地獄先生と陰陽師一家 作:花札
「麗華は?」
「悪い、途中で見失った」
「……そうか」
手に握っていたアミュレットを、輝二は見た。そして、麗華の涙目を思い出した。
「……走り過ぎた」
「?」
「優華を殺した犯人が、出て来たから今度こそ逮捕しようと思って、必死になってて……
そしたら、周りが見えなくなってた……龍二との喧嘩だって、俺が原因だ。あいつの話を、ちゃんと聞いてさえすれば……それなのに、自分のことを棚に上げて怒鳴って……
馬鹿な親だよ……父親失格だ」
「輝……」
「俺と龍二の喧嘩に、麗華を巻き込んで……
彼女に辛い思いさせて……一人にさせて……
やっぱ無理なんだ……俺。
優華がいないと、何も出来ないんだよ……」
目から流れ出てきた涙は、輝二の頬を伝いアミュレットの上へと落ちた。
そんな彼の背中に、迦楼羅は思いっ切り蹴りを入れた。
「か、迦楼羅!!」
「うじうじ言ってる暇があんなら、とっとと麗を探せ!!
そんで見つけて謝れ!!
麗に謝った後は、龍にも謝れ!!分かったか!?このウジ虫!」
「は、はい……」
「ったく……その年になってまで、世話焼かすな」
そう言いながら、迦楼羅は先を歩き出した。ふと通り過ぎた細道が目に留まり、彼は戻りその道に入った。
微かに残る強大な妖気と霊力……地面を見ると、そこに見覚えのあるポーチが落ちていた。
「迦楼羅、どうかしたか?」
「……輝、これ」
「……!?」
迦楼羅から受け取ったポーチ……それは、麗華がいつも肌身離さず持っているものだった。
学校の図書室から借りてきた古い本を読むぬ~べ~……
その本は、妖怪の本と陰陽師の本だった。
(駄目だ……
いくら探しても、人から妖怪になるという例が無い……
麗華とその家族が、例外なのか?
分からん……ますます)
考え込む彼の元へ、ノートを持ってきた郷子と広がやって来た。
「どうしたの?ぬ~べ~。考え込んで」
「いや、ちょっとな」
「?
あら?ぬ~べ~、陰陽師について調べてたの?」
「あ、あぁ。
なぁ、郷子」
「ん?何?」
「お前、確か麗華とは一年の時から同じクラスだったよな?」
「えぇ、そうよ!」
「あいつ、自分の家について何か言ってなかったか?」
「え?
そうねぇ……何か、小さい頃は妖怪と遊んでたって聞いたな。そういえば」
「妖怪と遊んでた?」
「うん。風邪引いて、保育園休んだ時、妖怪達が自分の相手をしてくれたって」
「妖怪と一緒……」
「何か、その話聞くと麗華の奴って、やっぱ普通じゃ無いよな?」
「もう!そういう事言わないの!!
麗華の前で言ってみなさい!本気で殴るよ!」
「冗談だって!冗談!」
「もう!
あ、そういえば……」
「?どうかしたか?」
「いや、確かこの時期だったなぁって……」
「時期?」
「麗華が、学校を休学したの」
「確か、持病が悪化して親戚の所でずっと療養してたって理由だよな?」
「そう。でも、一つ気になる噂思い出したんだ」
「噂?」
「持病の療養なのは確かなんだけど……その……
大怪我したって……」
「大怪我?」
「うん……何か麗華の腕や足、頭に包帯巻いて、所々絆創膏も貼ってる姿を見たって、友達のお母さんが話してたの」
「……なぁ、まさか麗華の奴虐待受けてたんじゃ」
「いや、それは無い」
「え?」
「していたとしたら、茂さんやお父さんの同僚である桐島さんが、気付いているはずだ。
それに、お兄さんのあの面倒見見れば、虐待なんてあり得ない」
「確かに」
「じゃあ、何だったんだ?その、包帯は?」
その時、学校の電話が鳴った。ぬ~べ~はすぐに出た。電話をしてきたのは、麗華の父・輝二だった。
「お父さん!ご無沙汰」
「今麗華、傍にいますか!?」
尋常じゃない様子で、輝二はそう言ってきた。電話の受話器から聞こえる彼の声は、所々息切れがあり咳き込んでいた。
「い、いえ……
麗華は先程、病院を出て行ったきり会っていませんが……」
「わ、分かりました……」
「お父さん、どうかし」
ぬ~べ~が質問しようとした途端、電話は切れた。輝二の様子から只事では無いと思った彼は、職員室を飛び出した。ぬ~べ~の後を、郷子と広は慌てて追い駆けていった。
ぬ~べ~が辿り着いた場所……そこは、茂の病院だった。中に入ると、ロビーには勇二と緋音達がいた。
「鵺野先生!」
「麗華のお父さんから電話があって……あの、麗華は?」
「それが、何も……」
「……」
「……あれ?
刑事さんが持ってるポーチ、麗華のじゃ」
「あぁ。
輝二をここへ運んできたから、その時に」
「運んできた?」
「過呼吸起こしたんだよ。あいつ……
たまたまあいつを捜し回ってた時に、見つけてね」
「……」
「なぁ、刑事さん」
「?」
「二年前、麗華が何で親戚の家に行ったとか、知りませんか?」
「二年前?……!」
「その顔、知ってるんですね!」
「教えて下さい!!」
「君等に真実を教える義理は無いよ。
教えたところで、三人の傷が癒えるわけでも無いから」
「……」
「……!?
何だ!?この妖気は?!」
外から感じる強大な妖気……ぬ~べ~は、郷子と広を地震の後ろへ立たせ、白衣観音経を手に持った。傍にいた真二は管の筒を、緋音は気孔を手に出して構えた。
次の瞬間、ドアが突然開き強風と共にそれは入ってきた。
真っ白な長い髪を靡かせ、前髪の隙間から赤い目を鋭く光らせ、手に薙刀を持った者……
「あれは……」
「まさか……」
「ア……ア……」
薙刀を軸に、それは突然ぬ~べ~に攻撃した。彼は咄嗟に、その攻撃を受け止めそれを見つめた。
「そのまま抑えてろ!!」
背後から来た真二は、管狐を出すと攻撃した。それはすぐに跳び避ると、管狐を放った彼目掛けて跳び蹴りを食らわした。攻撃を食らった真二は、腹を抑えながら咳き込んだ。
「真二!!」
「動くな!!撃つぞ!!」
内ポケットから出した銃を、勇二はそれに向けた。すると、廊下から茂の肩を台にして、ギギーがそれの前に飛び降りた。
「勇二さん、撃たないで!!」
茂の声に、勇二は銃を下げた。鳴き声を上げるギギー……その声に、それは構えていた薙刀を下ろした。
「ギー!ギー!」
「……ギ……ギ……」
「ギー!ギー!」
「ギ……ギー……」
「な、何だ?
ギギーの奴、あの妖怪のこと知ってんのか?」
「分からない……」
それは座り込むと、ギギーの鳴き声を真似し続けた。ギギーは鳴き声を上げながら、踊ったりそれの髪の毛を弄ったりして、遊んでいた。
その行為を見た勇二の目に、ある記憶と重なって見えた。
「……まさか、麗華ちゃん?」
「え?」
「!?」
「バレちゃ、仕方ないな」
その声と共に、黒い煙が漂い中から黒い服に身を包み顔に鬼の面を着け、赤み掛かった茶色の髪を靡かせた妖怪が姿を現した。
「お、鬼ぃ!!」
「キャァアア!!」
「美味しそうな人間が、七人も……」
「何者だ!!」
「何者でも無いわ。
妾は、この子を迎えに来ただけ」
その妖怪の声に、座り込んでいたそれは立ち上がった。
「さぁ、こいつ等を倒しなさい」
その指示が出されたと同時に、それは薙刀を持ち構え、ぬ~べ~達に攻撃しようとした。
その時だった……それに向かって、何かが跳び蹴りを食らわせた。食らったそれは、病院の外へ飛ばされ、街灯に体をぶつけた。
「龍二!!早く抑えろ!!」
「言われずとも!!
元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!!」
地面に浮き出てきた陣から、光の触手が現れそれを抑え込んだ。だがその触手を、妖怪は切り破いた。
「!?」
「邪魔だ、龍!」
そう言って、妖怪は龍二に水の技を放った。攻撃を食らった龍二は、後ろへ飛ばされ壁に激突した。
「龍二君!!」
「龍二!!」
(今の、呼び方……まさか)
倒れていたそれは首を振りながら、降り立った妖怪の隣に立った。そこへ白い毛並みに覆われた大狼が、降り立ちそれの後ろへ回った。
その時、病院から茂達を飛び越える二匹の獣……狼姿となった渚と迦楼羅が、唸り声を上げながらその大狼を睨んだ。壁に激突した龍二は、頭を振りながら真二の手を借りて立ち上がり、輝二と共に迦楼羅と渚の傍へ駆け寄った。
「しぶとい奴等だ……
やはり、麗の子だな?」
「麗の子って……
麗華に、子供いるの?」
「いるわけ無いでしょ!!
歳を考えなさい!歳を!!」
「何なんだ!?あの妖怪!」
「話して済む問題じゃ、無さそうだな……
我に力を貸せ!急急如律令!!」
札を出した龍二の声に、それは反応し黒く光り出し煙と共に、鎌を持った鎌鬼が姿を現した。
「鎌鬼!あいつに攻撃しろ!
俺と渚で援護する!」
「分かったよ!」
渚が口から水を吐き出すと、その攻撃に合わせて龍二は雷を放った。水は雷を纏い、二人を攻撃した。怯んだ妖怪に、鎌鬼は振り上げていた鎌を振り下ろした。
“パリーン”