地獄先生と陰陽師一家 作:花札
会議室で、ホワイトボードに書かれた字と写真を見る輝二と勇二。
「また出て来たか」
「何なんでしょう……
確か、四年前にも通り魔がありましたよね?」
「あぁ。
当時の被害者は、計六人。
今回のも入れると、十人」
「酷い……
犯人の目星はついてるんですよね?」
「一応」
「じゃあ、何で捕まえないんですか!?」
「近付いたかと思ったら、逃げられる……
鼬ごっこ状態なんだよ」
「そんな……」
「こんな、若い人までを殺して、何がしたいんですかね」
「さぁね……」
「……
妖怪なら、互いを傷付けたりはしないのに」
「え?」
「輝二」
「あ……
ご、ごめん……さっきの、忘れて!」
引き攣った笑い方をしながら、輝二は会議室を出て行った。
「……どうしたんですかね。
神崎警部、いつもよりおかしい様な気が……」
「池蔵!」
「す、すいません!!」
「ああなるのも無理は無い」
「え?」
「この事件の被害者の中に、あいつの奥さんもいる」
「……」
そう言うと、勇二はホワイトボードに貼っていた一枚の写真を取り、それを机に置いた。その写真は、黒髪を一つ三つ編みに纏めた、若い女性だった。
「うわぁ、美人」
「神崎優華さん……
当時、三十四歳。娘を迎えに行く途中で、背後から刃物で刺され死亡。
爪から採取された皮膚片によって、犯人が特定することが出来た」
「神崎警部の奥さん、何か凄え」
「だが、特定できたものの……
それ以上は何も見つかることは無かった……」
「……」
屋上に出ていた輝二は、背広の内ポケットから写真を取り出した。それは、見晴らしの良い場所で、山をバックに自分達ともう一家族が写っていた。
「……四年か」
「四年がどうかしたか?」
背広のポケットから出た迦楼羅は、狼姿になり彼の傍へ寄った。
「弥都波と優華が死んで、四年経ったなぁって……」
「……」
「今でも思うよ……
俺がもっと早く仕事片付けて、麗華を迎えに行けば……優華は死ななかったかもな」
「まだ言うか……
お前、それを龍の前で言ってみろ。怒鳴られるぞ」
「……」
その時、携帯が鳴った。携帯の画面を見ると、“鈴海高校”と表示されていた。
「(龍二の学校?)
はい、神崎です。
はい……
え?そんな話、聞いて無いです……すみません。
!!」
携帯を閉じると、輝二は勢い良く屋上から飛び出ていき、署を出て行った。迦楼羅は、屋上から飛び降り、署の前で待ち、出て来た輝二を背に乗せるとそのまま、空へ飛んでいった。
嬉しそうに帰路を歩く麗華……病院へ行った麗華は、茂の仕事部屋へに入った。
「茂兄!見てみて!」
賞状筒の蓋を開け、中に入っていた賞状を広げて茂に見せた。
「金賞……って、凄いじゃないか!麗華ちゃん!」
「へへ!
帰ったら、お兄ちゃん達に見せるんだ!」
「そうか!
あれ?今日は、龍二君の所に行かなくていいの?」
「うん。
お兄ちゃん、今日なんか先生と大事な話があるから、先に帰ってろって」
「……そうか……
そろそろ、その時期か」
「時期?何の?」
「麗華ちゃんも、いつか通る道。
今は、知らなくて良いよ」
「え~!私だけ除け者扱い、嫌だ!」
「いやいや、除け者扱いなんかしてないよ。
麗華ちゃんも、龍二君と同じぐらいになったら、分かることだから」
「……」
日が暮れた頃、麗華は階段を上り境内に入った時だった。
“ガシャーン”
「!?」
家の中から何かが割れる音が響いてきた。驚いた麗華は、恐る恐る引き戸に触れようとした。
「待ちなさい!!龍二!!」
「話は終わりだ!!
何言われようと、俺の進路は変わらねぇからな!!」
そう怒鳴りながら、龍二は力任せに引き戸を勢い良く開け飛び出した。中から、輝二が怒りの形相で彼を呼び叫んだが、龍二はその声を無視して、境内を出て行った。
「……クソ!!」
力任せに引き戸を、輝二は閉めた。戸の片隅にいた麗華はしばらく固まり、そして緊張の糸が解けたかのようにして、その場に座り込んだ。
「……び、ビックリしたぁ」
「どうしたんだ?二人共……」
「さぁ……
とりあえず、中に入ろう」
ソッと引き戸を開け、麗華は中に入った。靴を脱ぎ開いていた輝二の部屋を、恐る恐る覗いた。
「……?
あぁ、麗華……お帰り」
「ただいま……
お兄ちゃんと、何かあった?」
「別に……麗華には、関係ないよ」
「……あ!
父さん、こないだ描いた絵が」
「ごめん、麗華。
父さん、もう仕事に戻らなくちゃ」
「……そう」
「あと、任せたよ」
そう言って、輝二は背広を手に持ち家を出て行った。
軽く溜息を吐きながら、麗華は居間へ行き明かりを付けた。ローテーブルの上に置かれていた湯飲みがひっくり返り、畳が濡れていた。台所へ行くと、何かを割ったのか粉々になった硝子が、床にばらついていた。
「わぁ……」
「こりゃあ酷い……」
「……焔、手伝って」
「あぁ」
床に落ちた硝子の破片を焔が拾い、麗華は居間の畳を拭いた。
翌日……
「えぇ?!お父さんとお兄さんが、大喧嘩?!」
下駄箱で、上履きに履き替えながら、麗華は郷子達に昨夜のことを話した。
「そう。おかげで昨日はその後片付け」
「大変だったなぁ」
「おまけに、昨日お兄ちゃん帰って来なかったんだよ!」
「嘘!?」
「じゃあ麗華、昨日一人だったの?!」
「うん」
「喧嘩の原因は?」
「知らない。
何か、進路がどうとか」
「進路?
それって、大学受験のことじゃない?」
「さぁ……聞ける雰囲気じゃ無かったし」
「そっかぁ……
じゃあ、昨日の賞状は……」
「見せられるわけ無いよ。
喧嘩した後、父さんは仕事に戻っちゃったし。お兄ちゃんは帰って来ないし」
「何か、色々大変だな」
「こういう時思うよ。
母さんいてくれたらなぁって」
「あれ?麗華って、母ちゃんいないのか?」
「いないよ。
私が小学校入学する前に亡くなったから」
「え、そうだったの?」
「そうだよ……って、前に話したと思ったんだけど」
「聞いてない聞いてない!」
そんな話をしながら、郷子達は階段を上り自分達の教室へ向かった。
「キャー!!」
突如廊下に響く悲鳴……その声に、郷子達はすぐにその声の元へ駆け寄った。
廊下から駆けてきたのは、法子だった。彼女は駆け付けた郷子にしがみついた。
「む、向こうから妖怪が……!?」
郷子達が顔を上げ前を見ると、そこに棍棒を振り回す妖怪が歩み寄ってきた。
「で、出たぁ!!」
「早く先生、呼んできて!!」
「う、うん!!」
「焔!」
パーカーから出て来た焔は、人の姿になると妖怪に向かって跳び蹴りをした。彼の蹴りを妖怪は、棍棒で受け止めた。後ろへやった棍棒の上に、麗華は降り立った。
「後ろにも、ご注意を!」
棍棒を軸に、麗華は妖怪に回し蹴りを食らわした。蹴りをもろに食らった妖怪は、足場をふらつかせたが頭を振り体制を整えると、麗華に向かって棍棒を突いた。
突いてきた棍棒を、麗華は着ていたパーカーに絡ませると、ポーチから札を取り出しそれを妖怪の額に貼った。
「闇に潜む邪悪な影よ!無に帰れ!!」
札が光り出すと、妖怪は苦しみだしたそして麗華の頭を鷲掴みにして、床へ倒した。
「麗!!」
「離せ!!この野郎!!」
妖怪に向かって、焔は回し蹴りを食らわした。だが当たる寸前、妖怪は彼の蹴りを受け止めそして投げ飛ばした。
「焔!!
この!!離せって!!」
「……記憶……蘇れ!」
「え?……!?」
流れる映像……目の前に立つ黒い一つ三つ編みの髪型をした女性。手を伸ばした瞬間、彼女は血塗れになった。
呆然と立っていた時、ふと振り返った。目の前に立つ傷だらけになった龍二と輝二……
一瞬暗くなったかと思ったら、今度は別の場所になった……横になった自分の手を握りながら、何かを唱える輝二と、札を持ち構え彼と共に唱える龍二が涙を浮かべて立っていた。
(……何……これ)
「麗華!!」
郷子に呼ばれ駆け付けたぬ~べ~は、白衣観音経を妖怪に向けて投げた。彼の声で気が付いた麗華は、弱まった手を振り払うと、後ろへ下がった。
暴れ出そうとした妖怪に、狼姿になった焔は彼に噛み付いた。身動きが取れなくなった妖怪に、ぬ~べ~は鬼の手を出し攻撃した。
黒い霧を放ちながら、妖怪は消えた……噛み付いていた焔は、鼬姿になり麗華の元へ駆け寄り伸ばしてきた手を伝い、肩へ上ると彼女に頬摺りした。
「麗華、怪我は?」
「へ、平気……(さっきの……何だったんだろう)」
「ぬ~べ~!」
「妖怪は?!」
「大丈夫だ。もう倒した」
「さっすがぬ~べ~!!」
盛り上がる郷子達……その中、麗華はずっと妖怪が消えた箇所を見つめていた。その時、ふと髪に何かが触れ顔を上げた。目の前にいたのは、黒い影だった。
(……誰?)
ふとぬ~べ~は、凄まじい妖気を感じすぐに振り返った。
「?どうかしたのか?ぬ~べ~」
「い、いや……?」
立ったまま微動だにしない麗華に、ぬ~べ~は気付き彼女の歩み寄った。
「麗華、大丈夫か?」
「……ウ」
「麗華?」
「……ガウ」
「オイ、麗華!」
「違う!!私じゃ無い!!」
ぬ~べ~の鬼の手を振り払って、麗華は勢い良く振り返った。その時、彼女から妖気を感じたのを彼は見逃さなかった。
「麗華、大丈夫?」
「……!
あ、うん……ごめん、ちょっと目眩がして」
「だったら少し、保健室で休んだ方が良いよ。
ぬ~べ~、保健室に連れてっていい?」
「あ、あぁ……」
「ほら、行こう」
「……
うん」
郷子に手を引かれ、麗華は階段を降りていった。ぬ~べ~は、彼女が立っていた場所に鬼の手を翳した。微かだが、強力な妖気を感じた。
(……まさか)
悪しき者が、この家に近付いている……
必ず、守ってみせる……麗。