地獄先生と陰陽師一家   作:花札

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机に伏せて眠る輝二……そんな彼を、勇二は体を揺らしながら起こした。寝ていた輝二は、眠い目を擦りながら、体を起こした。


「お前……いつから、家に帰ってない?」

「……いつからだろう」

「……ハァ……


今日帰れ」

「……いい。

まだ、調べ物がある」

「輝二」

「……」

「何かあったか?」

「……


喧嘩した」

「は?」

「龍二と、喧嘩した」

「……」

「昨日の夕方、学校から電話があって……

龍二の進路を聞いて……それで、家に帰ってから喧嘩しちゃって……


勇二、どうしよう……」

「ちょっと待て……その、龍二君の進路は?」

「……警察官学校入学希望」

「龍二君、警察官になりたいのか?」

「そうらしい……

でも、そんな事聞いて無くて」

「それで、喧嘩か」

「うん……」

「……輝二は、龍二にどうして欲しいんだ?」

「……出来れば、俺と同じ道を歩んで欲しくない」

「そうか……

それで、龍二君と顔を合わせられないから、家に帰れないと」

「そういう事です」


その時、携帯が鳴り輝二はあくびをしながら出た。しばらくすると、彼は慌てた様子で立ち上がり、背もたれに掛けていた背広を持ち急いで、出て行った。彼の後を、勇二は追い駆けていった。


切れる糸

病院へ着いた輝二。彼と同じく龍二と真二も走り着いた。

 

 

「親父……」

「龍二」

 

 

目を合わせた瞬間、二人は互いに背を向けた。そんは二人に真二と後から来た勇二は、深く溜息を吐いた。

 

 

「あ!父さん!お兄ちゃん!」

 

 

茂と共に診察室から出て来た麗華は、二人の元へ駆け寄った。

 

 

「麗華……け、怪我は?大丈夫なのか?」

 

「平気!

 

さっき、茂兄に手当てして貰ったから!」

 

「そうか……

 

なら、良かった……」

 

「……じ、じゃあ……

 

俺は……」

「また仕事かよ!」

 

「仕方ないだろう」

 

「そうやって、俺等から逃げてるから……

 

息子の進路も知らなかったんだろ?」

 

「っ……」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「龍二、今は」

「どうなんだよ!」

 

「だったら、電話すれば良かっただろ!

 

そうすれば、時間を」

「作ったこと無いだろ!!

 

俺が高校受験の時だって、ギリギリまで知らなかっただろ!!いや、知ろうとしなかったじゃねぇか!!」

 

「それは……」

 

「お袋が生きてた頃も、そうだよな……迎えに行けるとか言って、結局行けなかったじゃねぇか!

 

 

死んだあの日だって、アンタが仕事早く終わるとか言って結局終わらなくて……それで、お袋に行かせたんだろ!!」

 

「……」

 

「どうせなら……

 

 

お袋じゃなくて、アンタが事件で死んでれば良かったかもな」

 

「龍二!!」

「龍二君!!」

 

 

渇いた音がロビーに響いた……龍二の頬が見る見るうちに赤く腫れ上がった。輝二は息を切らして、彼を睨んでいた。

 

 

「輝二!やり過ぎだ!!」

 

「……!

 

 

り、龍二、その」

 

 

輝二の手を振り払った龍二は、自身にしがみついていた麗華を払い、表へ出て行った。払われた衝撃で、麗華は地面に倒れ、ロビーに置かれていた本棚に体をぶつけた。

 

 

「麗華!」

 

 

駆け寄った真二に、麗華は抱き着き泣き出した。彼女の泣き声に、輝二はイラつきながら外へ出ていった。

 

 

 

それから数時間後だった……ぬ~べ~が病院へやって来たのは。

 

中へ入ると、ロビーの椅子で真二の膝を枕にして眠る麗華と、彼女の頭を撫でる彼の姿があった。

 

 

「……あ、麗華の。

 

ご無沙汰してます」

 

「い、いや……こっちこそ……

 

麗華の奴、どうしたんだ?」

 

「壮絶な親子喧嘩を目の当たりにして、ちょっと巻き込まれ泣き疲れて、今熟睡中」

 

「親子喧嘩って……

 

お兄さんとお父さん?」

 

「それ以外誰がいんだよ」

 

「そうですね……」

 

 

「とりあえず、輝二の事は俺に任せて下さい」

 

「お願いします。

 

僕は龍二君の方を……あれ?先生」

 

 

ロビーにいたぬ~べ~に気付いた茂は、勇二と共に彼に歩み寄った。

 

 

「ご無沙汰してます、鵺野先生」

 

「桐島さん……お久し振りです」

 

「どうも。

 

じゃあ、後お願いします」

 

「はい」

 

 

携帯のボタンを押しながら、勇二は病院を出て行った。

 

 

「……フゥ……

 

真二君も、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな?」

 

「いいですよ!

 

麗華が起きるまで、待ってます。その後こいつを、緋音の家に送りますんで」

 

「そうかい……なら、お願いするよ」

 

「緋音って、あの薙刀部の緋音か?」

 

「そうだよ」

 

「何で、あいつに?

 

家に帰らせても……」

 

「麗華に留守番なんて、無理だぜ。先生」

 

「え……」

 

「小五にもなってって、思っただろ?

 

けど、出来ないんだよ。麗華には」

 

「……」

 

「中学の頃だったかな。

 

夏休み前に、中学で林間学校があってさ。三日間家を空けてたんだ。

 

 

帰ってきた時だった……俺と緋音も、龍二の家に行ったんだ。そしたら、玄関で半べそかいた麗華が座ってたんだよ……

 

 

それからだったかな。龍二がなるべく早く家に帰るようになったのは。担任以外、全員あいつの家庭事情知ってたから、皆が協力的だった」

 

「……昨日寝てないのは、“寝なかった”じゃなくて“寝られなかった”のか」

 

「麗華、普段明るいように見えるけど……

 

本当は凄え怖がってんだ……

 

自分が学校に行ってる間、おじさんが死んだらどうしよう……

龍二が死んだらどうしようって……いつも考えてんだよ。こいつは」

 

 

ふと思い出すぬ~べ~……

 

どんな時も、笑顔を見せていた麗華。決して弱音や弱味を見せなかった……いや、見せようとしなかった。

 

 

「……ん?」

 

 

目を開いた麗華は、眠い目を擦りながら起き上がった。

 

 

「起きたか」

 

「……お兄ちゃんと父さんは?」

 

「まだ帰ってきてないよ」

 

「……

 

 

あれ?先生……雷光」

 

 

馬の姿になっていた雷光は、彼女に顔を近付かせ擦り寄った。

 

 

「ご苦労様、雷光」

 

 

そう言って、麗華は雷光を札に戻した。

 

 

「校内と外を調べたんだが、確かに強い妖気は感じた。

 

だが、見つからなかった」

 

「……そう。

 

ありがとう、先生……」

 

 

その時、ぬ~べ~は微かに感じた……あの妖怪の妖気を。その妖気は、真二と茂にも感じていた。

 

 

「麗華、緋音の家に行こう。

 

な?」

 

「……うん」

 

 

立ち上がった麗華は、真二の手を握って一緒に出て行った。

 

 

「……さっきの妖気は……」

 

「……麗華ちゃんのことを、どこまで知っていますか?先生は」

 

「え……

 

 

 

 

強力な霊力を持っていて、自分でコントロールできないと」

 

「じゃあ、話が早いです。

 

 

彼女、今自分で抑えられていません」

 

「……え?」

 

「恐らく、今感じた妖気は彼女が放ってるもの……

 

妖怪になろうとしてる」

 

「そんなことが……」

 

「稀にあるらしいですよ。

 

彼女の家系では」

 

「……」

 

「今の所、妖怪になった人はいないみたいですけど……

 

なったとしても、ほんの一瞬。僕の先生……彼女の母親もそうだったらしいです。

 

 

輝二さんはそれ知って、彼女に御守りをあげたんです」

 

「……!

 

あの勾玉が」

 

「また、輝二さんも同じような人。

 

お返しに先生も、彼に同じ物を」

 

「……それじゃあ、龍二君にも影響が」

 

「彼の場合、自分で抑えられているんで多少は大丈夫です。

 

しかし、抑えられない時があります」

 

「……」

 

「龍二君も麗華ちゃんも、ある感情が高まれば高まるほど、妖力が増します」

 

「感情?」

 

「……

 

 

龍二君の場合は、怒り……

 

 

麗華ちゃんの場合は、恐怖」

 

 

その言葉を聞いて、ぬ~べ~は全てを理解した。鏡の世界に入った時、一人で行動していた彼女が突如高い妖力を放った……

 

 

「二人が喧嘩をしている今、麗華ちゃんは恐怖のどん底です。

 

 

その影響で、妖力を発揮してもおかしくない」




あの日……


輝三の家から帰ってきたら、二人の間がギクシャクしてた。

それが見てるのが怖くなって……
学校に馴染むことが出来なかった……


もう一度、輝三の家に行った……

その間、二人がいなくなったらどうしよう……

二人が死んだらどうしよう……


そんな考えしか、頭に浮かばなかった。


帰ってきたら、二人はいつも通りになってた……だから、嬉しかった。


間に立って二人の手、握ってれば……離れないって思った。


母さんが、私達の手を引いていたように……
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