不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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第四十八話 傾きゆく天秤

戦場で繰り広げられている戦いの余波は、この場所には一切の影響を与えていない。緩やかにも感じさせる時間の流れ、そう感じさせる原因は『闇の王』が不動の姿勢を貫いているからだろうか。

 

彼は何をするでもなく灰に覆われた地面に一人胡坐をかき、己の掌を見つめている。しかし注意深く観察すれば分かったはずだ。彼が見つめているのは己の掌ではなく、その上に乗せられたペンダントなのだと。

 

首から伸びた二本の細い鎖は掌へと収束し、ロケットへと繋がっていた。開け放たれたその台座部分には肖像画も薬もなく、代わりに一人の女性……恐らくは、まだ若い少女のものであろう横顔が彫り込まれている。

 

「……どうか待っていてくれ」

 

『闇の王』がポツリと呟く。その声は闇の騎士たちを鼓舞した者と同一であるとは信じ難いほどに小さく、儚く、そして虚ろげなものだった。

 

「いつの日か必ず、私は―――」

 

と、そこで。

 

ザッ、という地面を踏み締める音が聞こえた。瞬時に雰囲気を変えた『闇の王』はペンダントを鎧の中に仕舞うと、振り返る事もなく口を開く。

 

「……やはり、来たのはお前か」

 

確認するまでもない。これほどのソウルの気配を漂わせておいて、ここまで来る者など一人しかいない。脳裏に彼の姿を浮かべながら、『闇の王』はゆらりと立ち上がり、振り返る。

 

「……『闇の王』……っ!」

 

そう呟いた声の主……緑を基調とした布地を有する毛皮付きの鎧に身を包んだ不死人は、特徴的なスリットの施された兜の奥から、強い眼差しをこちらに向けていた。

 

予想通りの、何の面白みもないはずのその光景に、しかし『闇の王』は己の心に、さざ波の如き小さな感情が芽生えている事に気が付いた。

 

自身が“王”となったその瞬間から今までの間、殺す対象は神だけだった。時には抵抗しようとした人間がいた事もあったが、それは戦いとは到底呼べないような代物だった。

 

しかし。

 

いま目の前にいる者は人間でも、神でもない―――不死人なのだ。

 

(思えば、不死人との戦いは久方ぶりか)

 

もはや記憶の彼方へと追いやられていた過去の出来事が蘇る。城下不死街、アノール・ロンド、ウーラシール市街……他にも様々な場所で侵入してきた闇霊たちとの殺し合いは、亡者やデーモンとの戦いとはまた違った緊張感を抱いたものだ。

 

一対一の、不死人同士の殺し合い。今となってはある種の懐かしささえ覚えるその感覚を、彼は再び感じていた。

 

「良いだろう。しばしの間、付き合ってやる」

 

そう言って『闇の王』は、自身のソウルより武器を掴み取る。

 

右手には幅広な刀身を持つ『ブロードソード』を。

 

左手には装飾が煌びやかな『竜紋章の盾』を。

 

その行動に僅かに身構えるファーナムを前に『闇の王』は兜の奥で暗い笑みを浮かべ、静かに告げた。

 

「さぁ……いつでも掛かってこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、各々の舞台は整った。

 

両者が共に認められない結果に抗う為、己が望みを叶える為。

 

冒険者と神殺したちの、本当の闘いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおおぉっ!!」

 

豪快な雄叫びを迸らせ、ガレスが大戦斧を振り上げる。

 

断頭台(ギロチン)()くやといった勢いで振るわれたそれは、しかし的確な角度に構えられた盾によって軌道を逸らされてしまう。

 

派手に振り撒かれる火花。その飛沫を顔面に浴びながらも、青き戦士は怯むことなく右手に握られたロングソードの切っ先をガレスの顔面へと突き出した。

 

「っ!?」

 

ビュッ!と刀身が彼の顔を掠める。その頬には赤い線が残ったものの、紙一重で突きを回避する事に成功。しかし一分の隙もないその攻撃に、じわりと嫌な汗が額に滲む。

 

突きを躱された青き戦士は小さく舌を打った。すぐに剣を逆手に構え直し、再度攻撃に転じようとした男であったが……その耳が、もう一方の敵対者の気配に反応する。

 

「オラァ!!」

 

現れたのはベートだった。ガレスの岩のような身体を利用して青き戦士の死角から飛び出した彼は、右脚を鞭のようにしならせ鋭い蹴撃を繰り出す。

 

が、それすらも予測の範疇(はんちゅう)だったのか。攻撃を中断させると同時に地を蹴って跳躍。そのままごろごろと地面を転がり、後方へと逃れ距離を取った。

 

「ちっ、面倒臭ぇな」

 

灰に塗れながら立ち上がった男は口元を拭い、そう呟く。苛立たしげではあるが、焦りはそこまで感じていないようにも見える。

 

その一方で、ガレスとベートの顔色はそこまで優れない。

 

「野郎、ちょこまかしやがってッ!!」

 

「落ち着けベート。頭に血が上っては冷静な判断を損なうぞ」

 

「……あぁ、クソッ!」

 

苛立つ狼人(ウェアウルフ)の青年をどうにかなだめつつ、ドワーフの老兵は冷静に状況を分析する。

 

(こ奴……駆け出しの冒険者のような見た目に騙されそうになったが、かなり()()()のう)

 

頬に刻まれた赤い線を親指でぬぐい、ガレスは自分たちが相対している敵を見やった。

 

簡素な造りのチェインメイル、ごく普通のロングソード、そして錆と凹みの目立つ盾。みすぼらしいとも言っても過言ではない装備に身を固めた男だが、その実力は身をもって体験した通りである。

 

見た目と中身がまるで釣り合っていない青き戦士。これまで蹴散らしてきた闇の騎士たちとは比較にならない程の技量と洞察力。自分とベートの二人がかりでもなお押し切れないこの男に対し、ガレスは『闇の王』の側近クラスの人物であろうと判断した。

 

(ならば、こ奴を倒せば敵の戦力を幾分か削ぐ事が出来るか。問題はどうやってこの状況から脱するかじゃが……)

 

このまま一進一退の攻防を繰り広げたところで何も変わりはしない、むしろジリ貧なのはこちらの方だ。

 

状況の打破にはまた違った形で敵の虚をつくか、ある程度の負傷を覚悟で特攻でも仕掛けるしかないが、後者を選ぶのは時期尚早(じきしょうそう)に過ぎる。この後にも控えているであろう戦闘の事も考えればなおさらだ。

 

ガレスがそんな考えをしている一方で、青き戦士も似たような思考を巡らせていた。

 

(あの野郎が前面に出やがるせいでこっちも攻め切れねぇ。しかも中々にしぶといと来たもんだ。仕留めるには確実な一撃が必要だっつうのに、あの若造が(ことごと)くそれを邪魔してきやがる)

 

平凡な顔立ちに宿る、不釣り合いなほど剣呑な眼差し。その視線はベートへと向けられている。

 

苛立ちを隠そうともしないベートの表情から、胸中に抱いている感情は手に取るように分かる。あと僅かの所で獲物に逃れられてしまうというのは、彼にとって実に腹立たしいものだろう。

 

(……まぁ、だからこそ()()()()()んだがな)

 

これまでの戦闘の中でベートという青年の性格を読み取った青き戦士は口角を吊り上げる。

 

長年浮かべていた陰気で皮肉げなものではない。相手を嘲るような底意地の悪い笑みを浮かべつつ、男はわざとらしい大声を上げた。

 

「また外れちまったなぁ、若造!速さと威勢だけが取り柄ってか!」

 

「あァ!?」

 

狼の耳がピクリ、と動いた。

 

男の口から放たれた嘲りの言葉は、血の気の多い若き冒険者を刺激するには十分過ぎるものであった。その証拠にベートは身を乗り出して怒り、今にも飛び出しそうな剣幕を浮かべている。

 

「あんたも苦労するな!こんな時にガキのお守りなんてよぉ!」

 

男の言葉は更に続く。今度はベートの傍らに立つガレスへ向けての言葉だった。

 

が、熟練の冒険者たるガレスはその言葉に怒りなど感じない。代わりに抱いたのは火の手が回り、爆発寸前の火薬庫を目の前にしたかのような焦燥感だ。

 

(不味い―――!?)

 

ガレスは敵の狙いを正しく理解していた。

 

即ち、()()。ベート・ローガという青年の高い矜持(プライド)を直接揺さぶる行動に出た青き戦士は、俊敏な動きで立ち回る狼から先に片付けようという算段なのだ。

 

「その若造がいるせいであんたは全力を出し切れねぇ!損な役回りだなぁ、おい!」

 

「っ、耳を貸すでないぞ!!」

 

半ば反射的にベートを宥めようとするも、怒りに目を充血させた今の彼には意味がない。砕けんばかりに歯を食い縛り、射殺すような視線で男を睨みつけている。

 

そんな視線もどこ吹く風なのか、青き戦士は決定打となる言葉を放った。

 

 

 

「全く、とんだお荷物を抱えちまったなぁ!同情するぜ!!」

 

 

 

浮かべた表情、仕草、そして言葉遣い。その一つ一つがベートの神経を逆撫でる。生来の性格も災いし、ガレスの忠告など耳に入らない若き狼は―――。

 

「……ぶち殺すッ!!」

 

一気に肉薄を仕掛けた。

 

地面を蹴り割って飛び出したベートは、そのままの速度で相手の懐へと入り込む。並みの相手であればそれだけでほぼ()()だが、この状況になるよう誘導したのは他でもないこの男だ。

 

頭を蹴り割らんとする猛烈な蹴りを、青き戦士は難なく躱して見せた。屈んだ姿勢から次に繰り出されたのは斬撃……ではなく、剣の柄による打撃。鳩尾を深く抉ったそれは、ベートから一瞬だけ速度を奪う。

 

身体をくの字に曲げてしまったベートへ、今度こそ斬撃が襲い掛かった。斜め下から振るわれた一閃は致命傷とまではいかなかったものの、鍛え上げられた冒険者の肉体をして、決して浅くはない傷を刻み込む。

 

「がっ―――!?」

 

「ベートッ!?」

 

一拍遅れて走り出したガレスには目もくれず、青き戦士は武器を通して伝わって来た感触に眉をひそめる。

 

「ちっ、(かて)ぇな」

 

予想を上回る筋肉の密度に舌打ちを落とした青き戦士。ベートはこみ上げてくる血を無理やり飲み下し、これまで以上に殺意に満ちた目で眼前の敵を睨みつける。

 

「ク……ッソがぁっ!!」

 

口から血と咆哮を迸らせた彼の手が腰へと伸びる。ホルスターから引き抜いたのは鮮やかな黄色の短剣で、それは雷の力が内包された魔剣であった。

 

この一撃でケリを付けるつもりなのだろう。だが敵は未だ目の前におり、メタルブーツに取り付けられた黄玉へと魔剣の力を充填させるには隙が大きすぎる。よってベートはひとまず蹴りで相手を牽制しようとしたのだが―――。

 

「させるかよ、間抜け」

 

「ッ!!」

 

そんな台詞と共に、男のロングソードが魔剣目掛けて振るわれた。

 

腰から引き抜いた瞬間にその刀身を正確に斬り砕いた青き戦士。ベートの琥珀色の瞳が驚愕と動揺に揺らめいた直後、魔剣に内包されていた魔力は霧散、消失してしまった。

 

反撃の機を失ったベート。今の体勢からでは満足な威力の蹴りは繰り出せず、時間稼ぎにすらならない。

 

対する男はすでにロングソードを振りかぶっている。今度は身体を狙ったものではない。相手の首を胴体から斬り飛ばすべく取られた、絶殺の構えだ。

 

ガレスの加勢も間に合わない。どう転んでも男がベートの首を刎ねる方が早い。絶体絶命の窮地に陥った狼人(ウェアウルフ)は、片腕を犠牲にしてでもこの攻撃を凌ぎ切ろうとして―――そこで。

 

ガクンッ!と、急に視界が真横へと揺さぶられた。

 

「っ!?」

 

その驚愕は青き戦士のものだった。自身の視界の端から現れたのは一人の闇の騎士で、体当たりをするような形でベートを掻っ攫っていく。突然の出来事に目を剥いたのは彼だけではない。ベートも、そしてガレスも同様だった。

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

次々と雪崩れ込んでくる闇の騎士たち。ベートの姿はあっという間に骸骨の集団の中へとかき消され、中途半端に剣を振りかぶったままの男は、怒りに任せて声を荒らげた。

 

「てめぇらっ、一体何のつもりだ!?」

 

「貴方はその男の相手を!こいつは我々が始末致します!!」

 

口調こそそれらしいものの、これ以上の言葉は不要とばかりに闇の騎士たちは青き戦士の視界から遠ざかっていった。せっかくの獲物を失った男は憤懣(ふんまん)()る方無いとばかりに、唇をめくれ上がらせ憤怒の形相を浮かべる。

 

(馬鹿共が。そんなに気に喰わねぇってか、この俺が!!)

 

実のところ、これは青き戦士が密かに危惧していた事態だった。

 

かつての自分―――度重なる苦難に心折れ、篝火の前で動こうともしていなかったのは覆しようもない事実。闇の騎士たちがいた数多の並行世界においても、ほとんどの場合がそうだった。

 

そんな陰気な腑抜けが、今や“王”の傍に立つ事を許されている。その事実を一部の闇の騎士たちが不満に思っている事は男も知っていた。自分こそが“王”の傍に立つに相応しい事を証明するため、彼らがこれまでの戦場においても虎視眈々とその機を窺っていた事も。

 

その機が遂に回って来た。飛びぬけた瞬発力を誇る狼も今や手負い、これならば自分たちで仕留められると踏んだ者たちによる、完全なる独断行為であった。

 

まさかこんな場面でさえ手柄の横取りを企てていたとは。余りの愚かさに自ら手を下したくなるが、それこそ愚の骨頂。身を焼くような憤りを抱きつつ、青き戦士はその矛先をもう一方の標的へと向ける。

 

「くそったれがぁッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

ベートには及ばぬとも目を見張る速度でガレスへと突貫し、ロングソードを振り下ろす。

 

その刃を大戦斧で迎え撃つガレス。直剣という武器にはあるまじき威力に歯を食い縛りつつも、老兵は切り離されてしまった仲間の身を案じていた。

 

(不味い流れじゃぞ、これは……っ!)

 

そう簡単にやられるような男ではないとは分かっていながらも、自分の心から余裕が削られていくのを感じる。

 

ギギギギッ、と耳障りな鍔迫り合いの音色が、ガレスの焦燥感を更に煽っていた。

 

 

 

 

 

激しい剣戟が繰り広げられている。

 

そこは戦場の中でも異色の様相を呈していた。そこかしこで敵味方が入り乱れる中、()()()()の周囲だけが無人になっていたのだ。

 

闇の騎士たちはそれぞれ離れた場所で戦っており、それはまるで、誰一人としてここより後方を通さぬと言わんばかりだ。

 

「はぁッ!!」

 

短い掛け声と共に、ティオネの得物である二振りの湾短刀(ゾルアス)が振り下ろされる。

 

その刃は、中心に鋭い突起が付いた盾『ピアスシールド』によって阻まれた。防御には不向きにも見える形状をしているが、その所有者たるジークリンデは見事にティオネの攻撃を無効化していた。

 

真正面に構えるのではなく、突起も利用した盾受け。ぶつかり合った瞬間、ティオネは固い岩盤にぶち当たったかのような印象を覚えてしまう。

 

「っ、ティオナ!」

 

「はいはぁーいっ!」

 

ティオネがそう叫んだ瞬間、ジークリンデの背後からティオナが飛び掛かる。

 

湾短刀(ゾルアス)とは正反対に巨大な武器である大双刃(ウルガ)を手にする褐色の少女は、姉が生み出した隙を逃すまいと渾身の力で振り下ろした。

 

「……!」

 

これ以上ない好機かに思われたが、ここでジークリンデが動きを見せる。

 

ぶんっ!と盾を振るい、止めていたティオネの刃を斜め下へと滑らせる。目を見開き前のめりとなって体勢の崩れた彼女を無視し、ジークリンデは振り向きざまに『バスタードソード』による一斬を放つ。

 

「うわっ!?」

 

ゴキィンッ!とかち合う二つの刀身。大双刃(ウルガ)を握る両手が痺れるほどの衝撃に、ティオナは弾き飛ばされてしまった。

 

ジークリンデの反撃は止まらない。流れるような動きで振り返ると、今度はティオネへと斬撃を見舞った。崩れかけた体勢からどうにか踏み止まった彼女であったが、顔を上げた瞬間には、すでに目の前まで巨大な刀身が迫っていた。

 

「くぅっ!?」

 

容赦ない斬撃を、身体をねじる事で対処するティオネ。振り乱れた黒い長髪、その何本かが刈り取られるのを肌で感じ取りながらも、ぎりぎりの所で回避する事に成功する。

 

ぶわっ、と汗が噴き出す。玉の雫となったそれらを置き去りにし、ティオネは第二撃が来る前に相手との距離を空けた。乱れた呼吸を整えつつ、自身の片割れへと声を飛ばす。

 

「ティオナ、やられてないでしょうね!?」

 

「う、うん!まだ平気!」

 

ティオナは弾き飛ばされながらも、空中で身を捻る事によって着地に成功していた。まだって何よ、と妹からの返答に内心イライラしつつも視線は目の前に固定されたままだ。

 

ジークリンデを左右から挟み込むように立つアマゾネスの双子。彼女たちにとって優位にも見える構図だが、実際のところはそうでもない。それは今までの戦闘が証明している。

 

二人のどのような攻撃にも冷静に対処し、時には自分から前へ出て鎧で刃を受け切る。奇抜な見た目の鎧だとは思っていたが、実際に戦ってみるとその形状の優秀(やっかい)さを嫌でも痛感させられる。

 

全身を流線形の金属で覆われては、どうしても斬撃の効果が薄くなってしまう。大双刃(ウルガ)のような重量級であれば話は変わってくるが、生憎と今のティオネの武装は比較的軽い素材で作られたナイフだ。腰に忍ばせた投刃(フィルカ)も同様に効果は薄いだろう。加えて先程まで振り回していた斧槍(ハルバード)も手元にはない。近くに転がっているのだろうが、回収しようにもこの場を離れる訳にはいかない。

 

自身の武装、犯してしまった悪手。それら全てが今のティオネを苦しめている。

 

こんな所で立ち止まっている場合ではないというのに。二対一にも拘らず、一向に攻め切れないなんて。本来激しい気性の持ち主であるアマゾネスの少女は、その内から湧き上がる感情を抑え切る事など出来るはずもなく―――。

 

「……面倒くせぇ」

 

―――理知的な思考を頭の片隅へと押しやった。

 

両手に握られた湾短刀(ゾルアス)を仕舞った彼女は、そのまま身体を撓ませる。

 

そして、()()

 

文字通りの勢いでジークリンデへと迫るティオネは、荒っぽい口調でティオナへと連携を促した。

 

「ティオナッ、合わせろッ!!」

 

「ぅえ!?」

 

「ッ!!」

 

狼狽えるティオナ。

 

突如の襲来にも反応するジークリンデ。

 

両者の反応などお構いなしに、ティオネは本能にものを言わせた拳を叩き込む。

 

「ッらぁ!!」

 

「っ―――!?」

 

勢いのままに振るわれた拳の威力は壮絶なものだった。これまで完璧に斬撃を防ぎ切っていたジークリンデは盾を構えたにも拘らず、二本の線を地面に刻み込みながら後方へと追いやられる。

 

無論、振るった拳もただでは済まない。骨が折れたのか、折り畳んだティオネの指が鈍い悲鳴を上げていた。

 

それでも彼女は止まらない。一撃目に重ねるようにして二撃目、三撃目と回数を重ね、力任せに相手の身体を押してゆく。

 

「らぁぁああああああああああッ!!」

 

「―――ッ!」

 

激しい連撃(ラッシュ)に後ずさるその背へとティオナが迫る。相手が防御に徹している今が好機、今度こそ弾かれまいとしなやかな身体を思い切り反らせ、渾身の力で大双刃(ウルガ)を真横に振るった。

 

「やあぁぁああーーーーっ!!」

 

挟撃。

 

アマゾネスの双子らしい豪快かつ息の合った攻撃に、二人は勝利を確信した―――が、それは間違いであった。

 

「やはり、そう来ますよね」

 

兜の奥から聞こえて来たその呟きをティオネは聞き逃さなかった。

 

一方的であるかに思われた猛攻。その最後の一撃とティオナの攻撃が決まる直前で、ジークリンデは身を翻したのだ。

 

「っ!?」

 

今まで拳を受け続けていた盾をあっさりと下げ、身体ごと回転させる。輪郭が霞むほどの速さを前にティオネの拳は空を切り、ティオナの大斬撃はジークリンデの鎧の表面を削るに留まった。

 

二人が瞠目した時にはすでにジークリンデの番だった。バスタードソードとピアスシールド、鋭い刃と鋭い突起が、ティオナとティオネに襲い掛かる。

 

「っあ!?」

 

「ッッ!?」

 

大双刃(ウルガ)を振り抜いた格好のティオナがその刀身を盾に出来たのは奇跡的だった。そうでなければ彼女の身体は、真っ二つに泣き別れになっていただろう。

 

しかし、それでも無事では済まなかった。先程とは比べようもない衝撃にティオナは踏み留まる事すら出来ずにそのまま真横へと吹き飛ばされる。近くにあった岩を砕き、地面を削り、ようやく彼女の身体は停止した。

 

ティオネの場合は更に深刻だ。

 

伸ばされた右腕、その二の腕を半ばまで鋭い突起が穿ち、彼女の視界に真っ赤な鮮血が現れる。肉を引き裂かれる激痛に呻吟の声を上げる事すら許されず、追い打ちのように―――あるいはこれまでのお返しとばかりに―――強烈な膝蹴りを腹部に喰らってしまう。

 

「がッ―――はぁ!?」

 

ティオナが貰ったほどの威力はなかったものの、まともに喰らってしまった膝蹴りにティオネは血と胃液と吐き出しながら地面をごろごろと転がってゆく。

 

「げほっ……ティオネ……!」

 

「ぐ、あ……っ!」

 

しっかりと立っているのはジークリンデのみ。彼女は鎧の腹部に刻まれた一筋の傷跡を指でなぞり、そして何事もなかったかのように大剣を肩に担ぎ直した。

 

「まだ生きているとは……頑丈ですね」

 

よろよろと立ち上がるティオネとティオナ。

 

そんな二人の脳裏に浮かんだ幼き日の光景が、自分たち以外には無人となった今の光景と重なる。

 

かつて幾度となく殺し合いを続けてきた故郷、闘国(テルスキュラ)―――そこに存在した戦場(アリーナ)が、再び二人の前に現れた。

 

 

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