地獄先生と陰陽師一家 作:花札
「しまった!!逃がした!」
「早く捕まえろ!」
「すみません!脱走しました!」
「クソォ……
あれが人前に出たら、大変なことになるぞ」
登校する生徒達……大あくびをしながら、麗華は教室へ入った。
「さっきそう話してたのよ!」
そう言い張りながら美樹は、何かを話していた。麗華は荷物を机の上に置くと、郷子の隣に立ち質問した。
「細川、何かあったの?」
「それがね、この童守町に妖怪が入ってきたんだって」
「妖怪って……
毎回いるじゃん、妖怪」
「それが普通のと違うの!」
麗華の答えに、美樹は言い寄りながら強く言った。
「違う?何が?」
「その妖怪、元々はどこかの研究所で研究されてたんだけど、職員が誤って鍵をかけ忘れて脱走して、今この童守町に来てるんですって!」
「……どこで聞いたの?そんな話」
「今朝ゴミ出ししてた奥様方から!」
「奥様方……ハックション!」
「うわっ!だ、大丈夫?」
「今朝からくしゃみが止まらなくて……」
「風邪か?」
「分かんない」
チャイムが鳴り、ぬ~べ~が入ってきたのと同時に、美樹の周りにいた生徒達は皆各々の席へ着いた。
お昼過ぎ……
黄色いテープが貼られた現場に、白い手袋を嵌めながらやって来た輝二と勇二は、テープを潜った。
奥にはミイラ化した女性の遺体と男性の遺体があった。
「何だこりゃ?」
「人が犯人…じゃあ無さそうだね」
「見るからにそうだろう。
酷い有様だな」
「全ての体液を吸われたみたいだね。
ほとんど血が無い」
「体液を吸う……妖怪か?」
「勇二も感じてるだろ?強い妖気」
「微かにな」
「そんじゃあ、妖怪で確定かな」
「つう事は……」
「また俺等だね。担当」
「っ……
俺等、警部なのに」
「まぁまぁ」
「……?
輝二、あいつ等」
勇二が指差す方向に目を向けると、そこにはスーツ風の服を着た男とチャラい格好をした男が立っていた。
「……悪い、ちょっと離れる」
「分かった」
そう言って輝二は、テープを潜り抜けその二人の男の元へ駆けていった。男の一人が彼に気付き手を振りながら、呼び掛けた。
「やっぱり、来てたか」
「ここから、同じ気配を感じたからな」
「君等の仲間?」
「可能性は高い」
「仲間と言うより、同じ種族なだけだ。な!」
「そうだな」
「……二人とも、麗華と龍二を」
「そのつもりだ」
「了解しました!輝二!
よっしゃー!麗華を迎えに!!」
「お前は龍二だ。
麗華は俺が行く」
「えぇ!!何でぇ!!」
「喧嘩、するなー?」
放課後……
「麗華?大丈夫?」
保健室へ来た郷子はカーテンを開けながら、声を掛けた。後からやって来た広と美樹と克也は彼女の鞄とプリント類を持って、郷子に続いて顔を覗かせた。
「あー、大丈…ゲホゲホゲホ!!」
「む、無理に答えなくていいよ!」
「俺等、鞄とプリント類持ってきただけだからさ!」
「あ、ありがとう」
「それより、熱は?下がった?」
「全然……つか、さっきより上がったみたい」
「マジかよ!?」
「本当、大丈夫?
顔赤いし、目が死んでるけど……」
「うん、大丈夫……薬飲んで寝てれば」
そう言いながら、麗華はベッドの上で再び倒れ寝てしまった。
「完全ダウンだな、これ」
「お兄さん来るまで、待つか」
「だね!麗華の看病もしないと!」
「そうそう!」
「その必要は無い」
その声と共に保健室に、あのスーツ風の服を着た男とチャラい格好をした男が入ってきた。
「だ、誰?!」
「不審者か?!」
「んな訳あるか。そいつの保護者だ」
「嘘だぁ!!
麗華にこんなお兄さん達がいるなんて、聞いてないもん!」
「兄貴じゃねぇ……保護者だ!」
「もうこいつ等ほっといて、早く連れて帰ろうぜ」
「怪しい奴に、麗華を渡せるか!」
「そうよ!」
「……学校が楽しいって言ってたのは、本当らしいな」
「え?」
「……!
兄貴!」
「来やがったか……」
「え?何が?
って、ちょっと」
郷子達を退かした男は、勢い良くカーテンを開けベッドで眠る麗華を、横に持ち上げた。
「待てよ!麗華を連れて行こうなんざ、俺が許さねぇ!!」
「邪魔だ。
お前等も早く帰れ。次期危険が来る」
「危険って?」
その時、突如学校全体に黒い影が覆い被さった。いきなり暗くなったことに気付いた広達は、窓の外を見た。
暗くなった校庭に立つ、人の姿が目に入った。だがその人は形を変え、巨大な蜘蛛の姿を変えた。
「いっ!?く、蜘蛛!?」
「もう来やがったか……
退路を開くぞ!」
「アイアイサー!」
チャラい格好をした男は、ベルトに射していた銃を手に取りBB弾を放った。放たれたBB弾から、煙が上がり入ってきた何かが奇声を上げた。
「ナーハッハッハ!!どうだ!?唐辛子入り煙玉は!!」
「自慢してねぇで、とっとと行くぞ」
「応!」
机の上に置かれていた麗華の鞄を手に、二人は保健室から飛び出した。その後を広達は慌てて追い駆けていった。
走る男に担がれていた麗華は、スッと目を開けた。
「あれ?何で?」
「お!麗華、目ぇ覚めたか!?」
「……どういう状況?」
「お前を狙ってる妖怪が、ここにいる」
「……!!
この気配……まさか」
「そのまさかだ」
「うぅ……もう嫌だぁ!!
ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」
「やべぇ!!麗華が吐く!!」
「吐かない!!
でも揺らさないで!マジで吐きそう……」
「吐くな!」
女子トイレの前に立つ牛鬼と安土……トイレから出て来た麗華は、フラフラとしながら頭を抑えて、その場に座り込んだ。
「大丈夫か?」
「お家帰りたい」
「そうしたいのは、山々だが……
完全に逃げ道を塞がれた」
「あいつ倒さねぇと、帰るのは無理だな」
「帰りた~い」
「もうちょい我慢してくれ。なぁ?」
「う~……」
「……で?
何で、テメェ等までついて来てんだよ」
廊下で待っていた広達に、牛鬼は彼等を睨んで質問した。
「だ、だってお前等、怪しい奴等だから……」
「麗華がさらわれるかと思って……」
「あぁ、大丈夫……
こいつ等、近所で喫茶店経営してる妖怪の兄弟……」
「本当?それ」
「ホント……
つか、もう質問しないで……マジで吐きそう」
「もう一回、吐いてこいよ」
「胃液しか、出ない……
帰りたい……」
「あーあ、お前等がとっとと麗華を寄越してくれれば、あの変な野郎から逃げ切れたのに」
「だ、だって!!」
「言い争ってる暇はない。
オイ、お前等の担任はいないのか?」
「いると思うよ。学校がこうなってるから……」
「てか、何か……変じゃない?」
「変?何が?」
「私達が麗華の所に来たのって、掃除終わってからよね?」
「う、うん……」
「その時、校庭にも校舎にもまだ他の生徒がいたはずよ!
なのに、さっきから私達以外、人の気配が全くしないんだけど……」
「言われてみれば……」
「確かに……
というか、これだけ校舎の外が暗くなってるのに、誰の声も聞こえないなんて……」
「……やられたな」
「だね」
「え?どういう事?」
「別世界に、俺等は放り込まれたんだ」
「別世界?」
「俺達がいる世界を中心として、この世には色々な世界があるんだ。
妖怪しかいない世界。
何もない世界。
死後の世界って。まだまだあるけどな」
「恐らく、俺等は妖怪しかいない世界に放り込まれた。
さっきから、力が凄い漲る」
「あぁ、それ俺も感じてた」
「てことは……」
「俺達は……」
「絶好の餌って事じゃない!!」
「お前等より、麗華の方がご馳走だ!」
“カラン”
何かが転がる音が聞こえ、郷子達は後ろを振り返った。暗い廊下からヌッと出て来た一人の女性。女性は郷子達に気付くと、ニタァっと笑いそして追い駆けてきた。
「ギャー!!なんか来たぁ!!」
「走れぇ!!」
牛鬼の声に郷子達は一斉に走り出した。安土は麗華を担ぎ先頭を走り、牛鬼は彼等の後ろを走りそして角を曲がる寸前に、糸の壁を作り上げ道を塞いだ。
理科室へ逃げ込んだ郷子達……麗華はふらつく足で、扉に札を貼り結界を張った。
「これで……時間……」
言いながら、麗華はその場に倒れた。郷子達は慌てて駆け寄り、彼女を呼び掛けた。
「ただでさえ、この熱だ。
この状態で結界なんか張ったりしたから、一気に体力が無くなったんだよ」
「そんな……」
「とりあえず、寝かしとくか……
一応、水はあるし」
そう言いながら、牛鬼は麗華を持ち上げ机に寝かせた。安土は腰に巻いていた上着を、彼女に掛けた。
「……本当なら、茂の所に行って診て貰う予定だったのに」
「だからごめんって……」
「謝る必要はない。
既に俺等は、あの妖怪に目を付けられていた。
だから姿を変えて、ここへ入ったんだが……敵の落とし穴に嵌まって、それにお前等を巻き込んだ。それだけだ」
「……」
「それに今はこいつ等を責めてる場合じゃない。
どうやって、こっから抜け出すかだ。早く出ないと、俺等はまだしも、こいつ等全員、妖怪の餌食になる」
「だな。
ところで、焔はどこ行った?」
「あいつは、この世界に着ていない。
恐らく、敵に追い出されたんだろう」
「……」
目を覚ます焔……頭を振りながら、起き上がった。自身がいたのは、保健室前の廊下だった。
「……何だ、この妖気。
麗!!牛鬼!安土!!」
人の姿へとなり、焔は駆け出した。角を曲がろうとした時、彼は誰かとぶつかった。
「痛ってぇ……
!?お前、鬼の!」
ぶつかったのは、数枚のプリントを持ったぬ~べ~だった。
「何だ?焔かぁ。
て、お前人の姿になっちゃ……!?」
「やっと気付いたか」
焔を退かしぬ~べ~は、保健室の戸を開いた。そこにいるはずの、郷子達の姿は無く置かれているベッドの中は
、空になっていた。
「……何だ、この強い妖気は。
それに、あいつ等の姿が」
「妖気はビンビンに感じるのに、姿が見えない」
「とりあえず、学校を見て回る。手伝ってくれ」
「その必要はない。
麗もあいつ等も、この近くにいるのは間違いない」