『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」   作:城元太

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第参拾八話

 払暁。微かに赤みを帯びていく海原の上の星空に、波に洗われるが如く光の柱(ライトピラー)が数本立ち上がっている。

「箒星は凶兆と都の星見(ほしみ)共がぬかしていたが、今度ばかりは奴らの予見が的中したのかもしれぬな」

 ダークネシオスの開いた背甲防水隔壁から身を乗り出した純友は、拱手した姿勢で光の柱を凝視していた。

 坂東から齎された報せは、彼の野望を激しく掻き立たせていた。

「平将門、遂に兵を挙げ、敵を鎧袖一触せり……か」

 海原に昇る太陽の欠片が線を引く。箒星の光の柱は消え、次第に宵闇が追い遣られていく。

 純友の元には『野本の戦い』及び『川曲の戦い』に小次郎将門が大勝し、更に現在、下野国府を挟んで上総上野常陸を束ねる平良兼の軍団と一触即発の状況にあること、そしてその戦因が所領と女難の絡みであることまで伝わっていた。朴訥なまでに真っ直ぐな瞳をした男が怒りを爆発させたことに、錆び付いた時代の歯車が軋みを上げて回転し始めた気がした。

 今一度、将門に会ってみたい。

 自分の野望を成し遂げる道標として、その坂東武者との再会を熱く念じていた。

「頭、潜航開始。隔壁閉鎖願います」

 紀秋茂(きのあきしげ)が船室奥から、砕ける波涛に抗し声を張り上げる。「相分かった」と呼応し艇内に滑り込んだ純友の心中は、切なるまでに将門との再会を願う心が渦巻いていた。

 

 

 晩冬の乾いた大地に濛々たる土煙を上げて、鋼鉄の角を備えた獣が攻め寄せる。ハイブリットバルカンを備えた黒の動く要塞と、石田荘の残存部隊のレッドホーンの混成部隊が、(くつわ)を並べ地響きを轟かせて突進する。待機する村雨ライガーの操縦席から敵陣を俯瞰し、小次郎は思わず感嘆の声を上げていた。

「流石は良兼叔父、見事な陣形だ」

 鎌輪勢のゾイド群が主に高速型であることを鑑み、上野の軍は機動性に劣るダークホーンに密集隊形を採らせて来たのだ。

 小次郎は、前衛で共に構えるソードウルフを後退させ、(ただ)一機のみ敵前に姿を晒した。低い唸り声が響く。鋼鉄の獣は臆することなく、闘志を(たぎ)らせているのだ。

「行くぞ、村雨ライガー」

 碧い獅子が勇躍する。ハイブリットバルカンの銃身が一斉に回転し、村雨ライガーに火力を集中した。一見無謀な戦法だが、豪雨の如き弾丸の曳光は、全て碧き獅子の後方を穿つばかりであった。

 良兼が密集隊形を選択してきた時点で、小次郎は戦術を変えていた。

 圧倒的兵力差を埋めるには、敵兵力を分断し各個撃破するのが定石である。だがそれを見越して敵部隊が編制して来たのであれば、少しでも攪乱させて陣形を崩す他ない。

 村雨ライガーが将門の乗機なのは周知であり、将自らが先陣を切って跳び出せば、必ず攻め方に動揺が生じると踏んだのだ。

 小次郎の目論見通り、ダークホーン、レッドホーンの混成部隊は見事に混乱した。ダークホーンのハイブリットバルカンは、本来後方から停止若しくは低速で発射する支援火器である。それをレッドホーンと共にクラッシャーホーンを突き立て突進したため、高速移動しながらの攻撃では照準を定める事も困難であった。ましてや通常の高速ゾイド以上の運動性を持つ村雨ライガーを捉えることは不可能であり、混戦の最中忽ち隊形は崩れ去っていった。それは直近に野本、川曲と戦に挑んだばかりの小次郎と、永く官職の介の位に就いて戦への鍛錬を怠っていた良兼との差でもあった。

 小次郎は乱戦に突入しつつも、頻りに良兼の操るダークホーンを捜していた。そして右翼より二機目のダークホーン腹部に、(かす)れてはいるもののディオハリコン塗料で描かれた二本の帯を目視し、敵将良兼の乗機と確信する。背後に構える味方の布陣の支援砲撃の射角外にいることを確認すると、無線機に鋭く告げた。

「員経、経明、突撃砲撃て!」

 後衛に伏していた二機のディバイソンが同時に立ち上がり、ダークホーンの崩れた群れに十七門突撃砲の砲火を注いだ。ダークホーンにせよレッドホーンにせよ、その重装甲は突撃砲砲弾の直撃を受けても容易に貫かれることは無いが、舞い上がった濛々たる砂塵で視界を遮られた。

 白刃が煌めく。

 ガシャッ、という金属の塊が落下する音が響いた。

 展開したムラサメブレードが、自機の最も近くにいたダークホーンのハイブリットバルカンを基部ごと切断したのだ。有り余るゾイドコアの熱量を放熱する為か、碧き獅子の鬣が黄金色に輝いている。鬼神の如き碧き獅子の形相に、上総と繋がりの薄い伴類のゾイドが這う這うの体で逃げ去って行った。

 戦いつつ、小次郎は野本の戦の憂いを思案していた。非は相手にあり、知らぬとはいえ、常陸の伯父国香を(あや)めてしまった。今回の戦の相手も血族であり、義父である良兼を討つことは、妻良子にとってもどれほどの痛みを強いることであろうかと。多岐という初孫が生まれ、祖父として孫の顔を見て、そのあどけない体を腕に抱きたいと願うのが人の情ではないか。

 傷つけたくない。

 後方からソードウルフと二機のディバイソンが攻め上がる。ダブルハックソードを閃かせる剣狼は、そんな小次郎の迷いを断ち切る如く敵のウネンラギアを薙ぎ払った。

「まずは御身をお守りください」

 桔梗の声が操縦席に鳴り響く。我に返って正面を凝視すると、眼前にアイスブレーザーが接近していた。

 骨肉の争い。同族相争う虚しさ。

「良正叔父、未だに仇為す御積りか」

 答えが返るはずもないと判っている。小次郎の叫びは憂いを帯びていた。

 

 

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