『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第四部「坂東燃ゆ」   作:城元太

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第四拾壱話

 雲海を抜けるたび、フェザーカッターの先端から白い航跡(ベーパートレイル)が伸びていく。

 操縦席の加圧により、小次郎は何度も聴覚に圧迫を覚え、その都度耳抜きの為に鼻を摘まむ。前を見れば、操縦桿を握る桔梗は身動(みじろ)ぎもしない。

(俺は空飛ぶゾイドなど乗ったことはないからな)

 ゾイドを狩る群盗として、飛行ゾイドも操って来たのだろう。無言で進路を見つめる華奢な背中に、絶対の自信が感じられた。

 検非違使庁に参内することは、世辞にも弁が立つとは呼べない小次郎にとって気が重かった。加えて、都は嫌な思い出が残る場所である。

 早々に訴訟を終え、坂東に戻りたい。

 愛機村雨ライガーと離れ、制御装置を組み込み無理やりレインボージャークを動かしてまで都に向かったのは、小次郎がそれほどまで早々の帰郷を願ったからである。

 しかし歴史は、人の想いなど無慈悲に踏み躙るのであった。

 

 災厄は前触れもなく飛来する。

 二人は、風防越しに頭上が異様に明るくなることに気付いた。

 突然、目も眩む閃光を放つ大火球がレインボージャークを追い越す。

「なんだあれは」

 小次郎は思わず声を上げた。直後に激しい衝撃波が機体を襲う。

 機体異常を示す警報が鳴り響く。

 天井の風景が目まぐるしく回転した。菫色の孔雀は忽ち錐揉み状態に陥る。

 桔梗は機体の水平を保とうと操縦桿に必死にしがみ付く。数度の横回転を経て、安定を取り戻した機体の風防越しに見えたのは、天空に残る二筋の巨大な永続痕であった。

 二人は期せずして同じ言葉を発する。

「……『神々の怒り』」

 この惑星に栄えた高度な文明と社会を根こそぎ破壊した、宇宙からの災厄の呼び名であった。

 レインボージャークの進路を横切って飛来した隕石は、『神々の怒り』に連なる、軌道を乱された小惑星の破片である。

「あの方角は、都です」

 錐揉みによって方向感覚を失っている小次郎には、桔梗の言う方角が正しいのかはわからない。

「そうなのか」

「はい」

 漸く安定飛行に戻ったレインボージャークの中、不吉の前兆の様な白い痕を、二人は身動ぎもせずに睨んでいた。

 

 ぼろぼろの衣を纏った一人の乞食(こつじき)僧が、飛来する隕石雨を見上げて口遊んだ。

 

「――極楽は はるけきほどと 聞きしかど つとめていたる ところなりけり――

 

 平将門とはいかなる武者か。一度、面を合せてみしょうぞ」

 鹿の角を付けた錫杖を持つと、僧は天空に伸びる軌道エレベーターの麓に向い歩を進めて行く。目深に被った破れた編み笠の奥、僧侶には似つかわしくない鋭い眼光が浮かんでいた。

 

 桔梗の予測は半ば的中した。

 大気圏を通過した直径4丈(約13m)程の石鉄隕石は、落下の途中大気の摩擦熱によって破砕され、数百の破片となって海域を含む都周辺に降り注いだ。

 幸いにして、建設途中の軌道エレベーター施設に直接の被害はなかったものの、大気の摩擦による衝撃波は文字通り都全体を揺るがす。そしてそれは、今しも上洛する坂東武者と同一視されたのだ。

 平将門が破竹の勢いで坂東で名を馳せていることは都にも鳴り響いていた。閉塞した藤原政権への皮肉も込めて、諸氏の間でも小次郎を絶賛する声は上がっていた。その上洛に伴い飛来した宇宙からの侵入物は、恰も小次郎を召喚した検非違使庁、そしてそれを統括する太政大臣藤原忠平への神の怒りに違いない、と声高に唱える人々が巷に溢れ出したのだ。

「平将門には八幡大菩薩が憑いている」

「いや、将門に憑いているのは火雷天神道真公の御霊だ」

「流星であれば、北辰の妙見菩薩に違いない」

 噂の背後には、都の大衆の動揺を画策する藤原純友配下の傀儡衆の煽動もあったが、それは純友の思惑をも遥かに越えて瞬く間に都に広がって行った。

――もし平将門を追捕すれば、その祟りは天空を揺るがし、再び『神々の怒り』を引き起こすのではないか。

 大衆と、そして慣習に縛られ硬直化した公卿も、上洛する坂東武者に畏敬と戦慄を抱く。そしてその内部では、早々に小次郎への恩赦の手段を講じる論議が湧き上がってきたのである。

 

 一日遅れでアースポートに到着したレインボージャークは、小次郎達が驚くほどの熱狂的な歓迎を受けた。それは藤原忠平がギルドラゴンを持って下向した時にも勝る賑わいである。事情の呑み込めない小次郎は、出迎えた中、唯一見知った顔の人物に駆け寄った。

「興世王殿、一体これは何の騒ぎで御座いますか。私たちの他に、誰が御到着されるのですか」

「そなたは相も変わらず朴念仁よのう。これは他ならぬそなたへの歓迎の宴だ。坂東の勇者、平小次郎将門殿へのな」

 まるで我が事の如く語る興世王を前に、小次郎と桔梗はただ立ち竦む。

 桔梗の予測のもう半分は、大きく外れた。

 平将門は、都の民の大歓迎を受けることとなる。

 

 




 今回遂に空也上人登場です(誰も待ってないかも)。
 伝承によれば、将門と同じ年に生まれたと言われ、一遍に先んじて遊行の浄土信仰を始めたとあります。
 将門の乱鎮圧の後、京都に連行された将門の配下を教化したとあり、他にも鉢叩きと呼ばれる坂の者(サカノモノ=サンカ?)、つまり被差別民を救う活動を続けたともいわれます。
 本作を仕上げる為、資料を探したのですが、800ページを超える難解な資料か、漠然としたものしか探せませんでした。それだけに謎が多く、なぜ六波羅蜜寺にあのような像が残されているのかも不思議です。
 それだけに物語のカギを握る人物として非常に使いやすいキャラとなりました。
 空也上人、大好きになりました。
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