地獄先生と陰陽師一家   作:花札

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また怪我したの?

ほら、足出しなさい。

全く、女の子なんだからもっと大人しく過ごせないの?

ま、無理か……母さんの子だもんね。

母さんも、あなたぐらいの頃は外で思いっ切り遊んでは、体に傷付けて帰ってきたから。


二人の間

保健室で、傷の手当てをされる麗華。

 

 

「痛っ!!」

 

「はーい、もう終わりよ」

 

「災難だったね。麗華」

 

「広が蹴ったボールが顔面に当たり、ボールを追い駆けてきた克也と正面衝突するなんて」

 

「おかげで、体中ガーゼだらけだ。

 

てか、見学者なのに」

 

「そ、それもそうよね……」

 

「見学者でその怪我はね……」

 

「お兄ちゃんに怒られる……トホホ」

 

「訳話せば分かるって」

 

「分かってくれる兄ならいいけど、うちの兄上そんじゃそこらの兄とは違うんでね。ハハハ」

 

 

他愛のない話をしながら、郷子達は教室へ戻った。

 

 

 

その日の夜……

 

警察署へ来た郷子達。入った瞬間、龍二から強烈な跳び蹴りをぬ~べ~は食らった。

 

 

「オイ!!人の大事な妹、どこにやった!!」

 

「ちょっと!気絶してる!気絶してる!」

 

「龍二、お前は一旦引け」

 

 

ぬ~べ~の胸倉を掴む龍二を、真二は引き離し抑えた。気を失った彼を、緋音は体を起こし背中に一発活を入れ意識を取り戻させた。

 

そこへ上から降りてきた勇二と、彼に引っ付き泣き喚く輝二がいた

 

 

「すみません、立て込んでいて……いい加減離れろ!!」

 

「うわーん!麗華が!麗華がまだぁ!」

 

「だから今から聞くんだろ!!」

 

「麗華ぁ!!comeback!!」

 

「少しは黙れ!!このへなちょこ親父!!」

 

 

龍二から回し蹴りを食らった輝二は、地面に蹲り静かになった。

 

 

「お見苦しいところ見せて、すみません」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「麗華って、この人達と一緒に生活してるんだよね」

 

「改めて思う。麗華の奴が普通じゃない理由がここにあるって」

 

「で、何があったんです?麗華に」

 

「実は、未だに家へ帰っていないんです」

 

「え?」

 

「嘘だぁ!

 

麗華の奴、今日はお兄さんの学校に行くって先に帰ったもん!ねぇ!」

 

「うん!」

 

「その妹が、部活終わった今になっても、来てないんだよ!!

 

テメェ等、人の大事な妹に何かしたんじゃねぇだろうな?ここ最近、学校のいじめがかなり陰湿になったって、聞いたからなぁ」

 

「し、してません!!」

「し、してません!!」

 

「話進まなくなるから、お前は引っ込んでろ!!」

 

「ごめんねぇ、怖がらせちゃって」

 

「でもよ、麗華って確か焔連れてるよな?

 

大丈夫なんじゃねぇの?」

 

「そうそう!その内ヒョッコリ帰ってくるわよ!」

 

「敵が万が一、俺等と同類でイカレタ野郎だったら、焔はひとたまりも無い。

 

ただでさえ麗華は、まだ修業中の身なんだ。本格的な霊能力者同士の激しい戦いはまだ、したことが無い」

 

「へー、てっきりもう一人前かと思ってた」

 

「ねぇ。普通に妖怪達をバンバン倒して」

 

「危うくぬ~べ~が、主人公下ろされるかと思ったもの!」

 

「はっきり言うな!!」

 

「俺等から見りゃ、まだ未熟だ。

 

けど、テメェ等からしてみりゃ遥に上だな。そこにいる馬鹿教師よりはな」

 

「やっぱりか」

 

「う~……どうせ俺は……」

 

「ぬ、ぬ~べ~……」

 

(話が全然進まない……)

 

 

その時、ドアを叩く音が聞こえ勇二は席を立ち開けた。

 

 

「どうした?」

 

「犯人に動きが」

 

「!

 

輝二!」

 

 

振り返ったが、肝心の輝二は未だに蹲ったまま動いていなかった。

 

 

「息子の蹴りを食らって、まだ気を失ってるか……」

 

「恐るべし、龍二」

 

「輝二!!いい加減にしねぇと、顔面パンチ食らわせるぞ!!」

 

「はいぃ!!」

 

「凄え!目覚めた!」

 

 

部屋の外で話をする勇二と輝二。話の途中、突然輝二が目の色を変えて、走り出した。彼に続いて部屋で待っていた龍二も、飛び出した。

 

 

「輝二!!

 

 

ったく、話を最後まで聞けって……すぐにそこへ警官を向かわせろ。俺達も行く」

 

「は、はい!」

 

「刑事さん、何かあったの?」

 

「夕方、隣町で銀行強盗があってね。

 

その仲間の一部がこっちに、逃げてきたって連絡があって。

 

 

逮捕した仲間の一人が吐いたんだ……夕方、小学生くらいの女の子を、人質にさらったって」

 

「小学生くらいの……」

 

「女の子……

 

 

あ!!」

「あ!!」

 

 

 

その頃、麗華は……

 

 

とある廃屋に置かれた木箱の上に座り、飴を舐めていた。そして、何かの気配を感じたのか、木箱から飛び降り外で作業する人達に声を掛けた。

 

 

「ねぇ!早くここから離れないと、ヤバいよ!」

 

「お嬢ちゃん、少し黙っていようか?」

 

「でも」

「おい!早くしろ!

 

察にバレる前に」

 

「今やってますって!」

 

「……!

 

ねぇ!それ以上、掘らない方がいいよ!じゃないと!」

 

「少し黙ってろ!!」

 

 

怒鳴られた麗華は、驚いた拍子にその場に尻を着いた。次の瞬間、建物内から木箱が男達に向けて放たれた。

 

 

「な、何だ!?」

 

「……来た」

 

「?」

 

 

麗華の前に現れ出たのは、鋭い爪を持った猿人。赤い目を光らせると、猿人は咆哮を上げて男達を睨んだ。

 

 

 

 

「妖怪!?」

 

 

勇二が走らせる車の中、ぬ~べ~は後ろに座っている郷子達に話した。

 

 

「今向かってるところに、妖怪が住んでるのか!?」

 

「大昔、どこかの巫女が妖怪化した猿を、封じていたんだ。

 

そして、封印が解かれぬよう代々守っていたんだが、どういう訳かその血が途絶えたと風の噂で聞いた事があるんだ」

 

「その猿妖怪の封印が解かれてる可能性が、十分ある。

 

そこに、ご馳走とも言える麗華がいるって分かったら……」

 

「おじさんと龍二が駆け出すわけだわ……」

 

 

目的地に着く車……次の瞬間、銃声が鳴り響いた。車から降りた勇二は、中で待つようにぬ~べ~達に言うと、銃を構えて林の中へ入った。その後を茜と真二は追い駆け、真二は管狐を出して木の陰に隠れながら奥へ入って行った。

 

 

 

勢いを付け体を起こす麗華。頭に着いた砂を落とすようにして頭を振り、前に立っている猿人を見上げた。

 

猿人は鋭い爪で、麗華に触れた。壊れやすいものを触るよう慎重に触った。

 

 

「……お前」

 

「このぉ!!化け物が!!」

 

 

“バーン”

 

 

銃声と共に猿人は、叫び声を上げた。麗華の頬に触れていた爪に力が入り、思わず彼女の顔に傷を付けてしまった。

 

 

「ざまぁ見ろ!!

 

早くあのガキを、こっちに!」

 

「あ、はい!」

 

 

近付こうとしたその時だった。林から飛び出してきた何かに、男は顔面を蹴られ飛ばされた。銃を持った男が、ハッと振り向くとそこには拳を鳴らす、輝二と龍二がいた。

 

 

「……お兄ちゃん……父さん」

 

「人の妹連れ回すとは、いい度胸してるなぁ?」

 

「愛娘を連れ回すって事は、この後何が起きるかは覚悟してるんだよね?」

 

 

優しい微笑みを浮かべた輝二を見て、男達は恐怖で震え上がった。銃を持った男は、銃口を向けると弾を放った。その瞬間、彼等の前に管狐が現れ、銃弾を防ぎ止めた。

 

 

「ば、化け狐!?」

 

 

叫び声を上げたと同時に、男の顔面に龍二の飛び膝蹴りがもろに入った。彼に続いて、他の男達の顔面に蹴りを入れる輝二。

 

二人は息を合わせながら、その場にいた男達を全員殴り倒した。

 

 

 

集まる警察官達……腫れ上がった顔をした男達は、手錠を掛けられパトカーに連行されていった。盗まれた金は、無事銀行へ戻った。

 

 

その一方、輝二達は……

 

 

勇二から拳骨を食らい、たんこぶを作っていた。その隣で輝二は彼の手伝いをしていた。

 

 

「クソ……俺まで殴ること無いのに」

 

「まあまあ」

 

「麗華が無事だったんだし、よかったじゃなねぇか!」

 

 

頬にガーゼを貼った麗華は、来ていたぬ~べ~達と楽しそうに話していた。

 

 

「妖怪だけで無く、人間にも危険電波を発信しないとは……

 

何か、大物って感じね!麗華!」

 

「いや、危険電波もうバリバリ発信してたよ!」

 

「え?!」

 

「じゃあ何で早く逃げなかったの!?」

 

「あいつ等銃持ってたし……それに大人しくしとけば、拘束はしないって言ってたから」

 

「……」

 

「でもこの林に来た瞬間は、マジで焦った」

 

「何で?」

 

「この林、普段結界が張られてたはずなのに……結界が破られてた。

 

おまけにこの倉庫へ続く道に、古くなって自然に切れた注連縄が落ちてて、一大事だって思って」

 

「でも、犯人達麗華ほっといて何かやってたんでしょ?その隙に逃げれば……」

 

「逃げる前に、こいつがもういた」

 

 

そう言って、麗華は後ろを指差した。後ろには丙に傷を治して貰った猿人が、狼姿になっていた焔達と寛いでいた。

 

 

「あいつがいたから、逃げなかったのか」

 

「妖怪が暴れて、銃で殺られたら仲間が黙ってないからねぇ」

 

「へー」

 

 

「さてと、君等は俺の車で送るから」

 

 

白い手袋を取りながら、勇二は郷子達に歩み寄った。麗華は、彼の後から来た輝二の元へ駆け寄った。

 

 

「麗華はどうすんの?」

 

「父さん達と一緒に焔達と!

 

何か、心配掛けてごめんね」

 

「いいっていいって!」

 

「無事で何よりよ!」

 

「ヒヒ!どうも!」

 

「今回は怪我が無かったからよかったけど、これからは気を付けるんだよ」

 

「はーい」

 

「今度から焔だけで無く、鎌鬼着けとくか」

 

「いいよ。焔達だけで。

 

どっかの姫君じゃないんだから」

 

「妖怪達からすれば、お前は絶好の姫君なんだよ!」

 

「自分の身は自分で守れますぅ!」

 

「守れねぇ時があるだろ!!」

 

「そん時は焔達に守って貰うもん!」

 

「あのなぁ!!」

 

「はいはい!

 

外で兄妹喧嘩はしない!」

 

「いっちょ前に父親面すんな!!」

 

「龍二!言って良いことと悪いことがあるぞ!!」

 

「仕事仕事で、子供の面倒を見ない奴に、言う権利は無い!!」

 

「親に向かって奴とは何だ!奴とは!!」

 

 

始まった親子喧嘩……それを見た郷子達は苦笑いを浮かべ、勇二は呆れて溜息を吐きながら、目頭を抑えた。

 

傍にいた麗華は、軽く息を吸うと跳び上がり二人に踵落としを食らわせた。

 

 

「喧嘩する前に、あのお猿さん封印するよ!」

 

「は、はい……」

「は、はい……」

 

「さすが、二人の姫君」

 

「娘(妹)には、頭が上がらないってか?」




皆が帰った頃……林の奥にあった洞窟に、猿人を封印し終えた三人は、林の中を歩いていた。


「フゥー、これで片付いたか」

「まさか、封印が解けていたとは」

「あの猿、全然攻撃的じゃなかったのに、何で封印する必要があるの?」

「妖怪になってから、自分の力の制御が出来ないから、俺等の先祖に頼んで封印して貰ってたんだ。

元々、人が大好きな妖怪だから自分の力で傷付けたくなかったんだろうね」

「フーン……」

「でも、あの封印って確か……

お袋がやってたんだろ?」

「まぁ、そうだけど……




もういないからね」


輝二の言葉に、二人は少し暗い表情を浮かべた。だがすぐに、麗華は顔を上げそして龍二の右手と龍二の左手を握った。


「全然寂しくないもん!

父さんとお兄ちゃん達がいるから!」


その言葉に反応したのか、三人の肩に乗っていた焔達は狼姿になり、各々の主に擦り寄った。


「渚達もいて、まだ寂しいなんて言ってたら、お袋に怒られるな」

「だね。優華にお尻引っぱたかれちゃうよ」

「よっしゃー!家まで競争!」

「あ!コラ!待て麗華!」

「二人共!ルール違反!」


焔達に跳び乗った三人は、空へと飛び月明かりが照らされた夜の空を駆けていった。

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