地獄先生と陰陽師一家 作:花札
月を背に空を飛ぶ獣とその背に跨ぐ、一人の少女。少女と獣は暗い空へと姿を消した。
校庭でサッカーをするぬ~べ~クラスの生徒達。
審判をするぬ~べ~の隣には、自身のスケッチブックに絵を描く少女が座っていた。前髪をM字に分け、腰まである長い紺色の髪を、耳下で結った彼女は体を伸ばした。
「コラ、麗華!!」
「!」
「見学者は、ちゃんと授業を見なさい!!絵ばかり描いてないで!!」
「……ちゃんと見てる」
「どこがだ!」
「ほら!」
突き付けられたスケッチブックを開くと、そこには、今行われているサッカーの様子が描かれていた。
「……た、確かに」
「見てるとやりたくなるから、気を紛らわすために絵を描いてんの」
「……」
「え?麗華のこと?」
放課後、掃除をする郷子達にぬ~べ~は質問した。
「あぁ。
どうも、扱い方が分からなくてなぁ……困ってんだ」
「まぁ、確かに」
「あの子を扱い熟す先生なんて、世界中探してもいないわね!家族を別として」
「麗華って、どんな奴なんだ?お前達から見て」
「そうね~……
まず、一人行動が凄く多い」
「立ち入り禁止の所に、平気で潜り込む」
「忍みてぇに、木に登ったり壁の上を歩いてる」
「か、変わった子だなぁ……」
「あ!でも、昔は凄い大人しい子だったよ!」
「え?」
「郷子、それ本当?」
「うん。私一年生の時から、ずっと麗華と同じクラスだから。
今と比べると、全然違うもん。いつも髪を下ろして喋らない子だったよ、三年生まで」
「へ~、そうなのか」
「四年生の時に何かあったんじゃ無いの?
どう?郷子、何かあった?」
「それが……
麗華、三年の夏から今までずっと休学してて」
「え?!休学?!」
「何でまた!?」
「何でも、持病が悪化して親戚の所でずっと療養してたって話よ」
「体育休んでのも、それが原因か?」
「多分……」
場所は変わりここは校庭。
そこでは、鶏小屋の前に座りスケッチブックに鶏の絵を描く麗華の周りに、下級生が集まり彼女の絵を見ていた。
「凄え!」
「今にも動きそう……」
騒ぐ声などお構いなしに、麗華は鶏をチラチラと見ながら絵を描き続けた。鶏達はそれを知ってなのか、全く動かずジッとしていた。
その時、どこからか飛んできたボールが、鶏小屋の金網に当たった。鶏達は驚き、羽をばたつかせながら、鳴き声を上げ暴れ回った。その様子に、麗華は手を止めスケッチブックを地面に置き、転がってきたボールを手にして立ち上がった。
「あー!また、やっちまった!
すいませーん!」
「……」
「ボール、ありがとうございまーす!」
「あんまり、動物小屋に当てないでね」
「はーい!」
ヘラヘラして笑う彼等に、麗華はボールを渡した。受け取った下級生は、そこからボールを蹴り、またサッカーを始めた。
未だに暴れる鶏達に、麗華は金網に手を当てて言った。
「大丈夫だよ。もう……」
その声に安心したのか、暴れ回っていた鶏達は暴れるのを止め大人しくなった。ホッとした麗華は、スケッチブックを鞄にしまい、帰って行った。彼女に続いて、周りにいた下級生達も帰って行った。
夜……鶏小屋の隅にいる一匹の鶏。赤く目を光らせそして鳴き声を上げた。
翌朝、鶏小屋は何者かの手により壊されていた。
「酷い……」
「誰がこんなこと」
「鶏は?」
「多分、もう……」
野次馬の中にいた麗華は、何かに気付いたのか壊された小屋の裏へ行った。茂みをかき分け、その中を見ると鶏が五匹いた。
一羽の鶏を抱き上げて、皆の前に出た。出て来た彼女に、郷子達は駆け寄った。
「良かった……鶏、生きてたんだ」
「こんだけ、小屋壊されてたのに良く無事だったな」
「……怪我してる」
「え?」
「ほら、ここ」
抱いていた鶏を麗華は地面に置き、羽を広げさせ裏を郷子達に見せた。何かで引っ掻かれたような切り傷が、そこにあった。
「本当だ……良く気付いたね?」
「何となく」
ウエストポーチから、消毒液を出した麗華は、それをティッシュに締め込ませ、その傷に当てた。鶏は痛そうに声を上げ、麗華の指を突っついた。
「れ、麗華!血が」
「大丈夫だよ。慣れっこだし!」
郷子に笑いながら、麗華は言った。しばらくすると鶏は突っつくのを止めた。手当てを終えた麗華は、ガーゼを取り出し、それを破り消毒された傷に巻いた。そこへ生徒に呼ばれたぬ~べ~が駆け付け、小屋を見て麗華を見た。
「これは酷い……?
麗華!指から血が!」
「あー、これ。
大丈夫!薬塗っとけば、治るよ!」
「いや、そうだが……?」
麗華の膝に座る鶏の体に巻かれたガーゼに、ぬ~べ~は目にした。ふと彼女の周りを見ると、四羽の鶏が麗華に寄り添うようにして座っていた。
(……不思議な子だ)
その後、壊された小屋の周りにロープを張り立ち入り禁止の札を立てた。鶏達は仮のケージに入れられ、その日を過ごした。
「なぁ、ぬ~べ~」
「ん?」
「あの鶏小屋壊したのって、やっぱり妖怪の仕業か?」
「それはまだ検討中だ。
……?」
職員室の窓を見ると、鶏達が入ったケージ前に、麗華が座り込んでいた。
「あいつ……」
「麗華って昔から、ああやって動物の絵を描くのよねぇ」
「そうなのか?」
「うん。
小一の時からずっと。飼育小屋の所に行っては、絵を描いてんのよ」
「……
!そうだ!なぁ、郷子!ぬ~べ~!」
放課後……校庭に集まるぬ~べ~クラス。
笛を鳴らしたぬ~べ~は、ドッチボールを手に全員を見て話した。
「今から皆で、ドッチボール大会やるぞー!」
「何でまた?!」
「まぁ、皆の親睦を深めるものだ。
チームは、赤組と白組に。正々堂々と戦おう!」
チームに分かれる一同……麗華は広と美樹のチームにいた。
「頑張ろうぜ!麗華!」
「う、うん……」
少し戸惑っている様子の麗華に、広は軽く疑問を持ちながらも、ゲーム開始のホイッスルの音と共に声を出しながら始めた。
相手チームにいた勝は、投げられてきたボールを麗華目掛けて投げた。
「麗華!ボール!」
「え?……うわっ!」
驚きながらも、麗華は難なくボールを受け止めた。
「凄え、勝のボール取ったぞ」
(……遅いボール)
「お、俺のボールが」
「……!麗華、投げろ!」
広の掛け声に、麗華はボールを思いっ切り投げ飛ばした。ボールは勝の顔スレスレに通り過ぎ、外野にいたまことの顔面に激突した。
「あ!まこと!」
「ヤバい……手加減がまだ……
小林!」
保健室……
両方の鼻に鼻栓を入れ、まことは鼻上に湿布を貼られていた。
「はい、これで大丈夫よ」
保健の先生から手当てを受け、まことは広達と一緒に教室へ戻っていった。
教室では、麗華が待っており彼女は、まことに頭を下げながら謝った。
「本当ごめん、小林」
「いいのだ。ドッチボールだし」
「……でも」
「気にしない気にしない!」
「そうよ!ドッチボールなんだから、こんなの当たり前よ」
「……」
「僕も大丈夫なのだ!」
「まこともこう言ってることだし、早速ゲーム再開」
「ごめん……」
「?」
「そろそろ、帰らないと……」
「え?そうなの?」
「うん……待ち合わせしてるから」
「待ち合わせ?誰と?」
「お兄ちゃんと。
父さんが帰り遅いから。学校終わった後いつもお兄ちゃんの学校に行くか、待ち合わせて買い物しながら帰るんだ」
「へ~……あれ?
お前、母ちゃんは?」
「あ、それは」
話そうとした時、ポーチから音が鳴った。ポーチを開けた麗華は、そこから携帯を取り出し画面を見た。
「ヤッバ!早く行かないと!
ごめん、話はまた今度」
「あ、あぁ」
「あ!
ドッチボール、楽しかった!」
嬉しそうに言って、麗華は教室を出て行った。