『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」   作:城元太

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第参拾五話

 川曲村は、騰波(とば)ノ江の隣に位置する湖沼の大宝(たいほう)沼と、蛇行する鬼怒川に挟まれた地に位置する。河川の浸食作用によって形成された段差のある地形が開拓を拒み、丘陵と低木地が続く荒れ地のまま委棄されていた。三郎が敵陣を見渡し告げる。

「良正叔父も考えましたな。この地形では疾風ライガーの高速性が生かせません。比べて敵はカノントータス部隊を引き連れて来た。砲撃戦で挑むつもりでしょうか」

「叔父とて大(うつ)けではあるまいが、あの陣形では到底我らに敵うはずもない事はわかるだろう。別に何か策があるのか。三郎、敵の布陣と機種を知らせろ」

 ケーニッヒウルフが三連スナイパースコープを装着した。小次郎達の操作盤画面に、次々と認識された機種が示されていく。ある機種を判別した折り、三郎が声を上げる。

「兄上、〝ブラストルタイガー〟というゾイドを御存知か」

 その名を聞いた瞬間に理解した。

「殿、あの虎は」

 ディバイソンが機体を村雨ライガーの脇に進め、操縦席の伊和員経(いわのかずつね)が小次郎と視線を合わせる。

「太郎だ」

 父国香の雪辱を晴らすため、ソラの都から下向して来たに違いない。良正の本当の目的は、この戦いに平貞盛を担ぎ出すことであったのだ。

 ヘルキャットに乗る平良正の上兵が、宣戦を告げる牒を携え進み出ると同時に、ディバイソンが受け取りへと向かう。次には矢合わせが交わされるはずであるが、今回の牒には(やじり)が二双に別れた雁股(かりまた)が副えられていた。一騎打ちを申し込む合図である。

 軍団の前にアイスブレーザーが進み出る。希少なアイスメタル装甲の修繕は無く、右のヘルブレイザーと安定翼も失われたままだ。小次郎は村雨ライガーを先頭に立てた。

「良正叔父、一騎打ち受けて立ちます。ですがこれ以上道理に適わぬ(いくさ)はお止め下さい。悪戯(いたずら)に民を苦しめるだけです」

 (ひび)割れた頭部アイスメタル装甲の天蓋を開き良正が叫ぶ。

「何を以て道理を語る。貴様の為に常陸は大いなる災厄を被ったのだ。潔く負けを認め、速やかに鎌輪に戻れ」

 自らの責任が一切感じられない返答であった。「話し合っても無駄だ」。小次郎はただ復讐のみに身を(やつ)した者の哀れを覚えていた。

「よく見ろ。後方には貴様に殺された兄国香の長子、左馬允(さまのじょう)平太郎貞盛も控えている。それでも戦うのか」

「無論」

 即答であった。

「叔父上、太郎を担ぎ出してまでこの平将門を惑わせようとは御見苦しい。さあ、早々に始めましょうぞ」

 気持ちを傾けない者に説得など通じない。小次郎は風防を閉じムラサメブレードを展開した。アイスブレーザーもハイパーフォトン粒子砲を構える。対峙の後、先に飛んだのは村雨ライガーであった。息をつかせぬ速さでストライクレーザークローを叩き込む。粒子砲の充填に間に合わない黒い猟犬は、後頭部を叩かれ前肢を折ってのめり込む。一騎打ちの勝負は付いていた。

 一斉に砲声が轟く。カノントータスの砲撃が始まった。炸裂する突撃砲の硝煙に紛れて、アイスブレーザーは再び離脱していく。止めを刺すこともできたが、小次郎の中で、国香に続き良正までも討ち取ることに躊躇いが生じ、追撃することができなかった。

 鎌輪の軍は正面に伊和員経のディバイソンを立てて雪崩れ込む。カノントータスの砲弾が降り注ぐ中、四肢を開き盛り上がった背中の十七門突撃砲を構えた。

「メガロマックスを放ちます。五郎殿、宜しいか」

 この戦にも、五郎将文を後方警戒・対空要員席に伴っていた。

「至近弾多数、交叉射撃により敵の命中精度が上がっています」

「ならばその前に破壊するまで」

 表示盤に標的が捕捉され、十七の砲身が無作為に作動した後固定する。

「速攻で決めます。小口径四連バズーカの発射を頼みます」

「承知」

 焔の花が放たれた。17の光の筋に更に4本が加わり、計21本の光芒が敵陣に降り注ぐ。火力でも圧倒していた鎌輪勢は、瞬時に水守勢を沈黙させた。

「斬り込むぞ、俺に続け」

 怒涛を打って雪崩れ込む村雨ライガーに、敵は忽ち総崩れとなる。

 戦いは一方的であった。高速は生かせないものの、接近戦で威力を発揮する村雨ライガーやソードウルフの前に水守勢は悉く打ち破られていく。

 残ったのは切り刻まれるか仰向けになって四肢をばたつかせるカノントータスの群れであった。

「三郎、ブラストルタイガーはどうした」

〝アイスブレーザーとともに既に離脱した模様。戦闘に参加した形跡もありません。貞盛は兄者と戦いたくないのでは〟

 そうかもしれない。そしてそれは小次郎とて同じであった。

 

 川曲村の合戦は、平将門の一方的な勝利に終わった。良正は源護から与えられた水守の軍団を完全に失い、従類も伴類も全て敗走し壊滅した。残存部隊はそのまま上野の平良兼の館に逃げ込み傘下に置かれることとなる。その中には、手負いのアイスブレーザーと、一発の弾丸も撃つことの無かったブラストルタイガーも含まれていた。

 野本と川曲の二度の合戦に於いて勝利を掴んだ平小次郎将門の声望は一気に高まり、増々下総には伴類を含めた武士と逃散していた農民、そして独立系自営農民の寄進が進み、坂東での一大勢力へと成長していく。

 己が望まぬにも拘らず、平将門は否応なしに歴史の表舞台へと担ぎ出されようとしていた。

 

 

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