また、これまでにご応募下さったオリ不死人の件ですが必ず登場させて頂きますので、もうしばらくお待ち下さい。
斬りかかる。
叩きつける。
穿つ。
射る。
……その悉くが意味を成さない。
斬りかかった剣は防がれ、叩きつけた槌は砕かれ、穿ったはずの槍は止められ、射った矢は空を切る。
返す刀で振るわれる『闇の王』の攻撃は正確そのもの。今までは手を抜いていたと言わんばかりに、武器の数々はファーナムの身体を傷つけてゆき―――今や彼は、満身創痍となっていた。
「はッ、はッ、はッ……!」
ザクッ、と地面に砕かれた剣が突き刺さる。
半ばで折られた『グレートソード』を支えに、どうにか倒れ込まずに済んでいるファーナムの全身は流血に塗れていた。
入団当初には団員たちから畏怖と羨望の眼差しを向けられていた見事な鎧の姿は見る影もない。ところどころが砕け、凹み、肩の毛皮はもはや赤く染まっていない箇所の方が多い。雫となって滴り落ちる血ばかりが溢れ、瀕死も同然の様相だ。
「存外に、よく粘る」
一方で『闇の王』。
その身に纏った騎士甲冑は黒く汚れているものの、目立った傷はほとんどない。細かな傷はあるものの、それはこれまでの旅路で生じたもの。この戦いで付けられたのはほんの一部に過ぎない。
彼はファーナムの手から離れた『タワーシールド』の
「不死同士の戦いならではの光景だな。果たして相手はどのような武器を、どれだけ持っているのか―――ああ、昔を思い出す」
「………っ!」
その言葉を無視し、ファーナムはエスト瓶を呷る。
途端に傷は癒え、流血も止まる。傷ついた鎧はそのままだが、少なくとも瀕死の状態からは脱したと言えるだろう。しかしそれで安心できるかと言われれば、それは違う。
エスト瓶の中身は残り僅かにまで減ってしまっていた。『闇の王』の攻撃は受けに徹しても肉体にダメージを与え、少しでも気を抜けば致命傷となるものばかり。即座の回復を要求され続けた結果、もはや雫石もエスト瓶の残りも心許無い状況だ。
(遊ばれている、のだろうな)
未だに底が知れない『闇の王』の戦力。
戦闘開始からすでにそれなりの時間が経過しているが、ファーナムの優勢に傾いた事は一度もない。いくら武器を振るおうとも、その攻撃がまるで通じないのだ。
(長引かせる訳にはいかないというのに……!)
早く終わらせなければ、と焦りばかりが募ってゆく。
今も戦場では多くの者たちが戦っている。アイズたち【ロキ・ファミリア】の面々に、椿やルカティエルやバンホルト、そして見ず知らずの不死人たち。呼びかけに応じてくれた彼らの恩に報いる為にも、徒に時間をかける訳にはいかない。
しかし、ファーナムが焦燥感を抱く理由はそれだけではない。
(何よりも……
その焦りを悟られまいと、ファーナムは折れたグレートソードを捨て去り、新たな武装を掴み取る。
『茨の大剣』。ドラングレイグ王城にて戦った鏡の騎士のソウルより生み出された武器である。
刀身の半分ほどにまで茨が絡みついた大剣を手に、ファーナムは走り出した。対する『闇の王』はその手中に黒い弓を……『ファリスの黒弓』を出現させ、独特の構えを取る。
「!」
通常の弓の構えではない。縦ではなく横に構えられたその姿に、ファーナムの脳裏に『狩人の黒弓』が過ぎる。
使う者が使えば必殺にもなり得る熟達の黒弓―――その名を汚す事などあろうはずもなく、『闇の王』の放った矢はどの攻撃よりも鋭い一撃となって襲い掛かった。
咄嗟に茨の大剣を正面に構えたのは、半ば反射的なものだった。次の瞬間には目にも止まらぬ速度で放たれた矢が刀身にぶち当たり、その重さに似合わぬ衝撃が両腕に伝わってくる。
「っう!?」
疾走の勢いを失いかねない弓の一撃を、しかしファーナムは耐え切った。再び地を蹴るかに思われたその足で思い切り踏み締めた彼は、渾身の力を以て茨の大剣に秘められた力を解き放つ。
「―――ハァッ!!」
大斬撃。
彼我の距離では決して届かない刀身から放たれたのは、一条の雷であった。
鏡の騎士が使った技。その刀身から雷を放つ必殺は、確かにこの大剣にも伝わっていた。ドラングレイグ王城、その最奥まで辿り着いた数多の不死を屠り去って来た一撃が、『闇の王』目掛けて一直線に突き進んでゆく。
「……ふん」
迫り来る雷撃に対し『闇の王』はつまらない風に―――或いは不快そうに―――鼻を鳴らす。
彼はおもむろに前傾姿勢となった。その時には手中の弓は姿を消し、代わりに鞘に納められた極東の刀剣『居合い刀』が、その腰に備えられていた。
すでに目前へと迫った雷撃。瞬きひとつする間に直撃するであろうそれは―――『闇の王』が鞘より抜き放った斬撃によって真っ二つに切り裂かれてしまう。
「なっ!?」
雷撃を両断する光速の斬撃に、思わず絶句するファーナム。避ける、防ぐといった行動は予想していたが、まさか真正面から打ち破られるなど露ほども思っていなかったからだ。
紫電が纏わりついた刀身を振り払い、『闇の王』は悠然と刀を鞘へと納める。その姿にまだまだ本気になっていないと察したファーナムはどうにか状況を打開すべく、自身の持つ武装の中でも最重量の得物『溶鉄槌』をソウルより顕現させる。
それを
(―――――ッ!?)
体内を駆け巡った
ほぼ反射的に溶鉄槌を
「ぉぉおおおおおおッ!!」
ゴォンッ!!ゴキィンッッ!!と、凄まじい轟音が連続する。
(ほう。たかが金属とは言えここまで巨大な鉄塊であれば、朽ちぬ古竜の牙を相手にしても打ち合えるという事か)
ファーナムが振るう規格外の大槌を真正面から打ち払いつつもそんな事を考えていた『闇の王』は、しかしどこか違和感を感じていた。
(この不死人、これまでに相当量のソウルを吸収してきたに違いない……ではなぜ両手で振るう攻撃が
今なお振るわれ続ける大鉄槌。
それは常人であれば持ち上げる事すら困難で、巨大な鉄塊。下手に扱えば隙を呼び込んでしまうような武器を取り出した以上、扱いが未熟であろうはずもない。にも拘らず繰り出される打撃は両手で振るっているとは思えない程に軽いのだ。
手からすっぽ抜けてしまう事を恐れているような、どうにも腰が入りきっていないような……そんな釈然としない感情を抱く『闇の王』であったが、そこである事に気が付いた。
それは淡い光の粒子―――すなわちソウルが、ファーナムの身体から放出されている事を。
「お前……それは」
「っ!!」
途端、バッ!と距離を取ったファーナムは、着地と同時にちらりと横目で自身の身体を確認する。
肩から、背中から、腕から、脚から、全身から。絶えずソウルの流出は続いている。勢いは極めて緩やかではあるものの止まる気配はなく、ある意味では幻想的とさえ言える光景である。
(くそ、始まったか―――っ!?)
声にこそ出さなかったものの、ファーナムの心は荒波の如くざわめいていた。
そしてその焦りを感じ取ったかのように、『闇の王』は兜の奥で口角を吊り上げる。
「なるほど……
「ッ!!」
確信をもって発せられたその言葉を、ファーナムは跳ね返す事が出来ない。ただ言葉を詰まらせ、視線を落とさずにするだけで精一杯だ。
それもそのはず。『闇の王』が見抜いたのは、紛れもない事実なのだから。
「思えば当然の事だ。これほどの数の同胞を招き入れる秘術―――ここでは魔法と言うのか?それを行使しておきながら、代償の一つもない訳がない」
「………」
否定はしない。ただ静かに見据えるのみ。
それこそが答えだとでも言わんばかりに、闇の王は笑みを深める。
そんな中で……ファーナムの身体は緩やかな喪失感に苛まれていた。
ファーナムが発現させた魔法【ディア・ソウルズ】。
それはドラングレイグを旅した他世界の不死人たちを実体として現界させ、共闘するための魔法。自分の為だけでは効果を発揮できない、仲間を想う強さに応じて効果範囲を増減させる魔法だ。
そして、その詠唱の一節にはこうある。
【出会いし友を胸に、奪いしソウルを糧に、
そう。
この魔法は、正しくファーナムという不死人を薪に燃え続ける炎に等しい。
世界と世界を繋げる大禁呪。『白いサインろう石』も使わずに、およそ一千もの不死人を現界させる為の原動力。それは即ち万物の源、ソウルである。
ファーナムがこれまでに収集してきた、己が内に溜め込み、或いは血肉としてきたものすべてを捧げて初めて完成する魔法……それが【ディア・ソウルズ】の正体なのだ。
「ソウルを代償とした場合に起こる現象、それは恒常的な能力の低下。筋力や体力は衰え、覚えた魔術や呪術なども次第に使えなくなる……と言ったところか」
『闇の王』の分析は的を射ていた。
ソウルによって常人を凌駕した肉体を得られるという不死人の特性上、その身に宿るソウルを捧げるという事は文字通り自身の全てを捧げるという事になる。
高い筋力を必要とされる武器は持ち上げる事すら難しくなり、まともに剣技を振るうための技量すら失う。記憶した魔術、呪術、奇跡は次第に忘却し、行使に必要な最低限の力も消えてゆく。
これまでに自身が歩んできた証。血に塗れた旅路、強者たちとの戦いの記憶、その果てに得たもの全てが失われてゆき……最後には奇跡の炎は燃え尽き、非力な一人の不死人しか残らない。
自己犠牲という言葉で片付けるには、余りにも大きすぎる代償だ。
「………その通りだ、『闇の王』」
誤魔化す素振りすら見せず、ファーナムはこれを素直に認めた。
溶鉄槌を肩に担ぐのではなく地に付けている事が何よりの証拠だった。それに見合う筋力など、今の彼にはすでに無いのだから。
(知られる前に
こうしている間にもその内からはソウルが失われ続けている。
一千にも及ぶ不死人たちを現界させ続けている以上、それに見合うソウルの量も膨大なものだが無限ではない。ファーナムの内からソウルが尽きたその瞬間……呼びかけに応じた不死人たちも、元の世界へと戻ってしまうのだ。
(だとしても―――っ!)
そう。
だとしても、やるしかない。それ以外に出来る事はなく、また、それが唯一出来る事なのだから。
「……何が」
「……?」
いざ飛び掛からんとしたファーナムだったが、『闇の王』の呟きがその動きを留めた。
「何がお前を、そうまでさせる」
「何が、だと?」
「そうだ。己の歩んできた旅路の全てが無に帰すやも知れない。それ程の事を、何故お前はこの世界の神々のために実行できるのだ」
理解に苦しむ。『闇の王』の言葉の端からは、そんな感情が見え隠れしていた。
ここへ来ての質問を、ファーナムは無視など出来なかった。ソウルの流出は始まっており、時間も限られている。しかしこの問いかけを振り払うのは違うと、そう直感的に感じたからだ。
「……別に、全ての神々を助けたいと思っている訳ではない」
ファーナムの脳裏に浮かぶ神々の顔。
自身の主神ロキを始め、椿の主神であるヘファイストス、ギルドの主であるウラノス。他にも街中で目にした多くの神々がおり、彼らもまた今のオラリオを形成している重要な者たちだ。
その一方で、
今もオラリオのどこかで彼らは息を潜ませているとの噂だ。法と秩序とは正反対の、混乱と無秩序を望むその神々など、正直ファーナムはどうなっても構わないと……否、捕らえて天界に送還すべき存在であると理解している。
「善神は人々と共に在り続けるべきだ。俺はそう考えているが、お前は違うのだろう。善も悪もない、全ての神を殺そうとしているのだろう」
「無論だ」
「俺にはそれが許せない。全ての神を悪と決めつける、お前のその考えがな」
神という括りで全て悪であると断じる『闇の王』。
何故そこまで神を敵視するかを知らぬファーナムは、言葉に熱を込めて反論を加速させる。
「
「………」
「人々の穏やかな暮らしを壊してはならないっ!……どのような
どの口が言う、とファーナムは我ながらに思った。
目覚めたらこの地にいた訳だが、それでもオラリオから出てゆく機会はいくらでもあった。誰もいない土地まで行き、そこで果てる道だって選べたはずだ。
それが人々の優しさに触れ、神の慈愛に触れ、今の自分がある。そうであるが故に、口を挟まずにはいられない。矛盾しているかも知れないが、それでも黙ってはいられなかった。
言いたい事を伝え終えたファーナムは、静かに『闇の王』の出方を窺う。
「………
「―――っ」
その言葉に、ファーナムの肌が泡立った。
声自体は大きくはないのに巨獣の唸り声を間近で聞いたかのような、そんな奇妙な感覚。理性ではなく本能に訴えかけてくるその声に、思わず後ずさりしてしまいそうになる。
そんな中、『闇の王』は唐突にこう切り出した。
「不死人よ、お前は神々がいなくなった後の世界を想像できるか」
「神々がいなくなった後の世界……?」
「そうだ。神々の駆逐を終え、ソウルという概念も、存在すらも消え失せ、真に人の世となった世界を」
『闇の王』は虚空を仰ぎ、瞼の裏にそれらの世界を思い浮かべる。
「独自の魔術体系を一から作り上げた世界があった。秩序が大地を駆け巡り平和を実現させた世界があった。我々が目にしてきた事の無いような、未知の技術で溢れた世界があった」
「魔術に依らず“光”を制し、呪術に依らず“火”を操り、奇跡に依らず“雷”を生み出した。それらの技術を
「鉄の翼で空を駆け、空より高き空へと旅立ち、更にその先へ思いを馳せる。海の底より更に底、未知の領域へと挑戦し続ける世界があった。これら全て、人のみの力によるものだ」
「無論、どれもが明るい世界ではなかった」
「とある世界では獣が跋扈し、血と臓物に彩られた世界があった。とある世界では
「それでも、そんな世界にあっても人は強くあり続けた」
「神に干渉され続ける者には抱く事すらない、自分たちの力で生きていこうとする意志があったのだ」
「理解できるか、不死人よ」
神々がいなくなった世界……これまでに
騎士兜の奥より注がれる静かなる視線には、嘲りも侮蔑も色もない。神々の存在しない世界に生きる人々の強さを説いた彼は、まるで諭すかのような口調で語りかけた。
「故に私は、神どもを駆逐せねばならない。奴らに惑わされ、玩具となる者を一人でも多く救うために。流さなくても良い涙を流す者を、これ以上増やさぬために」
「………」
「お前のその力は強大だ。その力があれば、きっとこれまで以上に多くの神どもを殺す事ができる」
「………何が言いたい」
声を固くさせるファーナムに対し『闇の王』は平然と答えた。
「我々と来い、不死人よ。共に神どもを殺し、真なる人の世を創り続けるのだ。他ならぬ、哀れな人の子らのために」
ザッ、ザッ、と歩を進め、近付いてくる『闇の王』。
その手から武器は消え失せ、戦意は既にない事を示している。その気になれば一瞬で武器を取れるのだろうが、自ら不利な状況を作り上げる事でその意思をより分かりやすくファーナムへと伝えてくる。
「さぁ。この手を取り、我々と共に来い」
「………」
壊れた武器で彩られた灰の丘に、静寂が落ちる。
手を差し伸べる『闇の王』と、伸ばされた手を見つめるファーナム。
そのまま数秒の時が流れ―――ファーナムは口を開いた。
「ふたつ、聞かせてくれ」
「構わん」
「……お前にとって人とは何だ」
「無論、救うべき対象だ」
「では、神とは何だ」
「なんだ、
この問いかけに『闇の王』はフッと軽く笑うと、またしても平然と答えて見せる。
その言葉は淀みなく、『闇の王』の感情をよく表していた―――だからこそ、ファーナムは全神経を集中させてその声に聞き入った。
「神とは敵だ。殺しても、殺しても、それでもなお足らん……一匹たりとも逃す事など出来ない、駆逐すべき汚物どもだ」
「………そうか」
その答えを受け、ファーナムは小さく息を吐いた。そして握り締めていた溶鉄槌をソウルへと還元させると、無手となった右腕を持ち上げる。
差し出された手へと伸びる右手。次第に距離はなくなってゆき、遂に『闇の王』の手を取った―――――瞬間。
「ッッ!!」
ぐんっ!と、ファーナムは『闇の王』の身体を思い切り引き寄せる。左手にはいつの間にか『盗賊の短刀』が握られており、錆の浮き刃こぼれした刀身が『闇の王』の腹部めがけて吸い込まれる。
が、それは直前のところで止まった。
『闇の王』の左手がファーナムの左手首を掴んだのだ。紙一重で、という訳ではない。こうなる事も予想していたかの如き対応の通り、兜の奥から発せられた声は冷静そのものだった。
「何のつもりだ、不死人よ」
「ぐぅ……ぁあっ!」
ミシリ、と手首の骨が軋みを上げる。このままでは折られかねないと踏んだファーナムは咄嗟に右脚を振り上げ、半ば強引に『闇の王』から距離を取った。
縮まった距離が再び元に戻る。
手首を押さえながらも前方を睨みつけるファーナム。その視線に込められた意志は固く、もはや『闇の王』がいかなる言葉をかけようとも、彼の考えを変える事は出来ないだろう。
「……今の言葉で、はっきりした」
「何がだ」
「とぼけるなよ『闇の王』。人の子らを神から解放するなどと聞こえの良い事を言っておきながら―――お前の言葉には、
ファーナムは断言する。
『闇の王』は真の人の世を到来させる存在などではなく……神への殺意に支配された、ただの災厄でしかないのだと。
確信するに至ったのは、先ほどファーナムが投げかけた二つの問いが原因だ。
人とは何か、という問いに対し『闇の王』は救うべき対象だと即答した。これまで語ってきた世界の話と照らし合わせて考えれば、その答えにはどこもおかしな点はない。
だからこその二つ目の問いである。神とは何か、という問いに対する『闇の王』の答え。それは“人は救うべき対象”と答えた時よりも遥かに重い、怨嗟にも似たどす黒い感情が込められたものだった。
これでファーナムは確信した。
『闇の王』の目的とは人々の救済―――真の人の世を創り出す事ではなく、神という存在を殺し尽くす事、ただそれだけなのだと。
「お前は人々の事など大して興味がないのだ。神殺しを終えた後の世界で、人々が死に絶えようが繁栄しようがどうでも良いと、そう思っているのだろう」
「………」
「お前はただ殺したいだけなのだ。神というだけで全てを憎み、全ての世界からその存在を抹殺したいだけなのだ!違うか!?」
咆哮じみたファーナムの怒声が木霊する。
大気を震わす程の圧も、しかし『闇の王』には届かない。
無言を貫く彼が兜越しに見るファーナムは肩をいからせ、更に追求する。
「答えろ、何がお前をそうまでさせる。何がお前をそこまで掻き立てる!人々が笑って暮らしている今の世界を壊そうとしてまで……答えろ、『闇の王』ッ!!」
何がそこまで神殺しという行為をさせるのか。
それに対する答えを、『闇の王』は持ち合わせている。
彼の地、ロードランを旅した数多の不死人たちにとっても理解しがたい……否、そもそも理解する事すら不可能かも知れない、彼だけの答えを。
(私が神を殺し続ける理由、か―――)
『闇の王』の脳裏に過ぎる、かつての光景。
それは多くの不死人がそうであったように、人であった頃の記憶が消え失せ、最初の記憶が北の不死院にある薄暗い牢獄に入れ替わったあの光景……
彼が思い浮かべるその光景とは―――。
彼が身に着けているペンダント。
そこに彫られた横顔と同じ人物である、とある少女との記憶であった。