『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」 作:城元太
ヘルブレイザーとムラサメソードが火花を散らし斬り結ぶ。体格に勝る村雨ライガーに、アイスブレーザーがヘルウィングを昆虫の飛翔翅の如く展開し、間合いを取って着地する。村雨ライガーを上回る優速を生かし、執拗に斬りかかる黒い猟犬を受け止めつつ、小次郎はじりじりと部隊を進めて行った。
小次郎は、敵の陣形が次第に下野国府を背にして集結していく様子に気付いていた。
(叔父達の目論見はこれだったのか)
攻め手である小次郎達のゾイドが、流れ弾によって背後の国府を損なえば、
「員経、経明、ディバイソンの射角に留意せよ。国府に当ててはならん」
強力な破壊力を持つ十七門突撃砲の射撃を抑えると同時、その伝達により敵の真意を味方勢にも知らしめた。兄の言葉を理解した三郎のケーニッヒウルフは、国府の土塀とは平行となる射撃に移行する。高い貫通力を誇るスナイパーライフルが、猶も数機のブロックスゾイドを貫き国府の堀に残骸を叩き込む。既に開戦当初から上野勢より数十余りの伴類が抜け出し、一部は恥ずかしげもなく小次郎の後衛に付こうとまでしている。
突然、抜け出したブロックスゾイドが切断されごろごろと転がった。白刃の如きフェザーカッターを煌めかせ、菫色の孔雀が舞っている。
「良子、なぜ来た」
怒号とも狼狽とも取れる声で小次郎が叫ぶ。
〝あなた様、これは私と父との業でもあるのです。妻として夫の言いつけを破った事、言い訳などしません。ですが私は私の心を示すことで、父との確執に決着をつけたい。どうか、どうか、お許しください〟
操る者の決意を汲み取るかの様に、甲高くレインボージャークが啼く。
(所詮は同じ血を受け継ぐ者、良子とて坂東の女なのだ)
「二度と出過ぎた真似はするな。だが来てしまったものは止むを得まい。良子、良兼叔父のダークホーンを捜せ。出来れば包囲し捕獲する、良いな」
〝はい〟
応じる声に安堵の気持ちを読み取る。夫が、父を討つつもりの無い事を聞いたからだろう。村雨ライガーの直上を舞うレインボージャークの尾羽が、太陽光を透かして旋回していた。
戦況が僅かな切っ掛けによって激変するのは常である。上野勢の後陣で部隊が崩壊を始めた。先頭を切って走るのは、黒い虎型ゾイドであった。
「太郎、逃げるのか」
しかし、口をついて出た言葉とは裏腹に、小次郎も又心中で安堵していた。竹馬の友と言える従兄貞盛を討つのもまた、小次郎の本意ではなかったからだ。
〝あなた様、ダークホーンが国府青竜門に殺到して行きます〟
そんな良子の報告を聞くまでもなく、敵陣は完全に崩れて行った。
一度崩れた部隊は止め処なく崩壊し、一斉に国府に向かって雪崩れ込む。固く閉門していた扉を突き崩し、ダークホーンが、レッドホーンが、ジークドーベルが、そしてブラストルタイガーが我先に国府敷地内に入り込んで行く。打ち破られた門扉の裏側に、パイルバンカーを装備した国府警護のゴドスが二機倒れていた。
「叔父の部隊を逃がすな。北門は俺が守る、東門に孝子と三郎、残りは南門だ」
剣狼王狼の二匹の狼が駆け抜ける。経明のディバイソンは味方の伴類を引き連れ南門に向った。泥に塗れ、硝煙の匂いが染みつき、国府を包囲するにも喘ぎながら走るゾイドの姿は満身創痍と言うに等しいものであった。だが、圧倒的兵力差にも関わらず、鎌輪勢はほぼ無傷のままであった。
一方、広大な敷地を有する下野国府の官人達は、降って湧いた災いに戦々恐々とする。雪崩れ込んだ上総勢を退去させる兵威はなく、そして鎌輪勢を防ぐ兵力は更にない。平将門率いるゾイドが常陸石田荘を完全破壊したのは坂東各地でも記憶に残っている。同種の攻撃を受ければ、満足な警護のゾイドを持たぬ国府など一溜りも無い。天上人への叛逆が容易に為されぬものとは知りつつも、坂東の無頼と思われる平将門を前に、国司以下多くの官吏は震えあがっていた。
玄武の描かれた北門に村雨ライガーが差し掛かり、既にそこが伴類によって充分に閉ざされていることを確認すると、小次郎は、主君の意を察して逸早く西門を固めていた伊和員経のディバイソンの元へと向かった。
鋼鉄の猛牛が、超硬角を怒らせて西門を睨んでいる。村雨ライガーを寄せ、風防を開いた。
「西門を開くぞ」
「今、何と仰られた」
聞き取れたからこそに、員経は納得の出来ない表情で問い返す。だが小次郎が嘆息をつくと、忠実な上兵は瞬時に主君の心情を理解していた。
「
「そういうことだ。退くぞ」
小次郎に呼応し、ディバイソンが西門の前から去って行く。
国府内から外の様子を覗っていた上野勢に、西門の囲みが解かれたことは電撃の如く伝わり、西門から我先に脱出する部隊が相次ぐ。その中には、他ならぬ良兼のダークホーンや良正のアイスブレーザー、貞盛のブラストルタイガーも含んでいた。
上野勢が去って数刻した後、正式に手順を踏んで国府に参内した小次郎の眼に入ったものは、無数のゾイドに踏み荒らされた敷地の惨状であった。
「此度も記録は取ってあるな」
デュアルスコープを跳ね上げ三郎が頷く。
「国司に報告するが、事が事だ。四郎と菅原景行公にも御足労を願おう。申し開きは俺がする」
村雨ライガーの風防を上げ、良兼の群が去って行った遥か彼方を睨む。
菫色の孔雀が舞い降りた。
「あなた様」
良子もそう言ったきり、沈黙した。
『下野国府の戦い』は、三度目にして三度目の圧倒的勝利の元に終決した。これにより厭がおうにも平将門の坂東での名声は高まり、逆に桓武平氏の棟梁たる平良兼の権威は大いに失墜した。まして西門を解かれ甥に見逃されたとあって、屈辱は計り知れない。その屈辱が、形振り構わずの復讐策になるとは、平将門には思い及ばずにいた。