魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE 作:黄金馬鹿
スカリエッティがノーヴェに案内させた場所は、意外と保護区から近い場所にあった。あの、過去改変をその身に受けた訓練場跡地。あそこから徒歩で数分もしない場所が、スカリエッティの指定した場所だった。
この日はディエチの狙撃も中断させてあるらしく、エアライナーで空を走るノーヴェと共に空を飛ぶライアンにまた砲撃が迫ってくることはなかった。
空を飛び、目的地に着いた所でノーヴェはすぐにライアンに背中を見せた。
「あたしの仕事はここまでだ。後は、下りればドクターの方から接触してくるってよ」
「はい。ありがとうございます、ノーヴェさん」
恐らく、これでノーヴェともお別れ。次に会うときは、なのは達の敵として会うことになるだろう。
ノーヴェは背中を見せ、すぐに去ろうとしたが、一歩足を踏み出した所で二歩目を前へ出さず、後ろに下がり、ライアンの方へ振り向いた。
「……あたしも、こんな世界は間違っていると思っている。だから、過去のあたし達を止めてくれ」
「……わかってます。貴女は、ヴィヴィオのコーチなんですから」
「あの聖王のコーチねぇ……そりゃ光栄な事だな。育て甲斐があるし伸ばし甲斐もある」
「それに、ノーヴェさんはコーチに向いていると俺が保証しますよ。もう一つの歴史を見てきた俺が」
「なら、少しはこのあたしも自信が持てる。ありがとな」
ノーヴェはそう言うと、再び背中を向け、そのまま去っていった。
やはり、ノーヴェは根っからいい人だ。あの人がスカリエッティの起こした反乱に与していたとは到底思えないが、スカリエッティは、言うならノーヴェの親だ。それに賛同して力を貸すのも仕方ないのだろう。
ライアンはN2Uを取り出し、展開するとそれを握って地上に降りた。
スカリエッティの事は完全に信用している訳ではない。もしも、何かがあった時のために構えておくのは当然のことだろう。
地面に降り立ち、暫く周りの様子を伺っていると、崩れた大きな建物の瓦礫から誰かが出てきた。
出てきた人物は灰色のコートを着ていた。そして、小さかった。眼帯もしていた。その時点で既にスカリエッティではなかった。
「貴様がライアン・レギルスか」
「……チンクさん?」
「そうだ。すまないが、ドクターは忙しいらしいのでな。私が代わりに出てきた」
チンクもナカジマ家の一員で、ナンバーズの中では交友は深い方だった。が、今はチンクはスカリエッティの一味。素手だったノーヴェとは違い、チンクのISはランブルデトネイター。金属を爆発させる能力だ。
ノーヴェの格闘技なら、まだ魔法で距離を取らせず逃げる事は可能だが、チンク相手では最悪の場合は詰む。一撃で相手を瀕死に出来るほどの戦闘力を、チンクはその小さい体に秘めている。
N2Uを握る手に自然と力が入る。が、チンクはそれを見て、逆に笑った。
「大丈夫だ。私は貴様の後ろを歩かない。それに、このコートもシェルコートではなく、普通のコートだ。この通り、ナイフで簡単に切れる」
そう言うと、チンクはコートの裾にナイフを刺して、これがただのコートだと言うことを証明した。
それなら、確かにナイフをどうにかしたら、対処は可能かもしれない。だが、それでもチンクの戦闘能力は高い。それ故に、警戒を解かない。
それを見てチンクは着ていたコートを一旦脱いで逆さにして振って見せた。
「ご覧の通り、ナイフは入っていない。このナイフも捨てよう」
チンクはその手に持っていたナイフを、横に投げ捨てた。そこでなら、爆発したとしても、特に痛手にはならないだろう。それを見てようやく警戒を解いたライアンを見て、チンクは背中を向けてからコートを羽織った。
「これで私は丸腰だ。さぁ、ついてこい。ドクターが待っている」
チンクはそう言うと、そのままライアンを置いて歩き始めた。
それに若干の警戒はしたものの、チンクは卑怯な真似をしてまでも相手を確殺するような人ではないと理解はしていたため、チンクの後を追う。
歩いたのは数分程度だった。チンクは崩れた建物の自動ドアの前に立ち、ドアに手を当てると、自動ドアは独りでに開いた。まさか、電気が通っていたのか、とビックリしながらも、崩れた建物の中に入っていくチンクの後ろ姿を追う。
N2Uを握りながら、崩れた場合はチンクも守るため、何時でもプロテクションが張れるように準備をしていると、チンクはエレベーターの下へ向かうためのボタンを押した。
流石にエレベーターは動かないだろうと思っていると、エレベーターのドアが開いた。しかも、エレベーターはかなり真新しかった。それに乗るチンクを見てからライアンも乗った所で、ドアが閉じた。
「……さ、て。これは少しコツがいるからな……」
ボソっとチンクが呟き、一階に行くためのボタンに人差し指を置いた。
そして、深呼吸すると、意を決して指を動かした。
「秘儀、十六連射!!」
僅か一秒の間でチンクは一階のボタンを十六回も押した。無駄にすげぇ、と思い感心していると、エレベーターが動き出した。ここが一階で地下はエレベーターのボタンから見てない筈なのに、地下へと動き始めた。
「ここはドクターのラボの一つでな。私達ナンバーズのみが入れるようになっている」
「へぇ……」
「で、ラボのある地下へ行くためには一階のボタンを一秒間に十六回押さなければならないのだが……やはり難しい」
「そりゃ、出来る人の方が少ないですし……」
十六連射なんてなのはの出身地である地球で有名だったゲームの名人の代名詞だった、としか聞いていない。確か、フェイトは三十連射出来ていた。
「なるほど……つまり、その出来る人間は皆スイカを割れるのだな!」
「何でスイカ!?」
「ドクターが言っていた。十六連射はスイカを割れるとな!」
そういえば、そんな事をフェイトが隠し芸か何かでやっていた気がする。だが、その時はなのはが魔力弾をスイカの中に埋め込み、フェイトの連射の後にそれを爆破していた気がする。
その後、フェイトに本当に出来るのか聞いたら、全力でやったら指がスイカの中に埋もれるから加減が大変だと言っていた。どうやら、小学生時代に身に付けた隠し芸らしい。
「多分、それ仕込みありの場合。力が強いと指がスイカの中に入っていくらしい」
「何だと!?」
十六連射でスイカが割れる事を信じていたのか、チンクは割と本気でショックを受けていた。そういえば、チンクは結構クールな性格をしているが、一部子供っぽかった気がする。たまに眼帯が華をモチーフにした物になっていたし。
「そうなのか……十六連射ではスイカは割れないのか……」
「そりゃ、指だけでスイカは割れませんよ……あ、エレベーター止まった」
落ち込むチンクの肩を叩いてチンクを励ます。そんな事をしている間に、今まで動き続けていたエレベーターが止まり、ドアが開いた。
ドアが開いた先は、ゲーム等で出てきそうな怪しい研究所そのもののような感じになっており、壁一面には謎のポッドが大量に並べられていた。それを見て何かヤバいかもしれない、と感じたのは束の間。チンクはライアンの後ろに回ると、背中を押してエレベーターからライアンを押し出した。
「後は真っ直ぐ進んでくれ。そこでドクターは待っている」
「はい……チンクさんはついて来てくれないんですか?」
「今日はナンバーズ全員に待機命令が出ているのでな。私のようなドクターからの指名を受けた者以外は持ち場で待機している。私も、お前をここまで送り届けたら持ち場に戻れと言われている」
「そうですか……では、お元気で」
「人類の敵である私に達者で、とは。やはり、変わった男だ」
チンクは笑いながらそう呟くと、エレベーターのドアを閉じた。
そして、エレベーターが上がっていく音を聞き、それが完全に聞こえなくなった頃には、このうす気味悪い研究所の中に無音で閉じ込められていた。
正直、進みたくはないのだが、進まなくては何も始まらないだろう。N2Uを握り、慎重に警戒しながら一歩一歩進む。まるで、RPGの主人公になったかのような気分だが、ここはマッドサイエンティストの研究所。そんな気分で浮かれていては即死させられるかもしれない。
精一杯の警戒と、魔法の発動の準備を続け歩くこと数分。幾つかの分かれ道をスルーし、歩いていくと、正面にドアが現れた。きっと、ここがチンクの言っていたスカリエッティのいる場所なのだろう。気乗りこそしないが、杖を構えながらドアを慎重に手で押し開けた。ドアは思いのほか軽く、そっと小突く程度で完全に開いた。
その先にいたのは、大きなポッドを弄り回しているスカリエッティだった。
「……スカリエッティ!」
そのポッドを弄るのに夢中だったスカリエッティの名前を呼び、自分の存在について気付かせる。
スカリエッティはその声でようやく気が付いたのか、ライアンの方へ視線を向けた。
「やぁ、ライアン君。こうして会うのは初めてだね」
「そうなるな」
スカリエッティは笑顔で迎えるが、それでも信用はできない。N2Uを離さずに警戒していると、スカリエッティは手厳しい青年だ、と呟いた。
スカリエッティのやってきた事から考えれば、警戒するのは当たり前だ。それはスカリエッティも分かっているのか、スカリエッティは警戒を解いてくれとは言わずに、適当に置いてあった椅子に座ると口を開いた。
「さて、ライアン君。これが俗に言うタイムマシン……遡行機だ」
そう言い、スカリエッティはポケットからブレスレット型の装置を取り出すと、ライアンに投げ渡した。使い方はわからないが、少なくとも見てくれはただのブレスレットに見える。
着けるのにはまだ早いため、それをポケットに仕舞うと、スカリエッティは再び口を開いた。
「だが、ライアン君……君は、君自身の力で過去の改変を止めれると思うかい?」
「……どういう事だ」
「もしも、だ。君が相手にしなければならない、過去改変を行った人物が、かの高町なのはよりも高威力の砲撃を放って来たら? フェイト・T・ハラオウンよりも速かったら? 八神はやてよりも滅茶苦茶な魔法を使って来たら?」
「何が言いたい」
まさか、ここまで来させておいて、無駄だから実験材料にでもなれ、と言うつもりなのか。自然とN2Uを握る手に力が入っていく。
「短気は損気だ……だが、それも仕方ない。これは一つの提案だ。蹴っても、受け入れても構わない」
スカリエッティの顔は、笑ったままであった。
何かろくでもない事を考えている。それが直感的に分かる程、スカリエッティの笑顔という物は生理的に受け付けなかったが、ライアンは続けろ、とだけ言葉を返した。それを聞き、スカリエッティは提案を口にした。
「君の敵は未知数だ。だからこそ、私は君を強化してもいいと思っている」
「強化……?」
まさか、魔力量でも増やしてくれるのか? 低燃費で高威力な魔法を教えてくれるのか?
そんな余りにも甘い思考が頭の中を巡る。が、スカリエッティが口にした言葉は、予想を覆す言葉だった。
「君を戦闘機人に改造したいと思っているのさ、私は」
「戦闘機人……!?」
その瞬間、N2Uの矛先がスカリエッティへと向いた。
知っている。スカリエッティに作られたナンバーズがどういう事になっていたかは。スカリエッティの因子を埋め込まれ、スカリエッティの死後、第二のスカリエッティとなるように仕込んでいた事を。
それ故に、その提案は受け入れがたい物だった。
が、スカリエッティは矛先を向けられて尚、笑みを崩さなかった。
「勘違いしても可笑しくはない……だが、これは君を思っての事だ」
「俺を……?」
スカリエッティの意図が分からない。フェイトからもスカリエッティは何を考えているのか分からない、悪く言うとただのキチガイであったと聞いていたが、こうして対面し話していると、フェイトの言葉がよくわかった。
「フェイト・T・ハラオウンの死因は虚数空間に落ちた事だ。もし、それが防げなかった場合、君の過去改変を防ぐ戦いはそこで終わる」
「それは……」
「それに、高町なのはの死因でもある闇の書との決戦……当時の高町なのはよりも、ユーノ・スクライアよりも、クロノ・ハラオウンよりも弱い君は闇の書に一瞬にして消されるかもしれない」
「……」
それは、事実だった。ライアンは、弱い。魔力量的にも、魔法適正的にも。
中途半端と言うのが正しいのだろうか。なのはのような破壊力が無く、フェイトのような速さもなく、ユーノのような補助魔法もなく、クロノのような人間を止めたかのような頭の回転の早さも。
そして、誰かの死。それは過去改変の改変の失敗を意味する。
もし、その後に再び過去に戻ったとしても、そこには過去改変を失敗する己がいる。特異点故に、過去の改変の影響はない。が、過去の自分と接触、そしてその自分を排除した場合はどんなデメリットが起こるかわからない。
「特異点という物は時間に関してはかなり敏感になってしまう。本能故に。君も、やり直しは出来ないと本能的に察しているのだろう?」
「……あぁ」
だからこそ、怖いし、スカリエッティの提案は魅力的だ。
己の強化。そして、スカリエッティは戦闘機人と化した己にISを組み込むつもりなのだろう。闇の書とも対抗できるようにするために。
完全な親切心からの提案。それを受け入れられないのは、スカリエッティはマッドサイエンティストであり、次元世界一の犯罪者であるから。
だが、もしそれを受けなければ、過去改変以前に己が死ぬかもしれない。
そうしたら、意味がない。過去へ飛んだ意味が……ヴィヴィオの願いを無碍にしてしまう。
「……約束しろ。弄るのは俺の体だけだ」
「分かっているとも。ミッド最新鋭の診断を受けても戦闘機人とバレない程、人間と差異のない戦闘機人に仕上げて見せるとも」
「……頼む。俺に力を……ISをくれ」
「あぁ。お安い御用だ」
なら悪魔にだって魂を売ってやろう。その価値が、この改変にはあるから。
主人公さん、戦闘機人化のお知らせ。しかしなのはさん達と並ぶ強さになれるとは言っていない。
次回こそは過去へ飛びます。そしてようやく本編スタート。