小さな巨人 作:オフサイドマン
埼玉の大浦東にある寺院で暮らす神崎蹴司には幼い頃から一緒に長い時間を過ごす幼馴染たち、一条龍・青梅優希・青梅優人がいた。
そんな彼らと同じ時間を過ごすことが多い蹴司だったが、彼らと一緒にいれない場所があった。サッカーのピッチ、蹴司は喘息持ちだったから激しい運動に混ざれなかったのだ。
いつも遠目に幼馴染たちが楽しそうにボールを蹴る姿がうらやましかった蹴司。自分もいつかあんな広く緑の芝に覆われたグラウンドにみんなと一緒に立ちたいと思う蹴司は1人、寺院の裏でボールを内緒で蹴る日々を送っていたのだった。
今日、僕は龍くん、優人くん、優希ちゃんのサッカーチームが勝てば優勝で全国大会に出れるという大会を今日も見に来ていた。今大会は加賀谷の桜庭くんを倒してから龍くんの調子はうなぎのぼり、どこが相手でも負ける気がしなかった。そして、今日の相手GKの渡辺くんに対してなかなかゴールを奪えない中で奪った1点はすごいの一言だった。
「龍ちゃん! これでおじさんとおばさん観に来てくれるね!」
「きっとビックリするよ! うちの龍ってばこんなにすごかったのね! なんて」
優人くんと優希ちゃんが言うようにきっと全国大会という大舞台なら龍くんのおばさんが観に来てくれるはずだった。
「龍くんのプレー凄かったよ! 何手もプレーあるから見てて楽しい!」
「そうなんだよな。蹴司が言うようイメージ沸いてそれをそのままできる自分がいるからさ」
龍ちゃんの最近のプレーは凄かった。得点を奪うのもそうだが、周りも使う。完全に試合を支配しているようだった。
どんどんすごくなる龍くんに僕たちは手の届かないところに行っちゃう気がした。それを言った優希ちゃんに龍くんはこれからもずっと変わらないよと言ってくれたことがすごくうれしかった。
そう言って僕の先を行く3人は階段を上り切って道に出ようと優人くんがした時だった。
――――ブォン!!
僕はまだ階段をあと1段の残してたから見えなかったけど突然龍くんと優人くん、そして優希ちゃんが僕に向かって落ちてきた。
「!?」
この時の僕は弱く小さな体で必死に受け止めようとした。咄嗟で優希ちゃんは横から落ちそうだったから僕は左手で落ちてくる反動を押し殺すように、押し返した。でも、その分勢いを受けて細い右腕から龍くんと優人くんは零れ落ちてしまった。
僕は運がよく手すりの柱にぶつかって止められる格好で下まで落ちなかったけど、脇がすごく痛くて動けなかった。
――いやぁぁああ
僕はこの時優希ちゃんの悲鳴の中で、ポケットに入れていた何かあった時にと、爺ちゃんに与えられていた携帯受信機のボタンを押した。
その後、雨の中すぐに近くにいたお姉ちゃんが迎えに来てくれて4人は病院へ救急搬送された。
僕たちのあたりまえの日々が一気に崩れていく。辛く悲しい日となってしまった。
あの大事故から1週間。僕は優人くんと同じ病棟の病室にいたけど、全くと会話という会話もしてなかった。優希ちゃんはかすり傷で済んだけど、僕はあばらにひびと手首を折った程度、優人くんは左腕を折った。でも、龍くんは全身を強く打って手術を受けて何とか命に別条はなかったけど、サッカーどころか普通の生活に戻れるかさえもわからなかった。
あの時、優人くんが道に飛び出したところを龍くんが引っ張って助けたけど、その勢いで龍くんと優人くんは階段から落ちたと聞いた。僕は階段の段差に気を付けて歩いていたので、なぜに階段から2人と巻き込まれた優希ちゃんが落ちたかがその時は分からなかったけど、咄嗟に動いた結果優希ちゃんは助かった。でも僕の残った細い右腕では龍くんと優人くんは支えきれず、こぼしてしまって二人は長い階段下へ……落ちてしまった。
その後、あまりの出来事に優希ちゃんは気を失いかけ誰の助けも入らない中で僕が持っていた携帯受信機を鳴らしたおかげで姉ちゃんが駆けつけて、救急車へと運ばれたのだった。
――もう少し……、遅れていたら、龍が。
僕の機転の利いた行動が功を奏したこともあって、龍くんはあの後すぐに手術には入れて助かったこと龍くんのお母さんからありがとうと言われた。けど、僕の中ではあの2人が腕の中からこぼれていき落ちていく光景が苦しくて胸が痛かった。
「優人! ホントにそれいいの?」
僕の隣はカーテンで遮られているけど、声は筒抜けで優人くんと優希ちゃんのお母さんは龍くんのおかげで助かったのに、会わなくていいのかと聞くが、優人くんは会えないしか言えなかった。
その後、二人のお母さんが出て行ったあとに優希ちゃんが優人くんを連れて行こうとしたけど、結局本人の前で会えなかったみたいだった。
――――……
その日の夕方、僕も龍くんに会えてなかったから意を決して病室の前へ行った。でも、僕は迷ってしまった。そんな時、通りかかった龍くんのお母さんと一緒に入った。
「りゅ、龍くん……」
龍くんは頭には包帯、顔や腕には傷はところどころ残り右足は包帯でぐるぐる巻きだった。
「蹴司!」
「ゔ」
僕はその場で足元が崩れ、涙を左腕で拭いながら……
――――ありがどう! 生きでてくれて! ありがとう!!
僕は、まだ目の前に龍くんがいることが良かったと思うのだった。
その後日、優人くんも龍ちゃんの許へ行って話したことを聞いた時はホッとしたし、よく優人くんも頑張ったと思った。
それから優人くんが退院した後に僕も退院が許され、龍くんだけが病院での生活がしばらく続いた。龍くんは僕たちを気遣ってかあんまり病院に顔を出すなと自分たちの時間を大切にしてほしいことを思って言ってくれたのだった――――
あの事故から3年が過ぎようとした。季節は夏を迎え中学最後の夏休みを迎えていたころ、僕はいつもの儀式となった境内のお賽銭箱にお賽銭を入れて拝んでいた。
「しゅうじー。今日も昼から学校に行くんじゃろ」
「うん、みんなの手伝いに」
事故から2年と少しが経ったころ、龍くんは驚異の回復力からサッカーが出来るまでになりました。それも、しっかりとリハビリを頑張ったから。そんな龍くんを優希ちゃんがしっかりといつも横でサポートしてくれた。僕だったら、いざって時に弱い気がしたから優希ちゃんにお願いして、ただお賽銭を入れて拝むことぐらいしかできなかった。
「もうすぐ大事な試合が近づいているからさ!」
そして僕やみんなが通う大浦東中学は県南大会を勝ち上がって1週間後に控えた県大会に向けて練習に励んでいた。
最初はばらばらだったチームも日が経つにつれて関係もよくなり全員が同じ目標、高円宮杯の本大会に向けて頑張っていた。中学卒業を機に親のいるインドネシアに行ってしまう龍くんがどこかのサッカーチームの目に留まって日本でサッカーが出来るように引き留めるために。
「熱すぎるのはあれだけど……、ボールを蹴るのには悪くないかな……」
僕は人気の少ない裏手のなぜか境内の方でいつものように自分の真上に高くボールを蹴りあげる、父さんが教えてくれた練習を、この場所で。
僕もかなり小さかったけど身長160前半まで来た。あとどれくらい伸びるかなと思い、力強くなったキックで上空高くボールを蹴りあげた時だった。
「え……? 蹴ちゃん」
この場所でサッカーボールを蹴っていたことを家族のだれにも教えてないのに、幼馴染の3人がその場にいた。僕がサッカーボールを蹴っているところを驚いた表情で――――
オリ主
神崎蹴司
身長;161㎝
体重:53㎏ (高校入学時点)
モデル:DAYSの桜木高の成神さんをちょっとだけ大きく(155㎝から)
振り向くな君はの時ぐらいの性格。