不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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※今話は独自解釈多めです。


第六話 女体型

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

金色の髪をなびかせ、アイズは魔力の風を愛剣《デスペレート》に纏わせる。  

 

先程の戦闘では見る事の無かった未知の属性付与(エンチャント)に目を見張るファーナム。そんな彼を差し置いて、アイズは崖から飛び降り、二体の女体型のモンスターの片割れに突貫する。

 

「見た事の無い魔術だな。それも触媒も無しに行使するとは」

 

感心したように一人呟くファーナムだったが、すぐに気を取り直して戦闘態勢に入る。

 

嵌めていた四つの指輪の内の一つをその指から外し、新たに別の指輪を嵌める。銀色の猫が象られた指輪『銀猫の指輪』を嵌めたファーナムは、その手に新たな武器を出現させる

 

返しが付いた特徴的な槍『ウィングドスピア』。それと先程取り出したゲルムの大盾を構え、ファーナムはアイズと同じく崖より飛び降りた。

 

眼下にはアイズが二体の女体型の注意を引き付けている光景が広がっていた。一体はアイズのすぐ近く、もう一体はちょうどファーナムの真下だ。

 

頭上より襲い掛かって来たファーナムの気配を察したのか、女体型は大きく体をのけ反らせ、そのエイの様な扁平な腕の一対を体の前で交差させて防御の姿勢を取る。

 

大型のモンスターに似つかわしくない機敏な動きではあったが、ファーナムはうろたえる事は無かった。

 

突き出していたウィングドスピアを引っ込め、代わりにゲルムの大盾を眼前に構える。女体型の腕とゲルムの大盾、それらがぶつかり合って激しい衝突音を生み出した。

 

ゲルムの大盾の重量に加えて助走をつけたファーナム自身の体重もあってか、防御した女体型の上半身が少なからずぐらついた。その隙を見逃すこと無く、ファーナムはウィングドスピアを女体型の胸目掛けて投擲する。

 

「ふっ!!」

 

短く息を吐き出すと同時に投擲されたウィングドスピア。

 

クロスした腕の隙間をすり抜け、女体型の胸へ深く突き刺さるはずだったその一撃は、しかし防がれてしまう。

 

「!?」

 

ウィングドスピアは確かに女体型の体に突き刺さっていた。

 

しかしその場所は胸では無く、もう一対の(・・・・・)クロスされた腕だった。

 

(失念していた。コイツの腕は二対四本、であればこう言った芸当も出来るという訳か!)

 

女体型のクロスされた腕の上で器用にバランスを保ちながら、冷静に相手の特性を分析するファーナム。一方の女体型は胸への一撃は回避したものの、もう一対の腕を貫通したウィングドスピアがもたらした痛みにのたうつ。

 

『ォァァアアアアアアアアアッ!!』

 

傷を付けられた痛みと怒りに暴れる女体型。金切り声にも似た咆哮を響かせる女体型がその腕を振り払う直前で、ファーナムはそこから飛び降りて離脱を成功させる。

 

銀猫の指輪のおかげで落下によるダメージはほとんど無い。安心したのもつかの間、突如として女体型の平面な顔に横一線の亀裂が走り、そこから腐食液の塊が撃ち出された。

 

「!」

 

咄嗟に真横に飛び、腐食液を回避するファーナム。次の瞬間にはもといた場所はどろどろに溶かされ、巨大な穴が開けられていた。

 

「射出速度もその量も、先程の芋虫共とは桁違いか……厄介だな」

 

漂ってくる異臭に顔をしかめながら、ファーナムは対策を考える。

 

先程の芋虫たちは口から腐食液を吐き出していた、そしてこの女体型も同様に、(おそらく間違いはないだろうが)口から吐き出した。

 

普通に考えれば女体型の背後に陣取っていれば腐食液の脅威から逃れられるだろうが、ファーナムはそうは考えなかった。

 

(あの後頭部の管……)

 

生物の体の構造に無駄は無い。

 

キリンの首が長いのも象の鼻が長いのも、それは高い位置にある草を食べたり、その鼻で物を器用に掴む為である。一見無意味に見えるものにも必ず何らかの理由があるものだ。生物の体とは決して無駄な造りをしている訳では無い。

 

そしてそれは、迷宮内のモンスターに対しても同じ事が言える。

 

端から見れば一見髪の毛のように見えるその管。しかしファーナムは女体型の体から飛び降りる際に、僅かだがその管が意思を持ったかのように動くのを見た。

 

(おそらくはあの管も腐食液、あるいは毒針等を射出するための攻撃器官なのだろう。それに加えて見た目以上に動きも機敏だ。奴の周囲に安全と言える死角は存在しないか)

 

ファーナムはゲルムの大盾を自身のソウルに還元する。先程の腐食液を受ければ溶かされる事は間違いない、なれば下手に防御に回らず回避に専念しようという事だ。

 

見れば女体型は貫通したウィングドスピアをその体液で溶かし、貫通した一対の腕も自由になっている。そうして女体型はその四本の扁平な腕を胸の前でクロスさせるように大きく振った。

 

次の瞬間、ファーナムの目の前を夥しい量の鱗粉が覆う。先程の爆発の威力を思い出したファーナムは後方に大きく跳躍し、鱗粉から距離を取る。

 

数秒の間を置き、鱗粉は爆発した。爆発の効果範囲外にまで避難していたファーナムだったが、その熱は兜越しにその肌にまで伝わってくる。

 

相手の出方を窺っていると、爆発によって巻き上げられた土煙を切り裂き、女体型がその巨体をさらけ出した。その扁平な腕のうちの一本を大きく振りかぶり、ファーナムを頭から叩き潰そうとする。

 

体格に見合った巨大な腕による攻撃は、それだけで大槌の一撃を彷彿とさせる。容赦なく振り下ろされた女体型の腕、それをファーナムは盾で受け止める事はせず、代わりに別の物で迎え撃つべく走り出す。

 

両者の距離はゼロになる。それと同時に液体が吹き出し、耳を(つんざ)くような悲鳴が半壊した第五十階層に響き渡る。

 

 

 

しかし、それはファーナムから発せられたものでは無い。

 

 

 

『アアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

 

巨体を地に伏して悶え苦しむ女体型。ファーナムを叩き潰そうと振るったその腕は先端から肩口までを一直線に切り裂かれ、周囲に腐食性の体液を撒き散らす。

 

一方のファーナムはと言うと、その悲鳴を背に感じながら地面に着地した。女体型の一撃を跳躍と同時に武器で迎え撃ち、その勢いのままに宙を跳んでいたのだ。

 

着地したファーナムは、女体型の体液がへばり付いた武器をブンッ!と振るう。通常の武器であれば即座に腐食されてしまうが、この武器はそうでは無かった。

 

「どうやら、これなら破壊される心配は無さそうだな」

 

そう言いつつ、武器を構え直して女体型のいる方を向くファーナム。

 

その手に握られていた武器はまたしても槍だった。しかしその造形は、先程破壊されたウィングドスピアとは大きく異なっている。

 

ウィングドスピアのものよりも大きく、肉厚な刀身。柄には何やら岩を貫いたような痕跡があり、異様な雰囲気を醸し出している。

 

それは『サンティの槍』と言う。

 

かつて動く巨像サンティを仕留めたと言う逸話の残る名槍は、すでに破壊されている武器故に破壊されないという特殊な性質を持つ。そしてそれは、女体型の腐食液に対しても十分に有効だった。

 

「さぁ、続けようか」

 

ファーナムはへばり付いた腐食液を振り落としたサンティの槍を肩に担ぎ、女体型に向き直り、そう言ってのけた。

 

 

 

 

 

少し離れた場所で交戦しているファーナムを横目で意識しつつ、アイズもまたもう一体の女体型と戦っていた。

 

風属性の付与魔法を操るアイズ。その身に纏わせた風を使って、まるで本当に飛んでいるかのように動き回り女体型を翻弄する。

 

そんな中で、ちらりと視界に入ったファーナムの姿。その手に持った槍には女体型の体液がこびり付いていたが、彼がそれを一薙ぎするだけで腐食性の体液は振るい落とされた。

 

(あれは……『不壊属性(デュランダル)』?)

 

不壊属性(デュランダル)』。

 

超硬金属(アダマンタイト)の更に上をいく硬度を誇る金属、最硬金属(オリハルコン)を素材に作成された、事実上、破壊不可能の武器や防具の事を言う。

 

アイズの愛剣《デスペレート》もまた不壊属性(デュランダル)の特性を持ち、今回の腐食液の体液を持つモンスター達との戦闘にも大いに貢献した。

 

(……あとで見せてもらおう)

 

戦闘狂(バトルマニア)故の性か、身体に風を纏わせて跳び回るアイズは静かに心の中でそう決めた。しかしそれも、この女体型を倒してからだ。

 

器用に女体型の後方に回り込んだアイズは剣に魔力の風を纏わせる。女体型の後方の壁に着壁(・・)しつつ、女体型の頭部を鋭い眼光で射抜く。

 

(いける!)

 

狙いを定め、その頭部を切り落とすべく足に力を込めた、瞬間。

 

 

 

「油断するなっ、アイズッ!!」

 

 

 

「!?」

 

ファーナムの鋭い声がアイズの耳を叩く。彼はもう一体の女体型の攻撃をその槍でいなしつつ、アイズの動きもきちんと把握していたのだ。

 

一体何が?とアイズが疑問に感じると同時に、アイズが狙いを付けていた女体型の後頭部の管が不意に震える。

 

複数本の管は意思を持ったかのように独りでに動きだし、アイズ目掛けて例の腐食液が撃ち出された。

 

「!!」

 

降りかかる腐食液の雨を纏う風の気流だけでは防ぎ切れないと判断したアイズは剣を使い、腐食液を切り払う。そこにすかさず女体型の扁平な腕での攻撃が加えられる。

 

何とかその攻撃を受け止めたアイズであったが、せっかく潜り込んだ敵の懐から吹き飛ばされてしまう。その瞬間を逃さず、女体型はもう片方の腕から極彩色の鱗粉を放出させる。

 

先程とは比べ物にならない程の量。終わらせにかかっていると感じたアイズはその身に纏っていた風を一気に周囲に放出、周囲を取り囲んでいた鱗粉をまとめて吹き飛ばす。

 

数瞬遅れ、鱗粉は爆発。しかしそれはアイズにでは及ばず、何も無い空中での無意味な爆発に終わった。

 

女体型から離れた場所で着地したアイズは相手の出方を窺いつつ、頭の中で情報を整理する。

 

(―――――爆発するまで、三秒)

 

今までの戦闘で女体型の振りまいた鱗粉、それはいずれも爆発するまでに、およそ三秒の猶予があった。

 

つまり、この三秒間の内に何らかの対処さえ行えば、脅威は大幅に減少する。

 

確信を持ったアイズは離れた場所にいるファーナムにも聞こえるよう、慣れない大声を上げて情報を伝える。

 

「ファーナムさんっ、爆発までの時間はおよそ三秒ですっ!!」

 

 

 

 

 

浴びせ掛けられる大量の腐食液。まともに食らえば皮膚どころかその下にある筋肉と骨までも一緒くたに溶かされ、肉の一片すらも残る事は無いだろう。

 

そんな猛攻にファーナムは真正面から相対する。手にしたサンティの槍を両手で操り、まるで剣舞のような動きで腐食液を受け流す。

 

その動きはまるで高速回転する風車。目にも止まらぬ動きで振るわれるサンティの槍は腐食液を全て弾き、ファーナムには一滴も被弾する事は無かった。

 

ヂャッ!とサンティの槍を振るい終えたファーナムは、元の構えに戻る。一分の隙もないファーナムの構えに、女体型は怯むかのように僅かに後ずさる。

 

端目から見れば押しているのはファーナム、しかし実を言えばそうでも無い。

 

(このままではジリ貧か……)

 

爆風も防げる。腐食液もいなせる。薙ぎ払いも対処は可能。しかし決定打に欠ける。

 

体格差・手数の多さから考えても、このまま戦闘が長引けばいずれは窮地が訪れる。この状況から脱するには、何か決定的な隙が必要だ。

 

竜狩りの大弓は有効だろうが、装填から射出までに時間がかかりすぎる。敵の後方に張り付こうにも、後頭部の管が攻撃器官であると判明した以上、それは悪手だ。

 

せめて何か、このモンスターに関する情報は無いものか……。ファーナムがそう考えたその時、まるで見計らったかの様なタイミングでそれは与えられた。

 

「ファーナムさんっ、爆発までの時間はおよそ三秒ですっ!!」

 

目の前の女体型と睨み合っていたファーナムに、アイズの助言の声が降りかかる。突如として与えられた助言だったが、それをファーナムは正確に受け取る。

 

(爆発まで……三秒!)

 

その時、ファーナムとアイズがいる場所よりも離れた位置から、一つの閃光が上がった。それはフィン達の撤退が完了したと同時に、女体型の撃破が許可された事を意味していた。

 

アイズよりもたらされた情報を加味し、一瞬で戦法を確立させるファーナム。若干の不安要素はあったが、自身の考えが正しければ実行する価値は十分にある。

 

ファーナムは女体型に向かって走り出す。それに反応し、敵を叩き潰すべく女体型もその腕を振るう。

 

負傷した腕を除く三本の扁平な腕による薙ぎ払い。地面すれすれで水平に振るわれた最初の一撃をファーナムはジャンプして回避、続く第二撃・第三撃も体を捻って二本の腕の隙間を縫うようにして回避する。

 

敵の懐に入り込んだファーナムはサンティの槍を大きく振りかぶり、女体型の芋虫の下半身部分、その体の左側を深く斬り付ける。

 

『ォァアッ!?』

 

吹き出す体液、それに呼応するように女体型の悲鳴が上がる。痛みの発生源付近に向け腕を振るう女体型、しかしそこにはファーナムの姿は無い。

 

一体どこに?といった様子で周囲を警戒する女体型。眼球の無いその視線は、ちょうど女体型の右側で定まった。

 

その先にはファーナムが立っていた。構えを解いた格好で、半身だけを女体型の方向に向けている。女体型はファーナムとの距離から爆破による攻撃を選択、傷つけられた腕も使用し大きく広げ、大量の鱗粉を舞い上がらせようとする。

 

同時にファーナムも動く。

 

鱗粉が降り注ぐよりも先に女体型に向かって走り出し、開いた距離を一気に詰めにかかる。女体型は腕を振るおうとするも、すでに鱗粉は吐き出される寸前だ。急に攻撃を止める事も出来ず、結局女体型はそのまま大量の鱗粉を振りまいた。

 

そのまま流れるような動きでファーナムへ攻撃を加えるべく、その顔に亀裂を走らせる。距離はおよそ20M、まだ懐には程遠い。

 

疾風のような速度で地を駆るファーナムに狙いを定めた女体型は大きく口を開き、腐食液を撃ち出そうとした、その時。

 

 

 

不意に、ファーナムの姿が消えた。

 

 

 

『!?』

 

まるで煙のように掻き消えたファーナムの姿。

 

一瞬前方にローリングしたかと思えば、次の瞬間にはその姿は消え、女体型の感知から外れていた。焦った女体型は困惑しつつも、当然周囲を警戒する。

 

そしてピクリ、と女体型の肩が僅かに動く。

 

ガバッ!とその巨体ごとある一点に向けた女体型は三本の腕を振り上げ、その場所を目掛けて突進していった。

 

 

 

 

 

極彩色の鱗粉が漂う空間を切り裂き、ファーナムは疾走する。

 

敵の接近に気が付いた女体型は顔面に亀裂を走らせ、迎撃の態勢に移行する。地を駆るファーナムは女体型の動きに注意しつつ、装備していた指輪を付け替える。

 

装着を終えると同時に前方へローリング。一気に距離を詰めるのに十分接近していたため、ファーナムは女体型の懐へ飛び込む事に成功した。

 

突如として姿が消えた事に対し困惑する女体型。ファーナムはローリングの体勢から戻りつつ、素早くある物(・・・)を取り出す。

 

(一秒……)

 

取り出したそれをファーナムは狙いを定めて投げつける。狙い通りの場所に落下したそれは青白い煙を放ち、粉々に砕け散った。

 

(二秒……)

 

それを感知した女体型はまるで誘われるように、それが砕けた場所へと突進していった。未だ煙を放ち続けるその場所目掛けて腕を振り上げる女体型、負傷した腕を除く三本ある腕のうちの一本がその煙に叩き付けられようとした、その瞬間。

 

(……三秒)

 

 

 

―――――爆発、いくつもの火の玉が咲き乱れる。

 

 

 

『オッ――――――――――ァァアアアアアッッッ!!?』

 

先程よりも規模が大きい爆発、その衝撃は安全圏まで逃れていたファーナムの全身を叩き、腹の底にまで重く響くほどであった。爆風を腕で遮りながら、ファーナムは自身の思惑が上手くいった事に、満足げに口元を吊り上げる。

 

「やはりな。思った通りだったか」

 

ファーナムがおこなった一連の行動はこうだ。

 

爆発するまでの時間はおよそ三秒。アイズよりもたらされた情報をもとに、彼は鱗粉が吐き出されると同時に走り出した。

 

この時付け替えられた指輪の名前は『愚者の指輪』。かつての鉄の王国で手に入れたこの指輪は、装備した者の姿をローリングの最中に限り不可視にする事が出来る。この効果により、女体型はファーナムの姿が消えたと認識したのだ。

 

そうして素早く敵の懐に入り込んだファーナムが取り出したのは、青ざめた色をした、人の頭骨を模したアイテム『誘い骸骨』。

 

砕け散った場所にソウルを含んだ青白い煙を発生させ、ソウルに飢えた亡者などを誘き寄せるためのものだ。

 

ファーナムがこれを使ったのは自身の推測に基づいての事だった。

 

最初の戦闘―――モンスターたちとの戦闘を繰り広げたあの『闘技場』。あの場所から今に至るまで、ずっとソウルらしき気配を感じていた。

 

ソウルとは万物に宿るもの。その大きさに差こそあれど、ソウル無くして成り立つものなどは存在しない。

 

慣れ親しんだソウルとは少し異なるその気配に不安が残ったが、まずファーナムはこの未知の場所にもソウルは存在すると仮定した。

 

そしてモンスターたちを倒した時。

 

この時もまた、倒した敵のソウルが自身の中に吸収されるのを感じた。倒した敵の強さの割にはそのソウルはやけに小さかった気がしたが、これによりファーナムはこの地におけるソウルの存在を確信した。

 

さらにモンスターたちの習性。

 

この地における亡者や異形のようなもの……モンスターという存在は、アイズたち冒険者を見つけると問答無用で襲い掛かってくる。その様子は、正しくソウルに飢えた亡者たちそのものだ。

 

以上の事から、ファーナムはこの地における冒険者とモンスターの関係を、不死人と亡者の関係に当てはめる事にした。未だ不可解な点はあるが、こう考えれば自ずと女体型との戦い方も見えてくる。

 

ジリ貧の状況を打破するべく実行したこの戦法は見事に功を奏した。誘い骸骨は女体型が振りまいた鱗粉が漂う空間の中に落下し、ソウルを含んだ煙は亡者同様に女体型を誘き寄せた。

 

爆発までの時間を計算して投げ付けられた誘い骸骨。それに誘き寄せられた女体型は自らが振りまいた鱗粉が漂う空間に突撃し、その爆発に呑み込まれた。

 

爆発に巻き込まれた女体型は腕を大きく振り回して悶え苦しむ。体の至る所から炎と黒煙を上げ続ける女体型の前方に歩み出たファーナムは、サンティの槍を構える。

 

「礼を言うぞ、異形。この戦闘は中々に実りのあるものだった」

 

独り言のようにそう呟いて走りだすファーナム。彼の接近に気付いた女体型は火傷だらけの腕を振るって迎撃を試みる。

 

しかし万全の状態ならばいざ知らず、全身に火傷を負った女体型の動きは先程までに比べて格段に鈍い。向かってくる腕をファーナムはすれ違いざまに切り裂き、時には切り落とし、芋虫の下半身を踏み台に顔の高さまで飛び上がる。

 

サンティの槍を片手で持ち直し、空中で大きく体を捻る。女体型は最後の抵抗とばかりに大口を開け、腐食液を撃ち出そうとする。

 

が、ファーナムの方が速かった。

 

 

 

「終わりだ」

 

 

 

胸を突き出し後方に反り返った槍投げのような体勢から突き出された一撃は、女体型の巨大な頭部を深く抉った。サンティの槍の先端は頭部を貫通、後頭部からその肉厚な刀身が顔を覗かせる。

 

大口を開けたまま固まる女体型。その巨体がビクリと一瞬震えたかと思うと、サンティの槍を突き立てられた頭部から、ボコボコボコッ!と急激に肥大が始まった。

 

「!!」

 

一瞬で異常を悟ったファーナムはサンティの槍を引き抜きながら、それを自らのソウルに還元させる。視界の端ではアイズが仕留めた女体型も同様の変貌をとげている。

 

支えを失い落下しながらも、すかさずファーナムはその手にソウルを収束させる。形作られたのは先程の使ったゲルムの大盾、それを両手でしっかり握り、来るであろう衝撃に備える。

 

数瞬の間を置き。

 

視界が、赫く染まった。

 

 

 

 

 

押し寄せる熱風、全身を叩く衝撃波。

 

二体の女体型がいた場所からかなり遠くまで退却していたフィンたち【ロキ・ファミリア】のもとまで、その余波は届いていた。

 

アイズとファーナムが撃破した、二体の女体型。これらは絶命の間際にその体を膨張させ、巨大な爆発を引き起こした。単体でも危険なそれが二つ分ともなれば、その威力は計り知れない。

 

【ロキ・ファミリア】全員の顔に緊張の色が浮かぶ。視線の先は灼熱に包まれ、否応でも鍛冶師が扱う炉を彷彿とさせる。

 

まさか……最悪の光景が団員たちの頭をよぎろうとしたその時、二つの人影が浮かび上がった。

 

一つは小柄な、線の細い人影。

 

もう一つは大柄で、力強い印象を与える人影。

 

次第に明らかになってゆくその姿に、団員達は息を呑む。

 

半壊した防具、煌めく剣の輝き。

 

煤けた重装鎧、背負った大盾の荘厳さ。

 

燃え盛る炎を背に帰還した冒険者と不死人を、団員達の大歓声が包み込んだ。

 




最後の方は書いててすごい楽しかったです。やっぱりファーナム装備はこういう場面によく映えると思いました。

ところでレクリエイターズって面白いですよね。いつかこのSSも書いてみたいです。

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