不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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第三十九話 冒険

翌日。太陽とは無縁のダンジョンでは、時計の針だけが時間の経過を知らせてくれた。

 

遂に幕を開ける『遠征』本番。フィンが率いる上級冒険者たちは鍛冶師(スミス)である椿とサポーター五名と共に、それぞれの得物を手に魔窟へと挑むのだ。

 

「出発する」

 

本陣に残る者たちの見送りの叫びを背に受け、アイズたちの目に今まで以上の戦意が宿る。

 

そんな彼らの姿を後方から目にしたファーナムは確信する―――――これが“冒険”なのだと。

 

『未知』へと挑む。

 

『未知』を『既知』とする。

 

ダンジョン攻略という全人類の悲願を成就させんとする者たちを前に、自然と湧いたその思い。そして、その“冒険”の一助になれるという栄誉。

 

誰かの為に何か出来る。そこに感じるこの感情は、きっと喜びなのだろう。

 

だからこそ、ファーナムもまた気を引き締める。

 

誰一人として死なせない。中央広場(セントラルパーク)でフィンが皆と共に立てた誓いを、断じて破ってはならないのだ。

 

「皆、ここから無駄口はなしだ」

 

51階層へと通じる大穴の目の前にまでやって来た一行は、それまで交わしていた雑談をピタリと止めた。フィンの声に全員が戦闘態勢へと移行し、同行するレフィーヤたちサポーターの緊張も頂点に達する。

 

「―――行け。ベート、ティオナ」

 

下された団長命令。

 

その声にベートは口の端を引き裂いて笑い、ティオナは肩に担いでいた不壊金属(デュランダル)の大剣を半身に構える。

 

そして―――二人の姿がかき消えた。そう錯覚する程の勢いで、急斜面を駆けてゆく。

 

一歩目よりも二歩目、二歩目よりも三歩目と、上がってゆく速度。それはもはや駆け降りるなどの表現では到底追いつかない、駆け()()()という言葉がぴったりと当て嵌まる。

 

二人がやって来るのを待ち受けていたかのように、左右の壁からモンスターが産み落とされる。黒犀(ブラックライノス)巨大蜘蛛(デフォルミス・スパイダー)が徒党を組んで襲い掛かり、その角と牙に明確な殺意を滲ませた。

 

が、そんなものは問題にもならない。

 

「るおおぉぉおおおおおおおおおお!!」

 

「うおりゃぁぁあああーーーーーっ!!」

 

形成されたモンスターの壁を、上級冒険者の足刀と大斬撃が粉砕する。

 

爆発四散、または細切れにされるモンスターたちの肉体。命を散らした証左である魔石と灰が周囲に振り撒かれ、塞がれた通路が再び開通した。

 

「二人に続け!」

 

「止まるでないぞ、(わっぱ)ども!」

 

その隙を見逃さずに、一行も進攻(アタック)を開始する。

 

先行した二人に後れを取るまいと、アイズとティオネもまた急斜面を勢いよく駆けていった。遥か先の通路から響き渡る戦闘の余波に思わず足がすくむサポーターたちであったが、後衛から飛んできたガレスの声に覚悟を決める。

 

「い、行くっす!?」

 

Lv.4のラウルが気を吐き、それに続くようにして他のサポーターたちも走り出した。進む事だけに専念する彼らを襲うモンスターへの対処は、ファーナムたちの仕事である。

 

『ギシャァァアアアアアアッ!!』

 

一行は入り組んだ通路を走り抜けてゆく。

 

正規ルートを熟知している彼らであっても、これまでとは桁違いの頻度で生まれるモンスターたちを前に油断は許されない。ベートとティオナが粗方の掃除を済ませているとはいえ、僅かな時間で新しいモンスターが出現するのだ。

 

「きゃっ……!?」

 

サポーターであるエルフの少女、アリシアが悲鳴を上げかける。走り過ぎようとした斜め前方の壁から、巨大な蜘蛛の顔が現れたからだ。

 

一瞬の内に視界に広がる醜悪な姿。八つの足を大きく広げたモンスター『デフォルミス・スパイダー』は、糸を吐くまでも無く己の方へとやって来た獲物を頭から喰い千切ろうと、牙がずらりと並んだ顎を大きく開く。

 

が、それが感じ取ったのは柔らかい肉の感触ではなかった。

 

『ガッ!?』

 

口腔内へと侵入し、そのまま頭部を貫いた一本の矢。たったそれだけで絶命に至った蜘蛛は灰へと還り、排するべき侵入者へと道を明け渡してしまう。

 

ハッとした顔でアリシアが振り返ると、そこには弓を構えたファーナムの姿があった。彼はすでに次の矢を番えるべく、腰の矢筒へと手を回している。その手並みは同じく弓を扱う彼女以上だ。

 

「あ、ありが……!」

 

「構うな、進め!」

 

生真面目なエルフらしく感謝を述べようとするも、ファーナム自身によって遮られる。現状を正しく認識したアリシアはそれ以上を口にしようとせず、再び視線を前方へと集中させた。

 

「―――来たっ、新種!」

 

モンスターたちを薙ぎ払い猛進撃を繰り広げる【ロキ・ファミリア】。その最前線を行くティオナが、遥か前方に蠢く黄緑の群れを察知する。

 

この階層で生まれたモンスターでさえも餌食にし、こちらへと向かってくる芋虫型。以前は辛酸を舐めさせられたが今回は違う。対策も万全にしてきた彼らにとって、これはもう脅威には映らなかった。

 

「隊列変更!ティオナ、アイズと代われ!」

 

了解(りょーかい)っ!」

 

キキィッ!と急停止し、フィンの指示通りにティオナが後方へと跳ぶ。そんな彼女と入れ替わるようにして、金色の少女、アイズが最前線に躍り出る。

 

「やっちゃえ、アイズ!」

 

「うん」

 

短く言葉を交わした両者。タンッ、と軽やかに着地したアイズはそのまま疾走、先行していたベートと肩を並べる。

 

【ロキ・ファミリア】最速の二人が揃った。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

短文詠唱が少女の口から紡がれ、彼女の握る愛剣《デスペレート》に風が備わる。

 

芋虫型の腐食液すらも通さぬ不壊金属(デュランダル)の刀身に加え、アイズの風まで付与されたそれは、もはや無双の剣と化した。

 

「アイズ、寄越せ!」

 

「―――風よ」

 

加えて、ベートの武装《フロスヴィルト》に風が付与される。

 

更には腰に差した不壊金属(デュランダル)の双剣を逆手に構え、ベートは身体を低くして構えを取った。彼に倣うように、アイズもまた僅かに前傾姿勢になる。

 

瞬間、爆散する地面。

 

数十M(メドル)はあった距離が、たったの一息で潰れる。

 

「―――がるあぁぁぁあああああああああああああッッ!!」

 

『ギィァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

 

迸る雄叫びと割鐘の悲鳴が木霊する。

 

風の恩恵を受けた狼は双剣と共に暴れ回り、芋虫型を次々に解体していった。瞬く間に減らされてゆく同胞の姿に、芋虫型たちは示し合わせたかのように腐食液を吐きかける。

 

しかし、それはアイズによって阻まれる。広域をカバーする彼女の風は後方のフィンたちに一切の腐食液を通さず、芋虫型たちの飛び道具を完全に無力化した。

 

「ふははっ!相も変わらず凄まじいな、フィン。お主の所の若者たちは!」

 

「気を抜くな、椿。それと……そろそろ道を空けた方が良い」

 

「むっ?」

 

アイズたちの後ろでは椿が走りながら呵々大笑し、戦況を眺めている。言葉の通り激しいその暴れっぷりに、ラウルなど苦笑いすら浮かべてしまっている程だ。

 

まるで『深層』にいるとは思えぬ様子の椿へ、フィンは窘めると同時に助言した―――その直後に。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度(みたび)の厳冬―――我が名はアールヴ】!!」

 

リヴェリアの詠唱が完成する。

 

このままベートとアイズに任せてもどうにかなるだろうが、無駄にリスクを冒す道理はない。二人が芋虫型の群れを引き付けている隙に、彼女は『並行詠唱』を完成させていたのだ。

 

「ベート、アイズ!今だ!」

 

フィンの声に、先頭の二人が左右に分かれ避難する。

 

中衛も同じように左右に割れ、その中心に立つ王女(ハイエルフ)は翡翠色の魔法円(マジックサークル)を展開させ、自身の武器である長杖《マグナ・アルヴス》を芋虫型の群れへと向ける。

 

そして、特大の魔法を放った。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

吹き荒れる白銀の閃光。直線状にいた芋虫型の群れ、そして壁より生まれたモンスターたち全てを氷像へと変えたリヴェリアの魔法は、遥か先の通路まで氷の空間へと変貌させた。

 

こうなっては流石のダンジョンであっても、新たにモンスターを産み落とす事はできない。魔窟から一転、ただの通路と化した51階層を、一行はその後大した苦労もなく突破してゆく。

 

そうやって走り続ける事、数十分。彼らの眼前に、52階層へと通じる階段状の通路が姿を現した。

 

「ここから先は補給が出来ない。皆、覚悟してくれ」

 

連絡路を背にしたフィンが、隊への最終確認を済ませる。

 

ごくりと生唾を飲み込むサポーターたち。前回の『遠征』では辿り着けなかった階層を睨みつけるアイズたち。初めて足を踏み入れる階層に不敵な笑みを零す椿。

 

各々が思い思いの感情を抱く中、ファーナムは静かに感覚を研ぎ澄ませる。

 

これより先はこれまでとは次元の異なる階層。何が起こっても対処出来るよう、彼は手持ちの武装を再確認した。

 

狩人の黒弓に加え、速射できるよう予めボルトを装填しておいた『聖壁のクロスボウ』を腰の吊り具に引っかける。反対側の腰には椿が作成した直剣を差しており、いつでも抜けるようにしてある。

 

遠距離攻撃を重視しつつ、近距離への対応も万全の備え。憂いなどは皆無だ。

 

「戦闘は可能な限り回避。一気に59階層への連絡路まで突破する」

 

フィンの声に対する返答はない。

 

代わりに、全員が無言のままに頷きを返す。

 

「行くぞ」

 

そして―――遂に。

 

一行は、52階層へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「彼らは順調か」

 

「ああ、ウラノス。ちょうど52階層へ通じる連絡路に着いたところだ」

 

所変わり、ギルド最奥『祈祷の間』。

 

静謐さが支配する中、ウラノスとフェルズはファーナムたち【ロキ・ファミリア】の『遠征』の行方を見守っていた。

 

数日前にファーナムへ渡した水晶は正常に機能している。フェルズが持つもう片方の水晶に映し出された映像には、皆に何やらを確認する冒険者【勇者(ブレイバー)】の姿があった。

 

「彼らにとってはここからが正念場だな。まあ、偉そうに言える立場ではないが」

 

「過去、ここまで到達できた者たちは限られている。【ゼウス・ファミリア】に【ヘラ・ファミリア】、そして【フレイヤ・ファミリア】のみか」

 

「正しく現代の英雄たちだ……ところでウラノス、()()()()()()()?」

 

目深に被ったフードを揺らし、確認するようにそちらを見上げるフェルズ。ウラノスはそんな己の腹心へ、瞳を瞑って静かに頷いた。

 

「私が感知できる異常は今の所は起きていない。少なくともファーナムのいた世界の闇霊(ダークレイス)は、こちらの世界には来ていないだろう」

 

「そうか」

 

それでも不安感は拭い切れない。

 

異端児(ゼノス)』たち。その中でもとりわけ強い、或いは探知能力に長けている者たちを使ってダンジョン内を可能な限り巡回してもらっているが、何せ範囲が広大過ぎる。安心など出来る訳がない。

 

「このまま何事もなく終わってくれれば良いが……」

 

僅かな望みに縋るように、フェルズが呟く。

 

その手に持つ水晶の中では、今まさに【ロキ・ファミリア】が52階層へと足を踏み入れたところだった。

 

 

 

 

 

「走れ、走れぃ!ぐずぐずするな!」

 

自身の真横で並走するガレスが、大声で唾を飛ばす。質量すら伴っていると錯覚させられそうになるその声に、ファーナムは少しだけラウルたちが気の毒になった。

 

が、そんな事に気を取られてはいけない。ここはすでに52階層の中なのだから。

 

一行はこれまでと変わらずに、迷宮内を走り抜けていた。出現するモンスターの種類や頻度も変わらず、今の所は特に目立った問題はない。芋虫型との邂逅もなく、何なら順調とさえ言って良い。

 

しかし、先程までとは明確な違いがある。それはラウルたちサポーターだ。

 

明らかに強張り、余裕のない表情。決して速度を緩めようとはせず、まさしく死に物狂いで迷宮を駆けている。その理由はファーナムも知識としては知っているものの、実際に立ち会った事のない彼からすれば、やはり異様な雰囲気であると感じてしまう―――と、その時であった。

 

腹の底にまで響き渡ってくるような禍々しい雄叫びが、全員の耳朶を打ったのは。

 

「なんだ……?」

 

走りつつ、前方から椿の呟きが聞こえてくる。彼女は雄叫びを上げているものの正体を探ろうと、首を左右に振って周囲を見回す。それでも近くにモンスターの存在は感知できず、より謎が深まっただけだった。

 

一方で、ガレスと同じくファーナムの隣を並走するリヴェリアは、冷静な声色を崩さぬままフィンへと語りかける。

 

「フィン、これは……」

 

「ああ―――()()された」

 

彼女の言わんとしている事を理解しているフィンは、全員に更に速度を上げるよう促した。すれ違うモンスターたちには目もくれず、ただただ最短ルートで目的地を目指す。

 

『―――――――ォォ……』

 

途切れぬ雄叫び。見えぬ敵の姿。疾走する彼らを不気味に付け狙う、明確な害意。

 

『―――――ォォ……ォ』

 

それはどんどん大きくなり、アイズたち上級冒険者の顔からも色を奪ってゆく。サポーターたちの目にはもう、彼らの背中しか映っていなかった。

 

『―――ォォオ……オオ』

 

後衛のファーナムはこの時、かつて経験したある場面が脳裏に浮かんでいた。

 

這い寄ってくる雄叫び、これには酷く身に覚えがあったのだ。本能が告げる未曾有の緊急事態、危機回避能力に警鐘を鳴らし続ける、この遠吠えの正体は―――――。

 

『ォォ……ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

答えに行き着くと同時に、これまでとは比べ物にならない程の雄叫びが鼓膜に叩きつけられた。

 

「ベートッ、転進しろ!」

 

「チィッ!!」

 

盛大に舌打ち、先頭を駆けていたベートが突如方向転換する。それに続くようにして、フィンたちもまた進路を変える。

 

最も近かった横道に目を付け、そこへ逃れるよう指示を出したフィン。一行は次々に飛び込み、後衛の三人が最後に転がり込む。

 

その直後。

 

 

 

轟ッ!!と、極太の火柱が地面から生えた。

 

 

 

「~~~~~~~~~~ッッ!?」

 

声にならない叫びが聞こえてくる。それはレフィーヤのものであろうか、それとも他のサポーターたちのものであろうか。

 

「ルート変更!西側から迂回する!」

 

誰もが呆然とする中、フィンだけが止まらずに頭を回転させ続けていた。咄嗟に逃げ込んだ横穴の位置を脳内の地図に当てはめ、現在地から最短のルートを割り出す。

 

今しがた通っていた通路は使えない。直径にして10Mはあろうかという大穴が空いているからだ。アイズたちだけならどうにかなったかも知れないが、予備の武装を担いだラウルたちまで同じ真似は出来ない。

 

一行はフィンの声に従い、新たな道へと目を向ける。

 

「リヴェリア、防御魔法を!」

 

「っ―――【木霊せよ、心願(こえ)を届けよ。森の衣よ】!」

 

足元からの炎砲は未だ止まない。足を止めてしまえば丸焼けとなってしまう重圧(プレッシャー)の中、フィンは的確に魔導士であるリヴェリアに指示を送った。

 

進む。進む。ひたすらに突き進む。

 

入り組んだ地形に加え、絶え間なく現れるモンスター。更には前後左右、どこからでも現れる炎の柱に翻弄されながらも、彼らは決して進む事を躊躇しなかった。

 

が。

 

「きゃぁ!?」

 

「ッ、レフィーヤ!」

 

ちょうどモンスターへ牽制の弓を放っていたファーナムの目の前で、レフィーヤの腕が何かに絡め取られてしまう。

 

すぐ近くにはラウルが倒れており、恐らくは彼女が突き飛ばしたのであろう。そんな事をした理由は明らかで、通路の暗がりに隠れていたモンスターの奇襲から救うためであった。

 

『デフォルミス・スパイダー』の吐いた糸に捉えられたレフィーヤは、抵抗する間もなく引き寄せられてゆく。今から矢を番えては間に合わない。そう判断したファーナムは腰に吊っていた聖壁のクロスボウを引っ掴み、敵の頭部へと照準を合わせる。

 

後は引金を引くだけ……だったのだが、ここで予想外の事が起こってしまう。

 

『ギィ―――ッ!?』

 

地面から炎が巻き上がったのだ。固い岩盤を溶解させて現れた紅蓮の柱は巨大蜘蛛を消し炭に変え、レフィーヤを捕らえていた糸も一緒に焼き切る。

 

直後、彼女の身に襲い掛かる浮遊感。

 

炎砲が地面に開けた大穴へと、少女の身体は吸い込まれるようにして落ちていった。

 

「なっ……!?」

 

全くの予想外の出来事にファーナムは息を飲んだ。途中から見ていたのであろう、ティオナとティオネは驚愕の表情で固まり、ベートまでもが両目を大きく見開いている。

 

止まらずに突き進んでいた一行に、初めて動揺が広がった。

 

大穴へと落ちたレフィーヤ。

 

留まる所を知らぬ攻撃の手。

 

足を止めてはいけないこの状況下で、長考など以ての(ほか)。瞬きにも満たぬ僅かな時間で覚悟を決めたファーナムは、いの一番に大穴へと飛び込んだ。

 

「ファーナムッ!!」

 

「ガレス、すまないが任せた!」

 

後衛の任を彼に託し、重力のままに落下してゆくファーナム。数秒遅れてティオナとティオネ、そしてベートの三人もまた大穴へと身体を躍らせた。

 

「【ヴェール・ブレス】!」

 

間一髪のところでリヴェリアの魔法が完成し、ファーナムたち四人、そして先に落下したレフィーヤにまで防護の加護が付与される。あらゆる攻撃から対象を守る防御魔法を施し、これで残った者たちに出来る事は完全になくなった。

 

「……引き続き目的地を目指す。一刻も早くファーナムたちと合流するんだ!」

 

動揺を引きずる空気を払拭するかのように、フィンのよく通る声が迷宮に響く。

 

その声は暗に、彼らの事は心配いらないとでも言っているかのようであった。

 

 

 

 

 

どこまでも続く長い縦穴。ダンジョンが自然に生み出したものではない、理不尽の産物。

 

その中を落下し続けるファーナムは、視界にレフィーヤの姿を捉えながら、盛大に顔をしかめていた。

 

(やはり、か)

 

地面が小さな点にしか見えない程の高度で、ちらほらと姿を見せ始める雄叫びの正体。

 

実際に目にするのはこれが初めてだと言うのに、既視感を感じずにはいられない。それはドラングレイグでの旅路の中で踏破したあの場所……『護り竜の巣』に生息していた巨大生物の姿だ。

 

ファーナムはソウルから武器を形作る。雷の力を内包したそれは、これから戦う敵に対して力強い味方となってくれる事だろう。

 

敵もこちらに気が付いたようで、その長い首をもたげて咆哮を上げている。

 

この状況を作り出した敵の正体。52階層よりも遥か下、58階層からの『階層無視』という出鱈目過ぎる砲撃を撃ち込んできた、モンスターの王とも称される暴力の化身。

 

地上ではこの周辺の階層を、まとめてこう呼んでいる……『竜の壺』と。

 

その最下層で待ち構えるモンスターの名は、砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』。紅色の鱗に全身を覆われた、全長10Mを超す正真正銘の怪物である。

 

(ここに来て“竜狩り”とは……だが、やってやろうではないか―――――ッ!!)

 

手中にある得物『竜断の三日月斧』が、ぎちりと音を立てて力強く握り込まれる。

 

未だ落下の只中(ただなか)にあるファーナムは、兜の奥で獅子の如く(まなじり)を引き裂いた。

 

 




大穴へと飛び込んだファーナムさん。多分ゲーム的には古き混沌+護り竜の巣(周囲の飛竜全て敵対状態)みたいな感じですかね。

滞空時間は一分ほど。その間もみくちゃにされながらもどうにか地面に辿り着いてからの飛竜との地上戦(対複数)……はい、無理ゲーですね。修正待ったなしです。

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