地獄先生と陰陽師一家 作:花札
自転車を走らせる郷子達……後から円月輪を、回しながら彼等を追い駆けるはたもんばの姿があった。
「盗人め~!!首を寄越せ~!!」
「しつこい奴!!
悪いけど……焔!」
走っていた焔は、振り返りはたもんばに向かって炎を吹いた。だが火は効かずはたもんばは、速度を落とすことなく追い駆けてきた。
「嘘だろ……」
「効き目無ーし!!
学校へ逃げろー!」
学校へ着いた広達は、閉まっていた門を飛び越え校舎へ入ろうとした……だが、鍵が閉まっており入れなかった。
「あ、開かない……」
「もう帰っちゃったんだ!」
「そんなぁ!!」
「待たんか!!ガキ共!!」
「や、殺られる!!」
「一か八か、戦う!!
焔!!援護!」
広達の前に立ち、薙刀を構えた麗華は迫ってくるはたもんばを睨んだ。
その時、突如後ろから引っ張られ校舎の中へと連れ込まれた。
「ぬ~べ!」
「こんな事もあろうかと、残っていて良かったよ……
ここには、結界が張ってある……妖怪は入ってこれない」
「道理で、気分が悪いわけだ……」
狼から鼬姿へとなった焔は、差し伸べてきた麗華の手を伝い、パーカーの帽子の中へと入った。
「さて、教えて貰おうか?
何故、あいつに追われてる?どうして、俺に隠そうとした?」
「……」
「言えないのか?」
「……」
その時、窓硝子が割れる音が聞こえ、振り返るとそこにははたもんばがいた。
「こいつは驚いた……結界を破って入ってくるとはな」
「ワァァ!」
「先生、もう少し強い結界張っとこうよ」
「っ……
それで、俺の生徒に何の用だ?」
「罪人は首を切る」
「罪人?何のことだ?」
「首を切る!切る切る切る切る!
切るのだ!!」
「話の通じる相手じゃないな……
生徒達には指一本触れさせん。
南無大慈大悲救苦救難……白衣観音によりて封じられし鬼よ。今こそその力を示せ!」
鬼の手を出したぬ~べ~だったが、はたもんばは円月輪を回し、鬼の手を切り裂いた。
「先生!」
「鬼の手が、弾き返された!?」
「ば、馬鹿!見つかるぞ!」
「ガキ共め~、どこへ隠れた~……罪人は、首を切るぞ」
円月輪をこぎながら、はたもんばは郷子達を探した。
「どどど、どうしよう!?」
「だ、段々近付いてくる……」
「だ、駄目だ……
窓から逃げ…!!」
窓の縁に触った途端、広の手に激痛が走った。ハッとして窓を見ると、窓が刃物に変わっていた。そして勢い良く閉まった。
「ま、窓が刃物になってる!!」
「あいつの能力だ!」
「あらゆる物を、刃物に変える能力……
あいつ、欲しい!」
「アンタは早く、危険電波を発しなさい!!」
「って、ことは……
周りにある物全部が凶器……」
広の言葉通り、教室に置かれていた本の表示刃物となり彼等目掛けて、攻撃してきた。
本だけでなく、机や椅子が独りでに動き出し、彼等に襲い掛かった。
彼等は教室を飛び出し、すぐに逃げた。だが、駆けている最中愛美は足を滑らせ転んでしまい、彼女の元へ克也は駆け寄り、立ち上がらせようとした時、刃物となったシャッターが勢い良く落ちてきた。
「克也!!」
「させるか!!」
間一髪、傷だらけになったぬ~べ~と麗華がシャッターを止めた。
「先生!」
「木村!早く!」
克也はすぐに愛美を抱きながら、シャッターから離れた。ぬ~べ~と麗華は、手を離しそれを閉めた。
「怪我は無いか?!」
「う、うん……」
「平気だよ」
「せ、先生……その怪我」
ぬ~べ~の鬼の手は、ズタズタに切り刻まれていた。その時、シャッターを蹴り破ろうとはたもんばが、暴れ出した。それを見たぬ~べ~達は、急いでその場から退却した。
家庭科室へ来たぬ~べ~達……麗華は、ポーチから清めの札を数枚出すと、それをぬ~べ~の鬼の手に貼り霊気を送った。
「気休めにしかならないからね」
「分かってる……ありがとな、麗華」
「あのはたもんば……鬼の手を撥ね返すとは」
「奴は、江戸時代罪人を打ち首にした刀が、妖怪に変化した物なんだ。
殺された何百人もの罪人の怨念で出来た妖刀は、鬼の力でも打ち砕けない」
「麗華の力を借りれば」
「何百人もの怨念を消すなんて、無理だよ!
同じ陰陽師の奴がここに何人いても、結果は変わらない」
「……」
「それはそうと……
あいつは、お前達のことを罪人だと言っていた……どういう事なんだ?」
「っ……」
「痛っ!」
「愛美!」
膝を擦り剥いたのか、彼女の膝に痛々しい傷があり、そこから血が出ていた。克也は自分の服の袖を破り、怪我の手当てをしながら愛美に謝った。
「ごめんな!俺のせいでこんな目に……」
「どうして?
お兄ちゃんは悪くないよ。
あの妖怪が勝手に追っ駆けてくるだけじゃない!罪人だなんて……お兄ちゃんが、悪い事するわけないもん。愛美、信じてる」
愛美の言葉に、言葉を失う克也……そして、彼は彼女の前で頭を下げて言った。
「ごめん、愛美……
今まで黙ってたけど……あのお金、友達から借りたんじゃないんだ……
俺、はたもん場の祠から賽銭を盗んだんだ……
あいつの言う通り、俺は盗人の罪人なんだよ……
俺は、良いお兄ちゃんでいたかったけど、お前にこんな怪我させて……最低の大馬鹿野郎さ……」
「お兄ちゃん……」
(……今日帰ったら、お兄ちゃんの膝の上に座ろう)
「そういう訳なんだ……先生、すまねぇ」」
「克也は怒られるのが怖くて黙ってたんじゃないの!
愛美ちゃんをガッカリさせたくなくて……」
「やってしまったことは、今更どうしようもない……
叱るのは後回しだ」
「今は、あの刀野郎をどうするかだ」
廊下から響く刀が擦る音……その音はどんどんこちらへ、近付いてきていた。
「ぬ、ぬ~べ~、どうするんだ!?」
「鬼の手が効かないんじゃ、勝ち目ないよ!!」
「確かに、奴の刀は強力だ……正面からの攻撃ではビクともしない。
だが、刀以外の一の形をした部分を狙えば、倒せる!
何とか、横から攻撃できれば……」
「だったら、私が薙刀であいつの動きを」
「麗華、先生」
「?」
「俺が囮になる……
俺が奴の気を引き付けるから、その隙に先生は奴を横から!」
「木村……命の保証、出来ないよ?それでもいいの?」
「あぁ良い!!
頼む!俺にやらせてくれ!
俺のせいで、妹や友達に危害が及ぶなんて、耐えられねぇよ!!俺はどうなったって良い!!責任を取らせてくれ!!頼む!」
「克也……」
家庭科室へ入ってきたはたもん場……
すると隠れていた郷子達が、白旗を挙げながら姿を現した。
「はたもんばさん、悪いのは克也一人なんだ」
「アタシ達は、関係ないの……だから助けて。ね?お願い」
「克也は、ここに閉じ込めたよ……煮るなり焼くなり好き にしてくれ」
そう言いながら、広は机下の引き出しを開けそこに隠れている克也を指差した。
「や、やめろ!!死にたくない!!」
「罪人め……首を切るぞ」
「助けてー!!馬鹿!!ろくでなし!!」
円月輪をこぎながら、はたもんばは不敵な笑みを溢して克也に斬りかかった。
刃は見事に克也の体に入った……かに思えた。
はたもんばが切ったのは、克也ではなく、彼が写った鏡だった。
「鏡だとぉ!!」
「こっちだ!はたもんば!!」
横に向いていたはたもんば目掛けて、ぬ~べ~は鬼の手で攻撃した。ダメージを食らったはたもんば元の刀へと戻り、克也の足下の床に突き刺さった。
麗華はその刀の束に、札を貼り厳重に封印した。
「封印、完了!」
「やったぁ!!」
「やっぱ、鬼の手は最強だ!」
「お兄ちゃん!」
「良くやったぞ!克也!
賽銭泥なんて、みっともないところも見せたが……
今のお前の凛々しい姿を見て、愛美ちゃんも見直したことだろう!」
恐怖のあまりション便を漏らした克也の、だらしない姿を見ながら、広達は少々笑った。
「あんまり、凜々しくもないぜ、ぬ~べ~」
「そっかな!」
「カッコ悪くも、格好良い!木村は!」
克也に抱き着いていた愛美は、嬉しそうな表情を浮かべた。
(それでも、愛美はお兄ちゃんが大大好き!)
麗華宅……
本殿の階段に座り、団子を食べる麗華と龍二。麗華は団子を持ったまま、彼の元へ寄り膝に座った。
「何だ?どうした?」
「別に~。
ただ、こうしたかっただけ」
「……」
「父さん、帰り遅いね~」
「だな。
遅ければ、連絡寄越すだろ」
彼女の頭に手を乗せながら、龍二は少し嬉しそうに団子を頬張った。その後ろで寝そべっていた焔と渚は、大きなあくびを一つすると、二人を見守るようにして眺めた。