地獄先生と陰陽師一家   作:花札

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翌日の夕方……


麗華の家へやって来た郷子達。境内に入ると、そこでは本殿から舞台が組み立てられ、石灯籠に火が灯されていた。


「よぉ!お前等ぁ!」


舞台の組み立てを手伝っていた真二は、彼等に手を上げながら声を掛けた。


「真二さん!」

「お前等も見に来たのか?神楽舞」

「はい!」

「麗華に是非見に来てって、言われて!」

「んで、肝心の麗華は?」

「あいつなら今、本殿で軽くウォーミングアップしてるぞ」

「なら、こっそり覗きに」
「覗きに行くのは構わないが、門番してる殺人鬼の餌食になっても知らねぇぞ」

「や、やめときます……」


歓迎の舞

日が暮れ、辺りが暗くなり始めた頃……次々と集まる妖怪達。集まる彼等を、郷子達は麗華の家の縁側から覗き見ていた。

 

 

「凄え……もうあんなに集まってる」

 

「ここに来る妖怪って、皆麗華の舞目当て?」

 

「そうよ。

 

麗華ちゃん、ここに来る妖怪達のアイドルだから」

 

「妖怪の……」

 

「アイドル……」

 

 

「緋音お姉ちゃん!

 

お兄ちゃんが、お饅頭と酒のつまみの準備に掛かってくれって!」

 

 

袖の無い着物風の腹出しの朝顔柄の服に、太股で切れた丈の短い水色のスカートを穿き、白い下駄を手に持ち手に朝顔柄の大振り袖を腕に嵌めた麗華が、襖の戸を開けながら言った。

 

 

「れ、麗華?」

 

「あ!郷子!立野に細川も!

 

あれ?先生は?」

 

「結界張るって、外に」

 

「そんなことより、麗華!

 

何よ!その格好!」

 

「あぁ!これ。

 

さっき着替えたんだ!夏だから、夏の花をモチーフにして!」

 

「綺麗……髪は纏めないの?」

 

「纏めるよ。

 

後でね!」

 

 

「麗!髪を纏めるぞ!」

 

「はーい!

 

じゃあ、楽しんでってね!」

 

 

腰まで伸びた長い髪を揺らしながら、麗華は縁側を駆けていった。

 

 

「行っちゃった……」

 

「私も、麗華に習って神楽舞やろうかな」

 

「無理無理!郷子には!」

 

「む!何でよ!」

 

「だって、ずぼらじゃねぇか!性格が!」

 

「うっさい!!」

 

 

郷子が広を殴ったと同時に、玄関の方から声が聞こえそれと共に何かが駆けてくる足音が聞こえた。

 

 

「ま、間に合った!」

 

「あ!おじさん!」

 

「お邪魔してまーす!」

 

「いらっしゃい、皆」

 

「おじさん、早く着替えないと龍二が」

 

「あー、分かってる!」

 

「着替え!出しときましたよ!」

 

「ありがとう!」

 

 

ネクタイを外しながら、輝二は隣の部屋へ入った。

 

 

数分後、服の紐を結びながら輝二は本殿の方へ駆けていった。

 

 

「凄い、騒がしい人」

 

「だな」

 

 

“ドン”

 

 

その時、外から大太鼓の音が響いた。

 

 

「何だ?」

 

「太鼓の音?」

 

 

「緋音!酒とつまみ!」

 

 

水色の生地に白い川の流れの模様がデザインされた、袖無しの武道服に身を包んだ龍二が、縁側から障子を勢い良く開け入ってきた。彼はすぐに運んできた物を受け取ると、郷子達を見ながら言った。

 

 

「舞、始まるぞ!」

 

「やっとか!」

 

「それじゃあ、行こう!」

 

「お前等の担任が、結界貼って待ってるぜ!

 

緋音!お前も早く来いよ!」

 

「ここの片付け終わったら、すぐ行くね!」

 

 

 

外へ出てきた郷子達は、手を上げるぬ~べ~の元へ駆け寄り、注連縄が設置された箇所に入った。

 

傍には、木に凭り掛かり立つ暗鬼がいた。

 

 

「ぬ~べ~、あれは?」

 

「用心棒だそうだ……」

 

「なるほど……ぬ~べ~だけじゃ、頼り無いって事か」

 

「少しは安心できるわね!」

 

「お前等!!」

 

「抑えて!抑えて!」

 

 

舞台に設置された松明に、焔と迦楼羅は火を灯した。全てに灯すと、二人は舞台から降り入れ替えに輝二が、舞台へ上がった。

 

 

「今宵、我が山桜神社へのお越し頂き、誠にありがとうございます。

 

 

我が神社名物の神楽舞を、とくとご覧下さい!今宵は皆様の熱気を、冷まさせてあげましょう」

 

 

不敵な笑みを浮かべた輝二は、暗がりになっていた後ろへバク転しながら下がった。

 

 

それから間もなくだった……空から小雨が降ったのは。

 

それと共に、篠笛の音色が境内に響き渡った。小雨が降る中、被衣を頭に被った麗華が、笛を吹きながら舞台へ登場した。

 

 

髪をハーフに結び、結った箇所に紫陽花の簪を挿した彼女は、舞台の上をゆっくりと歩んだ。中心へ立つと口から笛を離し、そして被っていた被衣を上に投げた。

 

 

それを合図に、太鼓の音が力強く響いた。太鼓に続いて琴、三味線、笛、琵琶の音色が奏でられた。

 

 

落ちてきた被衣を手に取った麗華は、笛を懐にしまうと入れ替えに、扇を取り広げ舞を始めた。

 

 

“タァン”

 

 

床を叩く下駄の音が、境内に響いた。太鼓の音が止み残った琴と琵琶、笛の音色が響く中、麗華はゆっくりと舞った。

 

しばらくその舞をすると、強く床を踏むと被衣を脱ぎ捨て扇を上に上げた。それを合図に、上から大量の水が流れ舞台に溜まった。

 

 

「水だ!」

 

「何々?!何が始まるの?!」

 

 

水飛沫を上げながら、麗華は扇を扇ぎながら華麗に舞った。飛沫は見ていた妖怪達に掛かるが、彼等はそんなのお構いなしに歓声を上げた。

 

 

「凄え……水が生きてるみてぇ」

 

「さっすが麗華!」

 

 

宙で回転した麗華は、水の上に着地した。すると、彼女が足を突いた箇所から、水が凍り始めた。そして麗華は凍った氷を、足で叩き割った。割れた氷は宙へ跳びそれは粉雪へと代わり、辺りに降り出した。

 

 

「今回の舞は、特別最高だな!」

 

「よっ!桜巫女!!」

 

「さぁ!今宵も皆さんのご苦労と日々の疲れを取れるようお祈りを込めて、乾杯!!」

 

「乾杯!!」

 

 

笑みを絶やさない麗華を、近くに生える木の上から清は静かに見守った。そして、彼女に釣られるようにして笑った。




賑やかだった祭りは終わりを迎え、妖怪達は満足そうに帰って行った。片付けを手伝った郷子達も、しばらくして帰って行き、その後に緋音と真二も帰って行った。


皆がいなくなり、静まり返った境内……

本殿の階段に座りながら、麗華達は大きな饅頭を食べながら、三日月を眺めていた。


「久し振りだな……

こんなにゆっくりしたの」

「ここんとこ、ずっと残業だったからね」

「おまけに帰って来ないし」

「だから、それは……」

「未成年二人をほったらかして、仕事とか最低」

「うっ……」

「全くだ」

「龍二~!」

「ほら見ろ。子供に愛想尽かされたぞ」

「迦楼羅!

……


今回は父さんが悪かった!」

「二人共悪い!

喧嘩するのは勝手だけど、私を巻き込まないで!!


お兄ちゃんに投げ飛ばされるし」

「あれは悪かったって!」

「あれ痛かったんだから!!」

「ブスくれるな!」

「ブ~!

あ!清!」


屋根から飛び降りてきた清は、皿に残っていた一つの饅頭を口に頬張った。その様子を見ながら、輝二は話し掛けた。


「久し振りの家は、どうだった?」

「何も変わってなくて、少し嬉しかった」

「そっか……よかった」

「ねぇ!清!

後でまた、髪梳かして!」

「あぁ、良いぞ」

「やったぁ!」

「お前、自分で梳かせるだろ」

「いいの!清に梳かして貰いたいから!」

「そいつに頼まなくとも、俺が梳かしてやるよ」

「嫌だ!

お兄ちゃん、雑なんだもん!」

「雑って……」

「毛先まで梳かしてくれないじゃん」

「時間ねぇだろ」

「そういう問題じゃない!」

「喧嘩はやめなさい!」


輝二に止められ、龍二は頬杖を着きながらそっぽを向き、麗華は清にしがみつきながら饅頭を頬張った。そんな二人を見た清は、思わず笑ってしまった。


「どうしたの?清?」

「仕草と良い言い方と良い、主等本当によく似ておる。

麗と龍に」

「そうなの?」

「あぁ」

「ねぇねぇ!今度、お祖母ちゃんの話してよ!」

「祖父ちゃんの話も!

親父、良いよな?!」

「良いよ。

清の方が、鮮明に覚えてるし」

「清!良い?」

「……良いぞ。

その代わり、お主達も話してくれ……自分達のことや母親のことを」

「うん!」
「あぁ!」



夜が更け、二人は眠りに付いた……


輝二は、仏間で一人日本酒を飲んでいた。傍には、広げられたアルバムが二冊置いてあった。


「終わったよ……優華。

君を殺した犯人は、もう檻の中……お前が、死ぬ間際に麗華と焔に教えてくれたおかげだよ」


仏壇に飾られた優華の遺影は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


「その写真の女が、お前の妻か」


部屋に入ってきた清は、遺影を見ながら言った。


「そうだよ……


優華は、本当に二人を可愛がっていた……麗華が生まれた頃、仕事が忙しくなってなかなか二人の面倒を見られなくなって、妻には申し訳なかったなぁ」

「そういう、妻に任せるところは龍そっくりだな」

「仰る通りで」

「……付き合って良いか?

一杯」

「うん……

清と酒飲めて嬉しいよ」

「妾も。

あの小さかった輝二と、飲めるとは思わなかった」

「……清」

「ん?何だ?」




「お帰り」




「……


ただいま」
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