地獄先生と陰陽師一家 作:花札
ぬ~べ~の手伝いをする、郷子と広。ふと郷子が窓を見ると、大粒の雨が降っていた。
「ゲッ!凄え雨」
「さっきまで、あんなに晴れてたのに」
「親御さんには、俺から連絡しとく」
「お願いね」
そう言いながら、ぬ~べ~教室を出て行った。その数分後の事だった……麗華が教室に入ってきたのは。
「あれ?郷子に立野……」
「よぉ!麗華!
つか、あれ?お前、帰ったんじゃなかったっけ?」
「図書室で本読んでたら、雨降っててそれで……」
「なるほど~、立ち往生ってやつか!」
「そういうこと。
図書室にずっといるのもあれだし、教室で時間潰そうかなぁって思って」
「来たら、俺達がいた」
「そういうこと」
笑顔で答えながら、麗華は自身の席に座ると鞄からスケッチブックを取り出し、描き始めた。
「ねぇ麗華」
「ん?」
「何の絵、描いてんの?」
「鶏の絵。出来上がったら、あいつ等に見せるんだ」
「あいつ等って……」
「あの校庭にいる鶏達にか?」
「うん。
あいつ等、私の絵楽しみにしてるみたいだから!」
嬉しそうに言う麗華に、広は聞こえないよう郷子の耳元で囁いた。
「昔っから、ああなのか?」
「さぁ……でも、動物には結構好かれてたみたいだから」
雨が小降りになった頃、郷子達は帰ろうと外へ出ようとドアに手を掛けた。
だが、いくらドアを押しても開かず逆に引いてもみたが開くことはなかった。
「ど、どうなってんだ?」
「ちょっと、ぬ~べ~の所に行ってくるね」
「あぁ、頼む」
郷子がその場から駆け出そうとした時だった……突如天井から何かが落ちてきた。それは黒い塊だったが、次第に形を変え頭が鳥、体が人間になり鋭く赤く光る目を光らせ、広達に向かって咆哮した。
「走れ!!」
そう言いながら、広は郷子の手を引き駆け出した。二人の騒ぎに、職員室にいたぬ~べ~は、慌てて飛び出し逃げてきた二人を自身の背後に行かせ、白衣観音経と数珠を手に、敵が来るのを待った。
「……あれ?そういや、麗華は?」
「あ……」
「まさかお前等……」
「……アハハハ」
「ここにいろ!」
二人を残して、ぬ~べ~は麗華の元へ駆けていった。
玄関へ駆け付けたぬ~べ~は、目にした光景を疑った。
鳥人間は、麗華の髪を弄り回していた。彼女は彼女で平気な顔をしながら、笑っていた。
(な、何であんな平気なんだ……あいつは)
「……?
あ!先生!」
ぬ~べ~の気配に気付いた鳥人間は、麗華から手を離し咆哮を上げた。
「び、びっくりしたぁ……」
「今だ!麗華、逃げろ!」
「え?何で?」
「早くしろ!!」
叫ぶぬ~べ~に向かって、鳥人間は彼に向かって鋭く尖った羽を投げ付けた。その攻撃を白衣観音経で防ぎ、立ち上がった麗華の手を引き、ぬ~べ~はその場から逃げた。
逃げ切ったぬ~べ~は、職員室へ駆け込み鍵を閉めた。中で待っていた広と郷子は、彼に投げ入れられた麗華を受け止めた。
「痛ったぁ……
もう、投げなくても」
「麗華!!」
ぬ~べ~の怒鳴り声に、文句を言おうとした郷子は慌てて口を押さえた。
「何でもっと早く逃げなかったんだ!?」
「逃げる?何から?」
「あの妖怪だ!!
目の前にいただろ!!」
「あぁ!
あいつ、私の髪で遊んでた」
「んな訳あるか!!
いいか!妖怪は人を襲うんだぞ!危険だと思ったら、すぐに」
「全部の妖怪が、人を襲うわけないじゃん」
「!
麗華!今はな」
「あいつはただ、私の髪で遊んでただけだ!
それだけのことで悪者扱いされちゃ、妖怪も堪ったもんじゃない」
「お前は妖怪の恐ろしさを知らないから、そんなことを」
「知らないのはどっちだ!
妖怪見つけただけで攻撃しようとして……最悪」
「あのなぁ!!」
「そんなんだから、高橋先生に振り向いて貰えないんでしょ!」
「余計なお世話だ!」
“パリーン”
突然硝子が割れ、外からあの鳥人間が入ってきた。
「キャァァアア!!」
「ウワァァアア!!」
「しつこい奴だ!
南無大慈大悲救苦救難!鬼の手よ!今こそその力を示せ!」
鬼の手を出したぬ~べ~は、鳥人間に向けて攻撃した。すると鳥人間は、翳してきた彼の鬼の手を嘴で突き、怯んだ隙を狙い、鬼の手を銜え投げ飛ばした。
「ぬ~べ~!!」
郷子の声に、鳥人間は彼女達の方を向いた。
「ど、どうしよう……」
「逃げられねぇ」
睨む鳥人間は、麗華に目を向け彼女の髪を弄りだした。
「あ、ちょっと待って」
鳥人間の手を握り、空いているもう片方の手で結っていたヘアゴムを取り、髪を下ろした。
「はい、どうぞ」
「おい!!」
「危険電波、発動させなさい!!」
「平気だって!怖くないよ?」
「何でお前は、そんなに冷静なんだ……」
その時、鳥人間は突然咆哮を上げ、麗華に向かって攻撃してきた。咄嗟に机の上に置いてあった名簿を盾にして、麗華は攻撃を防いだ。
「やっと本性を現したって感じかな?」
「れ、麗華?」
咆哮を上げて、鳥人間は突進してきた。すると麗華が着ていたパーカーの帽子から、白い鼬が出て来たかと思うとそれは煙を上げ、そこから白い髪を生やし、赤いバンダナを額に巻き、山伏の格好をした男が現れた。
男は突進してきた鳥人間を素手で受け止め、投げ飛ばした。
「人の主に、手を出そうとするなんていい度胸してんじゃねぇか?」
「大丈夫か!?広!郷子……って、何だ!?その男は?!」
「突然現れ出た」
鳥人間は、腕を振り武器である羽を麗華目掛けて放った。傍にいた男は手から、炎を出しその羽を燃やした。
「建物内火気厳禁!」
「んなこと言われても、俺は炎しか使えねぇ」
「麗華!
何者なんだ?!そいつは?!」
「何者って……こいつは」
「白狼一族、名は焔だ」
腕を組みながら、焔と名乗った男はそう言った。
「白狼一族?(聞いたことはあるが……まさか本当に)」
「……先生。
今、焔のこと聞いたことはあったけど、実際にいるとは思わなかったでしょ?」
「うっ……」
「やっぱり。
大抵の霊能力者って、焔達のこと見ると聞いたことはあるけどいるとは思わなかったって言う奴等ばかりだもんね!」
「失礼だよな。正真正銘俺達はいるってんだ!」
「麗華……お前は一体、何者だ?」
「え?私?
えっとね」
「来るぞ!」
焔の言葉通り、鳥人間は麗華達目掛けて翼を広げて突進してきた。焔は四人の前に立ち、鳥人間を抑えその隙を狙い、ぬ~べ~はドアを開け広達を廊下へ出した。その時麗華は、抑えられている鳥人間目掛けて、どこからか出した薙刀を思いっ切り振り下ろした。
真っ二つになった鳥人間は、断末魔を上げながら黒い煙となり消えた。黒い煙が上がった付近には、鶏が横たわっていた。
「この鶏、確か麗華が描いてた……」
鞄からスケッチブックを取り出した麗華は、数枚ページを捲りあるページを、目覚め焔に抱き上げられていた鶏に見せた。
「ほら!絵、出来たよ!」
鶏はその絵を見ると、朝でもないのに鳴き声を上げた。
すっかり雨が上がった外に、ぬ~べ~達は出た。そして鶏を檻に戻し鍵を閉めながら、ぬ~べ~は先程の妖怪を広達に説明していた。
「恨みの塊?」
「あの鳥人間が?」
「ここの鶏小屋、校庭に近い所に建ってたせいで、遊びで飛んでくるボールが、小屋に当たっては鶏達がびっくりしてたんだ」
「あぁ確かに。
俺も一度、当てたことあるわ」
「その怒りが、積もるに積もって……
今回みたいなことが起きたんだろう」
「そんじゃあ、思いっ切りボール蹴ることも投げることも出来ねぇじゃ」
「大丈夫だ!
校長に頼んで、鶏小屋を別の所に移すことになった。もちろん他の動物小屋も」
「よかったぁ!」
「あれ?麗華」
「ん?」
「あの、焔って人は?」
「ここ」
そう言いながら、麗華は自身の肩を指差した。そこには鼬姿になった焔がいた。
「普段はこの姿なんだ」
「へー」
「ところで麗華、さっきの質問」
「あ!ねぇ、今何時!?」
「え?
今、丁度六時だが」
「ヤバい……
お兄ちゃんに怒られる~!!」
「怒られるって……
ぬ~べ~が家まで送ってくれるから、その時に訳を」
「聞くわけないじゃん!!
お兄ちゃん、校長を相手に怒鳴り込んだことあるんだから!中学時代!」
「嘘!?」
「まさかの、不良少年」
「どうしよう……何て言い訳すれば」
悩み込む麗華……その時強い風が吹きぬ~べ~達は何かを察し振り返った。
空から舞い降りてくる白く巨大な狼……その背中から、一人の少年が飛び降りてきた。
「あれって……」
「妖怪?」
「ゲッ!お、お兄ちゃん……」
歩み寄ってくる兄に隠れるかのようにして、麗華はぬ~べ~の後ろへ隠れた。
「何隠れてんだ、お前は」
「だって、怒ろうと」
「してねぇよ。
あの雨とこっから放ってた妖気で、来られねぇことぐらい分かるわい!」
「本当に怒らない?」
「怒らない。早く帰るぞ」
「本当に?」
「仏の顔も三度までってことわざ理解してるなら、怒る前に早く来い!」
「ほら!怒った!」
ぬ~べ~の後ろから出て来た麗華は、そう言いながら駆け出した。
「麗華!ったく……。
どうも、お世話様でした」
「い、いえ」
「それじゃあ」
軽く礼をして、兄は駆け出した。すると麗華は何かを思い出したのか、ぬ~べ~達の元へ駆け戻ってきた。
「さっきの質問、答え忘れてた!
平安時代の霊媒師と呼ばれた男、安倍晴明の家系陰陽師の者だよ!」
笑顔でそう言って、麗華は狼の背に飛び乗り、兄と共にその場を去って行った。
「……何ぃぃいいいい!!」
「……えぇぇええええ!!」