地獄先生と陰陽師一家 作:花札
「これは……」
「あ!光が!」
淡い光玉は、スッと消えてしまった。それを見た麗華は、焔から降りふらつきながら、鏡を触った。すると鏡の中にいた少女は、ゆっくりと目を開けた。
「華代!」
『……黒輝。
やっと、話せる』
「なるほど……
麗華が邪魔だというのは、この子を目覚めさせないためだったのか」
『あなた方を呼んだのは、あの妖怪を倒せる力があると分かったからです。
特にこの子には、私と同じ力があります』
華代は麗華に目を向けながら、そう言った。
「同じ力?」
『ここへ来てから、強大な力を発揮しませんでしたか?』
「……あ」
龍二達とはぐれていた時、巨大蜘蛛に襲われそうになった時、底知れぬ力が体から放たれた様な感覚を、麗華は思い出した。
「あれって、私の力じゃ」
『あなたには、まだまだ知られぬ力が眠っています。
それを狙う者は多くいます』
「確かに。
麗華は生まれ付き、霊力が高かった。小さい頃そのせいで、何度か酷い目に遭った」
「そうだったの?」
「うん……そうだったらしい」
「らしいって、覚えてないのか?」
「う~ん……小さい頃の事、よく覚えてないんだよねぇ」
「お前、記憶力滅茶苦茶いいくせに、思い出の記憶はないのか?」
「だって覚えてないんだもん」
「無駄話はいいから、話聞け」
『あの妖怪を倒し、この鏡を壊せばあなた方は元の世界に戻れます』
「壊すって……華代」
『私は死んだ者。
この世に生きてはいけない者よ』
「……それが、お前の望みか?」
『えぇ』
「……頼む。
あいつを……あの蜘蛛を倒してくれ!」
「そう簡単に、いかせないわ!」
声が教室に響いたと同時に、教室の戸が開き外から無数の蜘蛛が入ってきた。
「キャア!!巨大蜘蛛!!」
「お前達、下がれ!」
ぬ~べ~は鬼の手を構え、郷子達を自身の後ろへ隠した。蜘蛛達は、彼等を逃さない様に取り囲んだ。
「さっき燃やしたはずなのに!!」
「あれごときで、この私が死ぬわけがない」
彼等の前に糸を引き降りた女の姿は、先程と違っていた……姿形は巨大な女郎蜘蛛になっていた。
その姿を見た麗華は、震えだし焔から降りると龍二にしがみついた。
「さぁ、その子を渡しなさい!
そうすれば、あなた達に危害は加えないわ」
「誰が渡すか!!」
「そう強く言っていられるかしら?」
口から糸を出すと、それは郷子達の体に巻き付き吊し上げた。
「キャァアア!!」
「取引と行こう……その子を渡せば、この子達は返」
「そう思い通りに、行くと思わないでね?」
上にいた鎌鬼は、鎌を振り回し糸を切り裂いた。落ちた郷子達を、氷鸞と雷光は受け止めぬ~べ~の元へ置いた。
「氷鸞!氷の壁!」
ぬ~べ~達を中心に、氷鸞は氷の壁を作り上げた。その間に麗華は、一枚の札を出し指を噛み血を付けた、札から煙が上がり、そこから薙刀が現れ出た。
「そっから見てろよ?
俺等の実力を」
「実力?」
「麗華は俺の後ろに付け」
「うん」
構える四人……
二人の真上から蜘蛛が、毒針を放った……だが、その毒針は焔と雛菊の炎で燃やされた。
「我等の主に攻撃しようとは」
「いい度胸してるじゃねぇか?」
「雛菊!渚!鎌鬼!その辺にいる雑魚共の始末、任せた!」
「承知!」
「分かった!」
「了解だよ!」
「氷鸞!雷光!焔!私達の援護をお願い!」
「はい!」
「分かりました!」
「応よ!」
「出でよ!管狐!」
「さぁ、反撃返しといきますか!」
「小癪な!!」
女郎蜘蛛は口から無数の糸玉を放った。その攻撃を、麗華達の前に立った焔と雷光は、同時に炎と風の攻撃をし、糸玉を燃やした。
「っしゃぁ!!」
緋音に向かって、突進してきた蜘蛛に彼女は手から光る玉を出し放った。玉に当たった蜘蛛の体は燃え上がりひっくり返ってた。
「何だ?!あれ!?」
「緋音の母方の家は、代々気功術を得意とする祓い屋なんだよ!」
「そういう事!」
「やっぱ、無理!!」
薙刀を振り回し、蜘蛛を切り裂いていた麗華は、狼姿になっていた焔の背に飛び乗った。
「……!
焔、鏡の所に!」
「応!」
炎を吹き出しながら、焔は華代が眠っている鏡の前まで、麗華を連れて行った。麗華は傍に立つと薙刀を刃を鏡に向けていった。
「それ以上攻撃するなら、この鏡を壊すよ!」
「そうだ!そうだ!」
「その鏡を壊せば、アンタなんて怖くなんかないわよ~だ!」
「フフ……壊せればだけどね?」
「?……!」
突然地面から、蜘蛛の足が突き抜け麗華を地面に引きずり込んだ。彼女に続いて、氷の壁に包まれていたぬ~べ~達も地面へ引きずり込まれた。
「どうなってんの!?」
「これで、鏡は壊されまい」
空いた穴の下を見ると、蜘蛛の巣に絡まった麗華達がいた。
「麗華!」
「龍二、早く麗華を!」
「悪い、ここを頼む!
渚!焔!」
地面から飛び降りた龍二を、後から来た渚は背中に乗せ、下へ下りようとした。だがその道を、無数の巨大蜘蛛達が塞いだ。
蜘蛛の巣に貼り付けられた麗華は、起き上がり立ち上がろうとしたが、足に糸が絡み立つことが出来ないでいた。
郷子達にも、手や足に糸が張り付き身動きが取れないでいた。その時、何かの音と気配に気付いた麗華は、辺りを警戒した。
「……!
キャァアア!!」
郷子の悲鳴に、広達は顔を上げ彼女の方を向いた。巣の上には大量の蜘蛛が、糸を伝って自分達に迫ってきていた。
「ギャァア!!く、蜘蛛の大群!!」
逃げようとする広達だが、糸は完全に彼等の体に張り付き取れなくなっていた。
「大地の神に告ぐ!!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、この地を守る!!
出でよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!」
どこからともなく、雷が広達を襲おうとしていた蜘蛛達を次々に攻撃していった。麗華の傍に来た焔は、糸を切り裂き彼女を背に乗せると、龍二の元へ行った。
「百雷白虎やるぞ!」
「分かった!」
二枚の札を持つ龍二に、麗華は立ち上がりポーチから二枚の札を出し構えた。
「いくぞ!」
「応よ!」
「「大地の神に告ぐ!!何時の力、我に受け渡せ!!その力を使い、この地を守る!!
出でよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!!」」
札から放たれた雷は、全ての蜘蛛に当たった。雷のおかげか、広達の体に巻き付いていた糸が切れ、自由になった。麗華は口笛を吹き、上から氷鸞と雷光を呼んだ。
「先生達をお願い!」
「分かりました!」
「はい!」
「麗華!!先行くぞ!」
「あ!待って!!」
上に登ってきた龍二と麗華は、渚達から飛び降りると武器を構えて女郎蜘蛛の前に立った。
「とっとと終わらせるぞ!」
「応よ!!特大の管狐、出してやるよ!!
出でよ!!管狐!!」
筒から出てきた管狐は大きく、鳴き声を上げながら女郎蜘蛛の足を噛み千切った。それに続いて、緋音は聞こう術を放ち、弱まった彼女に向けて、龍二と麗華は剣と薙刀を力任せに振り下ろした。
真っ二つになった女郎蜘蛛は、断末魔を上げながら霧の様に消えていった。すると、突然地面が崩れ始めた。
「が、学校が崩れ始めてる!?」
「そうか……アイツがいなくなったから、この世界が消えようとしてるんだ!」
「何!?」
「ま、まだ死にたくない!」
『ここへ飛び込んで!』
華代の声と共に、鏡が光った。
『この鏡は、あなた方の世界に通じています!
さぁ、早く行って!時間がありません!』
「……一か八かだ。
俺が先に行く!お前達は、俺の後について来い!!」
「ちょっとぬ~べ~!!」
「え~い!!当たって砕けろだ!!
郷子!行くぞ!」
「待って、広!」
「お、俺も行くぞ!」
「ちょっと、私を置いて行かないでよ!!」
ぬ~べ~達が去って行く背中を見る麗華達……氷鸞達を札に戻すと真二と緋音は先に行き、麗華と龍二は焔と渚の背に乗った。そして華代がいる鏡を叩き割った。
叩き割った鏡は、激しく光り出し麗華達を包み込んだ。
『ありがとう……』
「おーい、大丈夫か~?」
誰かの声と体を揺らされ、麗華はゆっくりと目を開けた。目の前にいたのは、懐中電灯を持った警察官だった。
「あれ……」
「行方不明の子供と思われる、六人の子供と男性を見つけました。あと警部の」
警察官がそう報告しているのを聞いた麗華は、辺りを見回した。そこは学校の裏だった。
警察署に来たぬ~べ~達……迎えに来た親に、ぬ~べ~は頭を深く下げながら謝っていた。親達は子供が無事で何よりだと、言いながら彼を慰めていた。
「しっかし、驚きだよなぁ。
もう、十一時回ってたなんて」
「本当。
ほんのに一時間か二時間しか経ってなかったと思ってたのに」
「これも妖怪の力って奴か?どうだ?なぁ、麗華」
隣りに座っていたはずの麗華は、いつの間にかいなくなっていた。彼女だけじゃなく緋音も真二もいなかった。
「あれ?麗華達は……」
「すみません!」
「はい?」
「ここにいた人達は?」
「彼等なら、先程親御さんが迎えに来て、帰りましたが」
「え?!いつの間に!?」
「やはり、麗華は忍だ」
「だな」
「アンタ達ね……」
夜……眠る龍二の布団が少し動いた。それに気付いた彼は起き、後ろを見た。
自分に引っ付き眠る麗華がいた……はいでいた布団を掛けて龍二は、彼女の手を握りながら再び眠りに入った。