地獄先生と陰陽師一家 作:花札
テレビを見ていた時、突然部屋の電気が消えた。
女の子は怯えながら、外の様子を見ようと玄関へ向かった。
外は不気味な灯火と共に、黒い何かの行列がゆっくりと歩いていた。
その中にいた何かは、少女の姿に気付き彼女の元へ駆けていった。
「!!キャァアア!!」
その話をする美樹は怖い顔をしながら、話を続けた。
「数分後に帰ってきた母親は、玄関前に倒れてる娘を呼び掛けると、彼女は怯えきった顔で飛び起き母親にしがみついたそうよ。
母親は何があったかを聞くけど、女の子は震えて怯えるばかり……その日以来、女の子は一人で留守番が出来なくなった」
「怖~い!」
「結局、女の子は何を見たんだ?」
「さぁ。私もそこまでは知らないわ」
「どうしよう……うち、今日用事で親が遅くなるって」
「私も~」
「大丈夫よ!大丈夫!
単なる噂話だから、平気よ!」
笑いながら美樹はそう言った。話を聞いていた郷子は、ふと麗華の方を向いた。自分の後ろで、スケッチブックに何かを描いていた。気になりソッと覗くと、そこには綺麗な模様が入った丈の短い着物と簪、下駄に扇が描かれていた。
郷子の気配に気付いた麗華は、慌ててスケッチブックを閉じ隠した。
「勝手に見ないでよ~」
「ご、ごめん!
何描いてたの?」
「用事で頼まれたもの。
私、今日は帰るね」
「あ、うん。
じゃあね!」
「じゃあ!」
その日の夜……テレビを見ていた克也。すると、ブレーカーが落ちたのか、家の電気が全て消えた。気になり克也は、外に出た。
「……!
ギャァァアアアア!!」
翌日、克也は学校を休んだ。
放課後、郷子と広、美樹は彼の家に見舞いに行くが、玄関をいくら叩いても呼び鈴を鳴らしても、出ては来なかった。
仕方なく帰ろうとした時、ぬ~べ~が彼の家に着きもう一度呼び鈴を鳴らした。
「やっぱ出ないねぇ」
「どうしたんだろう?克也ぁ!!ドア開けてくれぇ!」
その声を発した数分後に、ドアの鍵が開く音と共に扉がゆっくりと開いた。
中から出て来たのは、顔を真っ青にした克也だった。
「克也!?」
「どうしたんだよ!その顔!」
「昨日から全然寝てないんだ……」
「寝てないって……」
「あ、あの行列見れば誰だって……う、うわぁ!!」
頭を抱えながら、克也はその場に座り込んだ。ぬ~べ~は、彼の背中を擦りながら周りを見た。
(微かだが、妖気を感じる……
克也が見た奴なのか?)
夜……
買い物を頼まれた郷子は、商店街に来ていた。買う物を買い帰路を歩いていると、何かが行進していた。電信柱に隠れながら、その行列を見るとそれは妖怪の行列だった。悲鳴を上げかけた彼女に、後ろから口を抑えられ暴れようとした時だった。
「俺だ、俺」
「ぬ、ぬ~べ~!?
もう!驚くじゃない!」
「すまんすまん!」
「……てか、何で美樹と広がいるの?」
「勝手についてきたんだよ!」
「それはさておき」
「さておくな!」
「この行列は、何なの?」
「あれは百鬼夜行。
妖怪の列だ」
「百鬼夜行……」
「どこに向かってるのかしら?」
「ついて行ってみようぜ!」
そう言いながら、広は駆け出し百鬼夜行の後を追った。彼に続いて郷子、美樹、ぬ~べ~と後について行った。
しばらくすると、妖怪達はある場所へ着きそこに皆入っていった。全員がいなくなると、ぬ~べ~達はその場所へ向かった。
そこは、階段が続きその上に大きな鳥居が建っていた。
(鳥居?
おかしい、この辺りには神社など……!)
何かを思い出したのか、ぬ~べ~は郷子達を置いて階段を駆け上って行った。そんな彼を彼女達は慌てて追い駆けていった。
階段を上りきり、茂みに隠れるぬ~べ~と郷子達。そこは広い境内に奥に本殿と平屋の家が建てられていた。
本殿の前には、広い舞台が作られその中心に細長い棒と四方に松明が立っていた。
「な、何だ?あの舞台」
「というより、ここ神社?」
「ほぉ、人の子がコソコソと」
ハッとしたぬ~べ~は、只ならぬ妖気に後ろを振り返った。そこには無数の妖怪達が彼等を囲っていた。
「ギャァア!!」
「全く気配を感じられなかった!!」
鬼の手が封じられている手袋に指を掛けるぬ~べ~……その時だった。
“ダン”
鳴り響く太鼓の音に、妖怪達は一斉に舞台前へと向かった。各々の席に座ると、舞台の上に青い狩衣を着た少年が登ってきた。
「今宵も、我が神社『山桜神社』へ来ていただき、ありがとうございます!」
「不覡!型っ苦しい挨拶良いから、早く巫女出せ!巫女!」
「……という意見が出たので、これから我が神社の名物、神楽舞をご披露させて貰います。今宵はこの細い棒の上で、巫女が華麗に舞いを見せます!では、どうぞご覧ください!」
挨拶が終わり少年が祭壇からいなくなったと同時に、琴や三味線、笛と太鼓の音が鳴り響いてきた。
その音と共に、下駄を鳴らしながら走ってくる少女が現れ、祭壇に上がるとそこから華麗に飛び上がり、細い棒の最短へ着地し、頭から被っていた羽織を脱ぎ捨てた。そして、手に持っていた扇を広げ、片足を交互に変えなら、棒の上で少女は華麗に舞った。
「おぉ!!」
「良いぞ!!桜巫女!!」
「よっ!!日本一だ!巫女!!」
その少女の華麗な舞に、圧倒され声も出せない郷子達……
“タン”
下駄が祭壇の板に降り立つ音が聞こえると同時に楽器の音が止み、広げた扇子を顔を覆うように持つ少女の姿がそこにあった。隙間から見える彼女の怪しげでだが美的な目付きで微笑む顔が、妖怪達に向けられた。
その目付きを見た妖怪達は、一斉に歓声を上げた。
「良いぞう!!桜巫女!!」
「華麗な舞、お見事だ!!」
「さぁ、舞も終わったとこで、今宵もこの神社へ来られたこと、そして皆さんのご苦労と日々の疲れを取れるようお祈りを込めて、乾杯!!」
「乾杯!!」
少女の手に握られていた扇を閉じ、声を上げて閉じた扇を上に掲げた。扇に釣られて妖怪達は自分の持っているお猪口を上に掲げて、一斉に声を上げた。
その様子を見たぬ~べ~達は、呆気に取られていた。
「ここって……妖怪の娯楽?」
「みたい……だよな?」
「じゃあ、あの人達も妖怪……」
「やっぱり、実在していたのか」
「え?」
「ぬ~べ~、どういう事?」
「童守町の外れに、妖怪向けの舞を見せる神社があると聞いたことがあったんだ」
「妖怪向けの舞?」
「普通の舞は、静かでゆっくりとした動き……
けど、さっきの舞は軽やかで激しい動きだ」
「静かな舞より、激しい舞の方が人気なんだよ」
聞き覚えのある声……ぬ~べ~達は、ゆっくりと振り返った。そこにいたのは、髪を桜の簪で纏め上げ浅葱色の生地に満開になった桜の花がデザインされた丈の短い着物に身を包み、黒い下駄を履いた麗華と先程の青い狩衣を着た龍二が立っていた。
「れ、麗華!?」
「よっ!」
「ど、どうしたのその格好!?
……って、その着物さっき踊ってた巫女さんの」
「あぁ、さっき舞ってたの、私!」
「えぇ!?」
「お前、こんな所でバイトか?兄妹揃って。
やめておけやめておけって!」
「……
何か、勘違いしてる?」
「へ?」
「ここ、俺達の家」
「……またまたぁ、そんなご冗談を!」
「冗談ではない」
「!?」
「この方々は、この山桜神社の不覡と巫女です」
二人の肩に手を乗せながら、笠を被った二人の男がそう言った。
(す、凄い妖気!)
「れ、麗華……この人達は?」
「桜守の桜雅と彼の友達の皐月丸!」
「友達ではない」
「ただの腐れ縁だ」
「またまたぁ!
ほら!皆に買ってきたお饅頭、無くなっちゃうよ!」
桜雅と皐月丸の手を引きながら、麗華は妖怪達の輪の中へ入っていった。
(あれだけデカい妖気を持った妖怪達と触れ合っていれば、妖怪に対する警戒心が薄くて当然か)
「そろそろ帰った方がいいぞぉ」
「え?何で?」
「お前達のにおいに、妖怪達が気付いたら全員相手しなきゃいけなくる。
アンタは、それ出来んのか?」
「……出来ません」
「なら、さっさと帰れ」
勝ち誇ったかのような顔をする龍二に、ぬ~べ~は悔しい顔で神社を出て行った。
その帰り……
「克也が見たのって、もしかしたらあの百鬼夜行かもな」
「え?何で?」
「だって、美樹が話してくれた話と克也に起きたことが全く同じだっただろ?
共通してあったのが、何かの行列」
「……あ!確かに」
「ということは、一件落着って事ね!」
「そういう事!」
「そんじゃ、次の話を皆にしちゃおう!
名付けて!『麗華の家は、妖怪だらけの神社だった!』」
「くだらぬ噂など流し、桜巫女が舞を見せてくれなくなったら、君の所に妖怪達を行かせるからね」
「またまた、そんなぁ……って、誰が言ったの?」
「え?何?」
「何だよ美樹、一人でボソボソと」
「い、いや別に……(何か、凄い寒気が)」
帰って行く四人を、面を被った妖怪は悪戯笑みを浮かべながら、しばらくの間見送っていた。