「結局、男湯にはお父さんとお兄ちゃんだけだね」
「男女比率、一対九位はありそうだもの。それに、私のお父さんが来ても一人増えるだけだし」
「女所帯……なのかなぁ?」
「びっみょーに意味違うわよ、すずか」
そういえば温泉で男湯に浸かるのは高町家の父と長男だけだったな、とボーっと考えていたが、男湯と女湯の分かれ道に入った所でふと気が付いた。
あれ、このままアリサの肩に乗っていたら淫獣ルートじゃね? と。
(そ、それはマズい! このまま入ったら何年後かに死ぬぅ!!)
主にこの場にいるユーノを除いた全員の手によって。
サーッと血の気が引いていく錯覚がライアンを襲い、ライアンはすぐさまアリサの方からテイクオフし、着地すると士郎の体を伝って士郎の肩に乗った。
「あ、ギルが……」
その時、アリサの残念そうな声が聞こえた気がしたが、それは完全に無視。流石にここで余命宣告は受けたくない。絶対に受けたくない。
『ユーノ、女湯に入った瞬間、俺はお前の事を淫獣と呼び続ける』
『……あっ!』
どうやら、ユーノもそれに気が付いたのか、すずかの手の中から飛び出し、恭也の肩に飛び移った。
それにすずかも少し残念がっていたが、ユーノはギリギリの所で抜け出せた事に安心していた。
「おっ、珍しいな。ユーノとギルが俺達の肩に乗るなんて」
「ユーノもギルも雄だし、こっちに入れるか。親子二人で温泉には入れなくなったがな」
どうやら、高町家の中ではそこまで世話をしていない士郎と恭也がこうして肩に乗られるのは想定外だったらしい。ちょっとだけ嬉しそうに見えた。
ライアンは命の危機を脱せた事にホッとしていたが、なのはが念話を送ってきた。
『二人とも、こっちに来たらいいのに……』
『なのはさん? 俺、十九歳の男の人間なの。女湯に入ったら色んな意味でヤバいの』
『どうせ誰も分からないの』
『将来バレたらさ、俺は君のお父さんとお兄さんに八つ裂きにされちゃうから。死んじゃうから』
『えー……別にライアンさんなら気にしないのに……』
『俺が気にする。オーケー?』
なのははぶーぶーと念話でブーイングしていたが、直後にユーノに送った念話でも断られたのか、ブーイングが収まった代わりに見事に膨れっ面になっていた。なのはの膨れっ面は珍しいので写真を撮ってみたかったが、流石にデバイスを出して標準機能のカメラで撮影したらバレるので止めておいた。
その後は淫獣扱いされる心配も無く、ライアンとユーノは桶に入れられたお湯の中でまったりと温泉を楽しんでいた。
取り敢えず淫獣扱いは回避という事で。まぁ、ライアンが女湯に入った瞬間に余命宣告が確定するので、流石にね?
多分、ユーノは将来、女湯に入って脳内に色々と保存しておくべきだったと後悔するのでしょう。