プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー
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お久しぶりです、どうも。
ネロ祭、疲れましたよ。
135箱ぐらい開けるのが精一杯でしたがスキル石がたんまり溜まってホクホク顔です。

では、今回の話もどうぞ。


聖☆おねえさん、襲来。

 

 ――今一度、状況を整理してみようと思う。

 

 そう大所帯に成りつつある皆の前で真面目に切り出した私は、インスタントな珈琲を片手に一つの転換点であると思われる今に至るまでに入手した情報の纏め上げへと取り掛かった。

 なお、何故現時点を転換点だと判断したかについてであるが、これまで予想をしたり聞いた程度であった敵の情報が直接会うことによって頭がパンクしそうなほどのインフレを起こしているからに他ならない。

 ……要するに、勢力図や相関図が良い感じに出来る頃合いになったので、入手した情報に対して白黒つけて何をどうすればこちらの目的が達成されるのか明確にし全員に共有したいわけである。

 

「題して、100秒でわかる第一特異点!!」

 

「いや、そんな早くダイジェストに出来ないからね!?」

 

 勝手な議題のタイトルが書かれた携帯用のホワイトボードを鋭いツッコミの手で弾き飛ばし、冗談を抜きにして第一特異点の現状を振り返り始めた私は、まず初めにフランス全体を騒がしている背景についておさらいを開始した。

 

「自称ジャンヌの反転体こと、ジャンヌ・オルタによって休戦状態にあったはずの百年戦争は竜と神話生物とその他諸々が蠢く別の戦いへと移行していた。既に幾つかの土地は壊滅的被害を受けていて、このままではフランスという国の存続も危うくなる」

 

『フランスがここで万が一潰える事になれば、世界地図が書き換えられるだけでは済まない。そこに存在していた人々の人生さえも変わることになる』

 

 そうなることで救われる命があるのかもしれないし、逆に犠牲になる命が増えることになるのかもしれない。

 例をあげれば、ここに居るマリー・アントワネットの人生が変わり果てることに繋がるだろう。何せ、彼女は元々はオーストリアのお姫様だ。嫁ぐ先であるフランスがなくなれば歩む人生も違い、好きになる相手もその後の死因も本来とは異なることになる。

 個人的にはその方が幸せなのではないかと思わなくもないが、どうなろうとも悲劇的な結末は変わらないみたいなクソ理論に従って歴史が進んでしまうことも有り得る。……故に、不確定でどう転ぶかわからない未来を憂いるよりも私は正しい歴史である方をどこまでも尊重する。

 

「それが正しい……あり得たかもしれない可能性を夢見るのは微睡みの中で十分さ。囚われすぎると最悪、このフランスを騒がせている張本人みたいなことをしてしまいかねないからね」

 

「……実を言うと、フランスが特異点となっていると聞かされた時に真っ先にそれを危惧していたり。別に、貴方の仕業だとかは考えてなかったけど」

 

「ハハッ、マリアにオルタは似合わないよ。存在していたとしたなら彼女を嫌うか、恐れていた誰かによって形作られた別人か何かだろうさ」

 

「会ってみたい気もするけども、違った意味で輝いていて仲良くなるなんて叶わないでしょうね……」

 

 人々の妄想や認識が作り出した虚像の具現化……通常なら頭の中止まりの存在だが、聖杯であれば可能にしてしまえることもある。……やはり厄介なアイテムだなぁと私はつくづく思った。

 

「――でだ、相手側は知っての通りサーヴァントによって厳重な守りを固めている挙句、聖杯を所持している関係でそのバックアップを受けている節がある」

 

「狂化状態の付与に加えて、令呪紛いの転移までするとは先の戦闘結果はともかく大した奴らじゃ」

 

「まあ、向こうも同じ手は食わないようにしてくるだろうよ。それに、あの場にいた連中が戦力の全てではないと見た」

 

「……ジルのことですね」

 

 ……最悪、七騎であるという聖杯戦争のルールを破って大量に追加召喚を行い、ゴリ押しみたいな事を仕出かしてくるかもしれない危険性があるだろう。

 限度があったとしても、誰かを倒したら代わりにまた召喚して補充したなんてことは当たり前のように行ってくるに違いない。対しこちらは、無尽蔵な魔力はなく人員にも限りがあってリタイアしたらそれで最後だ。命を大事にを胸に動かなければ段々と不利になり続けてしまう。

 

「対策としては連中の数がこちらを下回った段階で畳み掛けるのがベストなわけだが、そう簡単に突っ込まさせてはくれないだろうな」

 

「分断は狙ってくるだろうな。全員集合でフルボッコなんて誰だって味わいたくねえよ」

 

 そらそうだわな、と同意の表情を見せるとその上でどう動くべきかを熟考する。

 シンプルに考えるならばこちらの数を増やすことがセオリーだが、既に情報として上がっている竜殺し2名を仲間にするだけではまだ心もとないというのが本音だ。

 

『聖杯戦争という枠内で考えるならば、そこにあと二人はほしいところだね。カルデア組を除けばそれでちょうど7人になるはずだ』

 

「となると、あと4人を道中で仲間にしなければならないわけか。手がかりになるようなものが今のところないのが辛いが会えるだろうかね」

 

「会えるじゃろ(適当)」

 

「――ふむ、聖女にフランス関係者、竜殺しと来れば次は何が来るのやら……」

 

 吸血鬼っぽい二人組が向こうにいたし、そのお仲間かあるいは狩る側とかかもな。

 まあ、装いとか容姿も英霊だから目立つことだろうし、変な格好をした連中見ませんでしたかって比較的安全地帯で尋ねてまわれば運が良ければそのうち邂逅するだろう。格好云々に関してそっくりそのままブーメランなのは理解している。

 

「他にわかっていることといえばアレか、聖杯の持ち主が暫定で判明していることか」

 

「一点狙い出来るってのは大きいよな。だが、あくまでも現時点で保有してる相手が分かってるに過ぎねえし、油断はすんなよ?」

 

「狂っている奴ほど割りと冷静なのは重々理解しているよ。それに、寸前での持ち物譲渡は私でもやる手でもあるし……」

 

「まさに狂人VS狂人の高度な戦いじゃな」

 

「せやな」

 

「――そこは否定しろよお前っ!?」

 

 否定するも何も狂ってなきゃ人理修復に挑むなんてするわけがないだろうに、何を今更。常人だったら今頃は嫌だと喚き散らして枕を涙で濡らしてるよ。ふぇええ……ってな。

 

「せ、先輩は狂ってなんかいません!」

 

「あ、うん。気持ちは有り難いのだけれど、事実だから……」

 

 詳しくは言わんけど、これでも不定の狂気を患ってたりするんですよね。誰かに確実に迷惑をかける系のやつを。……最近は発症してないけど、特異点巡っている間に一度はなっちまうかもしれないぜ。

 

「……よくわかりませんが、その時は私が止めてみせます!」

 

「やめとけやめとけ。マシュは綺麗なままでいて欲しいから、ねっ?」

 

『ぶっちゃけ、歯止めが効かなくなるだけだから。主にせ――』

 

「それ以上言うなァ!」

 

 余計なことを言われる前に通信を閉ざし、咳払いをした後に開き直ったように私は会話を再開する。……ほらそこ、訝しげにみんなよ恥ずかしい。襲うぞこの野郎。

 

「話を元に戻すけど……こちらの勝利条件については、聖杯を奪取さえしてしまえばほぼ勝ちは決まると言っていい。てか、最初からそれ以外の条件がない」

 

「取ったついでに倒さねければならない相手が現れなければの話じゃがな。それ以前に最後の悪足掻きを試みられることもあるかもしれん。その時の儂らがどんな状態かによって難易度は跳ね上がるぞ」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

 あの青髭が自分の理想のジャンヌを生み出してしまうほどの執着を秘めているのであれば、最後の最後に何かやらかすのは想像に難くない。

 その時こそが真の最終決戦となるだろうから、消耗はあまりしないように上手く采配を取らないといけないな。みんなー、前もって言っておくけど無茶は最後まで取っておこうねー。

 

「一番無茶をしそうな人間に言われても説得力ねえぞ」

 

「……シルバお前、戻ったら暫くドッグフードの刑な」

 

「地味に辛いからやめろ」

 

「じゃあ、ペディグリーチャム」

 

「尚更やめろ」

 

 じゃあ何がいいんだよ、我儘なやつだなぁお前は。

 ……あー、とにかくだが、切り札というか宝具は乱発しないようにね。元々乱発できるかはさておき、ギリギリまで温存することに意味はあるからさ。

 

「あとは今後の方針についてだな。このままリヨンってところに向かうつもりか?」

 

「いや、当初の予定ではそうだったけども、それはラ・シャリテで何事もなければの話だよ。結果として、乱戦状態に陥ったからそのまま向かうのは迂闊すぎる」

 

「距離的に近いこともありますしね……本拠地か前線基地として機能していることもあるでしょう」

 

『――すると、乗り込む乗り込まないを決める前の情報収集に勤しむわけだね』

 

 近場に小規模だが街もあることだ。そちらに建築物に対して足りてなかった被害者の多くが逃げ延びているやもしれない。一旦、そこで明らかになっていない勢力図を纏め上げてから次に何処へ向かうかを判断しよう。

 

「……今のフランス軍の動向もつかみたいところですね」

 

「確かにフランス軍の様子も気にはなっている……下手にこちらの動きが邪魔されないためにも手を打つ必要も出てくるかもしれない」

 

「では、そのように動きましょう。大勢で動くと目立ちますから偵察は最低限の人数で、残りはそのバックアップということで待機ですね」

 

『うん、それで行こう』

 

 合意が得られたところで人選については後々にし、ちょっとしたつまみとして用意し串に挿して焼いていたマシュマロを手に取り頬張る。……うむ、焼き加減は上々だな。

 追加でセットをしつつ焼き終えた分を全員に配ると、私は話のタネとして聖杯戦争において最も重要な事柄について思い出してがら切り出した。

 

「ジャンヌ・オルタと青髭はいいとして、その配下にいる英霊の正体も気には留めておかないと――」

 

「ざっくり見た感じ、一番厄介そうなのはランサーっぽい奴だな。それと杖持った奴もなかなかだったと思うぜ」

 

「……杖持ちは二人いた気がするんだけど?」

 

 アストルフォの指摘通り、杖持ちの女性サーヴァントは二体確認されていた。アレでどう戦ってくるねん……叩くの? それとも魔力ぶつけてくる感じ?

 手の内晒させる前に動き封じちゃったから攻撃手段とか殆ど確認できていねえや。

 

「あー、じゃあ露出度高い奴」

 

「いやうん、だからどっちも高かったと思うよ。素直に仮面つけてたか付けてないかで判断しようや兄貴」

 

『まあ、どちらも現状は脅威であることは変わりないね。一先ず仮面を付けていた方から注目してみよう。ランサーと一緒にやけに血に固執していたようなのがやはりヒントになるかな?』

 

 感覚的に捉えてみても、相対したあの二人は人外系の類だろう。生粋ではないように見えたから恐らく後天的にそうなってしまった的な、ある意味私と似たり寄ったりな関係かもしれない。

 

『スキルや宝具、それと姿などは伝承や不特定多数の認識によって時に形作られることもある。これに当て嵌めると血から連想が容易な、吸血鬼として語り継がれてしまった存在があの二人なんだろうね』

 

 男性で吸血鬼であるとして語り継がれている存在といえば、一般的にヴラド・ツェペシュ……正確にはヴラド三世が有名だと言えるだろう。

 

「しかし、なんだっていきなり吸血鬼要素のある者が召喚されてるのかのぉ……召喚者の気まぐれか?」

 

「いやそうじゃないよ。ヴラド三世はドラキュラ公もしくは串刺し公という異名がある。ドラキュラとは『竜の息子』という意味合いもあるから、その関係で呼ばれたのかもしれない」

 

「相変わらずのマイナーな知識だよな」

 

 うるせえ、こちとら最初から知る目的で知ったんじゃねえ。グールや血肉大好きモンスターの類を調べるなかでついでに知っただけのことだっての。

 それで、仮に男性サーヴァントがかのヴラド三世だったとすると逸話からして串刺しによる攻撃やらしてきそうで怖いな。足元に気をつけないと一瞬でやられそうだ。

 

「仮面のサーヴァントの方は見当付く?」

 

「……女性の吸血鬼って言ったらカーミラが有名かな。『ドラキュラ』に影響を与えた作品だけにヴラド三世とは少なからず繋がりはあることにはある」

 

『でも、カーミラはあくまで小説内の登場人物だよ?』

 

 そこが私も引っかかりを感じているが相手は聖杯を所有している為、基本的にルールだの常識は通用しないと言っても過言ではない。

 オルタがいい例であり、先程ロマニが述べた通りに人の想像や認識がサーヴァントを無から有るものたらしめる事があるわけだ。……正確には無ではなく、微かな有があるのは一応承知している。

 

「微かな有……言い換えればモデルになった方がいると見たほうがいいでしょうか」

 

『仮説が正しければ存在するね。かのバートリ・エルジェーベトまたはエリザベート・バートリー……血の伯爵夫人がそうだなんて言われているよ』

 

 モデルとそこから生まれた存在が出会う時、互いの認識的にはどんなことになるんだろうな。母親や姉妹っていう甘っちょろい関係には絶対にならなさそうなのは予想がつくが……。

 

「ま、なってみねえとわからんだろうし結局は当人同士が解決するしかねえ。そういう宿命だろうよ」

 

「……だろうなぁ」

 

 きっとろくなことにならない未来は見えているが、対応についてはその時なってから考えよう。

 吸血鬼(仮)組に対する真名予想はこれぐらいが限度として、次は仮面を付けてなかった方のどことなく破廉恥な格好の女性サーヴァントの予想と行くかい?

 

「――いえ、その前に一ついいかしら?」

 

「あっはい、どうぞどうぞ」

 

「あちらのジャンヌに付き従っていた騎士の……セイバーの英霊についてなのだけれど……私に心当たりがあるわ」

 

 わざわざ王妃が切り出すということは、生前の知り合いだということなのだろうか。

 ……思い出してみると、彼女が介入した時に一番驚いた顔をしていたのは他でもない暫定セイバーだった気がした。ていうか、物凄いガン見して動きを追ってましたよね。特に逆立ちしながら脚を回転させてたモーションのところ。

 

「……彼女? だけれど、シュヴァリエ・デオンだと思うわ」

 

「その根拠は?」

 

「確かなものとは言い難いけれど、私を知っていてあそこまで男装の似合う女性は彼女以外に他にいなかったと思うの」

 

 シュヴァリエ・デオン……生涯の半分を男性として生き、残り半分を女性として生きたフランスのスパイであり、フリー・メイソン会員か。

 

「フリー・ソーメン?」

 

「定番のネタありがとう」

 

 何だか素麺を食べたくなってきたが、それはカルデア内で素麺を飛ばせるぐらいに余裕が出来てからにしような。

 ――で、シュヴァリエ・デオンについてだが詳しい経歴を洗ってみても、現状はそれほど脅威度はないように感じられた。

 そもそも、彼もしくは彼女がいかんなく能力を発揮するのは諜報が求められる舞台のはずだと思うのだが。間違っても魑魅魍魎がうじゃうじゃとしている魔境なんかではない。

 

「彼女もこんな状況のなかで召喚されるとは思ってなかったと思うわ。本当に気の毒ね」

 

「……解放してあげたいけども、契約を解除してなおかつ狂化を解かないことには倒す以外に止めようがなさそうだ」

 

 何とかして私の配下に一時的に入ってもらえば令呪で狂化だけは解けると思うんだけども、肝心のオルタの支配から逃れる方法がないことにはアクションが起こせない。

 私の覚えている呪文で対抗できるかは試したことがないので、いざ目の前にしてぶっつけ本番はマジ勘弁な。落ち着いたところで検証させてくれ。

 

『――マスター、契約を解除してしまえば後はどうにかなるんだな?』

 

「うん? ああ、相手に支配から抜け出す意志があれば万事解決するんじゃないかな」

 

『そうか、だったら私に考えが―――『ッ……悪いが、サーヴァントの反応だっ!!』……こちらでも確認した、相手は杖を持ったサーヴァント一人だ』

 

「仮面付き?」

 

『――いいや、仮面なしの方だ』

 

 食べかけのマシュマロを乱暴に食べ終え、襲来するであろう方向を全員で見据える。

 よりにもよって正体を考察してない相手が来るとは厄介だが、単騎で来るとはこれまた意外である。まさか、本気を出せば一人でこちらを蹴散らせるだけの実力を秘めているのかあの破廉恥サーヴァントは……油断ならんな!!

 

「どうするマスター?」

 

「またフィリピン爆竹投げるか?」

 

「此処で投げたら皆巻き添え食らうでしょうが……今回は森の中だし火気厳禁だよ」

 

「……向こうが使ってきた場合には?」

 

「携帯消火器で消せよと怒鳴りながら殴る」

 

「殴る」

 

「うん」

 

 そんなやり取りをしている間に足音が聞こえ、視界には暗がりから近づく十字架杖を持った女性サーヴァントが映った。

 やけにスローペースで近づいてきているところを見ると、言葉をかわさず問答無用で仕掛けてくるほど野蛮な性格はしていないようである。……加えて、以前より落ち着いてるような気配もするので、もしや追跡者としてただ単に命令されて来たわけではないのか?

 疑問を余所に、完全に姿が見える距離に女性サーヴァントが到着すると、睨みを利かせるこちらに対して律儀にも挨拶をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こんにちは、皆さま。寂しい夜ね」

 

「さっきまでそうでもなかったんですけどね……それで、どちら様で?」

 

「……そうね。私は……私は何者なんでしょう」

 

 ……あかん、彼女ったら自暴自棄になってるわ。嫌な上司にパワハラされて深夜まで残業させられたOLのそれのように目が虚ろで、この後ヤケになって暴れそうな気配を最初から漂わせてやがる。

 これには一同揃って困惑し、どう扱っていいのやらわからないという表情を浮かべる。……えっ、私が代表して話を聞けって? マスターなんだからってお前ら逃げる理由がずるいぞ。

 ええい、もうどうすりゃいいんですか。カウンセリングなんて受けたことはあっても受け入れる側に回ったことはないぞ。と、とりあえず基本的なところから真似して聞いてみるしかない!!

 

「ご、ご職業は?」

 

「………」

 

 おい、何を聞いてんだって顔をするんじゃない。そして、アンタもキョトンとしないでくれ。恥ずかしくなって埋まりたくなるから。

 

「――せ、聖女を、やっております」

 

「そうなんですか、ご大変ですね」

 

 続けるんかーい! しかも、真面目に答えるんかーい! ……なにこれ、何だよこれは。自分でもよくわかんなくなってきた。

 ……立ち話もなんだし座ろうか。誰か飲み物とお菓子用意してー。ついでに特製の精神安定剤も混ぜといてー。

 

「最近、辛いと感じたことやストレスを覚えたことはありますか」

 

「……あります」

 

「具体的にはどのような?」

 

「壊れた聖女の使いっ走りを幾度となくさせられ、罪なき人々を蹂躙することに加担させられました。……理性は強制的に凶暴化していて今も耐えるのに必死です」

 

 聖女パワーで何とか残った理性を繋ぎ留めているわけね。でも、それも長くは持ちそうにないと悩んでいるわけですか。

 召喚されてからどれぐらい経過しているかは知らないが、相当堪えていると見たほうが良さそうである。

 

「時間がないということなのでズバリ聞きますが、貴女は早く今の役割から解放されたいと思っている……だから追跡役を受託した、違いますか?」

 

 切り込んだ問いかけに聖女な彼女は驚いたように頷き、溜めていたであろう胸の内を私にぶち撒けてみせる。

 

「外に出れば罪を重ねられ続け、戻れば異形が徘徊するなかで待機を命じられる……もううんざりなのよっ!! これ以上こんな毎日を繰り返していたら私は聖女である以前に人でなくなってしまうわ!!」

 

「……あー、可哀想に。ドラゴンはともかくクトゥルヒの連中と生活してたら気が滅入るどころじゃないわな。精神を毎日削っていくようなもんだ」

 

「アレに詳しいの、貴女」

 

「一応は専門家です。ドラゴンスレイヤーならぬクトゥルフスレイヤーが本職ですよ、私」

 

 昔ほど最近は狩ってませんけどね。全盛期では歩く殺戮機構なんていう痛い異名を付けられるほど狩ってたような覚えがある。ちなみに、ムーンビースト撃破数のギネスあるならぶっちぎりですよ、HAHAHA。

 

 

 

「……何体狩ったんだよ嬢ちゃんは?」

 

「随分前に聞いた時には、99822体って言ってたかな」

 

「いちいちカウントしとるのかあやつは……」

 

「ネタで言ってるのかもわからん」

 

 

 

 

 ヒソヒソしてるの丸聞こえだぞ。あと、告げた時は完全にネタで言ってたよ。実際は―――もっと狩ってる(おい待て。

 

「なら、貴女なら全部退治できるのね……あの気持ちが悪いのを」

 

「勿論、プロですから。……それで、私達に頼みたいのは別のことでしょう?」

 

「……ええ、そうよ」

 

 覚悟を決めた様子で彼女は瞳を閉じると、単刀直入に取引と要求を一度に突き付けてきた。

 その内容とは―――自らの介錯と引き換えに持ち得ている情報を公開するというものだった。……情報やるから見逃してくれとかはよくある展開だけど、始末してくれというのは新しくて初めてだな。

 

「……やってくれるかしら?」

 

「そうですねぇ……うーん」

 

 こればっかりはすぐにうんともすんとも答えられそうになかった。

 既に知ってる情報が出てきたりしたら、それはそれで無駄事になってしまうしな。

 

「まだ欲しいものがあるの? 悪いけどこれ以上にあげられるものは……」

 

「そういう問題じゃないんですよ」

 

 命は投げ捨てるものだとよくネタで言われるが、実際に捨てられるような真似を目の前でされるのは勘弁願いたいレベルでノーサンキューだ。

 ……考えてもごらんよアンタ、無抵抗な人間を殺り終えた後の無言の空気をよ。立て直すのにどれだけ時間を要すると思ってんだ。こちとら特に制限があろうとなかろうと常時RTAなんだぞ。

 

「むむむ……」

 

「早くして頂戴、決断してもらわないと私は――!!」

 

 やれやれ、せっかちな聖女様だこと。狂化受ける前から割りと短気な性格してそうで怖いな。はてさて、頃合いとみたが如何に。

 

「わかってますよ。あーもう、仕方ない……ということで、やっちゃってくださいなイエス様」

 

『あいよー(私の腹話術)』

 

「えっ!?」

 

 突然の、特に理由のない立川に住んでそうな誰かさんの合いの手が聞こえ彼女の顔に動揺が走ったかと思えば、次の瞬間……何かが何処からともなく飛来し人体に突き刺さるような鈍い音が耳へと届く。

 発生源は他でもない目の前に居る自称聖女の彼女であり、ギギギと擬音を鳴らすようにゆっくりと首を回すとその背中には歪な形状をした短剣が突き刺さっていた。……間違いなく宝具だとわかるそれに気づいた時にはもう遅く、怪しい光を帯びてそれは周囲を照らすように輝いた。

 

「あ、ああ、アアアアアア……!!!」

 

 彼女は拷問を受ける女エージェントよろしく苦しみ出し、反射的に耐えようとして背筋を大きく仰け反らせる。ついでにたわわな胸も揺れまじまじと見つめてしまう。

 

「――どうだい苦しいだろう、それがご注文通りの『死』だ。なーに、痛みは一瞬よ。すぐに楽になるって」

 

「ちょっ、と……貴女、心の準備ってものが……」

 

「時間、ないんでしたよね?」

 

「考える時間取らせておいて、それはないでしょ……!?」

 

 正論だが、こちらにも準備というものが必要だったからな。

 具体的には会話外で作戦を練って念話でそれを通達したり共有したりで……危うく頭が沸騰するところだったよ。

 ――ええと、そんでもってここからはどうするんだっけ……ああそうそう、状態をチェックしつつ仕上げの前の大事なプロセスを踏めば良いのだったな。

 眩い光が収まりつつあるのを見計らい、次なるステップへ進むために私は教えられた通りの言葉を紡ぐ。

 

 

 

「―――告げる! 汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」

 

「なっ、それは――」

 

 

 

 本来の聖杯戦争で詠唱されるべき呪文であり、この狂い果てた聖杯戦争では縁がないモノ……だが、この一時においては必要な一手となる。

 

「私はあの女の支配下にあるのよ!? 幾らそんな言葉を紡いだところで……」

 

「まだわかんねえのかアンタ?」

 

 見守っていた兄貴がまだ意図と目的を理解していない聖女に対し、暴れないよう掴みかかりながらツッコミを投げかける。

 

「……何を?」

 

「狂化は続いてるかもだが、少なくともあの魔女との契約は途切れてるはずだっての」

 

「つまりお主は、狂犬病な野良犬状態とほぼ同然!」

 

「その例えはちょっと違うと思いますが……」

 

「大体はあってるからいいんじゃない?」

 

 合ってるか合っていないかはこの際どうでもいいとして、伝えた通りの状態にあることをやっと自覚してもらえたようで彼女からはあり得ないという声が漏れる。

 

「嘘っ……」

 

「嘘なもんか。詳しいトリックは後で解説するとして、安全に情報を得るために徹底的にやらせてもらう。故に―――我に従え! 聖女マルタ!」

 

 ライダークラスの霊基を宿し、尚且つ聖女としての顔を持ち、竜が蔓延るフランスに縁があるとするならば該当する存在はエミヤと私の知識を重ね合わせた限りでは一人しかいなかった。

 新約聖書に登場し、追放された先の南フランスにて竜退治の逸話を轟かせた聖女――マルタ。……なるほど、竜を説き伏せ従えるということを拡大解釈すればライダーとして現界するのもある程度納得がいった。

 

「……いいわよ、ノッてやろうじゃない。でも、正気なの貴女……これだけの人数を既に従えておいて魔力は……」

 

「そこにいるジャンヌ達3人は別として、カルデアから来てる面子は特殊な供給ルートがあるから、実質私の負担はマシュ一人ぐらいよ」

 

「この聖杯戦争も変わってるけど、貴女達も大概ね」

 

「直に慣れるさ」

 

 おっと、忘れちゃいけねえ。再契約したとはいえ狂化のステータス異常は続いているだろう。そんな感じは一見してないようだが保険はかけておくもんだ何事も。

 その辺りを説明すると、貴重な令呪をわざわざ消費するのはどうなのかと詰問されたが、心配しなくともカルデア由来の令呪は日をまたぐと1画分回復するという本来の聖杯戦争のマスターが泣いて悔しがる仕様なのでこれと言って問題はなかった。

 時間帯的にあと数時間もすればプラマイゼロになるので気にすることではない。というわけで、何か別のことが起きる前に令呪を以て命じ狂化解除を強く願った。

 

「……」

 

「どうですかね?」

 

「何となく、憑き物が取れた気分ね。ようやく本調子よ……でも、貴女の魔力ちょっと何か混じってない?」

 

「半分のそのまた半分ぐらい、さっき気持ち悪いとお主が言っとった連中の仲間じゃからな」

 

「素直に1/4って言おうよ」

 

「……倒す立場にいるのに侵食された系? 大丈夫なのかしら?」

 

 いえ、倒す立場にはいましたが侵食ではなく善意で移植された系です。それに代償がヤバイ呪文を発動させたりしない限りは危惧している通りの結末は迎えないので心配はご無用である。

 仮に妙なことになっても自分自身のことなのだからケリはどうにか付ける予定だ。あ、死んだりするのはまず考えてないからそこのところよろしく。

 

「なら、いいけれど……」

 

「ささ、これで仲間になったのだから心置きなく情報交換と洒落込めるわけだ。……何か食べる? 今なら焼きマシュマロとハンバーガーが付いてくるよ」

 

「……特にお腹は空いていないし、食事は必要ないのだけれど頂けるなら貰おうかしらね」

 

 具材がワイバーンの肉であることは敢えて隠し、余っていた分を渡すと彼女は大胆にかじりつき美味しいとの感想を述べた。ふふん、そりゃカルデア現状No.1のシェフが作ったからな当然だ。

 

「でもどうやって、あの魔女との契約を断ち切ったというの……?」

 

「ああ、それは……」

 

「私から説明しよう」

 

 ――とここで、噂をすれば今回の立役者がぬるりと現れ、解説を自ら進んで担ってくれた。

 

「君の背中に突き刺した短剣があるだろう? アレは神代の魔女、コルキスの王女メディアの逸話が具現化した宝具でな、あらゆる魔術を初期化する特性を持っているんだ」

 

「あらゆる魔術を、ですって? だったら令呪による契約であろうと打ち消せるのは納得がいくけれど……」

 

「何故本人でもない野郎が使えるかって顔をしているが、まあそれはそいつ自身の特性ってやつだ。つくづく反則だと思うぜ」

 

「その反則に至るまでこれでも長年苦労したんだがな……」

 

 何であれ、情報を提供してもらおうって時に邪魔されることがないように手を打てたのは良かったというものだ。

 あとは私が続けてやったように令呪によって不安要素を完全に払拭したわけだが、ここに来て戦闘勃発とか本当にならなくて心底安心した。今日のところは休ませて欲しいからね。

 

「実は令呪を使ったタイミングで、暴走したり狂化状態のシャドウサーヴァントが彼女から飛び出してきて、己の闇に打ち勝てみたいなことになると思ってました、はい」

 

「熱い展開じゃが、そうなったところで全員でフルボッコすればどのみち結果は変わらぬぞ」

 

「わかってるよ。……で、本気で交戦していたとしたらどんな感じになっていたんです、マルタさん」

 

「タラスクでここの一帯が滅茶苦茶になっていたわね。あの子ただでさえ大きいから……」

 

 うへえ、退治した存在であるタラスクを召喚できるのかぁ。実物は見たことなんてあるわけないがサイズはさておきガメラっぽい感じだとは聞いたことがある。この場に出されでもしていたらボヤ騒ぎ以上に周辺から注目を集めるところだった。

 

「この際だから弁明しておくけど、数時間前の戦闘はこれっぽっちも本気で倒すつもりなんてなかったからね」

 

「……でしょうね。でなきゃ一人ぐらいは倒されていただろうし、あの魔女が拉致された時点でこちらに何かしら変化あったもの」

 

「変化をもたらそうとした矢先に離脱されたみたいだからね。そっちの、ジルとかいう人物によってだと僕達は推測してるけど……」

 

「あら正解よ。向こうのキャスターこそがこの狂気の世界を作り上げた真犯人と言っても過言ではないわ。令呪もなしにあの女を離脱させたということは即ち――」

 

「ルルイエ異本には私が知る限りでは転移の呪文はなかったはず……てことは、やはり聖杯による緊急脱出だったということで結論づけて良さそうだな」

 

 パズルのピースが確証を持って一つ埋まり、何を優先すべきかは定まった。また追加情報で、本拠地はオルレアンにあることが決定付けられ、阻む障害がこれ以上なければ一直線に攻略に迎えることが判明する。一同は喜ぶ反面……恐ろしいほどの一抹の不安を覚えた。

 案の定、嫌な予感だけはいつものように的中し、オルレアンに行き着くには自分達を脅威とみなしたジャンヌ・オルタによる新たな刺客を排除しなければならないことがマルタの口からは告げられる。そもそも、この事が一番に私達に伝えたいことだったらしかった。

 

「今此処にいる全員が貴女達の全戦力ということで間違いないわね?」

 

「そうだけど……」

 

「なら、はっきり申しておくけど『あの脅威』にはこのままでは対抗することは出来ない。返り討ちにされて逃げるのが関の山と言ってもいい」

 

『それほどの脅威を投入してきたのか……正体については理解していると見ていいのかな?』

 

「ええ……アレを攻略できるのは生粋の竜殺しという存在のみ。私以上に竜の扱いに長けた人間でなければあの邪竜の中の邪竜は倒せないでしょう」

 

「待て、それはまさか―――」

 

 次に出てくる言葉は告げられなくともわかってしまっていた。何故ならそれは、ついこの間の休憩時に冗談混じりに出てきた名前であり、召喚してくるとは全く思えなかった存在であるからだ。

 

 

 

 

「『邪竜ファヴニール』……それがこれから私達に立ちはだかる災厄にして脅威の名前。これを倒さないことには貴女達の目的は果たされないでしょう」

 

 

 

 

 ……最悪にして最凶の邪竜の声が、我々を殺戮せんと声高く何処かで鳴り響いた気がした。




悩んだ結果、マルタさんまさかの味方化。ルールブレイカーぶっちゃしてからの再契約令呪発動です。
デオンくんちゃんでテストしようかなと思った矢先に襲来したのが彼女にとって幸運だったのです、はい。

関係ないですけど、最近アズールレーンというゲームにハマっているのですが、第六サーバーの名前が何と「ルルイエ」に決まりましたね。

どうしてこうなった。







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