『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」   作:城元太

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第参拾七話

 鎌輪の館の馬場に、濛々たる土煙が舞い上がる。

 碧い獅子と、(すみれ)色の孔雀が激しく暴れている。一頻り(いなな)いた後、中から汗だくとなった伊和員経と小次郎が降り立った。ゾイドの激しい振動に揺られ、足取りも覚束ないほどに疲労していた。

「殿、私には村雨は扱えませぬ」

「俺もレインボージャークを手懐けるにはまだ苦労しそうだ」

 屋敷の縁に腰を下ろすと、茶を運んで来た良子が二人の間の床に膝を着く。

「御無理をなさらぬように。あなた様、何なれば私がレインボージャークを操り都に上ります」

「ならぬならぬ。あんな所にお前を行かせるわけにはいかん。第一、多岐(たき)はどうするのだ」

 傍らには、愛らしい乳飲み子が座っている。母の膝に這い上がると、拙い指先で小次郎を指差し屈託の無い笑顔を輝かせていた。

「良正叔父が、あれで諦めるとは思えぬ」

 小次郎は未だに憤る獅子と孔雀のゾイドを前に、額の汗を拭いつつ二匹を見上げる。

「村雨にせよ、レインボージャークにせよ、いつ迄も俺や良子だけしか操れぬのでは役に立たん。少しずつも慣れさせねば、これからの戦に備えることは出来ん」

 多岐を膝に抱いた良子は、不安そうな顔で小次郎を見つめた。

「やはり、父は攻めて来るのでしょうか」

 茶を少し口に含み、小次郎は空を見ながら答える。

義父(ちち)上にせよ、良正叔父にせよ坂東武者だ。源護の動きも怪しい上に、太郎貞盛も加わっている以上、私に国香伯父を討たれた雪辱を必ず果たしに来る。それまでに、手持ちのゾイドを全て手懐けておきたいと思ったのだが」

 深い溜息をついて、漸く員経が話に加わる。

「気になる上総と常陸との国境(くにざかい)には、現在(ただいま)孝子が好立殿と物見をしております。程無く報告がくることかと……どうやら噂をすれば」

 土塀と館を隔てる矢倉が消魂(けたたま)しく開門告げ、サビンガを背負ったまま剣狼が雪崩れ込んで来た。(うまや)に下がった村雨ライガーとレインボージャークも、ソードウルフの鬼気迫る姿に興奮し身を震わせ、多岐は恐怖のあまり泣き出した。

 只ならぬ様子に、小次郎は良子と娘を館奥に下がるよう命じ、員経と共にソードウルフ頭部脇に駆けつける。昇降機の到着がもどかしいのか、桔梗は風防を開くと、ひらり、と木の葉が舞うが如く地表に降り立った。

「良兼軍が、水守に向かって結集しております」

 第一声は、剣狼達の蒼然たる姿を納得させるに足る報告であった。遅れて昇降機を伝い降り立った文屋好立が、息を切らして補足する。

「上総にあった良兼本来の所領の従類と、常陸の源家の残存部隊、水守の小勢に加え、国香亡き後を襲った貞盛繁盛(しげもり)兄弟を併せた部隊が、下総の(さかい)目指して進撃を開始しております。

 途中ゆるゆると進み伴類を募り、兵力は次第に拡大。私怨を晴らす為との理由で国衙の禁圧さえ無視したとのことです」

 そこまで言うと、好立は俯き肩で息をする。強張った表情のままの桔梗が、員経と小次郎を代わる代わる見つめた。

「孝子、上総勢の兵力はどれほどだ」

「ゾイドにして凡そ二百。猶も増加中です」

「員経、いま集められる兵力は如何程か」

「先の勝戦(かちいくさ)以降、我らに味方する伴類ゾイドは数十を越えます」

「烏合の衆では役に立たぬ。至急、各頭領に檄を飛ばし、毅を成して備えを整えよ。良き返答をせぬ者は当てにするな、寝返られるだけだ。

 (たたら)衆にはリーオの鏃、刃、具足を鍛えさせ兵具の調達を。

 四郎を呼べ、参集する武士達の名簿(みょうぶ)を作成させゾイドの機種による編制と配置を考える。

 孝子、確認するが義父殿の主力はダークホーンでいいのだな」

「先に野本に出陣した機体らしきものと、他上総(かずさ)棟梁のゾイドらしきものが2機、加えて手負いのアイスブレーザー、貞盛のブラストルタイガー。無数のレオブレイズとウネンラギアを見受けました」

 典型的な寄せ集め、烏合の衆だ。

 報告を聞きつつ、小次郎は心中安堵していた。編制が混迷している。察するところ良兼に無理強いされて寄せ集められた軍団なのだろう。だが油断は禁物だ。

 小次郎は考えを口に出すことなく、未だ猛々しく機体を揺さぶる村雨ライガーを括目した。

「頼むぞ、村雨ライガー」

 碧き獅子の双眸は、(あるじ)を真っ直ぐ見据えていた。

 

 上総の軍勢=平良兼の軍が鬼怒(けぬ)の濫流の畔、下野・常陸、そして下総の境に姿を現したのは、ほぼひと月以上も過ぎてからのことである。

 小次郎の予測した通り、続々と結集する伴類の編制に時を費やしたというのは表向きの理由だが、義父良兼にしてみれば甥の小次郎と事を構えること以上に、娘である良子の夫との軋轢を避けたかったに違いない。父のダークホーンに随伴する良子の弟公雅(きみまさ)公連(きみつら)も、そしてブラストルタイガーを操る平太郎貞盛も思いは同じである。ただ一人、手負いのアイスブレーザーの操縦席で気炎を吐く平良正のみが、小次郎への恨み言を唱えていた。

「おのれ小次郎、甥の分際で散々我に恥をかかせたな……」

 下野国府より(たつみ)の方位、結城法城寺を望む平原に、私闘としては稀に見るゾイドの大軍団が、下総鎌輪を睨んで結集した。

 寒風吹き荒ぶ葉月の空の下、平将門は三度目の(いくさ)、『下野国府の戦い』に挑むのだった。

 

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