「勇者エミリア……この傷の礼は必ずさせてもらうぞ……」
3メートルほどの巨体、人間に似ているが頭から角がはえている男が苦虫を噛み砕いたような顔をしている。
その男、魔王サタンは勇者エミリアに追い込まれ、転移ゲートを開き別の世界へと逃走している。
「申し訳ありません魔王様、私の力が及ばないばかりに……」
隣で申し訳なさそうにしているのは魔王の腹心、アルシエルである。
魔王とその腹心は現在、勇者との全面戦争に敗北し、自身で開いた転移ゲートから別の世界へと逃亡している最中だ。
「大丈夫だアルシエル、別の世界で力を蓄え、もう一度あの世界……エンテイスラを我が手中に収める!」
「魔王様……不肖このアルシエル、どこまでもお供させていただきます。」
「よし、そうとなればまずは第二の故郷になる次の世界を手中に収めるぞ!!」
「はい!魔王様!!」
それから少しして二人は転移ゲートから抜け出し、新たな世界に降り立った。
「ふぅ、まずは状況を確認するぞアルシエル!」
魔王はそう言うと辺りを観察する。
辺りは薄暗く、室内であるのか窓から月明かりが差し込んでいる。
二人はそれぞれ別の場所を散策し始める。
天井の高さは5メートルあり、そこそこ広い部屋だとわかる。
よく見ると2メートルほどの銅像らしきものが数体並んでいる。
「なんのための部屋だここは……なにか心当たりはあるかアルシエル?」
「いえ、私にも何がなにやら……しかし個人所有ではなく何かしらの施設だと思われます。」
「そうか、ならまず外に出ようか。」
「はい、魔王様!」
二人は合流し、この世界に来て初めてお互いを視認した。
「ア、アルシエル?何だその姿は!?」
「魔王様こそ!人間の姿になってますよ!?」
二人は薄暗い中自分の姿を確認する。
先程までの3メートルほどの巨体は、今や半分ほどの大きさになっており、頭の角や尻尾までも無くなっている。
「ま、まさか魔力減少にともなって人間の姿になってしまったのか……?」
「確かに、エンテイスラで魔力不足などありませんでしたし……ゲートの作用もあるかもしれませんね。」
動揺していた二人だが、気を取り直し見つけた扉らしきものから外に出ようとする二人だが、鍵がかかっているのだろう、扉はビクともしない。
「くっそ!この姿、わかってたけど力が弱っちいじゃないか!!」
「魔王様、ここは私めにお任せください!」
そう言い出し、アルシエルは体に残っている魔力で扉を破壊しようと試みる。
「はぁ~~~!っはー!!!!」
軽快な掛け声とは反対に何も起こらない。
「あ、あれ……申し訳ありません魔王様!もう一度試みます!」
そう言ってもう一度扉を破壊しようと魔力を試みるアルシエルだったのだが結局は何も起こらず辺りに再び静寂が訪れる。
「もういいアルシエル、この世界に魔力が無いのを考えると、己の中に残っている魔力のみが頼りになるかもしれん、しかも徐々にではあるが魔力が体から流れ出ている。これからは魔力を使うのはできるだけ控えろ。」
「……はい、魔王様……あ、そう言えば魔王様の魔力でどうにかなりませんか?」
そう提案するアルシエルだが、魔力が勿体無いと魔王に却下される。
どうすることも出来ずとりあえず今まで気味が悪く近寄らなかった銅像らしきものを触れようとした次の瞬間、けたたましい音が鳴り始める。
「な、何が起こった?」
「わかりません魔王様!しかしなんだこの不愉快な音は!」
《学園所有のISに接近する人物あり、当直の先生は速やかに侵入者の排除を……繰り返します。》
けたたましい音の次に何かの言葉らしき音が聞こえる。
それから数分もしない内に先程までビクともしなかった扉が開き、女性らしき者の声がする。
「え、えぇーっと……侵入者さん、観念してください!」
そう女が言うと今まで薄暗かった部屋が突如明るくなる。
二人はいきなり視界が明るくなり思わず瞼を閉じる、目が慣れると扉付近の女性を警戒する。
緑色の髪の毛、眼鏡をかけており身長はかなりの小柄、しかしでかい。
「貴様!何だ今の魔術は!この世界には魔力がないのにどうして魔術が使える!!」
アルシエルが女に吠える、魔力も無いのに明かりがついたことに驚いているようだ。
しかしその女性には何を言っているのかわからないようだ。
「あ、貴方達は外人さんですか!?どうやってこの学園に侵入したのかわかりませんが、ここで拘束させてもらいます!」
そう言いつつ部屋に入ってくる女性、かなりひ弱そうで指一本で倒せそうだ。
「こんな小娘、魔王様の手をわずらわせるわけにもいきません。ここは私が!」
今までの失態を挽回したいのだろうか、アルシエルが前に出る。
小娘に負けるはずなど無いと高をくくっているのだろうか。
しかし次の瞬間その小さな体が3メートルほどの巨体へ変貌した。
「な……なん……だと……?」
アルシエルの顔が一気に青ざめる。
更に追い打ちをかけるようにその巨体の手に何かが現れる。
「な、貴様!やはり魔術を使うのか!!」
そういうアルシエルの頬に汗が流れる、魔法をろくに使えない自分、方やいきなり巨体に変貌し更に手にはよくわからない物体を召喚する。
魔力を扱えない人間が悪魔に相対するのはこんな気持なのかとどこか他人ごとのように思うアルシエル。
あわや両者相まみえるかと思った次の瞬間、今まで黙って魔王が動いた。
「待てアルシエル、相手もこちらもお互い言語を理解出来ていないのだろう、見たところ見敵必殺では無さそうだ。話す余地ぐらいはあるだろう。」
そう言いつつ魔王は女性の方へと近寄る。
女性はというと聞いたことのない言葉を話す二人を警戒しながら見張っており、もう一人がこちらに近づくのに警告する。
「と、止まってください!撃ちますよ?撃っちゃいますよ!?麻酔弾ですけど、当たったら痛いんですよ~!」
女性が手に持っているものを構える、それと同時に魔王も止まり、そして両手を上げる。
その行動に女性は少しばかり戸惑いを見せる。
アルシエルの方も戸惑っている、魔王たるサタン、それが敵の前で両手を上げている。
「魔王様!?降伏なさるおつもりですか!?」
「今の俺達は無力だ、更に相手が魔力を扱えるなら戦闘は避けたほうがいい。」
アルシエルの言葉に魔王は冷静な言葉で返す。
言葉は分からないが、そんな態度を見た女性は構えを解き、二人へ歩み寄る。
「とりあえず拘束させてもらいますね……ってわかりませんよね……どうしましょう……」
女性からため息が漏れる、どうすればいいのかわからないようだ。
「このままでは埒があかないか、仕方ない……」
そう呟くと魔王は魔力を使い女性に催眠をかける。
催眠のかかった女性の瞳から光が失われ、巨体も解除され最初の小さな姿になった。
「今から俺の質問に答えろ、それと簡単な日常会話を教えるんだ。」
「……はい。」
それから数分ほど情報を提供させ、女性の催眠を解く。
「……あれ?なんで私IS解除してるんだろ……って貴方達!?」
いつの間にか状況が変わっており、どうなってるのかと焦る女性。
一方の侵入者二人は互いに難しい顔をして話し合っている。
「魔王様……さっきの話、信じられますか?」
「いや、にわかには信じられない……しかし催眠をかけたんだ……嘘をつくことは出来ないだろう。」
「確かに、いくつか個人情報も聞きましたし、催眠は効いていましたね。」
二人が自分の理解出来ない言葉で話しているのに嫌気が刺したのか、女性が怒声らしきものを上げる。
「あの!!わ、私はIS学園の教師、山田真耶といいます!貴方達は日本語は喋れないんですか?っと言うかなぜここにいるんですか!!?」
真耶の声が届いたのか、二人が立ち上がり近づいてくる。
二人の男に迫られ、挙動不審になる真耶。
「な、なんなんですか!?こ、こっちにはISがあるんですから!返り討ちにするんですからね!!」
そう言ってISを起動しようとした瞬間、外人訛りの日本語が聞こえてきた。
「マ、マッテクダサイ!オレタチ、マチガッテココニハイッチャッタンデス!」
「……え?」
先程まで意思疎通が出来なかった相手なだけあり、その相手から日本語が聞けた事に安心したのか、真耶はその場に座り込む。
その顔には涙が浮かんでおり、その弱々しい女性の姿に焦る二人。
「ナ、ナニカワルイコトシマスデシタ?」
「いえ、ちょっと……言葉が通じないと思ってたので、安心しちゃいました。」
それから真耶に事情を説明する二人。
魔術的なことはひとまず隠して、お酒を飲んで酔っ払ってここに入ってしまったと苦しい言い訳を言う。
終始唖然としていた真耶だが、二人の服装(マントにコスプレ衣装?)を見て何かの打ち上げだったのかなと、一人納得してしまった。
「そういう事なんですか~確かにIS学園の警備は厳しいと言っても格納庫や校庭とかにまで警備は行き届いてないですからね~」
そんな呑気な切り返しをしてくる真耶に対して、二人は身の安全を感じながらもこの女性に対して不安が残る。
(この女性、こんな気楽な性格でほんとうに大丈夫なのだろうか……?)
などと悪の権化とも言う魔王サタンとその腹心、悪魔大元帥アルシエルに心配される女性、山田真耶であった。