地獄先生と陰陽師一家 作:花札
コンビニから出て来た塾帰りの女の子……雨の音を少し迷惑そうに聞きながら、傘立てに立てていた自身の傘を手にし広げた。
「……?
!!キャァァアアア!!」
梅雨に入り、ここ数日雨が続く童守町……
「全く、毎日毎日雨続きで嫌になるわ!」
降り続く雨を見ながら、美樹は一緒に登校していた郷子と麗華に文句を言った。
「まぁ、仕方ないじゃない。梅雨なんだし」
「この梅雨のせいで、全然洗濯物が干せないんだけど……」
「アンタは主婦か…」
歩いていると、ふと掲示板に目が留まった。板には、行方不明者の貼り紙がいくつも貼られていた。同じように、後から来た広達も彼女達に挨拶を交わしながら、その掲示板を見た。
「これ……」
「ここ最近、増えてるみたいだね。神隠し」
「神隠し?」
「傘から目を離した隙に、傘が入れ替わってて入れ替わった傘が、差した本人を食らうって、噂で聞いたわ!」
「マジかよ!」
「けど、入れ替わってたら普通気付かねぇか?」
「話じゃ、柄が一緒だから全く気付かないんですって!
しかも!主に狙われやすいのは、花柄の傘!」
「花柄の……」
「傘……」
美樹の言葉を繰り返しながら、郷子達は麗華の方を見た。水色に桜吹雪の柄が入った和傘を差した彼女は、彼等に釣られ自身の傘を見た。
「ありゃりゃ、狙われやすいね。私」
「んな呑気に言ってる場合か?」
「まぁ、平気でしょう!焔いるし!
いざとなれば、私が囮に」
「ダーメ!」
後から来た緋音は、麗華の頭に軽く叩きながら叱った。
「お姉ちゃん、まだ何もやってないのに……」
「そう言って、危ないことしようとするんでしょ!
そういう事、やっちゃ駄目って龍二から言われてるでしょ?」
「やらないし!」
「そう言って、やるんでしょ」
「う……」
(あの顔、図星だな)
「やるんだったら、今日泊まりに行かないわよ」
「あ~ん!やらないから!」
「緋音さん、今日麗華の家に泊まるんですか?」
「龍二が明日の夕方まで、部活の強化合宿でいないの。真二も同じく。
おじさんも、今仕事が立て込んでて泊まり込みになるからって事で」
「それでか」
「お前、もう小五なんだし留守番くらい一人でやれよ」
「やらせようにも、あの親子が心配性だから出来ないのよ」
「そうそう」
「それはお気の毒に」
放課後……
掃除が終わり、他愛のない話をしながら郷子達は下駄箱で靴を履き替えていた。
「?」
微かな妖気を感じた麗華は、傘の柄に伸ばしていた手を一瞬引っ込めた。
「……」
「どうかした?麗華」
「あ、何でも無い!」
気にしつつも、傘の柄を握り先に外へ出ていた郷子達の元へ行き、学校を後にした。
雨が降り続ける夜……
麗華の家で、夕飯を作っていた緋音は野菜室を開け使う野菜を探したが、そこにはなかった。
「(買いに行ってくるか……麗華ちゃん、丁度お風呂だし)
麗華ちゃーん!ちょっと買いだし行ってくるわね!」
風呂場に向かって声を掛けると、中にいた麗華は返事をした。返事を聞き、緋音は自身の傘を持ち外へ出た。
「フー!さっぱりしたぁ!」
お風呂から上がった麗華は、居間の襖を開けた。
居間には誰もいなかった……
「……あれ?
出たの、30分も前なのに……」
台所へ行くが、準備がされているだけでまだ手が付けられていない食材と、既に炊きあがった炊飯器が置かれていた。
客間、寝室、輝二の部屋、龍二の部屋、自身の部屋と各々の戸を開けるが、そこに緋音の姿は無かった。
「……焔、お姉ちゃんを探しに……」
この時、ハッと麗華は気付いた……焔がいないことに。
「……アイツ、どこ行った。
焔ぁ!!焔ぁ!!」
名を呼びながら、麗華は下駄を履き玄関を開けた。土砂降りの中、玄関付近に置かれた開いた朝顔が描かれた傘が、風に揺られ転がっていた。
「……」
何かを感じた麗華は、靴に履き替え地面に転がっていた傘を手に、雨の中を駆けていった。
その頃、緋音は暗い異空間の中で、目を覚ました。
(……あれ、ここどこ……
私確か、買い物に行こうとして傘差して……)
「目ぇ覚めたか?」
「え?
ほ、焔!?な、何で」
「テメェが傘に吸い込まれていくところを、目撃したから……助けようと手を伸ばしたら、そのまま一緒に」
「……って、麗華ちゃんは?!」
「……ただいま、お一人でお留守番」
「何やってんのよ!!
アンタまでいなくなったら、麗華ちゃんパニックになっちゃうじゃない!!」
怒鳴る緋音の声に、焔はうるさそうに耳を塞いだ。
『餌が二匹掛かった』
「え?」
見たことの無い花弁が、焔と緋音の周りを舞いそして、目の前に巨大な木が現れ、その木の幹に蔦に絡まれ身動きが取れなくなった、行方不明者達がいた。
「な、何……これ」
「ここにいる奴等、全員ここ最近いなくなった奴等ばかりだぞ」
「先生!!大ピンチ!!」
学校へ着いた麗華は、宿直室にいるぬ~べ~の元へ駆け付けた。彼は宿直室でエロビデオを鑑賞しており、突如開いた扉に驚き、ビデオを取り出し慌てて後ろへ隠した。
「れ、麗華!な、何だこんな夜遅くに!」
「……エロビデオ隠さなくても、連行しないよ」
「法に触れてるわけないだろう!!
お前に見せるのが、教育上よろしくない!!」
「じゃあ見るな!」
「うるさい!
それで、どうした?」
「あぁ、そうだ!
先生、大ピンチ!!緋音お姉ちゃんと焔が家から消えた!!」
「そんなの、買い物に行って……?」
何かを感じたぬ~べ~は、麗華に近寄り彼女が持っている傘に鬼の手を翳した。
「……微かだが、妖気を感じる」
「え?」
「麗華、その傘少し見せてくれないか?」
「別にいいよ」
緋音の桃色の傘を、麗華はぬ~べ~に渡した。
受け取った彼は、傘を見ながら広げた……次の瞬間、広げた傘から目映い光が二人を包み込んだ。
「……?」
目映い光が消え、麗華は恐る恐る目を開けた。そこは、暗い異空間の中だった。
「……ここ、どこ?
何で……先生!どこぉ」
「あの、俺ここなんですけど」
自身の足下を見ると、ぬ~べ~は俯せの状態で倒れていた。麗華は慌てて、彼の上から降りた。
「ここ、どこ?」
「あの傘に食われて、異空間に吸い込まれたのかもしれないな」
「また異空間……先生、最近思う。
私、異空間とか狂暴妖怪に何か好かれてる気がする」
「それは昔からだと思うぞ」
『餌が二匹掛かった』
その声に、ぬ~べ~はすぐに白衣観音経を手に構え、麗華はポーチから札を取り出し、それに血を付けると薙刀を出し構えた。
すると、どこからか光る玉が飛んできた。麗華はぬ~べ~の襟を掴み彼を倒し、その玉を避けた。
「何だ、あの玉?」
「れ、麗華……首、首」
「ちょっと我慢してて、先生。
あの光の玉の正体を……うわっ!」
「ぐへ!」
光る玉と共に、炎の玉が飛んできた。麗華は慌てて伏せ、飛んできた方向を見た。
「あの炎の玉は……」
「れ、麗華……し、死んじゃう」
彼の襟を離し、麗華は首に掛けていた木笛を吹いた。
鳴り響く笛の音……ぬ~べ~は、辺りを見回して警戒した。すると上から狼姿となった焔が、彼の上に着地した。焔の背から緋音は飛び降り、麗華の元へ駆け寄り抱き締めた。
「麗華ちゃんよかったぁ!
ごめんね、一人にさせちゃって!怖かった?」
「全然平気!
それより、お姉ちゃん怪我してない?大丈夫?」
「平気よ!
ねぇ、何で先生気を失いかけてるの?」
「さぁ」
『出て行け……ここは、我の地だ』
その声と共に、どこからか無数の針のような物が雨のように飛んできた。麗華は薙刀を振り回しその薙刀に焔は炎を放ち、飛んでくる針を消した。同じように、緋音は気孔を放ち針を消し、ぬ~べ~は白衣観音経を広げた防いだ。
『人の子にしては、かなりできるな』
開花した不気味な色をした花の上に、攻撃をした者が降り立った。
「な、何だ!?この妖怪は!?」
「ここ最近、起きてる失踪事件は全部こいつの仕業だ」
「?!」
「コラァ!!お前の失踪事件起こしたせいで、父さんが早く帰れないじゃない!!早く、さらった奴等解放しろ!!」
「麗華ちゃん!それを言うのは、今じゃない!!」
『そんなもん、傘を忘れる貴様等人間が悪いだけだ』
妖怪が差し伸ばした手から、無数の針のような物が再び麗華達を襲った。ぬ~べ~は二人の前に立ち、白衣観音経で防ぐと、同時に鬼の手を召喚した。
「何が目的なんだ!」
『人の生気を吸い、完全な妖怪になる。
それだけだ』
「……くだらない理由だな!!」
「麗華!!」
「先生!とっととやっつけて!
こんなくだらない理由で、父さんの仕事を増やされちゃ堪ったもんじゃない!!」
「お前は父親中心に、物事を考えるな!!」
「だって、帰り遅いんだもん!!
ここ最近なんて、顔見てないんだから!!」
麗華が愚痴っている間に、傍にいた緋音は手に気を溜めて、妖怪目掛けて気孔を放った。妖怪はすぐに避けたが、目の前に先程まで喧嘩していた二人が、鬼の手と薙刀を構えていた。
「悪霊退散!!」
「無に帰れ!!」
ほぼ同時に、二つの攻撃を食らった妖怪は光に包まれ消滅した。その光は四人と異空間に吸い込まれた行方不明者達を包み込んだ。
……
雨が降る音に、麗華は宿直室で目を覚ました。体を起こすと、傍にいた緋音と鼬姿になっていた焔が目を覚まし起き上がった。
「あれ?ここって……」
「学校の宿直室。先生!どこぉ!?」
「ここだ!」
下から聞こえ、目線を向けると俯せの状態で倒れているぬ~べ~の上に緋音が座っており、彼女は慌てて退いた。
「す、すみません……先生」
「いや、いい」
「まだ雨降ってる~」
「本当。
早く帰って、ご飯食べようか!」
「うん!」
床に転がっていた傘を手にして、麗華は緋音と一緒に部屋を出た。
「そういえば麗華、お前だけ何でさらわれなかったんだ?」
「え?」
「美樹の噂話だと、花柄の傘が狙われるって言っていたが……」
「……あー!
多分これ、母さんのだからだよ!
私の傘、随分前にボロボロになって捨てたんだ。新しいの買うまで、これ使ってろって父さんが」
「それでか」
「あの妖怪、麗華ちゃんをさらおうとしたけど、お母さんに邪魔されてさらえなかったから、私をさらったのね」
「多分そうだよ」
「それなら納得だ。
ほれ、途中まで送ってやるから」
「大丈夫だよ、先生!
焔に送って貰うから!」
「帰ったら、濡れた毛洗え」
「りょーかーい!」
「それじゃあ、先生色々ありがとう」
「あぁ」
「じゃあな!先生!また月曜日!」
狼姿となった焔の上に乗り、麗華は緋音と一緒に帰って行った。彼女達を見送ると、ぬ~べ~は宿直室へと戻った。
後日談……
行方不明者は、皆いなくなった場所から発見され、皆無事に家へ帰りました。