「魔石は頭部にあります、重点的に狙って!」
「前衛は盾を構えて引き付けるんだ!弓を持っている者はガンガン放て!」
「深追いするなよ!【
大空間を食人花の群れが縦横無尽に動き回り、それに囲まれる冒険者たち。一見すれば絶体絶命といった言葉が当てはまる光景であったが、しかし彼らの目はまだ死んではいない。
互いが互いの背中を守り合い、名を呼び合い、そして助け合う。ダンジョンにおける最も基本的な連携ではあるが、この状況下でここまで統率が取れているのは流石と言える。
円のような布陣で全方位からの攻撃に対応する彼らを束ねるのは、【ヘルメス・ファミリア】団長のアスフィである。彼女は持ち前の洞察力を遺憾なく発揮し、鋭く光らせた両目で食人花の動きを全て見通していた。
「四時の方向から複数来ます!ルルネ、
「
矢のように飛んでくる指示を団員たちは一言一句聞き漏らさず、求められる動きを正確にこなしていった。お陰で未だ脱落者はおらず、何とか持ちこたえられている。
アスフィの隣にいるのはレフィーヤで、杖を両手に構えて瞳を閉じている。その口から紡がれる詠唱は淀みなく、やがて
「【エルフ・リング】」
ヒュオッ、と清涼な気流が巻き起こる。漂う魔力が増加し、それに伴い食人花たちの動きも一気に活発になった。
興奮状態となった食人花の猛攻に【ヘルメス・ファミリア】の団員の一人が構えていた盾の守りが崩される。そこを目掛けて一匹の個体が躍り出て、無防備となった彼の頭を噛み砕こうと大口を開く。
両目を見開き絶句する彼であったが、その背後から救いの手が伸びた。
「【一掃せよ、破邪の
眩い閃光は矢となって彼の頭上を駆け抜ける。
それを喰らった食人花の頭部が爆ぜ、魔石ごと灰へと還る。放心状態となった男は仲間によって立たせてもらいながらも、己の命を救ってくれたフィルヴィスに感謝を述べた。
「す、すまない【
「……!」
広く知られている
そんなやり取りを目撃したレフィーヤの口元に、場違いながらも笑みが浮かんだ。誰もがフィルヴィスの事を誤解している訳ではないと分かったからだ。
彼女の本当の優しさを知っているエルフの少女は改めて気合いを入れ直す。必ずこの局面を切り抜け、無事に地上へと戻るのだと。そしてその暁には新たな友人となったフィルヴィスと共に、沢山の楽しい思い出を作るのだと。
「【―――間もなく、
紡がれる歌はエルフの王女、リヴェリア・リヨス・アールヴの魔法。そこには一切の淀みはなく、それだけの覚悟の程が窺える。
己の身の安全をフィルヴィスたちに任せ、自身は魔法の詠唱に専念する。それがこの状況を打開する最善の策であると理解しているレフィーヤは瞳まで閉じ、魔法を放つためだけの装置と化した。
「るぉおおおおおおおおッ!!」
「はぁっ!!」
少し離れた場所ではアイズとベートが、大剣を操るレヴィスとの死闘を演じていた。アイズだけでは厳しかった相手でも、そこに援軍が加われば状況は変わってくる。しかもそれはこと“速さ”においては【ロキ・ファミリア】でも一、二を争うベートである。
目が回るような速さで繰り出される足技。どれもレヴィスにとって致命打にはならないが、決して無視は出来ない威力のものばかりである。そしてやむなく防御すれば、その隙をついてアイズの剣が迫り来る。
「ちぃ……!」
苛立ちに顔を歪ませるレヴィスは一瞬だけ視線を彼らから外し、ある一点へと向けた。そこにあったのは特大の黒剣を両手持ちで構えるファーナムの姿。
こんな状況に陥っているのも、元を辿れば全てこの男に起因する。仲間共々、大人しく
黄緑の双眸を忌々しげに歪ませるレヴィスであったが、直後にアイズの剣とベートの足刀が襲い掛かる。僅かな油断も許されない二人の攻撃を前に、彼女はファーナムから意識を切り離した。
「ああ、本当に面倒な……っ!」
苛立つ怪人に対して剣と牙は容赦しない。二人は巧みな連携を取りながら、徐々に追い詰めていった。
円になって食人花たちと攻防を繰り広げるアスフィたち。
レヴィスを二人がかりで相手取るアイズとベート。
そんな彼らから離れた場所で得物を振るうファーナムの周囲に人はいない。孤立無援、危機的な状況にも思えるだろうが、それは違う。
『ギシャァァアアアアアアアアアアッ!!』
縦横無尽に襲い来る食人花たち、その内の一匹がファーナムに向かって突進してきた。他の個体よりも大きく長大な身体は、それだけで十分に脅威足りえる。
一息にファーナムを呑み込もうとした食人花。しかしその身体は彼の間合いに入った瞬間、問答無用で両断される事となった。
『ッッ!?』
断末魔を上げる時間もなかった。特大の黒剣……煙の特大剣によって斬り飛ばされた身体は、周囲にいた小さな個体をまとめて圧し潰す。突如として飛んできた同胞の亡骸を避ける事も出来ずに、何匹もの食人花がこれに巻き込まれた。
「ふんっ!!」
煙の特大剣を振り抜いた格好のファーナムは、振り向きざま更なる一斬を放つ。これによって背中に迫っていた小さな群れは一気に薙ぎ払われ、いくつもの魔石と肉片が宙を舞った。
今やファーナムの周囲には食人花の群れが形成されていた。四方八方、どこを見渡してもあるのは醜悪なモンスターの姿のみ。
しかし、そのモンスターたちはファーナムの間合いに入った途端に屠られる。特大の得物で豪快に斬り暴れる男に援軍は不要、むしろ思うままに戦う上では邪魔になってしまう。
その為ファーナムは自分からアスフィたちの元を離れたのだ。レフィーヤとフィルヴィスの制止の声を振り切っての行動であったが、結果的にこれが吉と出た。食人花の群れは上手く
煙の特大剣を肩に担いだファーナムは、周囲を威嚇するようにして見回す。
次々に切り刻まれる同胞の姿に及び腰になっているのか、食人花の群れは警戒するだけで中々向かってこない。知性の欠片もないモンスターであっても、本能で危険を察知しているのだろう。
(レフィーヤの詠唱の完成までこのまま待つのも手ではあるが……)
四方を囲まれたその中心に立つファーナムはソウルからある物を取り出した。それはかつて51階層での戦闘で、女体型のモンスターを倒す際にも使った誘い骸骨だ。
このアイテムは砕く事によってソウルを発生させ、一時的に敵を引き付ける効果を持つ。どういう理屈かは見当が付かないが、あの女体型が反応したのだから食人花も恐らく同様の反応を示す事だろう。
こんなものを取り出して一体どうするつもりなのか?その答えはすぐに明かされた。
左手に持った誘い骸骨。ファーナムはなんとそれを、勢いよく己の鎧に打ち付けて砕いたのだ。
『 !! 』
途端、食人花たちの雰囲気が豹変する。生存本能に従っていたモンスターの群れは、飢えた獣のようにギチギチと牙を鳴らし始めた。
「ああ、そうだ。
ソウルの寄せ餌を纏ったファーナムは煙の特大剣を構え直す。
知性の欠片も持たない亡者たち。それらとの戦いが常であった彼にとって、馬鹿正直に襲い掛かってきてくれた方が楽な場合もあるのだ。駆け引きや心理戦などは
周囲に漂う殺意が膨れ上がるのを肌で感じる。そこにある種の懐かしさを覚えつつ、ファーナムは大声を張り上げる。
「さあ、どうした!噛み付いてみろ!!」
柄にもない挑発じみた言葉。それが再戦の合図となった。
『……ガアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
一斉に襲い来る食人花たち。
レフィーヤの詠唱が完成するその時まで、ファーナムは特大の得物を振るい続けるのであった。
大空間に木霊する冒険者たちの雄叫び。振るう得物が敵を粉砕し、攻撃を受け止める盾が激しい衝撃に晒される。
全員が必死の形相を浮かべていた。レヴィスを相手取るアイズとベートは言うに及ばず、無数の食人花たちとの攻防を繰り広げるアスフィたち【ヘルメス・ファミリア】、魔法と剣技で戦うフィルヴィス。そして一人斬り暴れるファーナムでさえも。
「―――【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
その中でただ一つ、静かに歌い続ける妖精の声があった。
決して大きくはないその歌声は、しかし全員の耳にはっきりと届いている。その声が途切れていないからこそ、彼らはここまで戦えているのだ。
やがて歌声は、詠唱は完成された。
「【焼き尽くせ、スルトの剣―――我が名はアールヴ】!」
カッ!と閉じていた瞳を見開くレフィーヤ。
足元には巨大な
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
瞬間、その場にいた全員の視界が一瞬奪われた。
炎に巻かれたモンスターは一切の例外なく焼き尽くされる事となった。魔石を含んだ身体は一瞬で蒸発し、灰すらも残さない。その魔法名に相応しい、全てを無に帰す必殺の一撃である。
アスフィたちとファーナムの周囲を包囲していた食人花の群れも瞬く間に焼き払われた。威力も範囲も並みの魔法とは桁外れの光景に、フィルヴィスと【ヘルメス・ファミリア】の冒険者たちは唖然とした様子でその場に立ち尽くしている。
「これは……!?」
視界一面を赤く染める炎の奔流にレヴィスは瞠目する。たかが一人のエルフがこれ程の魔法を使えるなど思ってもいなかったからだ。あれだけいた食人花たちは既に全滅しており、焼け残った僅かな亡骸があちこちに散らばっている。
そしてその驚愕は、レヴィスに決定的な隙を作る事となった。
「油断しすぎだ、化物女ッ!!」
矢のように身を躍らせたベートが鋭い蹴りを繰り出す。
渾身の力を込めて放たれた一撃。しかしそれでもレヴィスにとっては十分に対処可能。彼女は手中にある紅の大剣を真横に薙ぎ、迎撃という手段を取った。
空白は一瞬。二人の攻撃は風を切り裂き、真正面から激突した―――その直後。
轟ッッ!!と、圧縮された風が解き放たれた。
「なっ!?」
再びレヴィスの顔を驚愕が彩る。
ベートのメタルブーツが大剣に触れた瞬間、身体を揺さぶる程の激しい気流が発生した。その正体はアイズの“風”である。蹴りを放つ直前にメタルブーツに込められた彼女の魔法を、この瞬間に一気に解放したのだ。
爆発と見紛う風はベート自身をも吹き飛ばした。腰を落としたレヴィスはどうにか耐えているが、その体勢は大きく崩れている。
そんな怪人の元へと迫る、一条の金の煌めき。
風で暴れる前髪から覗く黄緑の瞳を大きく見開き、それと同時に凛とした少女の声が響く。
「【
全身に風を纏ったアイズは高らかに吠え、愛剣を振るう。
レヴィスは咄嗟に大剣の腹を盾のようにして身体の前に構えた。互いの得物がぶつかり合い、発生した気流に乗って激しい火花が撒き散らされる。
「ぐぅ……っ!!」
呻吟の声を漏らすレヴィス。しかし風を付与された銀剣をもってしても、
(まだ……足りない!)
あと一歩のところで攻め切れないこの状況を前にして、アイズの眉間に深いしわが刻まれる。
これまでの戦闘によって傷ついた身体は悲鳴を上げかけている。高出力の風を生み出し続けている為に魔力もガリガリ削れている。このままでは先に倒れるのはこちらの方だ。
それを悟ったアイズは眦を裂き、感情のままに叫ぶ。
「うっ―――ぁぁあああああああああッ!!」
「!?」
アイズの咆哮に呼応するかのように、風は一際大きく吹き荒れた。
【エアリエル】の最大出力を解放した瞬間に形勢は逆転。盾にしていた大剣は粉々に砕け散り、吹き飛ばされたレヴィスは背後にそびえ立つ大主柱へと激突していった。
「はっ、はっ、はぁっ……!」
裂帛の気合いと共にせり勝ったアイズは息を切らしつつ、己の背後を振り返る。
そこには口の端を吊り上げたベート、フィルヴィスに肩を貸されながらもしっかりと立っているレフィーヤ、アスフィたち【ヘルメス・ファミリア】の冒険者たち、そして煙の特大剣を肩に担ぐファーナムの姿があった。
あの過酷な状況下から誰一人欠けずにいる。その事実にアイズは安堵し、口元に小さな微笑みを湛えた。
しかし悠長にしている暇はない。仲間の安否確認を終えると同時に気持ちを切り替え、打ち倒すべき敵がいる方向へと目をやる。
派手に大主柱に激突したにも関わらず、何とレヴィスは粉塵の舞う中で既に立ち上がっていた。何の力か、負傷した箇所からは魔力の粒子が発生しており、徐々に傷口が塞がってゆくのが見て取れた。
オリヴァスと同様の異常な回復速度を持つレヴィスではあったが、その胸中は穏やかではない。いくら回復が早くとも、いくら膂力に優れていても、あの“風”を持つアイズには今の自分では勝てないと分かっているからだ。
(認めるのも癪だが、仕方がない……)
内心で舌打ちしながら横目で大主柱を見やる。
この大空間を支える
レヴィスはこの大主柱を破壊して撤退する事を選択した。十分に力を蓄え、今度こそアイズを連れてゆく為に。
去り際に『アレ』がいる階層の事を告げようとした彼女は視線を元に戻し、口を動かそうとした―――――が。
「……何だ、貴様らは」
発せられた声は、意図せずそんな言葉を形作っていた。
「あぁ?」
最初に感じたのは疑問だった。
自分たちがくぐり抜けて入ってきた通路。その入り口付近に姿を現した謎の四人組は、いつの間にかベートたちの後ろに立っていたのだ。
「……だ、誰ですか?」
フィルヴィスに肩を貸された格好のレフィーヤも、彼らの姿を視界に収めていた。そして驚くほど自然にそんな疑問の声が出てきたのだ。
彼らは皆同じ恰好をしていた。
一見すると黒一色に見える金属鎧は、目を凝らせば精緻な紋様が施されているのが分かる。王族の住まう城に飾られていてもおかしくない、それどころか逆に納得してしまいそうな代物。
が、そんな印象を覆してしまう程に表面は真っ黒に煤けていた。そう、元から黒い金属なのではなく、火によって焼かれていたからこその色なのである。
手にしている得物も鎧と同じく煤にまみれている。それも見栄えのする直剣や煌びやかな盾などではなく、まともに扱えるかも分からない巨大な武器の数々だ。
大剣、特大剣、大斧、斧槍。それぞれ異なる得物を右手に、全く同じ形状の盾を左手に携えた四人組はその見た目も相まって、どこぞの騎士隊のような印象をレフィーヤたちに与えていた。
そう。
敢えて形容するとすれば―――それはさしずめ“亡霊の騎士隊”であろうか。
身の丈は推定でも2M以上。ベートたちが気が付いてから微動だにしていない彼らから感じられる視線は冷たく、同じ人間なのかと疑問に思ってしまう程だ。二本の鋭い角が生えているように見える兜の奥は真っ暗で、何の感情も読み取れない。
突然現れた異様な集団を前にベートは顔を険しくし、フィルヴィスとレフィーヤは不安に駆られる。アイズもレヴィスの視線を追って後ろを振り返り、【ヘルメス・ファミリア】の冒険者たちにも動揺が伝播してゆき―――。
―――その中でただ一人。ファーナムだけが兜の奥で、双眸をあらん限りに見開いていた。
その目が捉えているのは四人組ではなく、彼らが手にしている武器だ。
先頭の者は特大剣を、その後ろに立つ二人は大剣と斧槍を、最後尾の者は大斧を携えている。一つ一つが重厚感に溢れ、そんな物を苦も無く扱える膂力は並み外れている事であろう。
ファーナムはその武器全てに見覚えがある。かつての旅路の中で見つけたそれらは今も自身のソウルと共にあり、戦闘においては心強い味方となってくれた。
その武器の名は。
「黒騎士の……!」
その呟きが漏れた直後。
『――――――――――』
呻きもせず、咆哮も上げず。
鎧姿の四人組……黒騎士たちが、一斉にファーナムの元へと殺到した。
「なっ……!?」
その光景に誰もが困惑した。
突如現れた黒づくめの騎士たち、それらが一斉にファーナムを目掛けて走り出したからだ。目的も意図も全く読めない彼らの行動に、冒険者たちは出遅れてしまう。
「ちっ!何がどうなってやがる!」
そんな中でいち早く動いたのはベートだった。自慢の俊足を以て立ち尽くす冒険者たちの間をすり抜け、ファーナムの元へと向かう。
アイズもまた駆け付けようと足に力を込めたが、そこで視界の端に赤い人影が見えた。反射的に剣を振るうと、そこには腕を交差させて攻撃を防いだレヴィスの姿が。
「ふん。やはり無理か」
「っ……!」
感情の読めない黄緑の瞳を正面から見返すも、アイズの顔は焦燥に駆られている。目の前のレヴィスに加え、正体不明の四人組がファーナムに襲い掛かったのだ。Lv.6とは言えまだ16歳の少女、冷静さを欠いてしまうのも無理はない。
危機的状況。その言葉が頭を埋め尽くしそうになる中、他ならないレヴィス自身がアイズに冷静さをもたらした。
「『アリア』、59階層に行け」
「!? 何を……」
「勘違いするなよ。諦めた訳じゃない、ただ今のままではお前には勝てない。それだけだ」
レヴィスはそう言い終えると腕に力を込め、アイズの剣を弾く。
再び距離が開いた両者。赤髪の怪人はくるりと踵を返し、去り際にこう言い残した。
「そこにはお前の知りたいものがある。自分で行けば私の手間も省けるというものだ」
精々足掻け。そう付け加えたレヴィスはその場で跳躍し、先の戦闘で出来た大穴の奥へと消えていった。
思わず後を追いかけそうになるも、アイズは首を振ってその思考を追い払う。振り返った彼女は風を纏い直し、レフィーヤたちの遥か頭上を飛び越え、自身もまた新たな戦いに身を躍らせる。
眼下に見える戦場では、今まさにファーナムと黒騎士の内の一体とが、互いの得物をぶつけ合っていた。
ゴキィィィンッ!!という轟音が響き渡る。
大上段の構えから煙の特大剣を振り下ろしたファーナムと相対するのは『黒騎士の特大剣』を手にしていた黒騎士。超重量の得物を軽々と振るう事ができる膂力は凄まじく、片手であるにも関わらず真正面から
「ッ……!」
『―――――』
ファーナム以上の体格を誇る黒騎士は、ぐぐっ、と身を乗り出して力を込める。交えた刃から伝わってくるその力強さに、僅かに後退を余儀なくされてしまう。
が、このままやられる訳にはいかない。
「ぐっ、おおぉ!」
斧槍を構えた黒騎士はそのままに突進。突き出された肉厚な刃がファーナムの喉元を狙うも、身体を捻ってどうにか紙一重で回避する。
それでも攻撃の手は止まない。今度は大斧持ちと大剣持ちが同時に攻めてきたのだ。彼らは獲物を大きく振りかざし、咄嗟の回避によって体勢が崩れたファーナムを狙っている。
この状況から逃れ得る手立てはない。ただ見ている事しかできなかった【ヘルメス・ファミリア】の冒険者たちは、訪れるであろう凄惨な光景に身体を硬直させたが……。
「オラァッ!!」
「ふっ!!」
金の一閃と灰の一蹴が、それらを退けた。
振り下ろされた大剣をアイズの剣が弾き、重厚な大斧をベートが銀靴でもって蹴り飛ばす。狙いを逸らされた二つの刃はファーナムのすぐ足元の地面を抉り、深い亀裂を生じさせた。
その隙にファーナムは黒騎士たちから距離を取り、アイズとベートも同様に後方へと飛び退く。一気に三対四の構図が出来上がり、両者は互いに睨みを利かせ合う。
「おい、ファーナム。こいつらは一体何なんだ」
左隣に立つベートから質問が投げかけられる。何気にこれが初の名前呼びであり、こんな時でなければファーナムも驚きを口にしていた事だろう。
しかし状況が状況ゆえにそんな猶予などある訳がない。無駄口はひとつも叩かず、彼は聞かれた事だけを口にする。
「分からん。だが俺を狙っている事だけは確かだ」
「ンな事は見りゃあ分かる。なんで狙われてるのかって聞いてんだよ」
「……すまん、それも分からん」
なんだそりゃ、と舌打ちするベート。
分からない、とは言ったものの狙われる理由は察しが付いている。十中八九、自身の持つソウルが原因なのだろう。ファーナムにはその確信があった。
目の前の敵……四人の黒騎士はファーナムを視界に収めた途端に襲い掛かってきた。かつての旅路で幾度となく味わった“殺気”。それを隠しもせずに襲い来る姿は、まさしくソウルに飢えた獣である。
また彼らが伝承にある“黒騎士”なのだろうという事にも気が付いていた。武器を構えた佇まいとその扱い方が、彼らを何より黒騎士たらしめているのだ。
(何故大昔の騎士たちが今、しかもこの場に現れたのかはさっぱりだが……やる事に変わりはない)
ファーナムは煙の特大剣を仕舞い、代わりにクレイモアとブロードソードを装備する。
クレイモアを右肩に担ぎ、左手に握られたブロードソードは自然体のまま。二足歩行の獣を彷彿とさせる状態で腰を落とした彼は、臨戦態勢のままアイズとベートに語りかける。
「すまないが二人とも、手を貸してほしい」
「はい、分かりました」
「ハッ、いいぜ。面倒くせぇがやってやる」
素直に頷くアイズとは対照的に、ベートは憎まれ口を叩きつつも交戦の構えを取る。口の端には剣呑な笑みが滲んでおり、戦意は十分といった風である。
「あの特大剣持ちと斧槍持ちは俺が受け持つ。アイズはあの大剣持ちを、ベートは大斧持ちを頼む」
「ああ?テメェが二人を受け持つのかよ」
「大丈夫、ですか?」
「これでも対複数戦には慣れている。心配はいらん」
自ら二体の黒騎士を相手にするという宣言。これに好戦的なベートが黙っている訳もなく、アイズも若干心配そうな表情を浮かべた。
そんな二人に気を向ける余裕はない。ファーナムの深い青色の瞳は黒騎士たちを凝視し、一挙手一投足を見逃すまいとしている。いつでも踏み出せるよう重心を前方へと傾け、得物を握る手にはうっすらと汗が滲み始めていた。
そして、その瞬間は訪れ―――――。
「 !! 」
『 !! 』
三人の冒険者と、四人の黒騎士が激突した。
投稿が遅くなってしまい、申し訳ございません。
仕事が忙しい時期になりまして、もうしばらく更新頻度が落ちる状態が続くと思いますが、どうかご了承下さい。
どうにか仕事終わりに書こうと思っても、中々手につかないのです(´・ω・`)