地獄先生と陰陽師一家 作:花札
『いいよ。
今日、俺が迎えに行くから、優華は早めに帰って』
『あなたじゃ、また迎えが出来ませんって言うに決まってるわ!ねぇ、麗華!』
『優華ぁ!』
『朝っぱらから、子供の前でいちゃつくな!』
放課後……
教室で待つ麗華……その時戸が開き、外からぬ~べ~が中へ入った。
「あ、先生」
「だいぶ顔色良くなったな?
午前中、保健室で休ませた甲斐があったよ」
「うん。
実はね……昨日、あんまり寝てなかったから…へへ」
「寝てない?
さては、夜更かししたな?」
「……」
「あのなぁ、小学生が夜遅くまで起きてるのは、体に悪いんだ。
いくら親の帰りが遅いからって」
「父さん、四日前から帰ってきてないよ」
「え……」
「仕事で昨日まで帰って来なかった……
昨日は昨日で、お兄ちゃんと大喧嘩してたし……」
「……」
「お兄ちゃん、昨日喧嘩して出て行ったきり帰って来なかった。
父さんは、仕事が残ってるからって行っちゃうし……」
「……そうだったのか」
「昨日、お兄ちゃんが帰ってくるかと思ったから、夜遅くまで待ってた……
でも……帰って来なかった……
あの時と一緒……」
「?」
「あの時も、母さん来なかった……
一人……また一人っていなくなって……
私だけになって……時間過ぎても来なくて」
「麗華?」
脳裏に蘇る過去……
誰もいなくなった広い部屋で、麗華は一人絵を描き優華の迎えを待っていた。
だが、時間を過ぎても彼女は来なかった……描いていた紙に、麗華は涙を溢した。そんな彼女を、一緒にいた焔は慰めるようにして、頬を舐めた。
「麗華!」
「!」
ぬ~べ~に体を揺すられて、麗華はハッと意識を取り戻したかのようにして彼を見た。
「大丈夫か?」
「……う、うん。
平気」
無理に笑顔を作りながら、麗華は言った。その時、ぬ~べ~はまた感じた……あの強力な妖気を。
「……麗華」
「?」
「お前……」
聞こうとした時、突然戸が開き外から茂とギギーが入ってきた。ギギーは茂の肩から飛び降りると、麗華に飛び乗った。
「茂兄、何で……」
「学校から連絡があってね。
まだ顔色、少し悪いね」
「……父さんとお兄ちゃんは?」
「輝二さんは仕事。龍二君はまだ学校」
「……母さんなら……
仕事投げ出して来たのに」
「……麗華ちゃん?」
ハッとした麗華は、顔を下にして教室を飛び出した。ギギーは鳴き声を発しながら、彼女の後を追い駆けていった。
「麗華ちゃん!
……あ、すみません」
「い、いえ……
あの、麗華の母親って……」
「……四年前ですよ。先生が亡くなったの」
「え?先生?」
「……あ、すみません。
僕、麗華ちゃん達のお母さんの弟子なんです。
神崎院長がいたから、今の僕がいるんです」
「そうでしたか……」
「四年前、院長は仕事を全部片付けて、後の事を僕達に任せ麗華ちゃんを迎えに……
その途中でしたよ……殺されたのは」
「殺された?」
「先生は覚えていますか?
四年前の通り魔事件を」
「えぇ。新聞で見ましたから」
「その被害者なんです。
院長は」
「!!」
「運ばれてきたのは、病院を出て二〇分くらい後のことでしたよ。
まだ息はあった……でも、手術中……
亡くなったんです」
「……」
「死因は失血死……
亡くなって数分後だった……輝二さんが駆け付けたのは。
その間……麗華ちゃんはずっと、待っていたんです。
薄暗い広い部屋の中で、一人絵を描いて……」
裏校舎の物置……使われなくなった机の上に、麗華は座りスケッチブックに絵を描いていた。
そこに描かれていたのは、顔のない女性の絵だった。黒い一つ三つ編みに、白衣を着た容姿。
(……母さん)
「寂しいか?」
その声に、麗華は顔を上げて後ろを振り返った。
そこにいたのは、黒い服に身を包み顔に鬼の面を着け、赤み掛かった茶色の髪を靡かせた妖怪。
麗華はすぐに、妖怪から離れるようにして机の上から飛び降り、後ろへ下がった。パーカーの帽子から焔は出て行き人の姿になり、彼女の前に立った。
「何者だ!」
「答える必要は無い。
妾は、その女を貰いに来た」
「お前の所に、誰が行くか!!」
薙刀を出した麗華は、跳び上がりそれを勢い良く振り下ろした。妖怪は懐から出した彼女と同じ武器、薙刀を出し防いだ。
「!?」
「お主は、妾に勝てぬ……
必ず、妾の元へ来る」
「え……」
何かを察した麗華は、後ろへ身を引いた。次の瞬間、妖怪は懐から無数の寸鉄を取り出し、彼女目掛けて放った。
「麗!!」
保健室にいたぬ~べ~と茂は、その妖怪の妖気を感じていた。白衣観音経を手に、茂と廊下を歩いていた時だった。
角からギギーが鳴き声を上げて、茂に飛び付き彼をどこかへ連れて行こうと、手を引いた。
「ギギー?
!
先生、着いてきて下さい!!」
駆け出した茂をギギーは誘導するかのようにして、先頭を走り二人の後をぬ~べ~は追い駆けた。
外へ出て校舎裏へ来た茂達……バラバラになった用具の中、焔に抱かれ倒れる麗華がいた。
「麗華ちゃん!!焔!!」
茂の声に焔は気が付き、体に着いた砂を手で振り払った。その後、焔に体を揺らされ目覚めた麗華も起き上がった。
「二人共、大丈夫!?」
「平気だ……さっきの妖怪は……」
「僕等が来た時には、もういなかったよ」
「……痛っ!」
腕に激痛が走った麗華は、自身の腕に目を向けた。大きくパックリと開いた傷口から、少量の血が流れ出ていた。その傷は腕だけで無く、頬や腹部にもあった。
彼女だけで無く、焔にも腕や足に傷があった。
「すぐに病院に行こう」
「でも……あの妖怪が」
「妖怪は、俺が探しとく」
「……
先生だけじゃ、何か心配」
「お前なぁ!」
「我に力を貸せ!急急如律令!」
札を出し投げると、札は煙を上げ中から雷光が姿を現した。
「雷光と探して。
雷光、この辺りに残ってる妖気の持ち主を探して」
「はい」
「……先生って、生徒からあんまり信頼無いんですか?」
「……はい」
鈴海高校……
屋上で柵に凭り掛かり座る龍二……手に持つ進路志望の紙。第一志望には、警察官学校と書かれていた。しかし、よく見ると第二志望の欄に小さい文字で、書かれていた。
医大と……
(……昔は、医者になってお袋の後を継ぐのが夢だった……
でも……)
蘇る過去……
幼い麗華を抱えて、病院へ飛び込んだ龍二。
抱えていた彼女を茂に渡し、手術室へ入った。白い布を顔に乗せ変わり果てた、母・優華……一足先に来ていた輝二は、彼女の体の上で泣き伏せていた。
その時の事を思い出した龍二は、持っていた進路志望の紙を強く握り、目を覆いながら上を向いた。
(ヤバいヤバい……泣くところだった)
その時、突然屋上の戸が開いた。中から飛び出てきたのは、真二だった。
「龍二!!」
「真二……何か用か?」
「麗華の奴が、病院に運ばれたって!!さっき、先生が」
「麗華……!!(ヤバい……あいつを一人に!!)」
龍二は真二を退かして、校内へ入った。その後を息を切らした真二は、慌てて追い駆けていった。