歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

34 / 67
27話

前日にイチカからエンシェントセキュリティー社のオペレーター達と訓練してもらうと言われ、一発イチカをぶん殴った鈴。

 

朝日が昇り始めた翌日。鈴は動きやすい服装に着替え外へと出ると、既に何人かのオペレーター達が集まっており準備運動を行っていた。

 

「おはようございます!」

 

そう言い鈴が近づくと、オペレーター達は顔を向け爽やかな笑みを浮かべる。

 

「おう、おはようさん!」

 

「おはよう、今日1日頑張ってね」

 

「ISのパイロットだって聞いてるが、少しひょろりってしてるな。今回の訓練でしっかり体を鍛えろよ」

 

そう言われながら鈴も準備運動を始めた。そして数時間後、残ったオペレーター達も宿舎から出てきて準備運動を始めた。

そして一際いかつい黒人男性がオペレーター達の前に現れ、それぞれ整列する。

 

「おはよう諸君!」

 

「「「「おはようございます! ロバート教官‼」」」」

 

「うむ、皆も知っていると思うが本日は中国のIS代表候補生である凰鈴音さんが職場見学も兼ねて諸君達と共に訓練に臨む。我々はやってのけるが、彼女はまだ学生だ。もし顔色などが悪そうであれば直ぐに休ませろ。お互いで体調を気遣い、少しでも可笑しいと判断すればすぐに報告するように。いいか!」

 

「「「「サー・イエス・サー‼」」」」

 

「宜しい。では、訓練を始める。何時もの通り滑走路の端から端の走り込みからだ! その後アスレチック場のタイムアタック、そして格闘訓練だ! さぁ、行け行け行け‼」

 

そう言われ、オペレーター達は一斉に一定の速度で走り始めた。鈴は一瞬、付いて行けるかしら?と不安が過るも直ぐにその不安は消し去り、やるっきゃないわよね!と真剣な気持ちに切り替えオペレーター達に付いて行く。

 

 

 

 

 

―――日本・とある少年院

一人の男性が腕を組みながらとある一室で待っていた。その向かいには机と対面窓で仕切られていた。そして対面窓の向こう側にあった扉が開き刑務官と収監服を着た箒が現れた。箒は目の前に居た男性に驚いた表情を浮かべながら席へと着く。

 

「久しぶりだな、箒」

 

「は、はい。お久しぶりですお父さん」

 

そう言い箒は目の前に居る自分の父篠ノ之柳韻に目線を向ける。

 

「…何時かこんな事が起こるんではないかとずっと思っていたが、まさか現実になろうとはな」

 

そう言い龍韻は鋭い視線を箒へと送る。

 

「わ、私は何も悪い事など「黙れ! 事の始まりは全て束から聞いておる!」ね、姉さんから!?」

 

龍韻の口から束の名前が出た事に驚きを隠せ無い箒。箒は家族を滅茶苦茶にした束の事を父や母も恨んでいると思っていたからだ。その為連絡も一切取っていないと思っていた。

 

「意外そうな顔だな? お前が束の事を恨んでいる事は、以前から聞いていた。私や母さんはそれを咎めようとしたが束がやらなくてもいいと言ったから何も言わなかっただけだぞ」

 

「ど、どう言う事ですか?」

 

「『お父さんやお母さんが私の事を庇えば、お父さん達も恨まれる。だから自分達も恨んでいると言った雰囲気を出しておいて』と言われたんだ。アイツは私と母さんを守る為に恨まれ役を買って出たんだ。それがどれ程苦痛だったか、お前は分かるのか‼」

 

そう言い柳韻は手を握りしめ机に置く。

 

「何でですか! あの人の所為で私達はバラバラにされたんですよ!」

 

「確かにそうだ。アイツ自身もそれを悔やんでいた。だが私と母さんはアイツの夢の為だと思えば別に迷惑だとは思っていない。だが、箒。お前が私達にかけてきた迷惑は正直言って目に余るほどだ!」

 

そう言い憤怒に染まった顔を箒に向ける柳韻。

 

「ね、姉さん以上にお父さんに迷惑を掛けた覚えなどありません!」

 

「何を言っているんだ貴様! お前が道場の者達にどれ程の怪我人を出したのか、忘れたと言うのか! それに少し指摘や注意されたらすぐに暴力で黙らせる。その度に毎日母さんは怪我をしたご家族に会いに行き頭を何度も下げていたんだぞ!」

 

そう言われ、茫然とする箒。

 

「何でもかんでも自分は悪くない。と言い、更に酷い時は束の名前を使って脅すなどしたと聞いている。束の名前を使って脅したと聞いたときはどれ程怒りが込み上がった程か‼」

 

そう言い柳韻は足元に置いてあったカバンからある紙を取り出した。

 

「お前が少年院に収監され、少しは自分が行った過ちを反省していると思っていたが、どうやらそうでもなかったようだな」

 

そう言い紙を箒の方へと見せた。其処には断絶届けと書かれており、下の親の記入欄には柳韻と母親の名前が書かれ判子が押されていた。

 

「な、何ですかそれは?」

 

「見ての通り断絶届けだ。お前が此処から出るまでに、改心がされていなければ私達とはもう連絡が取れないようにし、篠ノ之家の敷居にも一切跨がせない」

 

そう言われ箒はガッと椅子から立ち上がりガラスに手を叩きつける。

 

「な、なんでそんな物を用意されたんですか!」

 

「私達はもうお前を庇うのに疲れ切ったからだ。……正直に言ってまだ束の方が親孝行者だぞ。私達がバラバラになった事を知って、自分の所為で家族がバラバラになったことを謝罪し自分から断絶届けを出そうとさえしたからな。まぁ私達は受け取らなかったがな」

 

そう言い息を吐き深々と椅子に座り直す柳韻。

 

「ど、どうして受け取らなかったんですか」

 

「当たり前だ。お前の夢の為なら迷惑では無いと言って突き返したからだ」

 

そう言い立ち上がる柳韻。

 

「出て来るまでにその腐った性根を鍛え直せ。出来なければ篠ノ之家の敷居は跨せん!」

 

そう言って柳韻は出て行った。その後ろでは箒が泣き叫びながら柳韻を呼び止める声が響いていた。




次回予告
夜、オペレーター達と共に訓練を終えた鈴は食堂で食事をしていると、その傍に美雲がやって来た。そしてイチカとの出会いなどを談笑し始めた。

次回
幼馴染と彼女

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。