地獄先生と陰陽師一家 作:花札
美樹が言い放った名前をクラスの一人が繰り返した。
ここ最近、頻繁にゴミ置き場や空き家、公園の草花が燃える事件が続いていた。その事件の原因が妖怪の仕業だと美樹はクラスに話していた。
「何だ?犬鳳凰って?」
「愛媛に伝わる怪鳥よ!
狐火と同じ炎を口から吐き出す妖怪なの!」
「最近起きてる、火事がその妖怪の仕業なの?」
「そうよ。
現に目撃者がいるんだから」
「いるの?!」
「えぇ。
消防署に通報したOLさんが云ってたのよ!帰り道にゴミ置き場から飛び立つ影と同時に、火が上がったんだって!」
「へぇ……」
「美樹、それ本当なの?」
「本当よ!昨日話してるの聞いたんだもん!」
「何々?何の話?」
登校してきた麗華は、美樹達の所へ行き不思議そうな顔をして、彼女に質問した。
「ここ最近、小火が起きてるでしょ?」
「うん」
「それが、犬鳳凰っていう妖怪の仕業なの!」
「犬鳳凰?
あぁ、愛媛にいるあの妖怪か」
「麗華、知ってるの?」
「うん、ちょっとね」
「チャイム鳴ったぞ!席に着け!」
ぬ~べ~の怒鳴り声に、美樹の周りにいた生徒達は慌てて、自身の席に着いた。
放課後……
教室で、本を読みながら麗華は絵を描いていた。そこへ掃除を終えた勝が、連れていた二人に笑いかけながら、彼女に歩み寄った。
「……?
何か用?」
「何描いてんだ?いつもいつも」
「別に……
何でもいいじゃん」
スケッチブックを閉じ、本と一緒に鞄にしまい帰ろうとしたが、勝についていた二人の男子がそれを阻止した。
「いつもいつも、絵描いててウザいんだよ!
体育の授業をサボってまで、絵を描きたいのかよ!」
「体育はドクターストップが掛かってんの!
出来るわけないじゃん!」
「授業受けねぇなら、学校に来んな!!」
そう言うと、勝は麗華を突き飛ばした。壁に体をぶつけた衝撃で、服の下に隠していた勾玉のペンダントが現れた。
「?
お前、学校にそんな物して来てんのかよ!?」
「こ、これは」
「アクセサリーは、学校に持ってきてはいけないんだぞ!」
「没収だ!」
勝が麗華のペンダントに手を掛けようとした時、パーカーのフードの中にいた焔が、彼の指を噛んだ。
「うわっ!何だ!?この鼠!」
勝が怯んでいる隙に、焔を手に麗華は教室を飛び出した。通り掛かったぬ~べ~に、勝は泣き付き焔に噛まれたことだけを伝えた。
屋上へ逃げ込んだ麗華は、梯子を登り給水タンクの裏の塀に座った。
「大丈夫か?麗」
「うん……
これも無事」
手に握っていた勾玉を、麗華は焔に見せた。安心したのか、一あくびすると彼女は、目を瞑り眠った。
心地良い風が吹き、麗華の髪を靡かせた。彼女はゆっくりと目を覚まし、起き上がった。給水タンクの裏ではなく、真っ暗な世界で水溜まりがあるだけの場所だった。
その時、水の上に光に包まれた何かが舞い降りてきた。それは何かを言うと、麗華の後ろを指差した。彼女はその方向を振り向いた。
「?!」
目を覚ます麗華……飛び起き眠い目を擦りながら辺りを見回した。
「あれ……寝てたのかな?」
「キャァァアア!!」
「ウワァァアア!!」
叫び声に麗華は急いで梯子から下り、校舎の中へ入った。
階段を駆け下りると、そこに何かから逃げる広と郷子、美樹に克也、さらに勝とまことが走ってきていた。
「あれって……!」
「犬鳳凰!?」
「焔!引き付けて!」
「応!」
鼬姿から人の姿へ変わった焔は、犬鳳凰の前に立ち蹴りを入れた。
「あれって、麗華の」
「皆!こっち!」
手招きをする麗華の元へ駆け寄った広達は、彼女なの誘導で家庭科室に逃げ込んだ。安全な場所に行ったのを確認すると、焔に向かって口に指を入れ、音を鳴らした。その音に彼は、犬鳳凰に攻撃し怯んだ隙を狙い黒い煙を出して目を眩ました。
家庭科室……
息を切らした広達は、地面に座り込んでいた。鼬姿になった焔を自身の肩に乗せ、麗華は心配そうにして彼等を見た。
「大丈夫?」
「た、助かった……サンキューな、麗華!」
「別にいいよ。
ねぇ、先生は?」
「それがいないのよ!!
宿直室にも職員室にもどこを探しても!!」
「ついに夜逃げしたか……」
「いや、単にどっか出かけてんじゃ……
てか、何で皆は学校に?」
「ぬ~べ~に提出物、出すの忘れて……それで来たんだけど」
「先生はいなくて、代わりに犬鳳凰がいたって事か」
「そう」
「そういう麗華は?」
「屋上で昼寝してたら、この時間に」
「昼寝ってお前……
お兄さん、怒らねぇか?」
「多分……
着信が五件入ってるから……ハハハ、怒られる」
「何だよお前?
アクセサリーだけじゃなく、携帯まで持って来てんのかよ!?」
「携帯は先生に伝えてるから、いいの!
お前と家の事情が違うんだから!」
「家の事情って何だよ!?
そのペンダントも、家の事情で着けてきてるのかよ!?」
「こ、これは……」
「勝、止しなさいよ!!
麗華、嫌がってるでしょ!」
「けどよ!」
“バーン”
突然ドアが壊され、外から犬鳳凰が入ってきた。
「キャァァアア!!」
「人の子が、一人増えたわ!
この建物を燃やした後、お前等を食ってやろう!」
「お、お助けぇ!!」
「なぁ、お前!」
「あん?」
犬鳳凰が振り向いた瞬間、彼の顔に強烈な跳び蹴りが当たった。
「前ばかり見てないで、後ろも見なって!」
「人の子の分際で!!」
「続きは外で!」
窓を開けながら、麗華はそう言って窓から飛び出た。犬鳳凰は頭を振ると、彼女の後を追い駆けた。外へ出た二人の後を、広達は階段を使って外へ出た。
外はいつの間にか暗く、月が浮かんでいた。
「ここがお前の墓場か?人の子よ」
「ん~、月明かりは丁度良い。
さぁ、こっから暴れるよ!」
ポーチに手を突っ込んだ麗華は、中から札を出し指を噛み血を出すと札に付けた。
「我に力を貸せ!急急如律令!」
札が青く光り出し、そこから冷気を放ち現れ出てきたのは、水色の長い髪を毛先だけを纏め、僧侶の格好に笠を被り、錫杖を手にした男だった。
「氷鸞!そいつをさっさと、得意技で倒しちゃいな!」
「そのつもりです」
錫杖から水の球を出すと、氷鸞はそれを犬鳳凰目掛けて放った。彼は素早く避け、炎を纏った羽を雨のようにばらまいた。焔は麗華を抱えて避け、それと同時に広達の周りに、白衣観音経が現れ攻撃を防いだ。
「お前等、無事か!?」
「ぬ、ぬ~べ~!!」
「もう!何やってたのよ!」
「お前達が来る前に、あの妖怪に頭をぶたれて」
「気を失ってたって事か」
「そうそう……って、何で麗華がここに」
「屋上で昼寝してた」
「……?
な、何だあの妖怪は?!」
そこにいたのは、水色の翼に七色に光る尾を持つ美しい巨鳥へ姿を変えた氷鸞に、ぬ~べ~は驚いた。
「水と氷の使い手、名は氷鸞。
私の式神」
「……」
「ここは、私達に任せて!先生」
一枚の札を手に、麗華は再び指を噛み血を出すと、札に付けた。
「我に力を貸せ!急急如律令!」
札が黄色く光り出し、そこから雷を放ち現れ出てきたのは、赤い角を生やし、黒く大きな馬だった。
「な、何だ……この、莫大な妖気は。
(この妖気、感じからして神の領域に達している……
これほどの妖怪を、式神にしたというのか)」
「おっしゃー!
雷光!雷放っちゃいな!」
「承知!」
角から雷の弾を放つ雷光に続いて、氷鸞は水の渦を犬鳳凰に向かって放った。
体から煙を放ちながら、犬鳳凰は蹌踉け倒れた。
「私を相手にしたのが、不覚だったね」
「クッ……」
「じゃあね。放火犯」
どこからか出した薙刀を、麗華は勢いよく振り下ろした。止めを刺された犬鳳凰、黒い煙を放ち消えた。
戦い終えると、氷鸞と雷光に礼を言うかのようにして、頬を撫で札へ戻した。二人がいなくなると、焔は彼女の後ろへ回り、空いていた手に自身の頭を触れさせた。
「スッゲぇ……
「こりゃあ、ぬ~べ~も顔負けだわ」
「えぇ!?陰陽師!?
麗華が?!」
広と郷子から麗華が陰陽師だという話を聞いた美樹達は、驚き思わず声を上げた。
「ふぇー。
身近なところにぬ~べ~みたく、妖怪と戦える人がいたなんて」
「驚きなのだ……」
「じゃあ、携帯やそのアクセサリーは、その何とかのためなのか?」
「携帯は父さんが持ってろって。
私生まれ付き喘息持ちだから、もしもの時にって」
「そうだったんだ……」
「じゃあ、体育休んでたのは」
「喘息持ちに、体が弱いから激しい運動は控えろって。
時々ならいいんだけど、毎日だとやっぱりね」
「けど、さっき普通に妖怪と戦ってたじゃねぇか」
「あれは、別。
妖怪退治は単独だから、どう動かせば体に負担が掛からないかって考えながら動いてるけど……授業とかだと、チーム戦とか団体行動が多いから、考えてる暇がなくてそれで体を壊しちゃうんだ」
「へ~」
「じゃあ、そのペンダントは?」
「あぁ、これ。
妖怪を寄せ付けない御守り!」
悪戯笑みを浮かべながら、麗華は言った。
すると月明かりに照らされ、巨大な影が学校を覆った。影に驚いた広達は、咄嗟に空を見上げた。
一瞬の風を起こし舞い降りてくる白く巨大な狼……
「あれって……」
「お、お兄ちゃん……
ヤバい……連絡するの忘れた」
狼の背中から飛び降りた兄は、怒りの形相で麗華に歩み寄ってきた。
「あれは、ヤバいな」
「だよね……よし。
逃げるが勝ち!」
「待てぇ!!麗華ぁ!!」
走り出した麗華を、龍二は全速力で追い駆けた。
「テッメェ!!こんな時間まで連絡寄越さないで、何やってたんだ!!」
「昼寝して、連絡するの忘れた!
帰ろうとしたら、妖怪に出くわした!」
「何昼寝してんだ!!」
「お兄ちゃん、顔怖いぃ!」
「うるせぇ!!」
「不良の顔になってるぅ!!
先生!ヘルプ!」
ぬ~べ~の背後に周り、麗華は隠れた。全く息の切れていなかった龍二は、急ブレーキを掛けるかのようにして止まった。
「そんなところに隠れてねぇで、とっとと出て来い!」
「出て来た瞬間、殴るじゃん」
「殴らねぇから、出て来い」
「とか言って、家に帰ってから殴るんでしょ?」
「本当に殴るぞ!!」
「その辺にしておけ」
どこからかやって来た青いくノ一の格好をし、白い髪を腰まで伸ばした女性が、龍二の肩に手を置きながら言った。麗華は素早くぬ~べ~の背後から出ると、その女性に抱き着いた。
「こいつも十分反省している。
今日の所は、これでいいじゃないか」
「……」
「まだ苛立つと言うなら」
そう言うと、女性は麗華の頭を軽く叩いた。
「私が代わりに叩いた。これでいいだろう?」
「そういう問題じゃない!!」
「あんた等兄妹喧嘩は余所でやりなさい!」
ぬ~べ~に怒鳴られ、二人はようやく喧嘩を止めた。
「遅くなって、心配するのは分かるが程がある。
けどな、お前も言える立場じゃ」
「さぁ、とっとと帰るぞぉ」
麗華を抱え、兄はいつの間にか現れ出ていた狼に歩み寄った。
「人の話を聞きなさい!! 」
「嫌なこった。
どうせ、面倒な説教するんだろ?
説教聞くくらいなら、とっとと家に帰って、寝ますよ」
「お前なぁ……」
「じゃあね!先生!皆!」
狼に乗った麗華は手を振りながら、暗い空へと消えていった。