魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE   作:黄金馬鹿

2 / 18
前回の続きから


第二話

 消失したライアンの意識は急に浮上してきた。埃臭い空気を思いっきり吸ってしまい、思わずむせてしまった。

 それで完全に意識は覚醒し、ライアンは目を開いた。

 目を開き、目に入れた光景は、崩れた建物の天井だった。その光景を見た瞬間に思考が固まってしまったのは仕方のないことだろう。これは夢なのか否か。それを確認するために抓った頬は痛みを知らせてきた。

 まさか、これはあの高町親子がやってしまった事なのか、と思ってしまったが、流石の高町親子でもここまではしないだろう。それに、この崩れ方は真新しい物ではなく、何年も前に崩れているとしか思えなかった。

 立ち上がり、今の着ている物を確認してみれば、それは先ほどまで着ていた練習着だった。と、いうことは確実にあの教導と親子喧嘩はあったという事だろう。それに、N2Uもポケットの中にカード状の待機状態で仕舞われていた。

 

「……ほ、本当に何があったんだ」

 

 何があったのか分からないが、困惑していては何も始まらない。マルチタスクで思考回路を分割して困惑する自分をそこに押し込んでおいてもう一つの思考で冷静に考える。

 が、考えど考えど答えらしき物は出てこない。それ故に自分の足で動き、確認をすることにした。

 

「N2U、セットアップ」

 

 N2Uを指の間で挟んで投げる。そして杖に変化したN2Uを握り、バリアジャケットを展開する。管理局で標準になっているバリアジャケットを黒く染めて軽く装飾を施した、オリジナルとは言いにくいバリアジャケットを羽織り、違反だとはわかっているが、緊急事態なので仕方ないと自分の中で無理矢理納得させ、飛行魔法を発動して空に舞い上がる。

 そして、空から見た光景にライアンは思わず絶句した。

 

「……な、なんだよ、これ」

 

 ここは、崩れ落ちた、見たことのある建物と、道。それらから考えるに、ここは先ほどまでと変わらずミッドチルダなのだろう。しかし、ミッドチルダだとは思いたくなかった。

 それほどまで、あの科学と魔法の街、ミッドチルダは荒廃してしまっていた。

 

「……じ、時間は。今の時間は」

 

 だが、認めたくなくて。もしかしたら、偶々あの場に埋まっていたロストロギアによって未来か何かに飛ばされたと信じたくて。行く方法があるのなら帰れる方法があると信じて、ライアンは己の時計を見た。

 その時計はミッドチルダの公共のネットワークから情報を受け取り、時間を勝手に合わせてくれる腕時計。それも、他のネットワークのない世界でも使える便利な時計だ。

 それを見て、今、この時間が未来なら。ミッドチルダが何かしらの災害で大打撃を受けてしまい、首都が移動した未来なら、きっと何とかなる筈だ。そんな希望に縋り、時計を見る。

 しかし、現実は非情であった。

 時計は、ライアンのいた時代を問答無用で指し示し、日時、時間もピッタリと当て嵌まっていた。

 

「そ、そんな……」

 

 そして、ライアンの分割しつくした思考が全て困惑に包み込まれる。

 ここは同じ時間だ。ここは、先ほどまでと全く同じ時間のミッドチルダだ。つまり、行きも帰りも出来ない。

 世界は、ライアンの知らない何かに変貌してしまった。

 

「どうすりゃ……どうすりゃいいんだよ……」

 

 思わず呟く。こんな荒廃した世界で、自分は一体何をしたらいいんだ。一体、何をしたら、あの平和な世界に帰れるのか。

 その答えは自分の中では見つからず、思わず呆然としてしまった時、彼の耳が風を切る何かの音を捉えた。その風を切る物体の正体は分からないが、それは己に向かってきているのだと、音だけで分かった。

 故に、その場からズレて後ろを向き、防ぐ。

 

「プロテクション!!」

 

 簡易的だが、一番信用の出来る防御魔法、プロテクション。なのはのディバインバスターも防いだ折り紙付きの防御魔法だ。

 それを展開した瞬間、ライアンのプロテクションに何かが激突した。

 

「ほ、砲撃魔法!!?」

 

 それは、見たことのない砲撃魔法だった。しかも、途轍もなく威力が大きい。それこそ、なのはのハイペリオンスマッシャー等の、ディバインバスターの上位互換の魔法にすら匹敵しかねない程の砲撃魔法だ。

 その砲撃魔法がプロテクションにヒビを生み、そのヒビから溢れた砲撃の魔力がライアンの腕に当たり、傷を付けた。

 そう、傷を。

 

「ま、まさか、この砲撃……!」

 

 非殺傷設定を切っている。

 つまり、この砲撃を全身で浴びれば、死ぬ。

 

「き、強化!!」

 

 後ろに下がりながら、更にプロテクションに魔力を注ぎ込む。それと同時にプロテクションが割れ、一枚目のプロテクションとライアンの間に三枚のプロテクションが現れる。

 が、それと同時に砲撃の威力が上がり、三枚の内一枚のプロテクションが破られる。

 

「や、ヤバい……!」

 

 この砲撃は、対処できない。

 死への恐怖に思考が氷付き、更にもう一枚のプロテクションが破られる。

 どうにも出来ない。けどどうにかしなければ死ぬ。そんな板挟みに頭が機能を止めた瞬間、ライアンの横から声が響いてきた。

 

「退け!!」

 

 その言葉に頭の機能が再開された瞬間、ライアンの脇腹に凄まじい衝撃が走り、一気に視界が横へ飛んだ。

 

「ガイスト!!」

 

 吹き飛ばしたのは誰か、それを確認すると、そこには黒色の髪を二つに束ねた、ライアンよりも少し年上らしい女性が、右手を砲撃へ振るっていた。

 砲撃に当てられた右腕は消し飛ぶ事無く、砲撃を逆に消し飛ばしていっている。

 それに凄い、と素直に感心するが、その横顔と技は、見たことがあった。

 ヴィヴィオに紹介され、時々すれ違うとファミレス等に行って互いに駄弁る仲だった、ライアンの中ではなのはやフェイト等の規格外に次ぐ規格外。

 

「ジーク……?」

 

 その名は、ジークリンデ・エレミア。かつてのインターミドルのチャンピオン。

 

「だぁぁ!!」

 

 そんな規格外の一人が、雄叫びと共に砲撃をその腕でかき消した。直後、ジークはライアンの前まで飛んできた。

 

「ジーク、これは一体どういう……」

「何言うとるん、はよ逃げんと今度こそ死ぬで!?」

 

 そう叫び、ジークはライアンの手を握った。それに訳も分からず首を傾げていると、二発目の砲撃が視界の端にチラついた。

 

「チィッ!!」

 

 ジークが盛大に舌打ちしながらも、その砲撃を蹴りで弾き飛ばした。なんという規格外な技。

 それに感心する間もなく、ジークは問答無用でライアンを米俵のように担ぐと、更に迫ってきた三発目の砲撃を蹴り飛ばすと、開けた場所に着地しライアンを下した。

 ライアンは困惑を隠しきれずにその場で尻餅をついた。

 

「……あ、えっと」

「アンタ、自殺志願者か何かなん? 今時、空をフラフラしとったらディエチの砲撃で消し飛ばされるってのに……」

「え? ディエチって……」

 

 砲撃とディエチ。その二つのキーワードが頭の中で合致した。

 それは、もしかして、あのディエチなのか。ナンバーズの一人、戦闘機人のディエチなのか、と。

 

「はぁ? 何言うとるん。あのにっくきナンバーズの事や。知らないわけないやろ」

 

 やっぱりだ。ジークの口にしたディエチという人物は、ライアンも知るディエチの事だ。

 だが、何故そのディエチがあんな砲撃を撃ってくるのか。人を殺す事に重きを置いた砲撃を放つのか。それが分からなかった。そして、あの優しいジークがこんなにも憎さで顔を歪ませるなんて。

 

『ジーク!!』

 

 その時、後ろから、ライアンにとっては聞きなれた二人の声が聞こえてきた。その瞬間、ライアンの心の中に安らぎと安心が生まれた。

 何故なら、その声は。

 

「ヴィヴィちゃんにハルにゃん!」

 

 あのヴィヴィオと、その親友でありライバルであるアインハルトの声だったからだ。

 振り返れば、そこには確かに見知った二人の姿があった。しかし、その二人からは途轍もない違和感を感じた。その理由を考えている間に、二人はジークと合流した。

 

「ジーク、いきなり飛び出すなんて無茶ですよ。貴女が死んだら、誰が切り込み隊長をするんですか」

「お願いだから無茶しないで。これ以上、私は仲間が死ぬところを見たくないから……」

「ごめんなぁ、二人とも。けど、ウチには人を見殺しにする事なんて出来へんわ」

「だから、勝手に行かずに私達にも声をかけろって言ってるんですよ! ヴィヴィオがいればディエチの砲撃はなんとかなるんですから!」

「ハイディ、お説教は後にしてそこに人を何とかしないと」

 

 違和感の元は、二人の格好にもあったが、二人の、互いの呼び方にもあった。

 まず、格好だが、アインハルトは、今までのバリアジャケットの上から籠手や脛当て等、よりバリアジャケットを強化したような形になり、古代ベルカの騎士のように感じた。対してヴィヴィオだが、彼女の格好が一番違った。彼女の格好は、あの黒いスーツの上から白いジャケット、という物ではなく、バトルドレスのような服の上からあの白ジャケットの防御面をより強化したような物を着ていた。

 それに、二人の呼び方だが、確かアインハルトはヴィヴィオの事をヴィヴィオさんと。ヴィヴィオはアインハルトさん、と呼んでいた。

 だが、今の二人は互いを呼び捨てにしている。しかも、あろうことかヴィヴィオはアインハルトの事をハイディと呼んでいる。その様子には困惑するしかなかった。そんな困惑を知らず、ヴィヴィオはライアンに手を差し伸べ、ライアンを立ち上がらせた。

 

「ヴィ、ヴィヴィオだよな……? ヴィヴィオで合ってるんだよな?」

「は、はい、合ってますけど……」

「なんや、ヴィヴィちゃん、知り合いなん?」

「いや、そんな事ないんだけど……」

「……え?」

 

 ジークの知り合いか否かの声をヴィヴィオが否定した。その瞬間、今見ている景色が一瞬で色を失ったような錯覚に陥った。

 そんな馬鹿な。そんな事あるもんか。ヴィヴィオはさっきまで一緒の場所にいたじゃないか。なのはと喧嘩していたじゃないか。なのに、なんでそんな事を。赤の他人を見るような目で見てくるんだ。

 

「単純に私達の保護区で暮らしていた人じゃないんですか? 私達だって、保護した人の顔を全部覚えている訳じゃありませんし」

「それか、ヴィクターん所にいたのかも知れへんな。ウチ等、ちょくちょくお邪魔しとるし」

 

 保護区? それは一体何だ。何で三人とも、知り合いである自分のことを全く知らない人として扱ってくるんだ。

 怖い。折角知り合いと出会えたと思ったのに、再び孤独感が胸の内を支配してくる。冗談だと、冗談だと言ってくれ。手の込んだ冗談だと、笑いながら言ってくれ。

 そんな願いは届かぬまま、ヴィヴィオが近寄ってきた。

 

「あの、貴方は一体何者なんですか?」

「お、俺は……」

 

 止めてくれ。そんな目で見ないでくれ。そんな気持ちは届かない。そして、そんなライアンの代わりにアインハルトが口を開いた。

 

「まさか、貴方。スカリエッティの手の者……じゃ、ありませんよね?」

「スカリエッティ……?」

 

 懐かしい名前を聞いた。スカリエッティと言えば、当てはまるのは、あのJS事件の首謀者であるジェイル・スカリエッティただ一人。

 そのスカリエッティの手の者? そんな訳がない。あの男は、今も檻の中なのだから。

 

「おいおい……スカリエッティは十年前に逮捕されただろ? 何言ってんだよ、アインハルト……」

「は? 何言うとるんや。スカリエッティが逮捕されたなんて、んな訳ないやろ。逮捕する立場の管理局なんてとうの昔に崩壊しとる。スカリエッティは今もな活動中や」

 

 スカリエッティが逮捕されてない? そんな馬鹿な話があってたまるか。

 スカリエッティは十年前に逮捕された。八神はやてが率いる機動六課によって。高町なのはによって聖王のゆりかごは止められ、フェイト・T・ハラオウンによってスカリエッティは逮捕された。

 

「……い、いやいや、冗談は止めてくれよ、ジーク。スカリエッティは逮捕されただろ!? 機動六課の活躍で、スカリエッティは逮捕されて、ゆりかごは破壊された!! もう十年前の話だぞ!?」

 

 その言葉を発した瞬間、三人の視線が、ライアンを憐れむ物に変わった。

 

「……確かに、ゆりかごはウチとハルにゃん、それとヴィクターで破壊した。で、ヴィヴィちゃんを救出した。けど、スカリエッティはその前に管理局をぶっ潰した。それに、機動六課なんて隊はなかったで」

 

 ジークの言葉に頭の中が真っ白になる。そんな馬鹿な話があってたまるか。あの人達が、あの規格外達が、そんな勝手を許すものか。

 

「……じ、じゃあ、高町なのはは!? フェイト・T・ハラオウンは……八神はやてと夜天の騎士達はどうしたんだよ!? あの人達が動かない訳ないだろ!?」

「……聞いたことないですね。誰ですか?」

「エ、エース・オブ・エースの事だよ!! 管理局の白い悪魔、金色の死神、歩くロストロギア!! 管理局のエース達だよ!!」

「すみませんけど……本当に聞き覚えはないです」

 

 ヴィヴィオの、あの三人を否定する言葉に膝が折れそうになる。

 そんな事、そんな事があってたまるか。あの三人が存在しないなんて、あってたまるものか。

 

「ヴィヴィオ……お前は分かる筈だろ!? お前は高町ヴィヴィオなんだろ!?」

 

 そうだ。ヴィヴィオがいるんなら、なのはがいる筈だ。いなきゃ可笑しいんだ。あの人がいなければ。あの人がヴィヴィオを助けている筈――

 

「タカマチ……? 私の名前は『ヴィヴィオ・ゼーケブレヒト』。タカマチ・ヴィヴィオという名前ではありません」

 

 そして、とうとうライアンの膝が折れた。それを見て、慌てて肩を貸そうとしたヴィヴィオだったが、それをアインハルトが止めた。

 

「ヴィヴィオ、彼は危険です。何か薬を使ってる可能性もあります」

「まぁ、このご時世や……スカリエッティに頭の中をかき回された可能性もあるで」

 

 二人はライアンの事を気にかけない。もう、手遅れな人間だと思っているのだろう。二人のライアンを見る目は、憐れむ視線のその先を、助からない物を見る目になっていた。

 が、ヴィヴィオだけは違った。

 

「だったら、尚更だよ。彼を保護しないと」

「何を……」

「こんな救いのない世界で、私達が救いの手を差し伸べなきゃ、誰が彼を助けるの!?」

「……けどな、ヴィヴィちゃん。彼はもう正気とは思えへん。それに、もしウチ達が彼を連れて行ったとして、保護区の中で暴れられたらどうするん? この人以上の被害者が出るで」

「だとしても。それに、私はこの人が、何でか信用できる。この人がよく分からない事を言ってるのは確かだけど……この人は悪人じゃないって。そう、断言できる。何でかは分からないけどね」

「ヴィヴィオ……」

 

 ヴィヴィオの言葉に、ライアンの心が、折れた心が何とか補強される。

 それを聞いた二人は、ヴィヴィオに反論することなく、どうしたものか、という顔をして互いの顔を見合っていた。

 その間に、ヴィヴィオはライアンの手を取って、無理矢理立たせた。

 

「改めて。私はヴィヴィオ・ゼーケブレヒト。今代の聖王です」

「聖、王……」

 

 ヴィヴィオは聖王のクローンではあるが、聖王ではない。なのに、その姓を名乗り、その肩書を使っている。それが、ライアンにとってはショックだった。

 が、それを知らず、アインハルトとジークがヴィヴィオに続いて自己紹介をする。

 

「……まぁ、ヴィヴィオの目は確かですから、信用しましょう。私はハイディ・E・S・イングヴァルト。今代の覇王です」

「ウチはジークリンデ・エレミアや。ウチの名前は知っとるっぽいけど、一応名乗るなら、今代のエレミアや」

 

 知っている。知っているとも。だって、友人なのだから。時々、拳を交え、高めあうために戦った友人なのだから。

 その三人が、自己紹介を求める視線をライアンに向ける。こんな視線は受けたくない。受けたくなかった。が、言わなければ、この状況は好転しないのだろう。だから、改めて口にする。二回目の、自己紹介を。

 

「俺は……ライアン・レギルス。親しい人からは、ライアンって呼ばれていた」

 

 この自己紹介は合格だったのか、三人は顔を合わせて頷いた。

 

「じゃあ、行きましょう。私達が管轄する保護区、シュトゥラへ」

 

 きっと、そこでもライアンへの救い手のは、無いのだろう。




簡単にこの世界の現状を説明しますと、白い悪魔達が居ないからスカさん色々好き勝手やって大勝利。管理局潰れちゃってミッド滅茶苦茶。
けど、そこにゆりかごを腕力のみで潰したゴリラハルトさんとジークゴリラさん、二人に助けられたヴィヴィオちゃんが立ち上がって何かしてるよって感じです。
つまり世紀末。
あと、ヴィヴィオさんの格好はオリヴィエの戦闘服の上から何時もの白ジャケットを着た感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。