不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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ほぼ全編戦闘シーンです。


第五十話 冒険者としての戦い方

 

「さぁ、いつでも掛かってこい」

 

「……っ!」

 

『闇の王』が無造作に手にしているブロードソードと竜紋章の盾。

 

突出した性能があるとは思えない直剣と盾だが、この男が持っているというだけで―――武装しているというだけで、凄まじい威圧感を放ってくる。

 

(だが、最も警戒するべきは……)

 

兜の奥で密かに汗を垂らすファーナムが視線を注ぐ先。それは『闇の王』が腰に吊り下げている鞘に納められた一振りの直剣だ。

 

それは『穢れた精霊』の頭部を貫き、その身体を魔石もろともに泥のような何かへと変質させた、あの剣である。あの時は離れていた上に一瞬しか見えなかったが、恐らく何らかの効果を持つ特殊な武器に違いない。

 

斬られた場合、精霊と同じように泥と化すのか。それとも別の結果が待っているのか。どうであれ(ろく)でもない目に遭うのは明らかだ。

 

(ならば、あれだけは絶対に喰らう事は出来んな)

 

とにかく、腰の剣だけは抜かせない。

 

これが最も重要だと判断したファーナムは僅かに腰を沈め、そして一気に『闇の王』の元へと走り出した。

 

疾走する最中(さなか)、右手のエスパダ・ロペラを構える。刀身の長さを悟られないよう切っ先を真っ直ぐに向けて突貫するファーナムに対し、『闇の王』はゆったりと、一歩前へと歩み出た。

 

そして、衝突。

 

鋭い刺剣の初撃は滑らかな盾によって阻まれ、同時にファーナムの動きも停止した。

 

「ぬぅ……!?」

 

突き出した右腕に伝わる尋常ではない手応え。

 

まるで巨岩に剣を突き立てたかのような感触はこれまで相対したどの敵とも違う。敢えて近いものを挙げるとするならば、それは『巨人の王』であろうか。

 

その堅牢さを証明するかのように、腰を入れて力を込めているファーナムに対して『闇の王』は悠然と立っている。勢いをつけて放ったはずの攻撃が、こうも容易く受け止められてしまったのだ。

 

「どうした、終わりか?」

 

「ッ!」

 

降りかかったその声に対し、ファーナムは左手のパリングダガーで応える。

 

全体重を乗せて繰り出した刺突。しかしこれも『闇の王』には届かない。合わせるかのようにブロードソードを閃かせ、キンッ!という甲高い音と共にパリングダガーの刀身は真っ二つに両断されてしまった。

 

いとも容易く行われた武器破壊に驚愕する間も与えられず、続く第二撃がファーナムへと襲い掛かる。彼は両手にある武器を放棄し、ソウルより新たな武装を出現させた。

 

『番兵の盾』で斬撃を防ぎ、一拍遅れて右手は『石像の槍』を掴み取った。腕を引いた反動で穂先近くの柄を手繰り寄せ、そのまま流れるように突きを見舞う。

 

「ほう?」

 

一秒の半分にも満たない時間で武装を変更、反撃に転じたファーナムに感心したかのような態度の『闇の王』。だが、やはりそこに焦りの感情は感じられない。

 

『闇の王』は上体を軽く捻り、突き出された槍を回避する。立て続けに三度も攻撃を防がれ、或いは躱されたファーナムは舌打ちし……。

 

「存外にやるな。―――どれ、私も一つやってみよう」

 

次の瞬間、その顔に焦燥の色を浮かべる事となった。

 

(不味い!?)

 

そう感じた時には、すでに身体は動いていた。

 

ファーナムは反射的に後方へ逃れようと、渾身の力で地を蹴った―――その直後。

 

「ぐッ、ふ―――!!」

 

脇腹で弾けた、途方もない衝撃。

 

それは通常の槍よりも更に長い『パルチザン』の薙ぎ払いによるものだった。『闇の王』が盾を消し去り、その手に握った戦槍によるそれはファーナムの後退を許しはせず、そのまま彼を真横へと吹き飛ばす。

 

「がっっ!?」

 

灰の地面に叩きつけられた彼は二転、三転しながらその身を汚していく。

 

武器などとうに両手から滑り落ちていた。やがて勢いが治まり地面に手を付いて起き上がろうとするも、兜の隙間から血の筋を垂らすその姿はどうみても深刻そのものだ。

 

(………強い)

 

まず最初に頭に浮かんだのは、純粋にそれのみだった。

 

初撃を防がれた時、続く第二撃目を無力化させられたあの時。咄嗟の機転で放った槍による刺突を難なく回避され、更には反撃を喰らってしまった、今この瞬間。

 

一連の流れで痛感させられた。かつて戦ってきた強敵たちの中でも『闇の王』以上の相手はいないという事を。武器の熟練度、状況への対応力、即座の判断能力。それら全てが飛び抜けて秀でているという事を。

 

(真正面からやり合うだけで勝てる相手ではない)

 

ならばどうするか?

 

……持てる限りの武装を以て、考えうる限りの戦術を以て戦うしかない。

 

小細工も、何もかも使う。体裁など知るものか。どれだけ泥臭い戦い方であっても、みっともない様を晒しても、最後に立っていた者こそが勝者なのだ。

 

(そうだ。今までだって、そうして来ただろう?)

 

彼の地、ドラングレイグでの強敵たちとの戦い。

 

それは挑んでは死に、再び挑んでは死に、また挑み……その積み重ねによって辛勝を掴み取って来た。時には白霊と共に戦った事もあったが、それでも楽な戦いはなかった。

 

何度も血反吐を吐き、何度も地を這い、何度も嬲り殺された。

 

それでも諦めなかった。不死の呪いを解く為に……他の者がどうなろうが、自分だけは“人”に戻る為に。

 

(だが……)

 

しかし、そんな考えは間違っていた。

 

自分の為だけに行動する。そんなものがもたらす結果など、たかが知れている。

 

孤独に戦い続け、その果てに得たもの。それはどこまでも孤独な岩の玉座であった。

 

果てなき旅路の終着点を見つけた不死人は、そこで遂に諦めた。“人”に戻る事など叶わぬ。どうあってもこの輪廻から抜け出せないと悟り、全てを投げ出したのだ。

 

そんな彼が、オラリオ(この地)で再び目覚めた。

 

 

 

孤独だった不死人は人に触れ、共闘し、そして神と邂逅した。

 

永く忘れ去っていた、“人”としての感情を取り戻した。

 

 

 

“人”を取り戻した不死人はダンジョンで“悪意”に触れ、己が内に宿る残虐性を突き付けられ、激しく苦悩した。

 

自分のような(もど)きではない。正真正銘の“人”を殺めて、何も感じなかったではないか……と。

 

そんな不死人を、一柱の女神が救ってくれた。その心に燻っていた重荷は解き放たれた。

 

不死人は、遂に“人”となった。

 

 

 

『皆に恥じぬ生き様を』

 

 

 

“人”として……“冒険者”としての生き方を見出した不死人は、地の底にて『王』と邂逅した。

 

『王』は神代を終わらせる存在。神を害悪と断じ、その存在を(ことごと)く抹消しようとしているのだ。

 

ふざけるな。

 

そんな身勝手な理由で、この世界の人々を混乱に陥れようとしているのか!

 

そんな事はさせない。

 

人と神が共に生き、共に築き上げたこの世界を守る為―――。

 

不死人(おれ)を受け入れ、“人”であると言ってくれたあの女神を守る為―――。

 

不死人(おれ)を認め、仲間だと断言してくれた皆を守る為―――。

 

 

 

(お前を倒すぞ―――『闇の王』)

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄が多い戦い方だが、成程。面白みはあるかも知れないな」

 

『闇の王』はファーナムを()()()パルチザンを一瞥し、そんな事を言ってのける。久しく不死人と戦っていなかった彼はその余韻を愉しむように、地に手を付いて起き上がろうとするファーナムへと視線を移した。

 

「ぐっ……!」

 

「さて、次は何を出す?剣か、斧か、魔術か、呪術か―――何でも構わないぞ」

 

掌の上で虫を弄ぶように、『闇の王』は追撃すらしてこない。それが慢心でも何でもなく、純然たる実力差故の態度である事はファーナムも承知している。

 

そして、そこにこそ勝機がある。

 

(奴はこの戦いを愉しんでいる。最初から殺すつもりだったのならば、先程の攻撃に手を抜く理由がない)

 

口の中に広がる鉄の味を飲み下し、立ち上がる。

 

手を抜いた攻撃とは言えこの威力である。『闇の王』が本気になればどれほどの力なのか、考えただけで背筋が冷たくなってくる思いだが……。

 

(油断とも言えぬ油断を突く。出来うる限り打ち合い、穿つべき()を見つけ出す!)

 

その程度の危機を乗り越えられずして、勝利は得られない。

 

フィンたちが言う所の『技と駆け引き』。オラリオで学んだ冒険者としての戦い方を取り入れ、ファーナムは『闇の王』を打倒しようというのだ。

 

その戦い方は未だ成熟したとは言い難いが、そこはドラングレイグで得た力で補う。

 

呼吸を整え直したファーナムは小さく息を吐き―――再び、『闇の王』へと目掛けて走り出した。

 

「おおぉぉおおおおおおおおおっ!!」

 

その雄叫びは自らへの鼓舞か、それとも冒険者へと憧憬の表れか。

 

無手のまま飛び出したファーナムに対し『闇の王』は動かない。左手に握られたパルチザンをソウルへと還し、右手に握ったブロードソードをだらりと垂らしている。

 

(やはり、自分からは動かない!)

 

『闇の王』がこう来るであろう事は予想していた。()()()終わらせない為にも、こちらの攻撃を捌くかのように行動するであろうと。

 

その考えは見事的中し、ファーナムは己の持ちうる全てを総動員して再び戦いに挑む。

 

「ッ!」

 

肉薄する直前。懐からある物を取り出し、投げつける。至近距離とは言えないものの、それなりに近い間合いから放たれたそれを、『闇の王』は剣を振り上げて両断する。

 

次の瞬間。青白い魔力が解き放たれ、両者の視界を一時的に封じた。

 

「む?」

 

ファーナムが投げつけたのは『魔力壺』だった。火炎壺と同じように内部に魔力が封じ込められた攻撃用の飛び道具だが、今回はそれを目眩ましとして利用したのだ。

 

普通に使った所で通用するとは思えない。だからこその“目眩まし”である。その甲斐はあったようで、魔力の霧が晴れるより先にファーナムは新たな武装を展開させる。

 

「ぬぅんッ!!」

 

飛び掛かり、大上段の構えから振り下ろされた一斬。

 

気合いの入った掛け声と共に、両手で握り込んだ『巨象の大剣』が『闇の王』の頭蓋を叩き割らんと迫る―――が。

 

ガキィンッ!!と、凄まじい金属音が響き渡る。見れば、『闇の王』は左手に新たな武装を展開させていた。

 

それは奇しくも、ファーナムが持つ武器と同じ分類に当たるもの……つまりは『蛇人の大剣』であった。両手で振り下ろした巨象の大剣を、『闇の王』は頭上に構えた蛇人の大剣で防いだのだ―――左腕一本のみで。

 

「目眩ましか。随分と安直だな」

 

「ッ!」

 

攻撃が届かなかったと判断するや否や、ファーナムは手にした大剣を消し去り次の行動へと移る。

 

両手に持つのは『炎のロングソード』と『ハイデの騎士の直剣』。ドラングレイグでの旅路において、長く共に歩んできた信頼の置ける武器でもある。

 

着地した時には構えに入っていた。

 

二振りの特別な直剣を手に、姿勢を低くして即座に斬りかかる。雷剣と炎剣が十字を描き、『闇の王』目掛けて放たれる。

 

「ああ、やはり速い」

 

しかし。

 

無常にも斬撃はその身体に届く事はなく、血に錆びた重厚な刃によって破砕されてしまった。

 

「だが無意味だ」

 

「なっ……!?」

 

防御の為に構えられていた大剣を振り下ろした。たったそれだけの事なのだが、一瞬の判断でこれを実行できる者が果たしてどれほどいるだろうか?

 

下手に飛び退くよりも有効だが、それは防御に徹すればこその話。『闇の王』のように攻撃に転じ、あまつさえ武器を破壊するなど、常識外れにも程がある。

 

地面に大きな亀裂を残す斬撃を受け、呆気なく砕かれた二振りの直剣に驚きを隠せないファーナム。兜の奥で瞠目する彼は同時に、両断されたパリングダガーの事を思い出す。

 

(あれはまぐれでも何でもない、その気になればいつでも破壊できるという事か!)

 

戦場を掻い潜ったために耐久力が落ちていた訳ではない。恐らくは『闇の王』が破壊しようと思えば、短剣だろうが特大剣だろうが、それこそ大盾であろうが破壊されてしまうのであろう。

 

ふざけるな!と叫びたい感情に駆られるも、そんな隙を晒せば容赦のない攻撃がやって来る。ファーナムは柄のみとなった両手の剣をかなぐり捨て後退―――ではなく、更なる反撃へと打って出た。

 

「はァッ!!」

 

下手に距離を取らずに果敢に攻めゆく。流石に先程のような愚行は繰り返さないか、と『闇の王』は思ったが、そんな考えはすぐに頭の中から消え去った。

 

「……!」

 

『闇の王』の双眸が僅かに細まる。

 

身体の側面を狙ってきた長い柄を持つ()のよる攻撃。それをブロードソードで斬り上げて弾き返すも、すぐに次の攻撃がやって来る。その速度は槌にはあるまじきものだ。

 

まるで斧槍のように扱って見せるファーナム。それが彼の技量のみによるものではなく、そのように造られた()()である事に、『闇の王』は僅かに遅れながらも気が付いた。

 

『古竜院のメイス』。

 

分類としては大槌ながら、その取り回しは斧槍と同じ。振りの速さと槌の重さを兼ね備えたこの武器は、相手の受けを崩して隙を生み出すのに最適と言える代物だ。

 

「はッ!ぜあぁッ!」

 

「面白い。こんな武器もあるのか」

 

裂帛の気合いで打ち連ねてゆくファーナムの攻撃に『闇の王』が一歩後退する。それでも全ての攻撃をブロードソード一本で捌き切る姿は見事の一言に尽き、余裕の色は未だ消えていない。

 

追い詰められた様子もなく、むしろ武器の性能に感心するように独りごちる『闇の王』。その態度にまだまだ“隙”には程遠いと悟ったファーナムは、渾身の力で柄を握り込んだ。

 

「うっ……ぉぉおおおおっっ!!」

 

強く踏み込み、全身の筋肉を隆起させながら放った重打が『闇の王』の剣に挑む。

 

その一撃はこれまで以上の勢いで振るわれ―――そして遂に、ブロードソードは砕かれた。

 

「ッ!」

 

その瞬間、『闇の王』は確かに驚愕した。

 

剣が砕かれた事もそうだが、それ以上にファーナムという不死人の秘めたる力量を目の当たりにしたからだ。

 

何度もやって出来るものではないだろうが、この不死人はきっと武器破壊程度ならやってのける。今まで戦った事のある者たちの中でも、間違いなく上位に食い込む相手であると再認識する。

 

『闇の王』は砕かれた剣を手放し、新たな得物を自身のソウルより呼び出す。青白い光がその手に収束し始め、武器としての輪郭を形作ってゆく。

 

一方で、このまま続けて攻撃するかに思われたファーナムであったが、何を思ったのか『闇の王』の脇をすり抜けていった。背後を取るように地を蹴る彼は古竜院のメイスを消し去り、別の武器を右手に顕現させる。

 

すれ違いざまに振り返る『闇の王』。騎士然とした兜の奥から放たれた鋭い眼光を、ファーナムは真正面から睨み返した。

 

そして―――ドゴォッッ!!と。

 

ファーナムが振り下ろした『巨人兵の大槌』が、『闇の王』のすぐ足元を穿ち。

 

 

 

『闇の王』の突き出した『リカールの刺剣』が、ファーナムの左肩を貫いた。

 

 

 

「づッ……」

 

()()は失策だったぞ」

 

冷ややかに(わら)う『闇の王』に、ファーナムは呻吟の声を漏らすばかりだ。

 

ここで選択した武器が槍や剣であれば、あるいは手傷程度は負わせられたものを。一撃で決める為に選んだ特大武器が裏目に出たな―――鈍重に過ぎる大槌の攻撃をひらりと躱した『闇の王』の視線は、そう物語っていた。

 

彼はファーナムの左肩を貫いたリカールの刺剣を引き抜くと、そのまま目にも止まらぬ剣技を繰り出す。零れ落ちた血の雫が地面に落ちるよりも速く、甲冑に覆われたその身体を鋭い六連突きが襲った。

 

「かっ、はァ―――!?」

 

容赦のない攻撃が突き刺さる。

 

肩、胸、腹に鋭い突きを貰ったファーナムは再び血を吐き、巨人兵の大槌を手放した彼は背中から倒れ込むようにして、地面へと引き寄せられてゆく。

 

(終わりか、呆気ないものだ)

 

あっさりとやられてしまった敵を前に『闇の王』はつまらなそうに武器を構える。ならばこれで十分。次の刺突で頭部を穿ち、それで終いにしてやろうと腰を落として……そこで、気が付いた。

 

「……―――っ!」

 

バッ!と、視線を向けた先は自身の足元。

 

そこにあったのは、地面にめり込んだ巨人兵の大槌。朽ちた大木の先端にくくり付けられた巨大な岩―――それと自身の左足が、()()()()()()()()()()()()()()されていたのだ。

 

「これは……」

 

糸はべったりと絡みつき、易々と取れそうではない。『闇の王』は足元からファーナムへと視線を移動させ、その左手に持っていた武器を目にする。

 

それは歪な形をしており、ねばねばとした糸が付着した曲剣だった。

 

生理的嫌悪を催す生物の足にも似たその武器の名前は『蜘蛛の牙』。毒を打ち込むのではなく、獲物を捕らえる事に特化した異形の曲剣である。

 

(成程……狙いはこれか)

 

目を引く巨大な槌は囮。本命はその重量を利用し、『闇の王』をその場に繋ぎ止める事。半身を隠すようにして巨人兵の大槌を振り下ろしたために、左手に隠したもう一つの武器に気が付かなかったのだ。

 

『闇の王』がその狙いを理解するも、すでに状況は動いている。

 

ファーナムは倒れ込む直前に地面に手を付き、そのまま宙返りの要領で体勢を立て直すとふらつく足に力を込める。エストを飲む時間も惜しい。素早く輝雫石を取り出して砕き、体力の回復も待たずに行動に移る。

 

『闇の王』を中心に弧を描くようにして走り出す。魔術や呪術による攻撃を警戒し、つかず離れずの距離を保ちながら、再び背後へと回り込もうとしていた。

 

(まだだ……!)

 

動きを封じたとて安心はできない。むしろこの程度の足枷など、何でもないに違いない。

 

だからこそ徹底的に隙を作り、そこを突く。小さな隙ばかりを狙っていては決して勝てない、格上のモンスターを相手にするに当たっての冒険者としての定法(セオリー)を、ファーナムは実践する。

 

(決定的な“隙”を!!)

 

眦を裂き、ファーナムは『アヴェリン』と『聖壁の連装クロスボウ』を構える。互いに三連射が可能な機構を有したクロスボウは、都合六発の雷のボルトを撃ち出した。

 

紫電を纏って標的へと突き進んでいったボルトは、しかし『闇の王』が構えた巨大な鉄塊によって阻まれてしまう。

 

その鉄塊の刃はこちらに向けられている。この距離で当たる訳もなく、投擲でもする気なのかと感じたファーナムは―――次の瞬間、大きく前へと跳んだ。

 

「くっ!?」

 

『闇の王』がその鉄塊を……『ゴーレムアクス』を振り抜く。

 

その直後、飛んできたのは真空の刃であった。古き巡礼の地、センの古城において数多の英雄を屠り去って来たアイアンゴーレムの使った必殺が、ファーナムへと向けられたのだ。

 

「~~~~~~~っっ!?」

 

すぐ後方で爆発した衝撃波に背を殴りつけられながらも、どうにか直撃を免れたファーナム。大きく抉られた地面などには見向きもせず、半ば転がりかけながらも再び走り出した。

 

次に彼が手にしたのは『アザルの杖』。魔術の使用回数を大幅に減らすが、その分スペルの力を最大限まで引き出す事ができる賢人の杖だ。解き放つ魔術は『ソウルの槍』。道中、竜たちとの戦闘でソウルの奔流は使ってしまったが、それでも貫通性に優れたこの魔術の威力は侮れない。

 

槍状に練り上げられたソウルの塊がうねりを上げる中、『闇の王』は左手に盾を装備する。

 

煌びやかな意匠が美しい『紋章の盾』だ。彼はそれを迫り来るソウルの槍へと()()に構えると、あろう事か軌道をずらして無効化してしまったではないか。

 

「くそ……!」

 

憎らしいまでに見事な受け流し。パリングとも違う超高等技術を前に放たれた魔術は標的を失い、やがて淡い光の粒子となって霧散してゆく。

 

二度とも仕掛けた攻撃は失敗に終わった。

 

しかし、ようやく相手の背後を取る事が出来た。

 

これまでの攻撃は『闇の王』の気を引くものでしかない、本命はこれからだ。ファーナムは杖を呪術の火に切り替えると、下準備として『毒の霧』を発生させる。

 

―――これもまた、目眩ましのつもりか?

 

毒の霧越しに『闇の王』の声が聞こえてくるが、取り合っている暇はない。

 

十分に霧が充満したその瞬間を見極め、ファーナムは己がソウルより掴み取った得物を、力の限りに振るう。

 

 

 

「―――シィッッ!!」

 

 

 

振り下ろされた二枚刃の刀身は凄まじい斬撃を生み、それはそのままの威力で突き進んでゆく。

 

ファーナムが振り抜いた得物……『飛竜の特大剣』は、正しく竜の力を宿した武器。伝承に残る彼の竜には遠く及ばぬまでも、それでも十分な効果が期待できる。

 

クロスボウとも、魔術とも違う。正真正銘の竜から成る特大剣の一撃は、これまでのように簡単には防げはしない―――そんな淡い期待を込めて、ファーナムは霧の晴れた前方を見やる。

 

果たして、そこには………。

 

 

 

身体の前面に『ハベルの大盾』を構えた、『闇の王』が立っていた。

 

 

 

「―――――っ」

 

ぴくり、とファーナムの肩が揺れる。

 

それは動揺か。あるいは、やはり……という予感が確信に変わった故のものか。

 

「この力……(おおよ)そ、飛竜のものか」

 

衝撃波を防ぎ用済みとなったハベルの大盾を消し去りつつ、『闇の王』が口を開く。

 

「中々の威力ではあるが、残念だったな。たかだか飛竜程度の力が、岩の盾に敵うはずもない」

 

そう言って『闇の王』は、ファーナムへと()()()()

 

足元を固定していたはずの戒めはすでに解かれていた。それが強引に―――純粋に力のみで成されたのは、破壊された巨人兵の大槌が証明している。

 

「だが面白い手だった。こんな戦い方をする者は、今まで出会った事がない」

 

「………っ!」

 

悠々と歩みを進める『闇の王』。

 

一方で、ジリ……と後ずさるファーナム。

 

ここまでして一向に埋まらない力の距離。それをまざまざと見せつけられたファーナムが、兜の奥で苦々しく口元を歪める。

 

「どうした?……続きだ」

 

『闇の王』は笑みさえ浮かべていそうな声で、そう言った。

 

 

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