不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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ようやくダンジョンから戻ってこれました(笑)。

これから数話は戦闘シーンはないと思いますが、その分ラストは派手にいきたいと思います。

今後も宜しくお願い致します。


第三十二話 お節介

 

24階層での事件から二日が経過した。

 

事後処理が終わった後に一日の休息を挟み、アイズ、レフィーヤ、ベート、そしてファーナムの四名はフィンから召喚命令を下され、今回の出来事を詳細に説明する事となった。

 

が、当日やって来たのはファーナムを除く三名であった。

 

「ファーナムは?」

 

「それが、どうも早朝からどこかに行ったみたいでして……」

 

当然の疑問を口にしたフィンに、レフィーヤがおずおずといった様子で答える。

 

アイズは彼女一人に答えさせてしまった事に申し訳なさそうにしており、ベートはやはり我関せずの態度で立っていた。しかしその顔には、どこか苛立ちのようなものが見え隠れしている。

 

「あの野郎の事はどうでもいい。さっさと説明を終わらせろ、俺はダンジョンに行く」

 

「……そうだね。時間も惜しいし、仕方がないけど始めようか」

 

こうして二日前の事件についての報告は始まった。

 

まず先にアイズの口から怪人(クリーチャー)、レヴィスに関する報告がなされた。

 

相変わらずアイズの事を『アリア』と認識している事。彼女の仲間と思しき仮面の人物が、24階層にあった『宝玉』を持ち帰った事。魔石を摂取して力を増す『強化種』であるという事。

 

この『強化種』というのは【白髪鬼(ヴェンデッタ)】オリヴァス・アクトの胸にあった魔石を摂取した事により判明した(彼の魔石をレヴィスが取り込むまでの過程の詳細は、アイズたちの口からは語られなかった)。

 

彼が生き延びていたという事も驚愕だが、たった一つの魔石だけで身体能力が爆発的に上昇したという事実こそをフィンは危惧した。今後会敵した場合、今まで以上の警戒が必要であると気を引き締める。

 

そして何より、彼女が去り際に残した『59階層へ行け』という不気味なメッセージ。十中八九何らかの罠があるのだろうが、それでもそこに行きたいというアイズの強い要望を受け、フィンもまたそれに頷きを返した。

 

こうして【ロキ・ファミリア】の遠征が決定した。彼らの目的地が未到達地点、59階層である事も手伝い、アイズの願いは承諾されたのだ。

 

次に報告されたのは、突如として襲い掛かってきたあの黒騎士たちについてだ。

 

「全員が同一の盾と鎧姿で、背格好も一緒。武器は違いこそあれどどれも巨大で、並みの冒険者に扱えるような代物ではなかった、か」

 

「うん。そして、強かった」

 

自らも剣を交え、その強さを身をもって知ったアイズが噛みしめるようにそう呟く。

 

黒騎士はその鎧の堅牢さもさることながら、膂力と剣技は特筆すべきものがあった。怪我をしていたとは言え、背後に回り込んだアイズの動きにも即座に対応し、反撃の隙さえも与えない。あの戦闘能力は間違いなくLv.5以上のものだったと、真剣な表情で語る。

 

「私たち全員……あの人(・・・)が現れなかったらきっと、もっと危なかった」

 

「……ちっ」

 

当時を思い出したのか、ベートが思い切り顔をしかめる。

 

あの人(・・・)とは、例の乱入者の事を指していた。ベートが完全に仕留めたかに思えた大斧持ちがなおも動き、彼をその巨大な刃で両断せんとした直前に放たれた魔法と思しきあの一撃。それを放った人物だ。

 

追加情報として、アイズはルルネの発言について語る。24階層へと向かう道中で耳にし、地上への帰路でも彼女が興奮気味に語っていた“謎の冒険者”という存在。フィンも詳しくは知らないが、そういう噂がある事くらいは耳にしていた。

 

以上を踏まえた上で、フィンは“出来過ぎている”と感じた。

 

(窮地に陥った時に偶然にも“謎の冒険者”がやって来た?他の冒険者を無償で助けるような人物が?)

 

フィンはダンジョンというものを熟知している。そこで起こりうる最悪な事態も、あり得ないような奇跡も。だからこそ今回のような奇跡的な展開を、素直に受け止める訳にはいかなかったのだ。

 

(可能性としてはない訳じゃない。でもそれは飽くまでその程度の話であって、普通はあり得ないような奇跡だ)

 

巨大派閥を率いる者としては手放しで納得するのは難しい。どうしても別の視点から物事を見たくなる―――つまり、黒騎士が現れた後に偶然“謎の冒険者”がやって来たのではなく、“謎の冒険者”は黒騎士たちを追っていて、結果的にあの場に出くわしただけ、という見方だ。

 

(“謎の冒険者”は黒騎士を相手に臆したり戸惑ったりした様子はなかったという。という事は、彼は黒騎士という存在をすでに知っていた?)

 

アイズたちでさえ苦戦する相手に傷ひとつ負わずに勝利して見せたという事実。本人の実力というのもあるのだろうが、やはり何らかの情報を知っていると見るべきだろう。

 

(でも、それよりも……)

 

どれも重要な情報だが、今フィンが一番気にかかっている事。

 

それは倒された黒騎士たちが、淡い光の粒子となって消えた(・・・)という点である。

 

武器すらも消え去り、そこにいた証拠を欠片も残さずに消えていった黒騎士たち。人間ならばそんな事はあり得る訳がなく、モンスターであったとしても灰も、更には魔石すら残さずに消滅するなど聞いた事がない。そもそも武装しているという時点でおかしい。

 

報告を聞いたフィンの脳裏に、かつて『下層』最深部で遭遇した未知のモンスター……牛頭と山羊頭の事が思い出される。

 

「………」

 

一通りの報告を聞き終えたフィンは眉間の皺を一層深くすると、ちらりと横目でレフィーヤの顔を窺う。彼女もそれに気が付くも沈黙が広がるこの空間に臆したのか、何かを語る事はなかった。

 

「……大体の事情は分かった」

 

フィンは口の前で組んでいた両手を解くと、全員の顔をぐるりと見回した。その視線は徐々に移動してゆき……そして、アイズのところでぴたりと止まる。

 

「今回アイズが勝手に冒険者依頼(クエスト)を受けたのは頂けないが、結果として怪人(クリーチャー)についても新しい発見があった。それで今回の行動には目を瞑るとするよ……しかし今回は本当に危なかったんだ。そこだけはしっかり反省してくれ」

 

「……ごめんなさい」

 

「これに懲りたら、今後は行く前にきちんと僕らに相談してくれ。それじゃあ皆、他に何か報告はあるかな?」

 

しゅん、と、アイズが怒られた子供のように小さくなる。彼女の行動をやんわりと窘めたフィンはそれ以上強く言うことはしなかった。そんな様子がどこか微笑ましく、レフィーヤは思わずクスリと笑ってしまう。

 

しかし、そんな空気はフィンが最後にした質問によって途端に霧散した。

 

「……?」

 

先程とは一変し、口を堅く閉ざすアイズたち。彼女たちの変化にすぐに気が付いたフィンは訝し気に眉をひそめ、そして再び表情を硬くしてこう切り出す。

 

「ファーナムの事かい?」

 

「!」

 

どき、と、レフィーヤの心臓が跳ねた。

 

自分の事ではないと分かっていながら、その鋭すぎるフィンの勘を前にすると、どうしても平静を装う事が出来ないのだ。

 

そして、その原因の一つでもある“ファーナムの事”……24階層での、オリヴァスに対する凄惨な行為。彼の隠された側面を見せつけられたレフィーヤは、当の本人のいないこの場で話しても良いものなのかと考え込んでしまう。

 

アイズも同じ事を考えているようで、眉を八の字にして口を噤んで動かない。直接見ていない彼女ですらがこうなのだ。レフィーヤは迂闊に口を開く事も出来ず、スカートの裾をきゅっ、と掴んで立ち尽くしていた。

 

「関係ねぇ」

 

しかし、こんな場でも歯に衣着せぬのがベートなのだ。

 

「なんであの野郎の事までいちいち俺らが話さなくちゃならねぇんだ。帰ってきたその時、あいつに聞け」

 

「……ああ、そうだね」

 

吐き捨てるように言い切ったベートに、フィンも肯定の意を示した。

 

話は以上、ゆっくりと休んでくれ。最後にそのような労いの言葉で締めくくったフィンは、集まった一同を解散させる(尤もベートは宣言通り、このままダンジョンへ潜るのであろうが)。

 

アイズとベートが扉を潜って部屋から出てゆく中、レフィーヤは心に小さな引っ掛かりを感じていた。魚の小骨が喉に刺さったままのような、どうにもすっきりしない感覚だった。

 

そんな彼女の脳裏に思い浮かぶのは、あの時(・・・)のファーナムの姿。

 

レヴィスと同じ怪人(クリーチャー)だったオリヴァスに対して見せた異様な殺意。ただ殺すのではなく拷問じみた武器の数々で彼を追い詰めた、豹変したかのようなあの姿である。

 

(確かに……あれ(・・)は本人の口から言うべき事かも知れない。でも、それは少し―――)

 

 

 

―――――酷な事なのではないか。

 

 

 

そう、彼女は思ってしまったのだ。

 

自分のした行い。相手をあれほど残虐な方法で痛めつけ、その果てに惨たらしく殺した。普段のファーナムからは考えられないような蛮行に及んだ理由など、レフィーヤには分からない。

 

しかし、それでも。普段の彼の人となりは、少しは理解出来ているつもりだ。

 

ほぼ日常的に兜をかぶっているような少しおかしなところもあるが、優しく、仲間想いで、そして頼りになる存在。事実、今回の騒動でも何度も助けられた。

 

だから、これはただのお節介かも知れないが、ここは彼に代わって自分が話すべきなのではないのだろうか。

 

帰り際に偶然耳にした、ファーナムのどこか影を落とした小さな笑い声。そこに込められた感情は、きっと深く詮索されたくないものなのだと、そう直感してしまったから。

 

(よ、よし!)

 

レフィーヤは部屋の扉の前で立ち止まる。

 

両手を胸に置き、軽く呼吸を整えて、意を決して振り返―――。

 

「ああ、レフィーヤ。君は少し待ってくれるかい」

 

「へ?」

 

―――ろうとした、その時だった。

 

フィンがレフィーヤを呼び止めたのだ。虚を突かれたような顔で振り返った彼女に、フィンは珍しく疑問の表情を浮かべる。

 

閉じてゆく扉。その隙間から一瞬だけこちらを振り返ったアイズの横顔もまた、きょとんとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「引き留めて悪かったね。けど僕の予想が正しければ、もうそろそろ来るはずなんだ。疲れが抜けきっていないところで悪いんだけど、君も一緒にいてくれると助かる」

 

「あ、はい……」

 

出鼻を盛大に挫かれたレフィーヤは曖昧に頷く事しか出来なかった。

 

しかしフィンの口から放たれた言葉は脳内ですぐさま疑問に変わり、彼女は戸惑いつつも声としてそれを投げ返す。

 

「えっと、それはどういう……」

 

意味ですか。という質問が出かけた、その時だった。

 

閉ざされた扉が再び開き、アイズとベートと入れ替わるようにして、三人の人影が入ってきた。

 

一人は背は低いががっしりとした体格をしており、残る二人は身体の線がくっきり分かる程に露出が多い。三人の先頭に立って入ってきた人物は開口一番にこう切り出し、続けざまに後方の二人も口を開く。

 

「おう、フィン。今戻ったぞ」

 

「だぁー、疲れたぁー」

 

「ほとんど丸一日、壁を掘ってたわね。私たち……」

 

ガレスにティオネ、そしてティオナ。【ロキ・ファミリア】幹部勢の中でもあまり見ない取り合わせに、レフィーヤは目を丸くして驚きに顔を染める。

 

「み、皆さん、どうしたんですか?」

 

「あっ、レフィーヤ!お帰りー、って私たちもか!あはは!」

 

「団長のご指示でね。あの階層(・・・・)の事を調べていたのよ」

 

「あの階層って……もしかして」

 

ティオネの言葉で、レフィーヤにもようやく自分が引き留められた理由が分かった。笑いながら騒ぐティオナの横を通り過ぎ、ガレスは部屋に備えられたソファにどかりと腰かけると、おもむろに口を開く。

 

「お前さんの言うとった場所を念入りに調べてみたが……どうにも『未開拓領域』らしきものは見当たらんかったわい」

 

そう。ガレスたち三人はフィンの指示で、以前に牛頭と山羊頭のモンスターたちに襲われた場所の調査に出向いていたのだ。

 

彼らが本拠(ホーム)を出たのは二日前。ガレスに今回の調査をするに至った経緯を説明したフィンは、案内役としてティオネ、ティオナを同行させた。そしてちょうどアイズたちが地上に帰還する時に、三人は入れ違いになる形でダンジョンへと赴いたのだった。

 

「何だって?」

 

「あのモンスターたちと出くわした場所に行ったら、壁の大穴が無くなってたんだよ!塞がったのかなぁ~、って思って結構掘ってみたけど、広間(ルーム)なんて全然見つかんなくってさぁ」

 

「周囲も含めて探してみたんですけど、どうやらあの辺りは本当にただの壁ばかりのようで……」

 

ガレスの言葉にフィンは再び眉間の皺を深め、ティオナとティオネからもたらされた追加の情報を吟味する。

 

あのモンスターたちと出くわしたのは紛れもない事実。その時に出てきたのは間違いなくダンジョンの横穴からだった。が、後日調べてみればそんなものは見つからなかったと言う。こんな事態は長い間冒険者として生きてきたフィンにとっても初の出来事であった。

 

ダンジョンとは複雑怪奇な構造をしているものの、基本的に地形はそこまで大きく変化しない。でなければ地図作成(マッピング)など出来る訳がなく、よってあれほど大きかった横穴が完全に消滅するなど到底考えられない。

 

「もしかして間違った場所を探してたのかなぁ?」

 

「そんな訳ないじゃない。何度も行った事のある場所を間違えるなんて、あんたじゃあるまいし」

 

「何をー!?」

 

ぎゃあぎゃあと元気に騒ぐ双子の姉妹。

 

『下層』とはいえ最深部から帰ってきたばかりだというのに元気が有り余っている二人の姿に呆れつつ、ガレスは武骨な指で顎髭を撫でる。

 

フィンも難しい顔を崩さずに何やら思案している様子だ。まるで戦場で指揮を執っている時のような張り詰めた空気を感じ取り、ティオネとティオナも騒ぐのを止める。

 

やがて彼は伏せていた顔を上げ、そして静かに口を開いた。

 

「ついさっきアイズたちから報告があった。僕らが遭遇した例のモンスターと同じような、痕跡も残さずに消滅した敵がいたそうだ」

 

「なんと、それは本当か」

 

「ああ。そうだね、レフィーヤ?」

 

「は、はい!」

 

その後、フィンの口から先ほどアイズたちが語った通りの内容が、ガレスたち三人へと伝えられる。

 

自分たちの知らないところで危機に見舞われていた事もそうだが、アイズたちが戦った敵と例のモンスターとの共通点があった事に、ティオネとティオナは驚愕を隠しきれなかった。

 

【ロキ・ファミリア】団員たちの前に立て続けに現れた正体不明の敵。片やモンスター、片や騎士然とした姿。いずれも戦闘能力は高く、出現階層も不明。今後のダンジョン攻略も考えると敵の正体を突き止めるのは急務と言える。

 

しかし現段階では魔石を持たないという情報程度しかなく、何の手がかりもない。他との繋がりを捜索しようにも手段が―――。

 

「あっ」

 

「? レフィーヤ、どうしたの?」

 

「え、えっと。その……」

 

と、ここで唐突にレフィーヤが声を漏らした。

 

不思議そうな顔でティオネが彼女にそう尋ねるも、しどろもどろな態度をするばかりで一向に返事を返さない。それとなく聞いていたフィンたちも、何時になく歯切れの悪い様子のレフィーヤに視線を集中させた。

 

「何かあるのかい?」

 

「はい。もしかしたら思い違いかもしれないですけど……」

 

「それでも構わない。今は何であっても情報が欲しい」

 

どんな些細な事でも構わない。そう言われてしまっては、答えない訳にはいかない。

 

レフィーヤはこくりと頷くと、胸の内に仕舞いかけていた意見を述べる。

 

「私たちが遭遇したあの敵なんですが、その最初の一体がやられた時の魔法……以前に牛頭のモンスターにとどめを刺した魔法と、多分同じでした」

 

その発言に、静かに聞いていた四人は(にわ)かにざわついた。

 

彼女の言う事が事実であれば、その魔法を放ったとされている“謎の冒険者”は『下層』最深部(あの場所)にも居たという事になる。

 

あの時、例の雷槍は山羊頭や牛頭が出てきた大穴から飛び出してきた。しかしガレスたちが調べた結果、そんな空間はなかったという。

 

跡形も無く消滅した空間。その中にいた“謎の冒険者”。

 

真相は更に深まったものの、どうやら件の人物はただの冒険者ではないらしい。フィンたちですらが知らないモンスターたちを相手取っている時点で只者ではないのだが、それに加えて目的が不明なため、警戒度は嫌でも上がる。

 

「なにやら大事(おおごと)になってきたの」

 

「えっと、つまり……どういう事?」

 

「ティオナ、あんたちょっと黙ってなさい」

 

それぞれが思い思いの反応を取る中、フィンは口を閉ざして再び何やら考えている。恐らくは考えられる可能性を脳内に列挙しているのだろうが、やはりまだまだ情報不足。そのどれもが飽くまで可能性の域を出ない。

 

そして、ふぅ、と軽く溜め息をつくと、彼はレフィーヤたちへと向き直った。

 

「今回の件……僕たちが遭遇したモンスターと、レフィーヤたちが遭遇した鎧姿の敵。これの存在についてはまだまだ情報が不足しているため、一般の団員たちにはしばらく伏せておこうと思う。情報の共有は僕たち幹部勢に加えてレフィーヤ、あとはラウルとアキに絞る」

 

極彩色の魔石を持つモンスターとは別の、未知のモンスターという新たな存在。生態や個体ごとの実力など分からない事の方が多いため、現段階でのファミリア内での公表は控える事となった。

 

フィンの下した決定に意を唱える者はおらず、全員が首を縦に振る。一通りの情報交換が終わると、ガレス、ティオナ、ティオネは先ほどのアイズたちのように部屋を後にしようとする。

 

「もー全身土っぽいよー。ティオネ、早くシャワー浴びよー?」

 

「そうね。湾短刀(これ)、部屋に置いたらすぐ行くわ」

 

「分かったー……ってレフィーヤ?行かないの?」

 

丸一日ダンジョンにいて土埃にまみれた髪をいじっていたティオナであったが、未だに部屋から出て行こうとしないレフィーヤへと振り返ってこう尋ねる。

 

「すいません。ちょっとまだ用事が……」

 

純粋な疑問から向けられた視線を受け、レフィーヤは曖昧に笑いつつこう答えた。そっかー、と大して気にする素振りもなくティオナは頷き、姉と共にそのまま部屋を後にする。

 

こうしてこの場に残ったのはレフィーヤと、部屋の主であるフィンのみとなった。

 

「さて、レフィーヤ。何か伝えたい事でもあるのかい?」

 

先ほどまでの緊張した空気を僅かに緩め、フィンは微笑みと共に語り掛けてくる。

 

彼自身も悪く思っているのだろう。重要であるとは言え、まだ若い少女を二度も続けて説明の場に立ち合わせた事を。

 

しかし当の本人はそうは思っていない。自分が誇り高き【ロキ・ファミリア】の一員である事、そうである以上は何事にも臆してはいけないと知っているからだ。

 

「はい。実は……」

 

故に、レフィーヤは口を開いた。“ファーナムの事”について。

 

ベートの言う通りなのかも知れない。いや、きっとその通りなのだろう。

 

それでも、例えお節介であったとしても、少しでもファーナムの負担を減らしたい。

 

ダンジョンからの帰路で偶然耳にした、どこか影を落とした彼の笑い声。それがレフィーヤの脳裏に、やけに強く残っていた。

 

 




次回はファーナムメインでの話になりそうです。
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