魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE   作:黄金馬鹿

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ヴィヴィオ達との遡行前夜


N-STORY
第四話


 結論から言えば、ライアンはヴィヴィオの手を取らなかった。ライアンは、なのはを選んだ。

 その結果、何でヴィヴィオの手を取らなかった、とアインハルトが断空拳を仕掛けてきて、ジークがそれを止め、ヴィヴィオはフラれたのだが、それが理由で自分でも訳が分からないまま泣くという物凄くカオスな空間が出来上がった。ヴィヴィオはかつてのヴィヴィオじゃないんだし、泣かずにアインハルトを止めて欲しかったが、きっと彼女の中にいる改変前のヴィヴィオが泣いた結果、その煽りを受けてヴィヴィオが泣いたのだろう、とライアンは考えていた。そしたらジークの逸らした断空拳を顔面にくらって気絶した。だが、甘んじて受け止めた。女の子を泣かせた罪は重い。後、気絶する寸前、流石にマズいと思ったアインハルトが必死な形相で謝ってるのは新鮮だった。多分、気にするな、とかそんな事を言っていた気がする。

 そして、目が覚めると空は暗く、ライアンはあの会議室で、椅子を何個か並べて作った簡易ベッドの上で寝かされていた。

 あの三人は、会議室の一角で何かを喋りながら、書類のような物を書いていた。その書類が一体何なのかは分からないが、この保護区を切り盛りしているという話を聞いたのを思い出し、それに関する書類なのだろうとすぐに察しはついた。

 そんなライアンの視線に気が付いたのか、ヴィヴィオが振り向き、ライアンが起きたことに気が付いた。

 

「あ、ライアンさん。目が覚めたんですね」

「あぁ……一応は」

 

 ヴィヴィオは改変前の世界でよく見た、可愛らしい笑顔を浮かべていた。が、明日にはヴィヴィオとはもう会えなくなる。十六歳のヴィヴィオとは、二十年の時がすぎない限り、もう会えない。

 一分の思考の中で考え決めた事だが、そう思ってしまうと今、笑顔を浮かべるヴィヴィオが愛おしく思えてしまう。

 流れそうになる涙を何とか抑えながら、簡易ベッドから立ち上がって座って書類仕事をしている三人の近くに寄る。

 

「何してるんだ?」

「見ての通りや。住んでる人の苦情の処理やら食料や水の備蓄の確認やら……」

「そういうのって、王様じゃなくてそういう役職の人がやるもんじゃないのか?」

「そうは言っても、私達は自称王なだけで、立場的にはこの保護区の代表者だからね。働いてもらった所で払える物も無いし、書類仕事は私達でやってるの」

「けど、どうしてもって人は門と櫓で見張りや。後は、食料と水の配給係」

 

 どうやら、この若い三人も色々と考えた結果、今の状態に落ち着いたらしい。それに、報酬が無くても三人のために働きたいという人がいるという事は、それほど三人の人徳が高いという事なのだろう。

 根が優しい三人だからこそ、この体制は作れていると思ってもいい。きっと、ライアンが同じ事をした所で、こうも上手く体制を整えてやっていける自信はない。

 せっせせっせと書類を片付ける三人を見ながらふと時計を見ると、時刻は既に十二時を回っており、日付は更新されていた。だと言うのに、三人はまだ書類仕事をしている。

 

「いっつもこんな遅くまで仕事をしているのか?」

「そうですね。ヴィヴィオが書類仕事が出来る年齢になるまでは私とジークでやってましたけど」

「その時は睡眠時間は一日二時間とかやったね。もう隙を見つけて立ったまま寝る日々やったわ」

 

 下手をしたら、というよりも確実に管理局の数倍もブラックだ。確かに、三人で徹夜をしてやっと終わるレベルの書類仕事を二人で回すというのはかなり無茶があるだろう。

 眼の下に隈を作りながら書類仕事を毎日毎日行うと思うと寒気がする。

 

「その節はお世話をかけました……」

 

 どうやら、ヴィヴィオには書類仕事を出来ない時期はお世話になっていた、という意識があるらしい。昔から出来た子だったからなぁ、と昔のヴィヴィオを思い出して一人で和む。

 ヴィヴィオと知り合ったのはヴィヴィオが中学生に上がってからだったが、昔からよく出来た子だったと聞く。そんな子が、仲間二人に辛い仕事を任せ続けるというのは良心が傷んだ事だろう。

 

「本当は、今のヴィヴィオにも書類仕事は任せたくないんですけどね。若いんですし」

「ハイディもまだ二十歳前じゃん」

「俺と同い年だし、今十九か」

「ウチから見たらどっちも子供や。ってか、このメンバーで二十超えてるんウチだけか……寂しいわ……」

「私とは六歳差だしねぇ……」

「そう思うとすっごく歳取った気分や……」

 

 十年近く戦って入れば、そういう気分にもなろう。

 が、よく考えると、十年前はアインハルトとジークは九歳と十二歳。そんな若い時に聖王のゆりかごを拳で破壊したという事になる。なのはやフェイトのようなチートに隠れているが、アインハルトもジークも十分に頭が可笑しい。

 

「ってか、この保護区作ったのっていつなんだ?」

「九年前ですね」

「九年……」

「人の前に出るときは魔法で大人になっとったから、何とも言われへんかったよ」

「最近になって大人モードは止めたの。必要も無かったし……っと。お仕事おーわり!」

 

 ペンを置き、ヴィヴィオが立ち上がった。だが、アインハルトとジークのペンを持つ手が動くのを止めないのを見るに、まだ二人の仕事は終わっていないのだろう。

 だが、今書いている書類の横に積んである束はまだ書いていない物の方の束が少なくなっていたので、もう少しで二人の書類仕事も終わりになるだろう。だが、ヴィヴィオはつかれたー、と言いながら体を伸ばしているため、手伝う気はないらしい。

 

「じゃあ、二人とも。私は先に寝てるね」

「ええなぁ。ヴィヴィちゃん、今日は九時まで寝てもええ日やろ?」

「だから必死でお仕事終わらせたの。じゃ、おやすみー」

「おやすみなさい、ヴィヴィオ。また明日」

 

 ヴィヴィオが二人に手を振りながらいい笑顔で会議室から出ていく。ライアンを担いで。それに困惑の声を漏らすライアンだったが、アインハルトもジークもライアンの事はアウトオブ眼中だった。

 ヴィヴィオの細腕からは考えられない力でガッチリとホールドされて抵抗も出来ずに運ばれた先は、元々は仮眠室として使われていた部屋だった。そこの仮眠室というプレートがヴィヴィオの部屋に変わっている事から、ここがヴィヴィオの私室ということになる。

 まさか部屋の中まで連れていかれるのでは、と思ったが、ヴィヴィオは部屋の前でライアンを下した。

 

「よいしょっと……ライアンさん、見た目の割には重いね」

「ある程度鍛えてたしな……で、何で俺をここに連れてきたんだ?」

 

 話だけなら、あの会議室ですれば良かったのに、態々ここに連れてきた理由がわからなかった。

 いや、何か話をしたいのだとは分かったが、ライアンにはその心当たりが存在しなかった。

 

「えっとね……ライアンさん、本当に過去に戻るつもり?」

「あぁ……なのはさんは、俺の恩師でもあるし、こんな荒廃した今を、認めたくないんだ……」

「スカリエッティに会うのは危険だよ。騙されてるのかも」

「だとしても、俺は行くよ」

 

 なのは達がその命を賭けてまで守り続けたミッドチルダという街。それが、未来から過去に渡った卑怯者に一瞬にして潰されたという事実。それが、ライアンは気に食わなかったし、嫌だった。

 この改変された今を真正面から否定する気はない。ヴィヴィオ達が何とか作り上げたこの今を否定する訳ではない。

 だが、足りないのだ。なのはという存在が、あの白く強い、管理局のエース・オブ・エースが。彼女が足りない時間は、とても寂しい。そう感じてしまう。

 勿論、ヴィヴィオと会えなくなるのも寂しいことだ。だが、ヴィヴィオを切り捨ててでも、またなのはに会いたかった。それ程までに、ライアンの中の高町なのはという存在は大きく、重かった。

 ライアンの返答は予想出来ていたのか、ヴィヴィオはそっか。とだけ返した。

 

「じゃあ、約束して。過去に戻って、こんな未来を迎えさせないって。絶対に、平和なミッドチルダを守って」

「あぁ」

「あと……平和な世界の私とちゃんと出会って。改変される前の私も、きっとそれを望んでいるから」

「約束するよ。聖王になったヴィヴィオにも、改変される前のヴィヴィオにも」

「うん。それなら満足かな」

 

 ただ、とヴィヴィオは言葉を付け加えた。そして、その直後、ライアンの腹に物凄い衝撃が走った。それと同時に、体がくの字に折れ曲がった。

 腹を殴られた、と気が付いたのは腹から酷い鈍痛がしてきた時から。

 

「これはフラれた腹いせ。精々過去でなのはさんとやらにフラれて私を切り捨てた事を後悔する事だね!」

「り、理不尽……」

「モテる男の宿命!」

 

 そう言うと、ヴィヴィオは部屋の中に入っていった。その時、一瞬振り向いたヴィヴィオの表情は、悪戯っ子のような笑顔を浮かべながら泣いていた。それを見た瞬間、自分が結構な罪づくりだと自覚した。

 そりゃあ、あんな美少女を振ったんだ。それ相応の罰は受けないといけないだろう。それが本人から振るわれたのだから、文句も言えないし理不尽とも言えないだろう。ヴィヴィオを捨ててなのはを選んだのだから。

 痛む腹を抑えながらもライアンは立ち上がり、ヨロヨロとライアンは会議室へと戻っていく。

 

「いたた……ヴィヴィオってあんなにパンチ力強かったのか……?」

 

 少なくとも、過去改変の前のアクセルスマッシュ並には重かった気がする。いや、アクセルスマッシュはもっと鋭く重かった。魔力を乗せた打撃と同じくらいだった。

 それを考えながら歩いていると、前からアインハルトが歩いてきた。

 

「あ、アインハルト。仕事、終わったのか?」

「……えぇ。なんとか」

 

 声をかけたものの、アインハルトから帰ってきた声は、少し刺々しい。それもそうだろう。タダでさえ信用できない男なのに、こうやって自分達の本拠地をズカズカと歩き、更に仲間の告白をフッているのだから。

 ただ、だからと言ってこの場でもう一発殴られるのだけは遠慮したい。アインハルトから感じる刺々しさに若干気圧されていると、アインハルトはライアンの横で止まり、声をかけてきた。

 

「……必ず、過去を変えて平和を作ってください。私は、あの子が戦う所を見たくないんです」

「アインハルト……」

 

 その声色は、不安で満ちているようにも聞こえた。

 それもそうだろう。彼女達は、思春期の少女らしい事も、目一杯遊ぶことも出来なかったのだろう。ヴィヴィオはアインハルトとジークよりも重く苦しい幼少期を過ごしたのだろう。だが、そこまでしなければ、子供だったヴィヴィオと共に戦うという選択肢を取らなければならない程まで、彼女達は追い詰められているのだろう。

 

「あの子は……ヴィヴィオは、良くも悪くも、王には向いていません。あの子は、同い年の子達と笑顔で遊んでいるのが、一番なんです……だから、もうこんな時間は作らないでください」

 

 変わっていない。ヴィヴィオも、アインハルトも、こんな世界になってもその性根は変わっていない。

 優しいままだ。他人を思いやり、他人のために動く。アインハルトはそこら辺を本人には言わずに行動する気が昔からあったが、こんな時でもそれは変わっていないらしい。

 アインハルトとはそこまで親交が深い訳でもなく、ヴィヴィオと一緒にいる時に会話に混ざったり、技の実験台にされたりしていただけだが、それでもアインハルトという人間の本質をライアンは理解していた。

 

「……分かってる。俺も、しかめっ面のヴィヴィオよりも、笑顔のヴィヴィオを見る方がいいからな」

「……実は私、貴方がヴィヴィオの手を取らなかった事に安心もしていたんです。過去が変わるのなら、ヴィヴィオは戦わずに済む……聖王にならずに済むから」

 

 そして、どこまでもヴィヴィオ思いで、彼女のために様々な手を尽くすところも、変わっていなかった。そのせいで何も知らないファンの人からはヴィヴィオに惚れているとか何とか言われていたが。どこぞのなのフェイを思い出す。

 それが何だか嬉しくなり、未来は己の手に懸かっているというのを忘れ、ライアンは笑ってしまった。

 

「スカリエッティが騙してなきゃ、な」

 

 こんな冗談を言うくらいには、アインハルトとの会話はライアンの心をヴィヴィオとは別方向から温めてくれた。

 

「そうですね。ですが、私は賭けます。貴方と、スカリエッティに」

「敵であっても、か」

「あの子を笑顔にするためなら、悪魔にでも魂を売りますよ」

 

 アインハルトは冗談っぽく言うと、笑いながらライアンの肩を軽く叩き、そのまま奥へと歩いて行った。しかし、アインハルトの冗談は本気で冗談とは思えなかった。やりそうだから。

 いつの間にかヴィヴィオの腹パンのダメージも抜けてライアンは先ほどよりも軽い足取りで会議室へと向かう。が、やはりその途中で三人娘の黒い方とバッタリ会った。

 

「おっ、罪づくりな色男さんや」

「そういう君は、ゴキブ……」

「殺すぞ」

「すみません」

 

 気に食わない呼び方をされたため、ジークの髪型と髪色から無理矢理連想すれば出てこないでもないあんちくしょうの名前で呼んだら本気の殺気をぶつけられた。

 でも、アインハルトの断空拳やヴィヴィオのアクセルスマッシュを素で耐えきる時点であんちくしょう並の耐久力はあると思う。

 

「まぁ、冗談は置いておいて、や。ホントに行くん?」

「こんな未来、気に入らないからな」

 

 ヴィヴィオ達が命を懸けて戦わなければならない時間。そんなのは望んでいないし必要がない。

 

「そか。気ぃつけてな」

「なんだ、かなりアッサリしているな」

 

 何かながったるい説教でもされると思っていたが、ジークの言葉は結構あっさりとしていた。が、ジークの結構サバサバした性格を考えてみると、それも当然なのかもしれない。

 ジークからしたら、ライアンは今日初めて知り合った怪しい男に過ぎない。そんな男が命を懸けて過去を変えてくると言っても、もう一生会えない悲しみも沸いてこないのだろう。

 

「そりゃな。まぁ、でも成功は祈ってるで。ウチも、エレミアの力を使わなきゃならへん時代は嫌や」

「俺の世界のお前は競技でバンバン使って十代最強になってたけどな」

「使えるモンは使うんがウチや。でも、平和な世界のウチってのは想像出来へんな……どんな感じやったん?」

「俺と知り合う前はテント暮らしのホームレス。一張羅の黒ジャージを自らと共に洗って食事をヴィヴィオやアインハルトとその友達、あと格闘技仲間に奢ってもらう。で、ヴィクトリアさんに保護されてから暫くはメイド長になるけど駄メイドとして遺憾ない程の駄目っぷりを披露して、最終的にはヴィクトリアさんの所の居候な十代最強のチャンピオン」

「ひっど!!?」

 

 勿論、ヴィヴィオとアインハルト伝いで聞いた本当の話だ。しかも、一部の噂によれば、コインランドリーに自分ごと入って回っていたとか。

 で、ここからはライアンと知り合ってからの事だ。

 

「俺と知り合った時はヴィクトリアさんの家からは出てたけど、勿論テント暮らし。しかも二十歳過ぎてからは格闘技大会に出て賞金稼ぎして、その賞金でジャンクフードばっかり食ってて、洗濯物は勿論自分ごと入水。流石にそれじゃ人としてマズいからってヴィクトリアさんが各方面に矯正を依頼したり、餌付けするように頭下げてたり……」

「何やそれ! 平和ボケどころか頭沸いてるんちゃうか!?」

「事実だし……後、年上なのに俺が唯一呼び捨てにする人」

「ウチのカースト低ない!?」

「せめて就職してたらなぁ……」

「管理局は合わないと思ってたし、バイトもなんか嫌やしなぁ……」

「で、ダメ人間になる」

「否定できへんの怖いわ……」

 

 ヴィクターは言いました。ジークは戦いになれば常人を遥かに超えるけど、その他全てはお子様以下だと。メイド仕事はある程度仕込んだため、出来たらしいが。

 

「……ライアン。君には一つ重大な任務を頼みたい」

「すっげー断りてぇ……」

「お願いや! 過去に戻ってウチを真人間に矯正して! 流石にそこまで堕ちとうない!!」

「既に堕ちてたんだけどなぁ……でも、根は良い奴でノリもいいし頼み事は基本的に断ってなかったから、慕われてはいたぞ?」

「だとしてもや! 洗濯が面倒だからって入水する女になんてなりとうないんや!! 絶対にウチの貰い手なんておらへんやろ!!」

「俺の夢見てた同僚にノンフィクションを叩き付けたら一瞬でドリームブレイクしてたなぁ……けど、見てくれはマシだからそれでもって言ってたけど」

「……それならウチ、ヒモ目指す!」

「黙れよ駄ゴキブリ」

「辛辣ゥ!!」

 

 最初はそこまでふざけ合うような仲ではなかったが、ここ数分で二人は既に冗談を言える位には打ち解けていた。

 笑いあい、自然と二人は笑顔になっていた。

 

「ほな、過去のウチを頼むで。保護して立派なヒモにするんやで」

「ははは、寝言は寝てほざけよゴキブリ並の生命力を持ったゴリラ」

「うーん、可笑しいなぁ。さっきよりも辛辣になっとるわ」

「まぁ、色々落ち着いたら真人間には矯正してやるよ」

 

 二人でハイタッチをし、お互い背を向け歩いていく。

 

「あ、適当な部屋を使って寝るんやで」

「あいよー」

 

 ライアンの足はフカフカのソファーがある客人を迎える応接室に方向を変えていた。




ヴィヴィオは応援し、アインハルトは友のために背中を押し、ジークはその気はないけど持ち前の明るさで元気づけました。

次回からスカリエッティと会合。果たして本当に過去へ行けるのか……
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