地獄先生と陰陽師一家 作:花札
ランニングをする一人の男性……角を曲がろうとした時だった。
道端で、血塗れになった龍二を見つけたのは……
病院へ駆け付けるぬ~べ~……
入れ違いに、麗華は外へ飛び出した。
「麗華ちゃん、待って!!」
彼女の後を、真二と緋音は追い駆けていった。
「先生……」
奥から手術用の服の上から白衣を着る、茂がぬ~べ~の元へ歩み寄った。
「連絡があったので、着たんですが……
龍二君は」
「傷口は深いですが、幸い命に別状はありません」
「そうですか……」
「渚も渚で、傷を負ってるんで何が起きたかは、まだ」
「……」
警察署へ来た麗華は、息を切らしながら膝に手を付いた。そして、息を整えると署の中へ入り、呼び止められる声を無視して階段を駆け上がり、刑事課の部署へ駆け込んだ。
中にいた刑事達は皆、動かしていた手や足を止め彼女に注目した。
「麗華ちゃん……」
いち早く気付いた勇二は、椅子から立ち上がった。彼の隣の席に座っていた輝二は、見ていた資料を置き遅れて立ち上がった。
「麗華……
どうしたんだ?仕事場には来るなって」
「何で、病院に来ないの?」
「え?」
「今朝……高校生が一人、通り魔に襲われて病院に運ばれたって、聞かなかったの?」
「それは聞いた……だから」
「襲われたの、お兄ちゃんなんだよ!!」
「!?」
「何で来ないの?仕事だから、来られないの?
それとも、お兄ちゃんと喧嘩して顔合わせられないから、来ないの?」
「……それは」
「……
無理してたの?」
「え?」
「私に心配掛けたくなかったから、無理してお兄ちゃんと仲良さそうに振る舞ってたの?」
「ち、違う!」
「何が違うのさ!
母さんが死んでから、お兄ちゃんも父さんもずっと距離置いてたじゃん!」
そう怒鳴ると、麗華は首から御守りを取り外し、輝二に投げ付け出て行った。
「麗華!!
迦楼羅、頼む!」
ポケットにいた鼬姿の迦楼羅は飛び出し、彼女を追い駆け二人の後を輝二は追い駆けていった。
署を飛び出した麗華は、流れ出てくる涙を拭きながら人気の無い道路を、走っていた。
走り疲れた麗華は、裏路地に入ると膝に手を付きながら、乱れる息を整えた。
「麗、大丈夫か?」
「……結局、二人は私の体を心配して仲良くしてただけなんだよ……
私の喘息、ストレスからくるものだって茂兄が言ってた……
それを聞いて、二人共……」
「……?」
次第に高まる麗華の霊力……それは妖気へと代わり、辺りに低級の妖怪が現れ出てきた。焔は狼姿になり、彼女を守るようにして立った。
「何……こいつ等」
「一旦ここから離れる。
麗、乗れ」
「逃がしはしない」
焔に乗ろうとした時、聞き覚えのある声に麗華は後ろを振り返った。
そこにいたのは、昨日自分達を襲ってきた妖怪だった。
「……お前」
「昨日ぶりだな。
?目の色、変わっているぞ?」
「え?」
言われた麗華は、ポーチから鏡を取り出し自分を見た。
確かに、目の色が赤になっていた……その目を見た瞬間、あの記憶が脳裏を過ぎった。だが、以前見た奴とは違う記憶だった。
寝かされた自分を抑える龍二……隣にいた輝二は、彼女の手を握りながら、何かを唱えていた。
「……何……今の」
「麗!!避けろ!!」
焔の叫び声に、麗華はハッと前を見た。目の前に迫る黒い霧……焔は人の姿になり彼女を庇うようにして、前に立った。
病室で目を開ける龍二……目に映ったのは、心配そうに自分を見下ろす真二と緋音だった。
「龍二!」
「緋音……真二」
「良かったぁ……もう、心配したんだから!!」
「俺、茂さん呼んでくる!」
真二が出て行くと、龍二は体を起こした。走ってくる音と共に、茂と真二が駆け付けた。
「茂さん……」
「よかった……あ、そうだ。
二三日は入院して貰うよ」
「はい……
あの、麗華は?」
「……」
「……龍二が、運ばれてきてすぐに来たんだけど……」
「おじさんがいないって分かって……その後すぐに、病院を飛び出して……
追い駆けたんだよ!でも、途中で見失っちゃって」
「それからは、どこ行ったか……
病院戻ってきてるもんだと思って……」
「……だったら、探しに!」
「駄目だ!
まだ傷口が塞がりきってないんだ!!」
「けど!!あいつ……麗華は、一人に出来ないんだ!!
親父と約束したんだ!!
親父が傍にいない間は、絶対にあいつの傍にいるって!!」
「じゃあ何で喧嘩したんだよ!!
あの喧嘩見て、麗華がどれだけ怖がってたか……」
「……それは……」
「進路のことで、何かあったんだろ?
あの三者面談から、お前おかしいもん」
「……」
顔を下にしながら、龍二は大人しくなった。それを見て、真二と緋音は彼の体から手を離した。
「……麗華のために、伸ばしたんだ……髪の毛」
龍二は静かにそう言った。その声に、病室に入ろうとしたぬ~べ~は、足を止め部屋の外で話を聞いた。
「夜泣きが酷かった頃……あやしてたら、あいつ俺の髪の毛掴んで寝たんだ。
俺が添い寝するようになってから、あいつの夜泣きは無くなった……
しばらくして、髪の毛切りに行こうとしたら……あいつ、その前夜に大泣きしたんだよな。それから切りに行くのやめて、自分で切るようになって」
肩に掛かる程度に伸びた、自身の髪の毛の先を龍二は弄った。
「誰に何言われようと、構わない……
麗華が……
あいつが、笑ってさえくれれば……」
目を開ける麗華……辺りは真っ暗になっていた。
(あれ……
さっきまで……路地裏に……)
その時、ある記憶が脳裏を過ぎった……
傷だらけになった龍二と輝二を前にして、自分が立っていた。
(父さん……お兄ちゃん)
近付こうとした途端、二人は煙のようにして消えた。
辺りを見回すが、誰もいない……暗闇の中に一人、自分だけ取り残されたかのように思えた。
「どこ……
お兄ちゃん!!父さん!!
焔!!渚!!迦楼羅!!
雷光!!氷鸞!!
鎌鬼!!雛菊!!
丙!!暗鬼!!」
暗闇の中を無我夢中で走る麗華……だがいくら走っても、光が見えてこなかった。
「牛鬼!!安土!!
桜雅!!皐月丸!!
青!!白!!
時雨!!
ショウ!!瞬火!!」
走り疲れ立ち止まった麗華は、息を切らしながら周りを見回した。
「……何で……
郷子!!立野!!細川!!
先生……
先生!!助けてぇ!!」