地獄先生と陰陽師一家 作:花札
鏡から出ると、そこは階段の踊り場だった。
「うわっ!デカい鏡だなぁ!」
壁いっぱいに貼られた鏡を、広達は不思議そうに見ながら言った。
「お前達の校舎にあるあの鏡だ」
「え?あの鏡、こんなデカかったっけ?」
「あれは一部だ。
本来の姿が、それだ」
「へ~……」
「この鏡は、昔の校長が生徒のためにと設置したものだった」
「えぇ?!こんな大きな鏡を、わざわざ生徒のために!?」
「今と違って、昔は人数が少なかった。
一クラス五人六人しかいなかった。校長は全員が肩を並べて写真を撮りたいと思い、この鏡を設置した。
まぁ、俺達妖怪もこの鏡のおかげで居場所が出来た」
「もとから住んでたの?」
「まぁな。ここは昔、神社と森があった。
俺を含めてここにいる妖怪達は、そこを住み家にしていた。
だがある日、その神社と森は壊された。代わりにこの校舎が建った。
人には俺等の姿は見られまいと思い、引き続きここへ暮らした。子供をからかうのが面白く、よく遊んでいた」
「そのせいで、俺等の学校に七不思議として残ったぞ」
「悪い悪い。
そんな日々が続く中、ある一人の娘が俺達の存在に気付いた」
「娘?」
「長い黒髪に、手首に鈴を着けていた。
初めは嫌な奴かと思ったが、そいつが話す話が本当に楽しかった。
誰もいない教室に、俺等を呼んで色んな事を話してくれた。
しばらくして、彼女はここを出て行った……また来ると言って、去ってからずっと待ち続けた。
何年も……
どれくらいの月日が経ったが、分からないくらい過ぎたある日、突然この校舎を壊すと話を聞いた……校舎だけならまだしも、この鏡まで壊される。自分達の居場所が無くなると思って、妖怪達は暴れようとしたまさにその時だった……娘が顔を出したのは」
「……」
「昔見た容姿とはだいぶ違っていたから驚いたが、奴はすぐに校舎の取り壊しを中止しろと言った。それが駄目なら鏡を壊さないでくれとも、頭を下げてまで頼んでくれた。
だが、誰も耳には入れてくれなかった……娘は自分の同級生に先輩達や後輩達の所へ行き、鏡を守ってくれとお願いして回った」
「それだけ回ってんだったら、工事は中止になるんじゃ」
「……中止される前に、娘は事故で死んだ」
「!?」
「娘の意志を継いだ後輩達が、頭を下げてお願いしたら、鏡の半分は残すことになった」
「何で半分なんだよ……普通、全部じゃないの?」
「工事の金、ケチったんだろ?
昔から結構あるからなぁ、この学校」
「最も、それは昔の話。
今はそういう事、無くなったけどね」
「そんな……」
「望みが叶わなかったせいか……
娘は、事故から数年後……壮大な妖力を持って蘇った」
「!?」
「まさか、その蘇った奴が」
「さっき相手しただろ?
黒髪の女に」
「あ、あの妖怪が……その」
「娘だ」
「……」
「話は何となく分かった……
それで、何で麗華が必要なんだ?」
「あの娘を倒して欲しい……それには、奴以上の霊力が必要だった」
「それで麗華ちゃんを」
「そうだ……
ここにいる奴等は、あの娘を葬ってやりたいんだ。
自分達のために、苦しむ姿を見たくは無い……さっさと深い眠りについて欲しいんだ」
「……」
「それ、違う」
「?」
「何が違うんだ?麗華」
「……その人がやってるんじゃ無い。
もっと違う奴が、今の事をやってる」
「え……」
「あの女から、嫌な妖力は感じなかった!
それに、私がここに引きずり込まれる前、声が聞こえた!
『助けて』って」
「……」
「やはり、完全には眠ってはいなかったか」
その声にハッとした次の瞬間、麗華の体に糸が巻き付きそのまま上へ引き釣り上げられた。
「麗華!!」
助けに行こうとした途端、彼等の前に大きな金槌を持った大男と手の長いあの妖怪と無数の妖怪達が道を防いだ。
「この娘がいては、私の復讐は成功しない……
成功するまで、預かっておくわ」
「テメェ!!」
「攻撃すれば、この子の顔に傷が出来るだけよ」
吊されている彼女の横から、あの巨大な蜘蛛が糸を引いて降り、前足を麗華の頬に当てた。
「い、嫌ぁ!!」
拘束された手を必死に動かしながら、麗華はそこから逃れようと暴れた。
「妹にそれ以上、触れんじゃねぇ!!
渚!!」
龍二の指示に、渚は口から女に目掛けてお湯を吹き出した。女は腕でお湯を防ぎ、不敵な笑みを浮かべると腕を振った。
次の瞬間、突然地面が消え全員奈落の底へ落ちていった。全員がいなくなると、地面は元の姿へと戻った。
「お、お兄ちゃん!!皆ぁ!!」
「これで邪魔者はいなくなった……
さぁ、行きましょう」
残っていた大男に、麗華を担がせ女は深い闇の中へと消えていった。
奈落の底へ落ちていくぬ~べ~達……
人の姿へと変わった渚は龍二を、氷鸞は真二と緋音を、雛菊は美樹と郷子を、雷光は克也と広を、鎌鬼はぬ~べ~を受け止め、宙に浮いた。
「し、死ぬかと思った……」
「俺、寿命縮んだ……」
「どこなの、ここ?」
「異空間だ」
頭を抑えながら、焔に支えられていた覆面の妖怪は言った。
「異空間って……」
「鏡の中を通った時、光の道の両脇には何も無かっただろ?」
「う、うん」
「脇道に入ったんだ、俺等は」
「もし、このまま落ちていったら……」
「地獄に辿り着くかもな」
「ひぇ~~!!」
「どうすれば抜けられる!?」
「ついてこい。案内する。
頼む」
「あぁ」
動き出した焔達に続いて、渚達は龍二達を持ち直してゆっくりとついて行った。