オグマ社の反乱。この事件は世界中を大きく震撼させ、騒然とさせた。特にISがオグマ社の開発した戦闘機の前に無力だという事にも拍車がかかり、世界中はパニックに陥っていた。
だが、NATO事務総長であるケビンが各国に応援要請、そしていち早くオグマ社の陰謀に気付いたエンシェントセキュリティー社の活躍によりオグマ社の暴挙は阻止された。
だがその戦いは多くの犠牲が払われた。参加した戦闘機のパイロットの内20名以上が戦死。そして参加したIS部隊も9名ものパイロットが戦死した。
IS委員会は今回の責任をケビンにとらせようと動いたが、各国がそれに反発。さらに束が委員会が隠してきた悪事などを脅しに使い黙らせた。それによりケビンはそのままNATO事務総長として勤め続けた。
そして各国は此度の一件、もう一度ISについての考え方をやり直すべきだと意見が一致しISの運用方法の見直しが行われる結果に。
さらに女尊男卑も見直しが行われ過去の事件、更に政府内で女権等と癒着している政府関係者の洗い出しが行われ、闇に葬られた事件などが明るみになった。
法令の改正も行われ、女尊男卑の事件は重い重罪が掛けられるようになったとのこと。
これらがなぜ見直されるようになったか。それは皮肉にもオグマ社の事件があったからだ。
彼等は方法は違えど、世界を変えようとした。今の世界は間違っている。だから正しい道へと戻そうとした。一部の世間はそう捕らえオグマ社とは違う方法で世界を変えようと動いた事がきっかけで政府も動いたのだ。
オグマ社との戦争後、フロリダ州にあるマスドライバー施設近くに大きな墓標が立てられ、亡くなったパイロット達の名前が記された。その中にはマスドライバーを命と引き換えに守ったジョーの名前も記されていた。
それから月日は流れたある日、エンシェントセキュリティー社の滑走路には大勢の人が集まっていた。彼等の前にはイチカとマドカ、そしてワルキューレのメンバーとデルタの面々が居た。
「スコールさん、それにオータムさん。色々お世話になりました」
「こっちこそ、色々世話になったわ。今まで本当にありがとうね」
「向こうでも元気にやっていけよ」
そう言いながら握手を交わす。そして二人はマドカの方に体を向ける。
「マドカ、元気で頑張るのよ」
「あんまりイチカに迷惑かけんじゃねぇぞ」
「なっ!? なんで私だけは子供みたいなことを言うんだ!」
二人の言葉にマドカは顔を真っ赤に染めながら怒鳴る。その光景に大勢の者達が笑い声を挙げ、それに対してもマドカはキレるのであった。
「それにしても今日で貴方達とはお別れだと思うと寂しいわね」
「……すいません。ですが、俺の故郷はもう、向こうだと決めているので」
イチカはスコールの呟きに申し訳なさそうにそう答えた。
そう、今日を以てイチカ達はエンシェントセキュリティー社を発ち、束が月日を掛けて開発した装置を使い、元の世界に戻る日だったのだ。
「そう言えば、束さんは何処に?」
「彼女ったら、鼻水垂らしながら最後の別れがつらいから遠くから見守るってよ」
「そう、ですか」
イチカは束が見送りに来ていない事に一抹の寂しさを浮かべながらも顔付を変え、背筋を伸ばした。その姿にスコール達、見送りに来たスタッフ全員が背筋を伸ばした。
「スコール司令、そして皆さん。本日をもって自分、そしてマドカは此処を退社します。今までお世話になりました!」
「お世話になりました!」
そう言い敬礼した。
「こちらこそ。貴方達のお陰で多くの仕事がこなせたわ。そして私の過去の仇も取ることが出来た。本当にありがとう」
スコールがそう言い敬礼を返すと、スタッフ達全員も敬礼を返した。
そしてイチカとマドカは機体が無い為ワルキューレ達と同じ機体に乗り込んだ。デルタ部隊が飛び発つと同時にスタッフ達は手を振りながらそれを見送った。
エンシェントセキュリティー社がある島を窓から見送り、イチカ達は宇宙へと上がった。
「もう、此処には戻ってこれないんだな」
「そうだな」
隣に座るマドカにそう零すイチカ。すると輸送機の前にあるカーゴがガタガタと動き出す。
「ちょ、ちょっと何あれ!?」
「う、動いてますよ!?」
「ま、まさかエイリアン?」
「うえぇぇ、イッチー怖いよぉ~!」
ワルキューレ達は皆怖がっており、イチカとマドカは恐る恐るそのカーゴの蓋を開けると、其処から
「ふぅ~~~~! 狭かったぁ!」
「束様、やはり貨物室の方が宜しかったのではないでしょうか?」
そう言いながら出てきたのは束とクロエだった。
「た、束さん!? それにクロエも!?」
「な、何で此処に居るんだ!?」
「うん? あぁ此処に居るのはねぇ、束さんもいっくん達の世界に行くことにしたんだぁ!」
「「はぁ!?」」
イチカとマドカは突然の発言に驚きの余り声を零す。
「大丈夫! スーちゃんやオーちゃんには既に伝えてあるから!」
そう言われあの人達もグルか!と内心驚きながら、大きく溜息を吐いた。
「ちなみに帰る気は?」
「無い!」
と、ワッハッハー!と高笑いで宣言する束にもういいやとガックシと肩を落とす二人だった。
そしてエリシオンに格納後、輸送機に乗っていなかったはずの束が居ることにアラド達も驚かれ、結局束も連れて行くこととなった。
そしてエリシオンでその装置がある方に向け飛んでいると、大きな輪で出来た物が現れた。
「束さん、あれが束さんが開発した」
「そう、擬似ワープホール発生装置! 上手く行くかどうかは分からないけど、理論上は成功するはず!」
そう言われ一抹の不安を感じながらも装置の起動スイッチが押され、輪の中心に黒いワープホールが現れた。そしてエリシオンはその穴に飛び込んだ。
暫し真っ黒な穴の中を通ったエリシオン。すると前方から光が現れその光に飛び込むと何処かの惑星付近へと出てきた。
その惑星を見たイチカ達は懐かしそうな顔を浮かべた。
「帰って来たんだな、俺達」
「えぇ、
美雲とイチカは互いに手を握りしめながら故郷を眺めるのであった。
イチカ達が帰って数年が経ったある日。
エンシェントセキュリティー社の食堂で一人のツインテールの少女が働いていた。
「お~い鈴、中華セット一つ」
「はいは~い。ちょっと待ってね!」
そう言いながら鈴は小柄な体に似合わない中華鍋を振るいながら酢豚をこしらえた。彼女はIS学園卒業後、軍に入隊しそこである程度の知識、技術を身に付けた後エンシェントセキュリティー社に入社したのだ。そして現在は食堂のスタッフをやりつつ、災害救助IS部隊にも所属しているのだ。
ある日、彼女に結婚をする気はないのか?聞いた者が居た。
鈴の答えは
「あたしの初恋は当の昔に終わってる。けど新しい恋をする気はないわ。だって、あたしの心はあいつ以外に覗かせる気なんて無いもの」
そう言い結婚する気はないとはっきりと答えたのだ。
そして鈴が入社する前からいるラウラはと言うと、
「ほら、遅れてきているぞ!」
「「「い、イエス・マム!」」」
そう叫びながら走り込む女性隊員達。ラウラは変わらずエンシェントセキュリティー社に所属しており、鈴同様新たに編成されたIS部隊の隊長として務めている。そしてそんな彼女の傍には
「ラウラ隊長、昨日のレポート持って参りました」
「む、すまんなクラリッサ」
そう言いクラリッサに労いの言葉を掛けるラウラ。クラリッサはあの戦争後、軍を除隊し、ラウラと同じエンシェントセキュリティー社に入社したのだ。
そんなエンシェントセキュリティー社を経営しているスコールとオータムはと言うと
「ちょっと誰よぉ! 私が楽しみにとっておいたお酒飲んだのは!」
「俺じゃねぇぞ! ナタル、お前じゃないのか?」
「ちょっと、私じゃないわよ!」
「じゃあ誰が飲んだのよ?」
そう言いしかめっ面を浮かべるスコール。すると酒瓶片手に近付くアリーシャが近づく。
「どうしたんノサぁ? そんな怖い顔してるとぉ、しわ出来るサネぇ?」
何故アリーシャが居るか。それはあの戦争後、エンシェントセキュリティー社の居心地の良さにイタリア代表からエンシェントセキュリティー社所属となった為である。
3人はアリーシャの持っている酒瓶に目が行く。其処にはデカデカと【スコールの】と書かれていた。
「「「お前かぁ!!」」」
「ふぇ? 何だいなんだい!? いきなり襲い掛かってくるんじゃないサネ!?」
そう叫びつつ逃げるアリーシャと、追いかけるスコール達であった。
日本に居る簪、そして楯無達はと言うと
「ねぇ簪ちゃん。この資料はこの値で間違いないの?」
「何度もやった。虚さん、この前企画したあれってどうなったんですか?」
「はい、役員の皆さん了承の事です。準備が整い次第順次出発予定です」
「みんなぁ~、また子供達からお礼のお手紙が届いたよぉ!」
彼女達はとあるビルの一室に4人で色々な書類と睨みっこしていた。彼女達は現在束がやっていたIS被害を受けた孤児などの支援活動をおこなっていた。
父親が営んでいる更識カンパニーに入社し、楯無がリーダー、簪が副リーダー、虚が秘書、本音が副秘書として働いている。
セシリア、シャルロットはと言うと
イギリス、とある果樹園
其処に麦わら帽子をかぶり作業服を着ながら作業をするシャルロットが居た。
「ふぅ~、この辺の雑草はこれ位でいいかな?」
「シャルロットさぁ~ん、そろそろお茶にいたしませんことぉ~?」
そう大きな声を上げながら声を掛けたのは、同じく麦わら帽子をかぶりドレスを身に纏ったセシリアだった。
学園卒業後シャルロットはフランスに帰ろうかと思ったが、オグマ社の一件でデュノア社の信頼は失墜している上に、一部の幹部に虐げられていた者達がデュノア社の関係者たちを襲撃しているという情報が入り、フランスに帰られずにいた。そこでセシリアがイギリスへと亡命し、自身が持っている果樹園で働きませんかと誘ったのだ。
元々山で育ち、畑作業は若干得意だったシャルロットはその申し出を受け入れ、こうして新しい人生を送っているのだ。
箒はと言うと
とある神社。その社務所にて一人の黒髪の巫女服の女性が座りながら書き物をしていた。すると2人組の男女がやって来た。
2人はお守りを受け取ると神社の方へと向かいお祈りをした後、社務所の方へとやってくる。
「あの、すいません。この恋愛成就のお守り2つください」
「はい、では600円になります」
「はい、ありがとうございます」
そう言いお守りを受け取った後2人は帰って行った。その姿をすこし微笑ましい表情で見送った。
するとその背後の扉が開き白髭をした、篠ノ之龍韻が入って来た。
「箒、少し休憩を入れたらどうだ?」
「はい、お父さん」
そう言い箒は体を龍韻の方に向け、龍韻が持ってきたお茶を口にした。
箒は少年院に収監後に父龍韻に縁切りの事を告げられた後、しばしの間塞ぎ込んでしまっていた。そんなある日、少年院の係員の一人に箒に向けこう告げられた。
「貴女、今まで相手がどういう気持ちを抱いているのか、考えた事が無いの?」
衰弱していた箒は、係員のその言葉が頭に残りずっと考えにふけ込む様になった。自分の今までの行動すべてを。そして漸く自分がどれ程他人に迷惑を掛けたのか自覚し、贖罪すべく処罰を受けた。そして少年院から出所し、龍韻に心変わりできていると認めてもらい、現在は篠ノ之神社の巫女として頑張っている。無論贖罪の心を忘れないために、剣道を棄てた。
また剣道を習えば、また誤った道に逸れることを恐れたためだ。
そして千冬はと言うと現在、日本の刑務所に収監されていた。その訳はオグマ社の事件後、千冬が自らが数年前、日本に向け放たれたミサイルを撃墜した白騎士だという事を告発したからだ。
束にミサイルだけを墜とすよう言われたにも拘らず、戦闘機や艦船を攻撃して沈没させたのは自ら行った事だと公表し世界中からバッシングを受けた。
そして千冬は国際刑事裁判所に出廷し、大勢の軍人、そして民間人殺害を行ったとして有罪を受けた。
そして千冬の生まれた国、日本にある刑務所に収監が決まったのだ。
そんなある日、千冬は強化ガラスで仕切られた部屋にいた。そして目の前には、昔の後輩が居た。
「先輩、その少しお痩せになられましたか?」
「まぁ、此処の食事はどれも健康バランスを考えられているモノだから。それに酒も飲めるわけでは無いから、痩せもする。……真耶の方は学校は大丈夫か?」
そう言い強化ガラスの向こう側に居る後輩、山田真耶にそう問うと、真耶は苦笑いを浮かべた。
「はい。けど、先輩みたく威厳があるわけでは無いので、先生と呼んでくれる生徒は少ないです」
「そうか。だが、生徒から慕われているのはいい事だ。……私には出来ない事だったからな」
自虐的な言い方に、真耶は少し暗い表情を浮かべる。
「……そろそろ面会終了時間だ」
「は、はい。それじゃあ先輩、また来ますね」
「……無理して来なくても良いんだぞ?」
「いえ、私にとって先輩が白騎士だったとしても、尊敬できる先輩ですから」
そう言い一礼して真耶は部屋から出て行く。千冬は部屋から出て行くと、目から涙を零しつつ刑務官に部屋へと戻されていった。
そしてイチカ達はと言うと
惑星ラグナにある、イベント会場
その上空を5機のヴァルキリーが飛んでいた。一番前を飛行している機体は白を基調としており、所々が黒が入った機体だった。
その後ろは青や赤紫、更に黄色に黒色の機体が飛んでいた。
「こちらデルタリーダー。皆、今日も何時も通り派手なパフォーマンスをしつつお客さんを賑わせるぞ」
『了解』
『ウーラーサー!』
『了解だ!』
『分かった』
そう、彼らはデルタ部隊であり、4人の前に飛んでいる機体はイチカが乗っていた。
あれからラグナへと戻って来たエリシオンを出迎えたのは数年の月日が経ったラグナだった。無論数年行方が消えていたエリシオンに色々な事情聴取が行われたが、エリシオンの活動記録、及び束の証言によってエリシオンには特に逃亡罪などの罪に問われることは無かった。
ワルキューレ達も活動を止めていたアイドル活動を再開し、各惑星に赴きライブ活動を再開していた。
デルタ部隊にも変化があり、アラドは前線から退き現在はエリシオンで飛行訓練教官となって新人育成を行っている。
その為デルタ部隊の隊長枠が空くわけとなったが、誰もがイチカを推薦した。本人は断るも、皆の熱い推薦に折れ、隊長の座に就いた。
機体も新たに改造されたVF-31Fが送られた。
ライブ飛行は無事に終了しイチカ達は近くに着陸し美雲達の元に向かう。
「よぉ、美雲。お疲れ様」
「あらイチカ。あなたこそパフォーマンス飛行お疲れ様」
そう声を掛け合った。二人は相変わらず仲睦まじく、ラグナに戻った後もお忍びでデートに行ったりとその仲を深め合っていた。
その光景にハヤテ達はにやにやと眺めつつ休憩した。
「ハヤテ、ハヤテ。この後デート行かんね?」
「ん? おう、別に良いぜ」
そう言いいちゃつき始めたハヤテとフレイア。
変化があるとすればフレイアの右手に、老化の徴候は消えていた。理由は束が開発した薬のお陰だった。束が開発した薬、それはフレイアの体内にある急激な細胞分裂を抑制するものだった。薬を飲み続けて行けば人間と同じスピードで細胞分裂になるようになり寿命を延ばすことが出来る。だがデメリットとして身体能力が人間と同じくらいに低下するし、もしかたらルンが感じられなく恐れがある物だった。
薬の説明時に束はそのことを伝え、フレイアは不安な表情を浮かべたがハヤテと共にずっと生きていきたい。そんな思いが勝ちフレイアは薬を飲み続けた。
結果フレイアの寿命は延びた。だが、デメリットの通り身体能力が落ちた事。そして若干ルンが感じにくくなったそうだ。それでもフレイアは持ち前の明るさで、それを補った。
「相変わらず、仲が良さそうな事で」
「だな。……俺も出会いが欲しい」
「何時か見つかるさ。何時かな」
2人にそう伝えジュースを飲むマドカ。
「むぅ~、2人とも相変わらずイチャコラするぅ!」
「油断も隙も無い」
マキナとレイナも膨れっ面でぶぅーぶぅー文句を零す。相変わらずこの二人はイチカの事を好いており、イチカに買い物やご飯を食べに誘うも、なかなかイチカの中にある友達という壁から壊せていなかった。
「さて、今日のライブは終わったし皆、ご飯食べに行きましょ。アラドさんや束さん達がもうお店で待ってるそうよ」
「早いな、父さんと束さん達は。それじゃあ帰りましょうか」
そう言いイチカが歩き出すと、美雲もその傍に付き共に歩き出す。ハヤテ達もその後に続いた。
彼等の物語はこれからも続くであろう。だがそれを語るのはまた別の機会に‥‥。
~The End~
これにて『歌と共に舞うひと夏』は終了となります!
いやぁ~、長い間投稿ペースがあいたりとお待たせして本当に申し訳ありません!
それでは本作品を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!