地獄先生と陰陽師一家 作:花札
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『お願い……あの子達を』
優華?
『守って……あの子達が!』
目を覚ます輝二……
眠そうにあくびをしながら、伏せていた上半身を起こし体を伸ばした。
「随分お疲れみたいだな?」
「あ、勇二。
お疲れ」
「お疲れさん」
勇二から貰った缶コーヒーの蓋を開けると、輝二は一口飲み深く息を吐いた。
「そういや、お前奥さんの夢でも見てたのか?」
「え?何で?」
「寝言言ってたから」
「……あー、そういえば。
久し振りに見たなぁ。優華の夢なんて……しかも、あんな顔して」
「あんな顔って?」
「凄く心配そうな表情をしてたんだ。
それに、二人がどうとかって」
「二人?
それって、麗華ちゃんと龍二君のことじゃないのか?」
「多分……まさか、何かの予知?」
「知らねぇよ。
おおかた、二人を見ろって忠告じゃないのか?」
「見ろって……俺、ちゃんと子育てしてるよ!」
「してねぇだろ……とくにここ最近。
お前、いつ家に帰った?」
「う……」
「もう三日も帰ってねぇだろ?」
「そ、それは……」
「二人共、お前の仕事を理解できる歳かもしれないが、まだまだ子供だ。
とくに麗華ちゃんは、まだ親に甘えている年頃だぞ」
「え?そうなの?」
「お前なぁ……」
童守小……
休み時間、麗華は屋上にある給水タンクの上に座り、首に下げていた勾玉を眺めていた。
(……あれ以来、母さんの声がしない。
何で、光ったんだろう)
思い出すのは、牛鬼達と共に妖怪の世界へ入り、半妖と戦った時突然勾玉は強烈な光を放った。
そして、その光の中から母・優華の声が聞こえた。
(……そもそも、これって何だろう……
母さんが死んで、しばらく経ってから父さんから貰ったんだよなぁ。
先生に聞けば、何か分かるかな?)
タンクから飛び降りた麗華は、華麗に着地して校内へ入って行った。
「先生!」
職員室の戸を開けると、ぬ~べ~は自身の席で寝ながら何かを書いていた。呆れた麗華は、フードの中にいた焔に指示を出した。焔はフードから出ると、彼の机の上に乗り、手に噛み付いた。
噛み付かれた痛みで、ぬ~べ~は飛び起きた。その隙に、焔は麗華のフードの中に隠れ、ソッと様子を窺った。
「大丈夫?先生」
「何かに噛まれた……」
「寝ぼけてたんじゃないの?」
「いや、確かに……?」
フードの中から、ソッと覗いている焔にぬ~べ~は気付いた。
「……あ!お前か!?犯人!!」
「先生、気ぃ緩めちゃ駄目ですよ!
いつ何時、何が起きるか分からないんですから!」
「お前が悪戯しなければ、いい話だ!」
「『妖怪と戦う者、いつ何時も気を抜くな』って、輝三が言ってたよ!」
「輝三って、誰?」
「私の伯父さん」
「あ、そう……
で、何か用か?」
「聞きたいことがあって」
「ん?何だ?」
服の下に隠していた勾玉を取り出し、麗華はそれをぬ~べ~に見せた。
「これ、何だか分かる?」
「?
何だ?これがどうかしたのか?」
「実は……」
先日起きた事を、麗華はぬ~べ~に話した。
「なる程……
お前がピンチになった時、この勾玉が光ったと……」
「うん……
これが何なのか、先生になら分かるかなぁって」
「う~~ん……見た感じ、御守りのように見えるが。
それに、微かだが護符の様な役割をしてる」
「護符の役割……
やっぱり、御守りなのか」
「お前が産まれた時に、妖怪から守るために親が作ったんじゃないのか?」
「違う……
これ、元々母さんのだもん」
「母親の?」
「うん。母さんが死んでしばらくしたら、父さんが御守り代わりに持ってろって……」
「そうか……
病気で亡くなったのか?」
「ううん。違う」
「……」
「まぁ、あんまり覚えてないんだよね!
母さんが死んだの、私が小学校に入学する前だったから」
「……悪い、何か」
「いいって!
じゃあ先生、教室戻るね!」
「あぁ……!
麗華!」
「?」
「帰りのホームルーム、お前が主役になるぞ!」
「え?主役?」
「ホームルーム、楽しみに待っとけ!」
「……うん!」
嬉しそうに頷き、麗華は職員室を後にした。ぬ~べ~は、お茶が入った湯飲みを手に持ち啜った。
「神崎さん、何かあったんですか?」
「あ、いえ……ちょっとした質問に、答えたまでです」
「そうですか……
しかし、お母さんが亡くなって、四年か……」
「何か知っていらっしゃるんですか?田山先生」
「いえね……
僕、神崎さんのお兄さん……龍二君が六年の時に彼の担任をしていたんです。
卒業式前だったかなぁ……お母さんが亡くなったのは」
「そうだったんですか……」
「亡くなってから、相当苦労してたみたいですから。
卒業してしばらく経った頃だったかなぁ……短かった髪を少し長く伸ばして、女の子みたいにハーフアップにして……」
「何故、そんなことを……」
「僕も詳しくは知りませんが……
何でも、妹さんに寂しい思いをさせないためだとか」
「……」
「まぁ、妹さんの笑顔を見てると、少しホッとしますよ。彼の努力が、実っているって実感できますから」
眼鏡のブリッジを上げながら、田山は少し嬉しそうな表情をして校庭を眺めた。
放課後……席に着く郷子達。ぬ~べ~は、賞状筒を持って、教室へ入ってきた。
「先日、皆に描いて貰った絵を展示会に提出した。
そしたら、うちのクラスで金賞を取った奴が出た!」
「えぇ!!」
「誰?!」
「晶じゃないの?絵、頑張って描いたじゃん!」
「いや~。でも、あの絵あんまり自信ないんだよねぇ」
「ぬ~べ~、誰なんだよ!」
「勿体振らずに、教えてよ!」
「そう慌てるな。
では、発表する!
当選したのは、麗華!お前の絵だ!」
「……え?!」
「え?!」
驚きのあまり麗華は、思わず席から勢い良く立ち上がった。ぬ~べ~は、笑いながら筒から賞状を出し広げ、手招きをした。固まっている彼女に、郷子は軽く背中を叩き、教壇に向かわせた。
「凄え……麗華が金賞取るなんて」
「麗華、一年の時から絵が上手いもん」
「ほえー」
賞状を貰った麗華に、クラス一同は拍手を送った。彼女は照れ臭そうにして、頭を掻き嬉しそうに笑った。
鈴海高校の面談室……
困った表情をしながら、紙を見る担任を前に、龍二は真剣な眼差しで彼を見ていた。
「あのね、神崎君。
これ、三者面談なの。でね、親御さんがいないと何も……」
「連絡したって、親父は来ませんよ。
今、事件の山追ってて、三日も帰ってきてないんですから」
「いや、そうだけど……」
「話が無いなら、俺はこれで失礼します」
「いやいや、ちょっと!」
「親に何話したって、俺の考えは変わりません」
そう言うと、龍二は面談室を出て行った。
担任は深く溜息を吐きながら、困った表情を浮かべて進路志望が書かれた紙を見た。
そこには、警察官学校と書かれており、それ以外は何も書かれていなかった。