不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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第十六話 募る疑念

「便利な風だ」

 

「くっ……ッ!?」

 

魔力の風を纏ったアイズと赤髪の女が、《デスぺレート》と長剣とをぶつけ合う。その度に鋭い金属音とともに火花が飛び散り、それらを置き去りにして両者は地を蹴り戦場を駆け巡る。

 

驚くべき事にこの赤髪の女は、アイズのスピードに付いてきていた。それどころかアイズの凄まじい剣技を難なく防ぎ、逆に攻めてさえいる。

 

やがて女は素手でアイズの風の鎧を殴り飛ばし、強制的に隙を作り出す。振り上げた長剣が風を纏ったアイズの《デスぺレート》とぶつかり合い、凄まじい衝撃がアイズの身体を駆け抜けた。

 

その衝撃はアイズを遥か後方まで吹き飛ばす。愛剣が手から離れるほどの威力の前に、彼女はなす(すべ)がなかった。

 

すでに半壊した宿屋の残骸にぶち当たり、ようやく勢いが止んだアイズの身体。震える肩に力を入れてどうにか上体を起こした彼女は、その視界の端に血のように赤い髪を見る。

 

「終わりだな」

 

いつの間に接近していたのか。何の感慨もなさそうに、女はそう言った。

 

武器であるモンスターのドロップアイテムと思しき歪な形の長剣は砕けており、それを放り投げる。至近距離で見下ろす女の目は冷え切っており、アイズは得も言われぬ焦燥に駆られる。

 

「……ッ!」

 

「一緒に来てもらうぞ、『アリア』」

 

その緑色を細め、動けないアイズへと手を伸ばす。愛剣は弾かれ、逃げることも叶わないアイズはせめてもの抵抗に、自身へと向けられた手のひらを睨みつける。

 

伸ばされた手がアイズに触れる―――かに思われた、その瞬間。

 

ガッ!!と、女の立っていた地面に巨大な矢が突き刺さった。

 

「!?」

 

「ちっ!!」

 

盛大に舌打ちし、赤髪の女はその場からの離脱を余儀なくされる。驚きに目を見開くアイズを残して後方へと跳び距離を稼いだ女は、矢が飛んできた方向へと視線を飛ばす。

 

しかしその姿を確認することはできなかった。それよりも早く、続く第二撃が女を襲ったからだ。

 

「!?」

 

ダダダッ!と響く三発の連射音。放射状の軌跡を描いて飛んできたそれを、女は紙一重で躱すも、その内の一発が肩を掠めた。その箇所から小さな紫電が迸り、女の顔が驚愕に歪む。

 

さらに後方へと逃れた女。それと入れ替わりになるようにしてフィンとリヴェリアがやってきた。リヴェリアはアイズに近寄ると、すぐさま彼女の傷を癒しにかかる。

 

「フィン、リヴェリア……」

 

「すまないアイズ、少し遅れてしまった」

 

「礼なら彼に言ってくれ。僕らよりも先に動いてくれたからね」

 

リヴェリアの治癒魔法の光をその身に受けながら、アイズはフィンの言葉にその顔を動かす。

 

そこには崩れ、廃墟となった宿屋の瓦礫が散乱する地面に立つファーナムの姿があった。手にはアイズが彼と初めて会った時の物とは別の、変わった形のクロスボウが握られていた。

 

ファーナムはアイズを見ていない。その視線の先は、先ほど彼が退けた赤髪の女へと向けられていた。油断なく相手を見据える姿に、アイズはファーナムの名前を呼ぶことも出来ない。

 

やがてレフィーヤもやって来て、治療を受けているアイズの元へと膝をついた。援軍の登場によって一気に形勢を逆転されてしまう赤髪の女。しかし、女に諦める様子はない。

 

その意志を感じ取ったのか、フィンは女へと語りかける。

 

「さて、君が今回の襲撃事件、及びハシャーナ殺害の犯人だね?」

 

「だったらどうした」

 

「武器を捨てて投降しろ。一応警告しておくけれど、大人しくした方が身のためだ」

 

「素直に従うとでも?」

 

「いいや、思ってはいないさ。だから……無理矢理にでも連れて行く」

 

言うや否や。ダンッ!と地を蹴るフィン。

 

地面すれすれを滑空するかのようにして近付いたフィンは、手にしていた槍を突き出す。女は拳を振るって応戦し、それを更にフィンが躱して反撃(カウンター)を見舞う。

 

Lv.6の小人(パルゥム)の雄姿を横目に、ファーナムもまた戦闘態勢に移る。手にしていた武器『アヴェリン』を仕舞い取り出したのは、またしても奇妙なものだった。

 

人のものではない。しかし人に似た獣の骨をそのまま武器に転用したかのようなその武器の名称は『骨の拳』。装備した者に異形の力をもたらすという、いわく付きの代物だ。

 

それをファーナムは己の両拳に纏う。途端に身体の奥底から、獣じみた闘争心が沸き上がってくる。

 

「フゥゥ……!」

 

熱気を帯びた吐息を吐き出し、兜の奥から女へと照準を合わせる。

 

そして……ファーナムの立っていた地面が、爆ぜた(・・・)

 

踏み込んだ地面が爆散するほどの脚力に、赤髪の女の注意がそれる。その隙を見逃すハズも無く、フィンは槍を勢いよく振るう。自身の眼前にまで槍の柄が迫るも、女は咄嗟の判断でそれを掴んだ。

 

「調子にッ……!?」

 

忌々しそうにフィンを睨んだ女であったが、またしてもその目を驚愕に染めた。なんとフィンは手にしていた槍を手放し、あっさりとその身を引いたのだ。

 

(デコイ)!)

 

気が付いた時にはもう遅かった。

 

ファーナムは槍で片手が塞がった女の懐に潜り込み、渾身の右拳を繰り出す。

 

「ぐッ!?」

 

間一髪で空いた腕を滑り込ませるも、振るわれた拳は女の籠手を粉砕した。装甲を壊された女は僅かに呻き声を漏らすも、反撃とばかりにフィンから奪った槍を構え、穂先をファーナムへと突き出す。

 

「舐め―――るなぁ!!」

 

苛立ちと共に振るわれた槍はまっすぐにファーナムの顔面へと向かう。

 

並みの上級冒険者であっても躱せるか怪しいその一撃を、ファーナムは左手だけで弾いた。

 

「ッ!!」

 

手の甲で払うかのようにして弾き、軌道を強引に曲げる。盾で行われる“パリング”という動作を拳のみでやってのけたファーナムに、女の目が大きく見開かれた。

 

槍を弾かれた女は両手を投げ出した格好で体勢を崩す。無防備となったその胴体を見据えながらファーナムは地面を踏みしめ、同時に腕を引いて拳を固める。

 

そして、

 

「ふんッッ!!」

 

放たれた拳。衝撃波すら感じるほどの力がこもった拳は、女の無防備な腹部を深く抉った。

 

「がっ―――――ッ!?」

 

くの字に折れる女の身体。勢いはそれだけに留まらず、数十M後方まで吹き飛ばされる。焼け落ちた宿屋の瓦礫を破壊しながら視界から消えゆく女の姿に、近くで見ていたアイズとレフィーヤは息を呑む。

 

拳を放った姿勢を解いたファーナムの元にフィンが近付いてゆく。彼は苦笑いにも似た表情を浮かべ、腰に手を当てつつ口を開いた。

 

「すごいな。まるで猛獣のような迫力だ」

 

「あながち間違ってはいない」

 

「?」

 

ファーナムはこきりと首を鳴らしてフィンに言葉を返し、そして女が吹き飛んでいった方向へと目を向ける。

 

視線の先の女は吐血しながらも、すでに立ち上がっていた。仕留めるとまではいかないまでも、すぐに立ち上がれるほど手加減した覚えはない。ファーナムは目の前にいる敵への認識を改める。

 

一方の女は腹部を押さえて立ち上がり、ファーナムとフィンを睨む。垂れた前髪の隙間から窺える女の表情は怒りの様相を呈していた。

 

「この威力……Lv5、いや、Lv6はあるか」

 

ペッ、と血の塊を吐き出した女はポツリとそう零し、そして。

 

「……分が悪いか」

 

そのままあっさりと、踵を返して逃走を開始した。

 

敵の思わぬ後退に、フィンとファーナムは即座に地を蹴った。半ば回復したアイズとリヴェリアも飛び出し、女の追跡に繰り出す。

 

が、しかし。

 

食人花(ヴィオラス)!!」

 

女の口から、何者かへの命令が飛んだ。

 

その直後。どこに隠れていたのか、十体もの食人花が這い出てきた。瓦礫と化した宿の残骸をなぎ倒し、ファーナムたちへと大口を開けて襲い掛かる。

 

『アアアアアアアアアアアァァアアアッ!!』

 

先頭を切っていたフィンとファーナムに真っ先に飛びつく食人花たち。数匹の食人花は小柄なフィンに狙いを付け、丸呑みにしてやろうと殺到する。

 

が、それが運の尽きであった。

 

武器が無いとはいえ、フィンはオラリオを代表するLv6の冒険者。歴戦の勇者はその小柄な体躯を活かして食人花たちの隙間をすり抜け、すれ違いざまに回し蹴りを振るう。

 

「ふっ!」

 

『ギィアッッ!?』

 

硬い体皮をものともしない強烈な蹴りが突き刺さり、食人花たちはひとまとめになって吹き飛ばされてゆく。

 

飛んできた食人花たちをアイズの剣が細切れにし、周囲に輪切りとなった亡骸をばら撒いてゆく。アイズはそんなものには目もくれずに、逃走した赤髪の女を追いかける。

 

「アイズさん!?」

 

「惚けるな、レフィーヤ!」

 

悲痛な叫びを上げるレフィーヤに、リヴェリアの鋭い声が突き刺さる。素早く彼女の前へと移動したリヴェリアは防御魔法を展開した。

 

次の瞬間、レフィーヤに牙を剥いていた食人花がリヴェリアの防壁にぶち当たる。しかし彼女を守るために発動させた魔法を察知し、その場にいた食人花たちが一斉に二人に反応してしまう。

 

「くっ……!」

 

一匹ならば問題なく防げる防壁も、残りの食人花がまとめて突進してくれば耐えきれるかどうか。形の良い眉を歪ませるリヴェリアのもとに、フィンは即座に駆け出した。

 

「ファーナムッ!」

 

「ああ、使え!」

 

最低限のやり取りだけでフィンの要求を受け取ったファーナムは、自身も走りながらソウルから新たな武器を取り出す。羽のような「かえし」が特徴的な槍『ウィングドスピア』を、並走するフィンへと投げ渡す。

 

Lv6の冒険者の力に耐えられるかどうかは分からないが、それでも楔石で最低限強化されている。多少荒っぽく使っても、すぐに壊れたりはしないだろう。

 

フィンは受け取った武器を手に、群れる食人花たちの前に躍り出た。魔力に気を取られていた一匹をウィングドスピアが抉り、そのまま口腔内の魔石を穿つ。

 

同胞の異変を感じた食人花たちは後ろを振り返るも、今度は別の襲撃者の存在を察知した。その姿を正確に捉える前に、強烈な跳び蹴りが食人花の胴へと叩き込まれる。

 

『ゲェッッ!?』

 

轢き潰されたカエルを彷彿とさせる叫びを上げる食人花。その頭部に着地したファーナムは開かれた上顎を両腕で抱えるようにして引っ掴み、そのまま力任せに()()()()()

 

『ガッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?』

 

傷口から気色の悪い液体を噴出させた食人花は口腔内の魔石ごと上顎を失った。その長駆が灰になるよりも早くファーナムはそこから飛び降り、目についた片端から拳を見舞う。

 

瞬く間に駆逐されてゆく食人花たちは為す術がない。カマイタチのように槍を操るフィンに近付けば一瞬で斬り刻まれ、それに浮足立てばファーナムの剛拳が後方から襲い掛かってくる。明らかに詰みだった。

 

しかし何が起きるか分からないのがダンジョンだ。追い詰められた最後の食人花は、捨て身の体当たりをフィンへとぶつける。灰へと還る千切れた同胞の亡骸を盾に、決死行に出たのだ。

 

その長躯に浅くはない傷を負うも、奇跡的に食人花はフィンの隣をすり抜けた。出血と絶叫をふり撒きながら向かう先には、拳を振りぬいた格好のファーナムがいる。他の個体を倒した直後だったのだろう。彼は自分に接近してくる食人花の存在に、首だけを回して反応していた。

 

「ファーナムさんッ!」

 

切迫した声がレフィーヤの喉から発せられた。

 

ファーナムが自分よりもずっと強い事は当然知っている。あの程度の奇襲など、まるで問題にもならないだろう。それでも叫んだのは彼女の強い仲間意識の表れに他ならない。

 

 

 

そんな彼女の確信通り、ファーナムは素早く行動に移った。しかしそれはレフィーヤの、否、フィンとリヴェリアでさえも予想していなかったものであった。

 

 

 

向かい来る食人花へと身体を向け、ダンッ!と力強く地を踏みしめる。同時に両拳に纏った武具が青く発光する。

 

中腰の姿勢で両拳を引き合わせた瞬間に光は収束し、それを思い切り前方へと突き出す。瞬間、眩い光の巨弾が発射(・・)された。

 

まさかの魔術攻撃。

 

アイズのように魔力を武器に込めるのではなく、魔導士の詠唱する『魔法』のように相手に直接ぶつける。典型的な前衛タイプと思っていたファーナムの予想外の攻撃に、誰もが目を見開いていた。

 

魔力の巨弾は食人花にぶち当たり、その長躯はバラバラに四散。悲鳴すら上げられず、魔石ごと粉々に粉砕された無残な骸が周囲に降り注がれる。

 

「―――ッ、アイズ!」

 

非常識な光景に呆然としていたリヴェリアが弾かれたように動いた。場所は言うまでもない、赤髪の女を追いかけたアイズの元だ。フィンとファーナム、そして一拍遅れて我に返ったレフィーヤも同様に動き出す。

 

地を駆ける四人の冒険者たち。先陣を切るのは並走するフィンとファーナムだ。

 

そのフィンの碧眼は、隣を走る兜で覆われた横顔を一瞥していた。

 

 

 

 

 

結果から言って、アイズたちは赤髪の女を取り逃がした。

 

アイズがあと少しの所まで迫ったものの、女は湖へと飛び込んで逃れたのだ。崖の下に広がる巨大な湖は深さも相当のもので、一度姿を見失えば見つける事は至難の業であった。

 

「なんて奴だ……」

 

「とても正気とは思えんな」

 

リヴェリアの呟きにファーナムの声が重ねられた。

 

二人の声を背に受けながら、アイズは悔しそうな表情で湖を見つめる。深い青に染まった水面は、不気味に揺らめき続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

そんな彼らを見下ろす者がいた。

 

全身を黒いローブで覆った人物は、18階層でも特に高い場所にいた。フェルズと同じような恰好をしているが、纏っている空気はまるで異なる。

 

冒険者にしては異様に過ぎ、神にしては異質に過ぎる。そんな印象を抱かざるを得ない人物は、やがて踵を返してその場から立ち去っていった。

 

「……王に報告せねば」

 

ローブの下の金属同士が擦れる音と共に、そんな呟きを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リヴィラの街』襲撃事件から二日後。

 

地上に戻りギルドで詳しい報告を終えたフィンたちは、一度本拠(ホーム)へと帰る事にした。イレギュラーに見舞われた事もあって不足した治癒薬(ポーション)などの備品の補給のためである。

 

アイズたちに一晩休養を取るように命じたフィンは、自室にリヴェリアとファーナムを呼んだ。今回の事件について整理するためだ。副団長のリヴェリアはもちろんであるが、最近入団したファーナムも呼ばれたのには訳があった。

 

「それじゃあ、その時は特に変わった素振りはなかったんだね」

 

「ああ。ハシャーナも警戒はしていない様子だった」

 

その言葉を静かに吟味するフィン。

 

ファーナムが呼ばれた理由、それはハシャーナを最後に目撃したからだ。

 

浮ついていたという宿屋の獣人の青年の証言からも何かを口走ってはいないかと思ったが、その当ては外れた。赤髪の女もその時は怪しい素振りを見せなかったとの事だった。

 

「特に新しい事は分からない、か」

 

「ンー。まぁ仕方がないさ、今回の事は完全にイレギュラーだった。極彩色の魔石を持つモンスターに、それを調教(テイム)する赤髪の女。そしてアイズとレフィーヤが見たという宝玉……」

 

「モンスターに寄生して進化を促す。51階層で見た女体型の芋虫と、今回のものもその宝玉が関わっているという事か?」

 

「恐らくはね」

 

顎に手を当てて眉を顰めるリヴェリアに、フィンは今回の出来事をざっと整理する。

 

ティオナとティオネが倒したモンスターの特徴から、過去に交戦した女体型の芋虫も同様の過程を経てあの姿になったのだろうというファーナムは推測し、フィンもそれを肯定した。

 

分かった事は色々と多いが、新たに出た疑問の方が多い。ここで考えていても埒が明かないと判断したフィンは顔を上げ、リヴェリアとファーナムを見る。

 

「今日はもう遅いし解散にしよう。明日からアイズたちはまたダンジョンに潜るし、僕もそれに同伴するつもりだけど、二人はどうする?」

 

「私も共に行こう」

 

その問いかけに対し、リヴェリアは即答した。元々一緒にダンジョンに赴いたので、当然と言えば当然であろう。

 

「ファーナム、君はどうする?」

 

「そうだな……いや、俺は遠慮しておこう」

 

少し調べたい事が出来たと言うファーナムを、フィンは止めなかった。

 

が、最後に質問だけはした。

 

「あの赤黒い人影……あれについて、聞いても良いかな?」

 

「………」

 

「リヴェリアから聞いたよ。君はあれを“奴ら”と言っていた、と。という事は、ああいった奴がまだいるという事だ」

 

「………」

 

「無理に全て話せとは言わない。けれど仮に僕たちが戦闘になった場合、情報は多い方がいい」

 

「……詳しくはまだ言えん。だが奴らは手強い相手だ。今回俺が戦ったのは、最低でもLv5相当の実力はあるだろう」

 

赤黒い人影……喪失者について現状語れる情報、脅威の度合いについてファーナムは語る。その言葉にフィンとリヴェリアは驚愕の表情を見せた。

 

Lv5相当の実力を持つ正体不明の敵。それがいかに危険な存在なのかは言うまでもない。

 

「敵の武器や戦術は」

 

「大剣か大鎌の二種類だ。基本的に接近戦だが、大鎌はリーチが長く軌道も予測しづらい。警戒するとすればこの大鎌持ちだな」

 

「なるほど……」

 

納得したように頷くフィン。

 

鎌のような武器も無いことはないが、剣や槍のように扱えるものではない。見た目で恐怖心を煽るのも特徴の一つだが、モンスター相手には効果は期待しない方がいい。

 

しかし上手く使えば、構えた盾の横から滑り込むような斬撃を見舞う事も可能だ。わざわざ扱いづらい武器を使う反面、使いこなされれば非常にやりづらい。

 

「今はこれだけしか……」

 

「いや、それだけ分かれば十分さ。少なくとも初見で後れを取ることはないだろう」

 

「……すまない」

 

気持ちの整理がついたらまた詳しく教えてくれ。そう言ってフィンはファーナムを部屋へと帰らせた。

 

後に残ったのはリヴェリアのみとなった。彼女は足音が遠のいてゆくのを確認し、部屋の主であるフィンへと視線を滑らせて単刀直入に切り出す。

 

「ファーナムを疑っているのか?」

 

「まさか。彼が(よこしま)な考えを持っていない事は、これまでの行動ですでに証明されている」

 

鋭い視線とともに問われた内容に対し、フィンは笑みを浮かべて即答した。

 

しかし、と区切り、フィンはこうも言う。

 

「僕たちは彼について多くの事を未だに知らない。どこの出身なのか、以前にいたファミリアについて、彼の持つ多彩な武器はどこで手に入れたものなのか」

 

「クァトという神はロキの友神(ゆうじん)らしいが……」

 

「本当にそうかな」

 

「なに?」

 

唐突なフィンの言葉に、リヴェリアの眉がピクリと動いた。フィンは彼女の顔を見ることもなく、床を見下ろしながら思案に耽る。

 

「クァトという神を僕たちは知らない。それはオラリオにいる数多の神々全員の名前を知っている訳ではないけど、それでもファーナムほどの実力者がいたファミリアが全くの無名だったなんて、やっぱりおかしい」

 

「ロキが我々に嘘をついていると言うのか。本当は別のファミリアの出身であるとか……」

 

「もっと言えば“クァト”という神は本当にいるのか、というのが僕の本音だ」

 

「………」

 

想像の域を出ないとはいえ、フィンの語るあまりに突飛な内容に閉口してしまう。一笑に付せないのは、その言葉を口にした人物の事をよく理解しているが故であった。

 

思いつきや決めつけでこんな事は言わない小人(パルゥム)の団長に、王族(ハイエルフ)の副団長は神妙な顔で尋ねる。

 

「それで、どうするつもりだ」

 

「そうだね、ひとまずは僕の方で色々と調べてみるよ。君はガレスにもこの事を伝えて、何か分かれば知らせてほしい」

 

「分かった。ロキには尋ねてみるか」

 

「いいや。彼女も普段はあんなだけど立派な神格者(じんかくしゃ)だ。何か考えがあるかも知れないし、直接聞くのは最後だ」

 

ひとまずは様子見。それがフィンの出した結論だ。

 

ファーナムのこれまでの態度とロキの様子からして、切迫した状況ではないとの判断を下す。入団した仲間をむやみに疑いたくないという感情も含まれていたが、それも加味しての決断だった。

 

 

 

 

 

「……」

 

その会話をファーナムは離れた廊下で耳にしていた。

 

刻まれた恩恵(ファルナ)によって鋭敏化された聴力で耳をすませていた彼は、薄暗い廊下を明かりもつけずに歩いてゆく。

 

(………俺は………)

 

窓から入る淡い月明かりに横顔を照らされながら、彼は葛藤を胸中へと仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は変わらずそこにいた。

 

果てしなく続く闇。そこに鎮座する篝火の前に。

 

胡坐をかく男の背後に、ローブ姿の人物が現れる。男はピクリとも動かず、口だけを動かした。

 

「……なんだ」

 

「王よ……不死人を見つけました」

 

「………“オラリオ”。件の迷宮都市で、か」

 

「は、恐らくは我らより後世の不死人かと」

 

「そうか……」

 

小さく頷いた男は、その身体を起こし始めた。

 

その場に立ち上がった男は篝火に手をかざす。途端にごう、と勢いを増した炎は徐々に大きくなり、男を呑み込んでゆく。

 

「準備を急ぐ。同胞たちにも備えるよう伝えろ」

 

「は」

 

やがて男の身体は完全に炎に呑まれた。一際大きくなった炎がかき消えると同時に、男の姿も忽然と消え失せる。

 

後に残ったローブの人物は(こうべ)を垂らし、その後ろ姿を恭しく見送っていた。

 

 

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