地獄先生と陰陽師一家 作:花札
「お前……いつから、家に帰ってない?」
「……いつからだろう」
「……ハァ……
今日帰れ」
「……いい。
まだ、調べ物がある」
「輝二」
「……」
「何かあったか?」
「……
喧嘩した」
「は?」
「龍二と、喧嘩した」
「……」
「昨日の夕方、学校から電話があって……
龍二の進路を聞いて……それで、家に帰ってから喧嘩しちゃって……
勇二、どうしよう……」
「ちょっと待て……その、龍二君の進路は?」
「……警察官学校入学希望」
「龍二君、警察官になりたいのか?」
「そうらしい……
でも、そんな事聞いて無くて」
「それで、喧嘩か」
「うん……」
「……輝二は、龍二にどうして欲しいんだ?」
「……出来れば、俺と同じ道を歩んで欲しくない」
「そうか……
それで、龍二君と顔を合わせられないから、家に帰れないと」
「そういう事です」
その時、携帯が鳴り輝二はあくびをしながら出た。しばらくすると、彼は慌てた様子で立ち上がり、背もたれに掛けていた背広を持ち急いで、出て行った。彼の後を、勇二は追い駆けていった。
病院へ着いた輝二。彼と同じく龍二と真二も走り着いた。
「親父……」
「龍二」
目を合わせた瞬間、二人は互いに背を向けた。そんは二人に真二と後から来た勇二は、深く溜息を吐いた。
「あ!父さん!お兄ちゃん!」
茂と共に診察室から出て来た麗華は、二人の元へ駆け寄った。
「麗華……け、怪我は?大丈夫なのか?」
「平気!
さっき、茂兄に手当てして貰ったから!」
「そうか……
なら、良かった……」
「……じ、じゃあ……
俺は……」
「また仕事かよ!」
「仕方ないだろう」
「そうやって、俺等から逃げてるから……
息子の進路も知らなかったんだろ?」
「っ……」
「お、お兄ちゃん……」
「龍二、今は」
「どうなんだよ!」
「だったら、電話すれば良かっただろ!
そうすれば、時間を」
「作ったこと無いだろ!!
俺が高校受験の時だって、ギリギリまで知らなかっただろ!!いや、知ろうとしなかったじゃねぇか!!」
「それは……」
「お袋が生きてた頃も、そうだよな……迎えに行けるとか言って、結局行けなかったじゃねぇか!
死んだあの日だって、アンタが仕事早く終わるとか言って結局終わらなくて……それで、お袋に行かせたんだろ!!」
「……」
「どうせなら……
お袋じゃなくて、アンタが事件で死んでれば良かったかもな」
「龍二!!」
「龍二君!!」
渇いた音がロビーに響いた……龍二の頬が見る見るうちに赤く腫れ上がった。輝二は息を切らして、彼を睨んでいた。
「輝二!やり過ぎだ!!」
「……!
り、龍二、その」
輝二の手を振り払った龍二は、自身にしがみついていた麗華を払い、表へ出て行った。払われた衝撃で、麗華は地面に倒れ、ロビーに置かれていた本棚に体をぶつけた。
「麗華!」
駆け寄った真二に、麗華は抱き着き泣き出した。彼女の泣き声に、輝二はイラつきながら外へ出ていった。
それから数時間後だった……ぬ~べ~が病院へやって来たのは。
中へ入ると、ロビーの椅子で真二の膝を枕にして眠る麗華と、彼女の頭を撫でる彼の姿があった。
「……あ、麗華の。
ご無沙汰してます」
「い、いや……こっちこそ……
麗華の奴、どうしたんだ?」
「壮絶な親子喧嘩を目の当たりにして、ちょっと巻き込まれ泣き疲れて、今熟睡中」
「親子喧嘩って……
お兄さんとお父さん?」
「それ以外誰がいんだよ」
「そうですね……」
「とりあえず、輝二の事は俺に任せて下さい」
「お願いします。
僕は龍二君の方を……あれ?先生」
ロビーにいたぬ~べ~に気付いた茂は、勇二と共に彼に歩み寄った。
「ご無沙汰してます、鵺野先生」
「桐島さん……お久し振りです」
「どうも。
じゃあ、後お願いします」
「はい」
携帯のボタンを押しながら、勇二は病院を出て行った。
「……フゥ……
真二君も、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな?」
「いいですよ!
麗華が起きるまで、待ってます。その後こいつを、緋音の家に送りますんで」
「そうかい……なら、お願いするよ」
「緋音って、あの薙刀部の緋音か?」
「そうだよ」
「何で、あいつに?
家に帰らせても……」
「麗華に留守番なんて、無理だぜ。先生」
「え……」
「小五にもなってって、思っただろ?
けど、出来ないんだよ。麗華には」
「……」
「中学の頃だったかな。
夏休み前に、中学で林間学校があってさ。三日間家を空けてたんだ。
帰ってきた時だった……俺と緋音も、龍二の家に行ったんだ。そしたら、玄関で半べそかいた麗華が座ってたんだよ……
それからだったかな。龍二がなるべく早く家に帰るようになったのは。担任以外、全員あいつの家庭事情知ってたから、皆が協力的だった」
「……昨日寝てないのは、“寝なかった”じゃなくて“寝られなかった”のか」
「麗華、普段明るいように見えるけど……
本当は凄え怖がってんだ……
自分が学校に行ってる間、おじさんが死んだらどうしよう……
龍二が死んだらどうしようって……いつも考えてんだよ。こいつは」
ふと思い出すぬ~べ~……
どんな時も、笑顔を見せていた麗華。決して弱音や弱味を見せなかった……いや、見せようとしなかった。
「……ん?」
目を開いた麗華は、眠い目を擦りながら起き上がった。
「起きたか」
「……お兄ちゃんと父さんは?」
「まだ帰ってきてないよ」
「……
あれ?先生……雷光」
馬の姿になっていた雷光は、彼女に顔を近付かせ擦り寄った。
「ご苦労様、雷光」
そう言って、麗華は雷光を札に戻した。
「校内と外を調べたんだが、確かに強い妖気は感じた。
だが、見つからなかった」
「……そう。
ありがとう、先生……」
その時、ぬ~べ~は微かに感じた……あの妖怪の妖気を。その妖気は、真二と茂にも感じていた。
「麗華、緋音の家に行こう。
な?」
「……うん」
立ち上がった麗華は、真二の手を握って一緒に出て行った。
「……さっきの妖気は……」
「……麗華ちゃんのことを、どこまで知っていますか?先生は」
「え……
強力な霊力を持っていて、自分でコントロールできないと」
「じゃあ、話が早いです。
彼女、今自分で抑えられていません」
「……え?」
「恐らく、今感じた妖気は彼女が放ってるもの……
妖怪になろうとしてる」
「そんなことが……」
「稀にあるらしいですよ。
彼女の家系では」
「……」
「今の所、妖怪になった人はいないみたいですけど……
なったとしても、ほんの一瞬。僕の先生……彼女の母親もそうだったらしいです。
輝二さんはそれ知って、彼女に御守りをあげたんです」
「……!
あの勾玉が」
「また、輝二さんも同じような人。
お返しに先生も、彼に同じ物を」
「……それじゃあ、龍二君にも影響が」
「彼の場合、自分で抑えられているんで多少は大丈夫です。
しかし、抑えられない時があります」
「……」
「龍二君も麗華ちゃんも、ある感情が高まれば高まるほど、妖力が増します」
「感情?」
「……
龍二君の場合は、怒り……
麗華ちゃんの場合は、恐怖」
その言葉を聞いて、ぬ~べ~は全てを理解した。鏡の世界に入った時、一人で行動していた彼女が突如高い妖力を放った……
「二人が喧嘩をしている今、麗華ちゃんは恐怖のどん底です。
その影響で、妖力を発揮してもおかしくない」
あの日……
輝三の家から帰ってきたら、二人の間がギクシャクしてた。
それが見てるのが怖くなって……
学校に馴染むことが出来なかった……
もう一度、輝三の家に行った……
その間、二人がいなくなったらどうしよう……
二人が死んだらどうしよう……
そんな考えしか、頭に浮かばなかった。
帰ってきたら、二人はいつも通りになってた……だから、嬉しかった。
間に立って二人の手、握ってれば……離れないって思った。
母さんが、私達の手を引いていたように……