『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」 作:城元太
左腕を圧し折られ、仰向けに倒れていた藤原
〝兄者、無事か。大事ないか〟
〝……
〝俺もいま上陸したばかりでよくわからんが……違うぞ、三善文公ではない。
藤原文元、文用の眼前で、彫金に縁取られた猩々と、藤原純友の乗るアクアコングとが、地響きを立てて格闘していた。それは恰も、
純友のアクアコングが、リーオで鍛えた銛を刀身の如く構え間合いを取る。ヘルズボックスから繰り出される攻撃を次々と受け止め、尚且つ右の剛腕を掬い上げ叩き付けた。装着されていた水中銃が弾け飛び、デッドリーコングの頭部鉄甲を直撃する。仰向けに倒れ込む一瞬の隙を狙い、梵字の書かれた襤褸布巻きの腕を掴んで投げ飛ばす。わさわさと蠢く蟲の肢が生えた棺桶が純友の頭上を舞い、盛大に地表に叩き付けられた。
致命傷には至らない。デッドリーコングのオートバランサーが咄嗟に横の受け身を取らせ、衝撃を受け流していたからだ。背部の可動肢が素早く機体を支えると、
「切りがない」
純友はしかし、命の遣り取りを行う緊張感に陶酔していた。
海賊衆の
そこで遭遇したこのゾイドである。初めは肩慣らしに組み合ったつもりが、平将門を捜すという本来の目的を忘れさせ、いつしか純友の本気に火を点けていた。
全身に闘志を漲らせるゾイドは、1対1の格闘に縺れ込むに連れ、背負った棺桶の腕を使うことを止めていた。
「望むところだ」
純友は頭部に繋がった伝導管を引き千切ると、ヘリウムタンクとハイドロジェットを
純友はしかし、己の策が既に見切られていたことを思い知る。
これ程の手練れと戦うのは初めてであった。乗ったばかりのデッドリーコングも、いつしか自分の手足の如く馴染んでいる。小次郎もまた、ビリビリと痺れるような殺気に酔い痴れていた。
人とゾイドとの繋がりは、操縦機器などを超越して機体に伝わって来るからだ。
低姿勢で突進してきた緑色のコングを避けることなく正面から受け止める。衝突の瞬間、咄嗟に伸ばした右拳がアクアコングの顔面を捉えた。甲高い金属音が轟き、緑色の装甲が幾つか吹き飛ぶ。そして
「覚悟」
小次郎の呟きと同時に、右腕に装着されたパイルバンカーがアクアコングの頭部装甲を根こそぎ削り取った。操縦席に座る人物が露わになる。ひび割れた緑色の風防の奥、小次郎は
「
「……藤原純友」
偶然にも、小次郎の言葉を受けるように、桔梗が告げていた。
勝利の行方は一気に小次郎方に流れ込む。だがアクアコングの操縦席に座る藤原純友の姿を目にした時、小次郎に猛烈な迷いが生じていた。
(貴様は今まで戦った中での、最高のゾイド乗りだ。海賊衆などに身を
「シンカーの爆撃、更に左右より敵」
桔梗の叫びを掻き消して、周囲一面に誘導弾の爆炎が立ち昇った。噴煙に視界を閉ざされた後、純友の機体の前に2つの影が立ち塞がる。
〝頭、ここは逃げてくれ。俺達の島田への復讐は済んだ。頭に死なれちゃ寝つきが悪い〟
藤原文用と左腕を失った藤原文元のアクアコングであった。純友も、既に戦いが潮時であることを悟っていた。そして平将門には会えなかったものの、久方ぶりに手応えのあるゾイド乗りと手合せ出来た充実感を噛み締めていた。
敵が複数と判ると、死の猩々は途端に棺桶から無数の獲物を突き出した。その姿は千手観音に非ず、
間断なく続いたシンカーの爆撃が終わった頃、鴻臚館の周囲には破壊された3機のアクアコングと、それに撃墜されたハンマーヘッドの残骸が、漏れ出した液体ヘリウムによって炎を上げることなく横臥していた。
「名を求め衆を願いとすれば身心疲る。
功を積み善を修せんとすれば
しかず、孤獨にして境界なきには。
しかず、称名して万事
閑居の隠士は貧を楽とし。
禅観の幽室は閑を友とす。
求め易くして盗賊の恐れなし。
平将門。我と齢を同じうする汝に託す。修羅の先に待つのが地獄ではなく、極楽浄土であると信じて」
空也の口から、聴き取る者のいない低い読経が洩れていた。