地獄先生と陰陽師一家 作:花札
花柄の鈴を手首に着けたお前は、いつも来ては俺に話をしてくれた。
手を動かす度に、鈴の音が聞こえた……
音が鳴らなくなった鈴を見ていた覆面の妖怪は、目の前にあるものに目を向けた。
巨大な鏡に封じられた長い黒髪の少女が、静かに眠っていた。
(起こすには、あれを壊さなきゃ……
それに必要なのは、あの娘の霊力!!)
宿直室の中、走り疲れた郷子達は眠っていた。
「こんな非常時に、よくも寝られますね」
「散々走ったからな。
今は至福の時だ」
「……?
麗華、お前寝なくていいのか?」
「……眠くないから、大丈夫」
震える手を隠すようにして、体育座りをしていた麗華は静かにそう言った。
「……そういや、ここから外に出られないのか?」
「無理だ。
弓道場の小窓から外を見たが、地面が無かった」
「?!」
「この校舎は無いものだから、存在自体があり得ない……」
「……じゃあ、俺達は今どこに?」
「鏡の世界って言った方が早いわ。
鏡はものを写すもの……けど、霊界や異世界に繋がる道とも言える」
「合わせ鏡ってあるだろ?」
「あ、あぁ」
「それと一緒だよ。
俺達は何だかの力で、合わせ鏡と同じような現象が起きて、鏡に吸い込まれ今だ」
「……」
「出るには、ここの問題を片付ける他無いな」
「問題って?」
「探索してる最中に、覆面の妖怪に襲われたんだ。
そいつは、麗華を必要としてた」
「麗華を?」
「あぁ……」
三人が話している最中、氷鸞達は何かの気配に気づいたのか、顔を上げ武器を手にした。
その時だった……突然、壁が壊されそこから長い手が伸び麗華を捕らえようとした。
咄嗟に彼女は、飛び避け手に向かって薙刀の刃を突き刺した。痛みで断末魔が聞こえてきたかと思えば、土煙からそれは姿を現した。
長い腕を持つ妖怪と彼の肩に立つ長い黒髪を靡かせた、一人の少女がいた。
「何だ……この妖怪は」
「フフフ……見~つけた」
不敵な笑みを見せた少女に、ぬ~べ~達は凄まじい恐怖を感じた。
その直後、上から大きな硝子が落ちてきた。飛び散る破片にぬ~べ~は、起きていた郷子達を庇い、氷鸞は緋音を雷光は真二を鎌鬼は麗華を庇った。
「な、何で硝子が……」
「すぐにここから出て!!
緋音、真二!誘導を!」
鎌鬼に指示され、真二は勢い良く閉まっていた戸を開けた。だが外は、妖怪で埋め尽くされていた。
「こ、これじゃあ外に出られない!!」
「数が多過ぎる!!」
「管狐の鬼火だけじゃ、対処しきれねぇ!!」
「逃がしはしないわ……あなたがいちゃ、私の計画が台無しなのよ」
無数の鏡を自身の周りに浮かばせ、そこから鋭い刃を麗華目掛けて放った。手にしていた薙刀を振り回し、刃を防いだ。
「氷鸞!雷光!
退路を開いて!!」
二人は顔を見合わせると、氷鸞は妖怪の群れに向かって水を放ち、そこへ雷光は雷を纏った刀を振り下ろした。
水は雷を通し、群れを痺れさせ動けなくさせた。
「さぁ、早く行って」
突如氷鸞の横から何かが通り過ぎ、それは郷子達を襲おうとしていた蜘蛛に突き刺さった。
「キャア!」
「く、蜘蛛!?つかデカすぎだろ!!」
「この矢、どっから……」
蜘蛛に突き刺さった矢を見た緋音達はすぐに、放たれた方を向いた。
そこにいたのは矢を放った、龍二だった。彼の両隣には狼姿の焔と渚がいた。
「龍二!」
「龍二!」
「すぐに渚と焔に乗れ!
氷鸞、誘導頼む」
「はい!」
怖がりながらも、郷子達は焔と渚の背に乗った。ぬ~べ~が乗ると、氷鸞は氷で道を作りそこを焔と渚は一気に駆けて行き、彼等の後ろにつくようにして氷鸞は先に行った。
いなくなると、龍二は赤い札を取り出し指を噛み血を付けた。
「我に力を貸せ!急急如律令!」
札は炎を纏い、煙を上げ出て来たのは雛菊だった。
「雛菊、炎だ!」
「雷光!風!」
二人の指示通り、雛菊は持っていた扇を煽り炎を作り出し飛ばした。雷光は風を起こし、彼女が出した炎に勢いを増すかのようにして加えた。
妖怪が怯んだ隙を狙い、馬の姿になっていた雷光に真二と緋音は飛び乗り、大きくなり宙に浮いていた鎌鬼の大鎌の上に、麗華と龍二は乗り部屋を飛び出した。雛菊は黒い煙を出しそこへ火花を散らせた。火花は黒い煙に反応するかのようにして、その場で爆発を起こした。
図書室へ来た焔達……異様な静けさの中に、雷光達は飛び込み、龍二と真二は持っていた札を扉に貼った。それに反応するかのようにして、図書室全体に大きな結界が貼られた。
「これで大丈夫だ……
虫一匹、入っては来られない」
「確かに……かなり強い結界だな」
「テメェ等、いつまで背中に乗っている!」
「ひっ!」
「早く降りろ」
焔と渚から言われた広達は、慌てて降りた。首を振ると焔は座り込む麗華の元へ駆け寄り、顔を擦り寄せ頬を舐めた。
「あ~、麗華に甘えちゃって」
「こっちもこっちで、甘えてるぞぉ」
真二が指差す方に目を向けると、渚は尾で龍二を触り彼は彼で、彼女の頭を撫でながら辺りを見ていた。
「しっかし、古い本だなぁ」
「うわぁ、埃だらけ」
「ここについて、何か分かればいいんだけど……」
並んである本棚を見ていると、棚から一冊の本が落ちた。落ちてきた本を郷子は拾い、何気に広げると間に一枚の紙が挟まれていた。紙を見ると、そこに文字が書かれていた。
「ぬ~べ~!これ」
呼ばれたぬ~べ~は、彼女の元へ駆け寄り紙を見た。
そこには、見たことも無い文字で書かれていた。
「何だ?この文字」
「何か、蚯蚓みたいな字だな」
「これは妖怪文字だ」
「妖怪文字?」
「何て書いてあるんだ?」
「……わ、分からん」
「あの約束を忘れないで。俺はあそこにいる」
ぬ~べ~の背後からその字を見た麗華は、すらすらと言った。
「へ?麗華、この字読めるのか?」
「何となくなら」
「俺も読めるぞ」
「俺も」
「私も読めます」
「……」
情けない目付きで、郷子達はぬ~べ~を見た。彼等に見られた途端、ぬ~べ~は半べそをかきながら部屋の隅に蹲った。
「そう落ち込むなって!
俺等は特殊なんだからよ!」
「気にしなくていいよ!先生!」
「うぅ~」
「けど……誰に渡すつもりだったんだろう。
この手紙」
「俺の古き友だ」
「古き友?
へ~」
「郷子、あんた一人で何喋ってんの?」
「へ?
だって、さっき古き友だって言わなかった?」
「ううん」
「何も言ってねぇけど」
その時、図書室の窓が光り出しそこからあの覆面の妖怪が姿を現した。龍二はすぐに麗華を抱き寄せ、持っていた弓を向けた。
「警戒するな。
その娘の力は必要だが無理にはつれていかない」
「よくこの結界を抜けられたな?」
「鏡の中では、結界など無意味なもの……硝子があれば、自由に行き来できる」
「そんで、一体何の用だ?」
「黒髪の女に襲われたんだろう?」
「?!」
「その顔は図星だな。
その女について、教えてやる。ついて来い」
窓硝子が光り出し、そこに光の通路が現れた。妖怪はその道を歩き出し、続いて警戒しながらぬ~べ~達が歩きその後を真二達、雷光と氷鸞が歩き、彼等の後に龍二と彼の後ろに引っ付くようにして麗華が歩き、二人の後に焔達が歩いて行った。