魔法少女リリカルなのはEXTRA SEQUENCE 作:黄金馬鹿
さて、P.T事件の発端とも言える、ユーノの乗ったジュエルシード輸送船が事故により墜落しジュエルシードをばら撒いた件だが、これは海鳴の、日本の時間でいう所の日付変更後に起こった事だ。ユーノは魔導士なら一発でわかるほどの転移を行い、ライアンがここへ飛んだ際に寝ていたあの公園で戦闘を繰り広げている。しかも、魔導士として魔法を扱う人間なら、何の調査も無しにすぐに分かるほどの大胆さで。これは、ユーノが現地に魔法使いがいるのなら助けてほしいから、という意味も込めた物なのだろう。だからこそ、なのはも夢の中でユーノの事を見ることができ、ライアンも戦闘が始まる前、ユーノが地球に降り立った瞬間に分かった。
ユーノには色々と世話になった事もある。無限書庫でも、ユーノが偶々参加出来た合同訓練でも。補助系魔法を極めたユーノは様々な妨害に加え補助で犯罪者がやるであろう補助と妨害を何パターンも再現しぶつけてくれた。そのお陰でライアンは空戦ランクは低いにも関わらず、空戦である程度は戦って行けた。それに、キャロになら竜魂召喚を含めた召喚魔法縛りをしてもらえばタイマンで勝てるようにもなった。竜魂召喚有りだと完膚なきまでにボコボコにされるが。ルーテシアには手も足もでない。むしろブースト魔法だけのキャロに苦戦するライアンのクソ雑魚っぷりの方が酷いとも言えてしまうだろう。もしくは、ブースト魔法を全開にして肉弾戦を仕掛けてくるキャロが異常だろうか。あの合法ロリ、ヴィヴィオとスパー出来る位には肉弾戦出来るし。
そんな懐かしい記憶は頭の奥底にしまい、未来を取り戻したら末永く幸せになってろリア充共と呪詛を吐いてからライアンは動物病院の屋上でフェレット形態のままジーッと結界の張られた公園を眺めていた。夜風に吹かれて一人呆然と結界を眺めているが、やはり一人だと段々と寂しくなってしまう。こういう時にデバイスがインテリジェントデバイスなら、話し相手にもなってくれたし理解相手にもなってくれただろう。だが、今の理解相手は名前にスカが付くあんちくしょうのみ。
そのスカ何とかも今は眠くなったのか飽きたのか分からないが、勝手に通信を切ってくれた。ご丁寧にこちらから通信をかけても出てはくれない。今度会ったらぶん殴ってやりたいレベルだ。
結局、夜の間はやる事がなく、結界がなくなり、ジュエルシードの怪物が街へ解き放たれたのを確認してから眠りについた。ユーノは助けたかったが、助けた場合はなのはが魔導士にならずに地球で生きていく事になるため、ライアンは悔しそうに顔を歪めながら助けには行かなかった。決して、ユーノが数か月先の温泉旅行でなのはと一緒に女湯に入ったのを恨んでいたからではない。ないったらない。死ね淫獣。
そして寝付けば朝である。爽やかな朝日が真っ黒な体毛を焼き、暑い。
「……取り敢えず、小学三年生のなのはさんでも観察しに行こう」
ボーっとする頭でN2Uの時計機能で時間を確認してから、幻術魔法を使い己の姿を見えないようにしてから人の姿になり、動物病院から少し離れた所で幻術魔法を解除。なのはの登校時間に合わせて行動を開始した。これじゃあストーカーじゃないか、と己の行動にツッコミを入れたくなったが、これも未来を守るため。なのはの安全をまずは確認するため。なのはが海鳴で笑いながら話してくれた通学路を逆に歩く。
通学路を歩いていると、ちょくちょくなのはの通っている聖祥大附属小学校の制服に身を包んだ子供を見る。一応、N2Uをポケットの中に待機状態で仕込んでおき、不審者に見えないように歩く。バリアジャケットもちゃんと私服にしている。どこからどう見ても朝の散歩を楽しむ大学生だ。
マルチタスクでこれからの予定を暫定的に考えながら、風呂とかどうしようかと考えながら歩き、角を曲がると丁度角を走って曲がってきた子供の体と手が当たってしまった。
「きゃっ!?」
その拍子にN2Uが落ち、子供が転びかけた。が、N2Uは気にせず、ライアンは即座にデバイス無しで魔法を構築。手を動かした。
「ブリッツアクション」
魔法陣の出ない魔法の一つ、フェイト直伝のソニックムーヴを体の動きだけに絞って発動する高速行動の魔法、ブリッツアクションを発動し、文字通り音速の如き速さでその子供の手を引き背中に手を当てて転倒を防いだ。
その子供、女の子だったが、その子は何が起こったのか分からないようで目を白黒とさせていたが、転ばずに済んだのをようやく確認すると、何とかバランスを取り戻して自らの足で立った。
「あ、あの……」
少女は何が起こったのかは理解できていないが、自分がぶつかってしまったのは分かっているらしく、申し訳なさそうな顔でライアンに声をかけてきた。
が、これはライアンがボーっとしていたのも原因の一つだ。魔法で多少は無理の出来るライアンなら、あの程度は避けれたし、当たったとしても自分が衝撃を受け流す事で少女を受け止める事も出来た。
「ごめんな。お兄さん、ちょっとボーっとしてたみたいだ」
しゃがんで少女と視線の高さを合わせ、己の伸長から生まれる圧迫感のような物を消しながら、謝る。しかし、少女の方も悪いと思っているのかすぐに謝ろうとしてきた。
「え、あ……いえ。その、わたしこそ……」
「気にしなくていいよ。君が怪我しなかっただけでも十分だ」
白い制服が、もしかしたら汚れているかもしれない、と考え、肩と腕を軽く埃等を落とすように叩いてから、よし、と呟き、ライアンは立ち上がった。
「急いでいたんじゃないのか? どこか痛むんなら、おぶってあげるよ?」
「あ、大丈夫です。あと……」
どうやら、どこも痛めてはいないらしい。それにホッとしながらも、言葉を途中で切り動き出した少女を目で追うと、少女はライアンがポケットから落としたN2Uを拾い、ライアンに手渡した。
「落としてましたよ?」
「……あぁ、ありがとな。それは大切なものなんだ」
本当は気付いていたが、笑顔で渡してくる少女の言葉は裏切れないと、わざと気付いていないフリをしてN2Uを受け取った。
多少汚れたが、それを何回か手で払って落とし、ポケットにしまった。
少女はN2Uが何なのか気になったのか、疑問を孕んだ目でライアンを見てくる。どうしたんだい? と優しく聞けば、少女は少し期待した目でライアンに質問をしてきた。
「お兄さん、手品師なの? さっきも気が付いたらわたしの背中に手を回してたし、変なカード持ってるし……」
どうやら、N2Uは手品用具か何かだと思ったのだろう。少女は疑問を孕み、しかし期待も同時に孕んだ目で見てくる。
急いでいたんじゃないのか、と若干呆れながらも、その期待には裏切れない、と簡単にこの世界では絶対に種も仕掛けも分からない、今日限りの少女の夢を守る手品を行う事にした。
「そうだよ。じゃあ、見せてあげようか」
「ホント!?」
「けど、一つだけだ。君も急いでるみたいだからね」
N2Uを取り出し、人差し指と中指で挟む。それを見て少女はキラキラと目を輝かせている。
これは責任重大だ、と呟きながらN2Uを空へ向けて投げる。
「N2U、セットアップ」
空へ投げたN2Uは一瞬で杖に変化すると、ライアンの手に収まった。そして、ライアンが何も言わずに幻術魔法を発動し、ライアンの姿が今の姿で固定されるように見せてからバリアジャケットのデザインを変え、その場でターン。その最中で幻術魔法を切る。そして杖を持った状態で構えればあら不思議。
カードは一瞬で杖になり、ライアン本人もターンしている間に早着替えを完了させた手品師の完成だ。如何な物かと少女を見てみれば、少女は呆けていた。
一瞬、滑ったかな? と冷や汗をかいてしまったが、すぐに少女は興奮した様子で声を上げた。
「す、凄い! どうやったんですか!?」
どうやら、少女の心を掴むには十分な手品だったらしい。目をキラキラさせながらもライアンの後ろを見るように回り込んでみたりN2Uを触ってみたりしている。
この少女は今日中にはこの真実にも辿り着くだろう。だが、それでも今日、学校で話題にする程度にはなれるだろう。少し照れくさくなりながらもライアンは再びN2Uを待機状態に戻し、もう一回ターンしてバリアジャケットのデザインを元通りにしてから企業秘密、とだけ返した。
「そういえば君。学校には行かなくてもいいのかい?」
「……あっ!」
「じゃあ、俺も行くから。遅刻しないようにね」
「はい! またね、手品師のお兄さん!」
「気を付けるんだよ」
手を振り走り去っていく少女を見届けてからライアンはノリと勢いだけで色々とやってしまった、と後悔した。
何故なら、あの少女はライアンの知っている人物だったから。しかも、目的とも言える人物だったから。
「……今の、子供時代のなのはさん、だよなぁ」
声は子供らしく高かった。が、間違いない。かつて写真で見せてもらった小学生時代の、髪の毛をサイドではなく、両サイドで小さく纏めていた子供時代のなのはだ。
なのはが生きている。ああして地球で小学生の服を着て走っている。それだけで嬉しくて。同時に彼女の笑顔を見てみたくって、ついつい魔法を見せてしまった。とは言っても、魔法に関してはバリアジャケットによる早着替えだけ。後はN2Uを展開してみせただけだ。なのはも、今日の夜からは同じことが出来るようになってしまう。
故に、今日限りの夢を守るための手品。もしこれが管理局にバレたら反省文物だ。
だが、ついついそうしてしまう位には嬉しかった。またなのはと話せた事が。そして、なのはを笑顔に出来たことも。
少し余計な事をしてしまったが、これで暫くは動物病院の屋上で待機することになる。が、それは余りにも暇なので取り敢えずは海鳴を観光しよう。そして、せめて川にでも入って体くらいは洗おう。そう思い、ライアンは先程までと同じように歩き始めた。
****
高町なのはは極々平凡な小学三年生だ。産まれた家は結構特殊と言えるかもしれないが、それ以外は本当に平凡な女の子だ。
得意な教科は理系教科。苦手なのは文系教科と体育。そんなどこにでもいるような平凡な少女。
そんな女の子が、今朝は変わった人と出会った。それは、手品師の、兄と同じくらいの歳の青年だった。彼はなのはがぶつかり、倒れそうになった時、目にも止まらぬ速さで腕を軽く引いてから背中に手を回してなのはが転ばないようにしてくれた。そして、手品を見せてくれた。
金属製のカードが杖になり、そして服が一瞬にして変わった。しかも、その逆も見せてくれた。青年も何かを急いでいたのか、なのはの遅刻を案じてくれたのか、手品はその一回だけだったが、子供であるなのはの心を躍らせるにはその一回の手品で十分に事足りていた。少し速めにバス停で待とうと思っていたのが功を奏し、なのははその後、バスが到着する数十秒前にはバス停でバスを待つことが出来た。
興奮冷めやらぬままバスに乗ると、なのはの親友であるアリサ・バニングスと月村すずかが一番後ろの席でなのはを待っていた。
「おはよー、アリサちゃん、すずかちゃん」
「おはよ、なのは」
「おはよう、なのはちゃん」
朝の挨拶を交わし、二人が開けてくれた間になのはが座る。それを見計らっていたかのようにバスは扉を閉じて動き始めた。
暫しバスの揺れに体を預けていると、アリサがなのはを見て声をかけてきた。
「なのは、今日は何処か嬉しそうね。何かあったの?」
勘のいいアリサはなのはに何か嬉しいことがあったのだと見抜き、それを聞いてきた。
なのはとしては、今朝の手品師の青年との出会いは隠したいことでも何でもないため、そのまま隠すことなく口を開いた。
「うん。実はね?」
そして話したのは青年の見せてくれた手品の事だった。
凄い速さで動いたこと。カードは一瞬で杖に変わったこと。服が一瞬にして変わったこと。
それらを聞き、すずかは純粋に凄いね、と感想を述べた。が、アリサはそういう感想を持たなかったのかそう? とだけ口にした。
「手品師なんて種も仕掛けもあるのよ。なのはが見抜けなかっただけじゃないの?」
「うーん……でも、カードをこう……上にポイって投げたら杖に変わったんだよ? 帽子から杖とかなら、まだ分かるけど……」
「そうだよね……それに、服もその場でターンしたら変わったんでしょ?」
「ぬぐっ……で、でも絶対に種も仕掛けもあるわよ! なのは、今度見かけたら連れてきて! 私が種と仕掛けを暴くから!」
どうやら、実際に見て種と仕掛けをバラさなければアリサの気は収まらないらしい。ぷんすこしながらそう言うアリサになのはは若干の苦笑いをしながらも言葉を返した。
「あはは……今度お兄さんと会ったら話してみるね?」
「いい? 絶対よ!」
きっと、近いうちに連れてこないと不機嫌になっちゃうんだろうなぁ、とすずかと顔を合わせ、なのはは苦笑いをした。
今日の夜に再び会うことになるとも知らずに。
なのはさん(9)に会えたのが嬉しくてついつい魔法を見せてしまう未来人(傍から見ればロリコン)がいるそうな。
次回でやっと魔法戦闘。ライアンはフェレット形態で第二の淫獣となる事が出来るのか。その結果が戦闘民族高町家の父と兄に喧嘩を売る事と同義だと分かっているのか。
次回に続く。