地獄先生と陰陽師一家 作:花札
補習授業のため、学校に来ていた郷子達。
「お寺の掃除?」
黒板に書かれた文字を消しながら、麗華は郷子達に話した。
「うん。
輝三の仕事で、田舎の方にある古いお寺の掃除を手伝って欲しいって話があって。
お兄ちゃん達が行く予定だったんだけど、期末テストと重なって……一人で行っても、大変だから郷子達どう?」
「寺の掃除か……」
「掃除したら、何かくれるの?」
「お駄賃程度のお金貰えるよ。
それに丁度、近所で花火大会があるから、貰ったお駄賃持って遊びに行くことも出来るし!」
「花火大会……面白そうだな!」
「花火、まだ見てないもんね!」
「よし!行くか」
「アタシも!」
「私も!」
「俺も!」
「じゃあ、行くのは木村と立野と、細川と郷子ね!
そんじゃ、輝三に伝えとくね!」
「……なぁ、麗華」
「何?」
「お前がさっきから言ってる、輝三って誰だ?」
「伯父さんだよ。父さんの一番上のお兄さん!
別の県で、父さんと同じ刑事やってるんだ」
「へ~(おじさんのお兄さん……)」
彼等の頭に浮かぶのは、輝二と似たような容姿をした輝三の姿だった。
某所……
バスから降りる、郷子達とぬ~べ~。
「何でぬ~べ~が来たんだよ」
「てっきり私達だけかと思ったのに!」
「保護者として、麗華のお父さんに頼まれたんだよ!!文句言うな!」
「娘の教師を保護者として雇うのって、父親としてどうなんだ……」
森に囲まれた道を数分歩くと、門が見えた。麗華は門を開けると、中へ入り彼女に続いて郷子達も中へ入った。
「誰もいねぇな?」
「出迎えに来るって言ってたのに……
ちょっと探してくる!」
「分かった!」
麗華が去った直後、突然木々が騒ぎ出した。嫌な気配を感じたのか、ぬ~べ~は白衣観音経を手にして、辺りを見回した。
すると、茂みから大きな羆と熊の毛皮を被った人が、郷子達の前に姿を現した。
「ぎゃー!!」
「出たぁ!!」
「な、何だ!?あれは」
叫び声に気付いたのか、金堂の裏から出て来た麗華は、郷子達の元へ駆け寄った。
「どうしたの?皆」
「れ、麗華!!あれ!!」
「?
あ!御住職!」
「ご、御住職?」
毛皮を被った人は、毛皮を取ると頭を丸くした男性だった。
「ひ、人だ……」
「ビックリしたぁ……てっきり、森の人かと思った!」
「どこ行ってたの?」
「山菜を採りに山に。
良く着たね」
「へへ!」
「ようこそ。こんな辺鄙な所へ。
遠かったでしょう……さ、中へ」
「あ、はい!」
広い和室へ案内されたぬ~べ~達……荷物を置くと、早速掃除に取り掛かった。金堂の中を広達が焔と共に掃除をし、郷子達は麗華と共に境内を掃いていた。
「広いわねぇ、この寺」
「本当!何かこれだけで一日が終わりそう」
「大丈夫!すぐ終わるって!
終われば、この下にあった町で花火大会が待ってるよ!」
その言葉で、郷子と美樹は再び箒を動かした。裏の方へ回った時、郷子の前にあの羆が茂みから現れた。
「キャー!!」
悲鳴に金堂の中を掃除していた広達は、慌てて外へ飛び出した。いち早く駆け付けた麗華は、腰を抜かした彼女の元へ駆け寄った。
「く、熊!!熊!」
「郷子、落ち着いて!この熊は平気!安全だから!」
「で、でも熊よ!熊!」
怯える郷子を見て、羆は鳴き声を上げながら茂みの方へ去って行った。
「ほら、郷子が騒ぐから」
「だ、だって!」
「去ったらいいじゃねぇか!
早く掃除終わらせて、祭り行こうぜ!」
「郷子!」
「う、うん……」
麗華に立たせられた郷子は、彼女と共に掃除へ戻った。
夕方……
掃除が終わり、郷子達は用具を元の場所へ片付けた。
「ふー……結局夕方まで掛かっちまった」
「もう、五時半だ」
「麗華、花火大会って何時から?」
「七時だよ!
終わるのは八時くらい!」
「まさか、今日ここに泊まるのか?」
「そうだよ。
明日の朝、輝三が車で迎えに来るから」
「嘘ぉ!!こんな不気味な所で、泊まれるわけ無いじゃない!!」
「さっきの熊が出て来たら、どうするのよ!!」
「大丈夫だって!
私、毎年泊まってるけど被害出てないもん!お兄ちゃん達だって、ずっと昔から泊まったことあるけど、何もなかったって言ってるし」
「お前等兄妹と俺達を一緒にするな!!」
「花火大会やめて、先に帰る?
この暗い道」
「バスがあるから平気よ!」
「バスもう無いよ」
「え?」
「花火大会があるから、この辺りの交通ルートは人が多いから、全部封鎖。
明日まで無いよ」
「そ、そんなぁ……」
「大丈夫だって!先生もいるし、住職もいるし!問題ない!」
「アンタはどうして、そう呑気でいられるのよ」
ヒグラシが鳴く森の中を歩く、郷子達。提灯を手に先頭を歩く麗華の肩に、郷子は手を置きしがみついていた。
「郷子、怖がりすぎ」
「だって!」
「近道って言ってたけど、合ってるの?」
「うん。何回も言ってるから、大丈夫!」
「……なぁ、ぬ~べ~」
「?」
「さっきから、顔怖ぇぞ」
「え?そ、そうか?」
「そういえば、寺に来てから凄い険しくなったよね?」
「……」
「険しくなって当たり前だよ。
境内に入ってから、妖怪の気配ビンビンだもんね!ぬ~べ~!」
笑顔で言いながら、麗華は振り返りぬ~べ~を見た。その顔に違和感を覚えた彼は、鬼の手を出し白衣観音経を彼女に向けた。
「ぬ、ぬ~べ~!?」
「どうしたのよ!?」
「お前、誰だ?」
「へ?何言ってるの?
私は、麗華!どうしたの?ぬ~べ~」
「……お前は麗華じゃ無い」
「え?」
「な、何言ってるの?」
「麗華は、俺のことを『ぬ~べ~』とは呼ばない……
誰だ!?」
「……バレちゃ、仕方ないわね」
煙を上げ姿を現したのは、三つの尾を生やした狐だった。
「き、狐?」
「せっかく、美味しい獲物が捕れたと思ったのに……残念ね」
「偽者って……じ、じゃあ麗華は?!」
「今頃、暗い溝の」
「勝手に殺すなぁ!!」
狐の頭に跳び蹴りを食らわした麗華は、着地しながら狐を睨んだ。
「もう!何すんのよ!!」
「人を騙しやがって!!
おかげで、ここまで来るのに時間が掛かったわ!!」
「騙される方が悪いのよ!」
「妖の世界ではそうかもしれないけど、人間の世界はそうじゃないんだよ!!
狐鍋にでもしてやろうか!!」
「そんな怒らなくてもいいじゃない!
あの人達がくるの楽しみにしてたのに……来やしない上に、訳の分からないクソガキと、無能の霊媒師を連れてきて」
「頭にきたから、麗を騙したってか?」
「……そうよ!
仕方ないから、アンタの所に寄ろうと思ったらそこの小娘達に追い払われたのよ!!箒で!」
「え?」
「……あぁ!昼間の!」
「麗華がちょっと離れてる時に、狐が出て来て……
掃除してる最中だったから、悪戯されると困ると思って追い払ったの」
「そうだったんだ……
ごめんな……」
「……フン!
今回は、お主に免じて許してやる」
そう言うと、狐は茂みの中へと姿を消した。
「あの寺は、どういう寺なんだ?」
再び森を歩き出したぬ~べ~は、前を歩く麗華に質問した。
「動物妖怪が集まる寺だよ。
この辺りの森って太古からあって、ずっと住み着いてる動物の子孫がいたり、妖怪になってまだ生きてる奴等もいるんだ」
「そうだったのか……道理で妖気を感じる訳だ!」
その時、暗かった森が急に明るくなった。それを見た麗華は、提灯の火を消し郷子達を手招き道を進んだ。
茂みを出ると、そこは見晴らしの良い崖になっており、向こうにはお祭りの明かりが見えた。
「凄ぉ……」
「特等席じゃねぇか!」
「昔、さっきの狐に教えて貰ったの!」
「あの狐が……へ~」
すると、明るくなっていた森から、次々に動物達が出て来て定位置に座った。
「何か、いっぱい寄ってきたぞ」
広が怖がった様子で、麗華の方を見ながら言うと、彼女の膝の上には昼間に見た羆が頭を置き甘えていた。
「ぎゃー!!熊ぁ!!」
「騒がない!」
「そ、そいつ噛み付いたり……しないのか?」
「しないよ!
こいつ、良い子だもん。ねぇ!ムーン!」
顔を持ち上げ、ムーンの額に自身の額を当てながら麗華は声を掛けた。ムーンはそれに応答するかのようにして、鳴き声を発した。
彼女の姿に肝を冷やしながら見る郷子達……その時、一発の花火が上がった。郷子達は、『玉屋』『鍵屋』と大声を出しながら、その花火を見た。
一緒に見ていたぬ~べ~は、ふと周りを見た。周りには妖気を放った動物妖怪が、そこら中にいた。一部は麗華の傍に寄り添い、一緒に花火を見ていた。
「皆、ここの花火好きなんだ」
「……」
「だから、ここに来るの。
父さん達も、小さい頃ここへ来たんだって!」
「そうだったのか……」
顔を近付けてきた先程の狐の頭を、麗華は撫でた。狐は嬉しそうな表情を浮かべて、彼女の頬を舐めた。
微笑ましい姿を見たぬ~べ~は、広達に混じり大声を上げながら花火を見た。
翌朝……
「ギャァァアアア!!」
広達の声で、目を覚ました郷子と美樹は眠い目を擦りながら襖を開けた。
「もう、朝っぱらからどうしたのよ……!?
キャァァアアア!!」
二つの叫び声に、朝食の手伝いをしていた麗華は、廊下を走りそこへ駆け付けた。廊下に立っていたある人物の背中に飛び乗ると、ヒョッコリと顔を出しながら彼の前で腰を抜かした、郷子達を見下ろした。
「どうしたの?皆」
「れ、れれ、麗華!!
そ、そそ、その人!!」
「?
輝三がどうかしたのか?」
「え?」
「こ…」
「輝三……」
『輝三って誰だ?』
『伯父さんだよ!父さんの一番上のお兄さん!』
行く前の言葉を思い出した郷子達の頭に浮かんでいた、想像図が一気に崩れ落ちた。
それもそのはずだ……目の前にいるのは、目付きの悪いヤクザ風のガタイのいい男だった。眼には傷痕があった。
「アッハッハッハ!!」
ご飯を食べながら、麗華は笑い転げていた。郷子達は、顔を真っ赤にして大人しく、ご飯を黙々と食べていた。
「笑い過ぎだ」
輝三から拳骨を食らった麗華は、笑い疲れ息を整えながら席に着いた。
「ヤクザと間違えられたって、仕様が無いじゃん!
そんな怖い顔してんだから!」
「袋叩きにしてやろうか」
「結構でーす」
「す、すいません……」
「ひ、悲鳴上げてしまって」
「別にいい。慣れっこだ」
「顔が怖いって理由で、刑事課に配属されたんだもんね」
食後のお茶を飲む麗華に、食べ終えた輝三は頭を鷲掴みにした。
「痛ててて!!痛い痛い!!
言い過ぎました!!ごめんなさい!!痛い!!」
離したと同時に、麗華は眼を回しながら倒れ彼女の元へ焔は駆け寄り、頬を舐めた。
住職に挨拶すると、郷子達は寺を出て帰って行った。帰り道下り坂を歩きながら、輝三は隣を歩くぬ~べ~に話し掛けた。
「楽しそうにやってるみたいですね?
姪は」
「え、えぇ……まぁ(色々と問題は起こすが……)」
「戻ってきたらどうしようかと、少し心配してましたが楽しそうで何よりです」
「戻ってきたら?」
「小三の夏に、こっちで一年半暮らしていたので」
「あぁ、そういえば……」
「ただでさえ、霊力が俺達よりも高い上に妖怪に狙われやすい体質です。
好き好んで人の中へ入るような子では無いので、こっちでリードを持っとかないと、どんどん妖怪の世界に行ってしまいそうで」
「言われてみれば……」
「先生、ご迷惑をお掛けしますが、弟家族をお願いします」
「あ、はい」
「輝三!先生!
早くー!」
笑顔を浮かべながら、手を振る麗華に輝三は一瞬微笑を浮かべて、ぬ~べ~と共に彼等の元へ向かった。