働くIS魔王様   作:サダーオ

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勇者、仕事優先で魔王城に泊まる

貞夫がバイトを開始して1時間ほどたった頃、それは唐突に現れた。

 

 

「……らっしゃい。」

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

「ご注文はお決まりでしょ~か?」

 

 

「外で話があるんだけど。」

 

 

「テイクアウトっすねー」

 

 

「バイトが終わったら駅の前で待ってるから……拒否権は認めないわよ。」

 

 

「セットでよろしいですか~?」

 

 

「一人で来なさい……」

 

 

「単品ですね~か~しこまりやしたぁー、ビックマグロバーガーワーンプリーズ!」

 

 

「戦うつもりはないわ……必ず来なさい……」

 

 

「あざーっす!脇へずれて少々おまちくださいやせぇー!」

 

 

そんなやり取りを終え、ビッグマグロバーガーを持った恵美は店を出て行く。

出て行く彼女を見送りながら、作り物の笑顔を貼りつけた貞夫は、メンドくせぇと一言愚痴を零して気持ちを切り替える。

そんな貞夫に、奥から出てきた千穂が貞夫に話しかけてきた。。

 

 

「なんか変わったお客さんでしたね~」

 

 

「そうな……いろいろな人がいるからね。」

 

 

「何かお話ししてたみたいですけど、お知り合いですか?」

 

 

「まぁ、ちょっとご縁があってね……」

 

 

「あ、なんか怪しい!」

 

 

「何が?」

 

 

「確かにちょっと美人さんでしたもんね!ねっ!真奥さん、ね!」

 

 

「ねって三回も言わないで……ちーちゃん何を、俺があの女と何を……いらっしゃいませ、何をご注文なされますか?」

 

 

千穂とやり取りをしていた貞夫であったが、お客が入ってきたのでやり取りを中断し、それからは忙しいこともあり、二人は会話のことを忘れ仕事を終えたのであった。

 

 

「すみません真奥さん、急いでるので先に帰らせてもらいますね。」

 

 

「おっそうか、オツカレー」

 

 

そう言って千穂は先にIS学園へ帰ってしまった。

貞夫は、貸与された制服を持ち帰って洗濯するため袋に詰め、恵美に指定された駅前にある小さなロータリーに向かう。

貞夫が着いたときには既に、恵美は電柱にもたれかかりながら待っていた。

 

 

「で、話ってなんだよ?」

 

 

「ここじゃ人目につくわ……ついてきなさい。」

 

 

そう言い、恵美は勝手に歩き出す。

貞夫はしぶしぶついて行き、人目のつきにくそうな交差点へと到着した。

 

 

「んで……改めて、話ってなんだよ?」

 

 

「一つ聞かせて貰おうと思って、あなた……この世界でずっと暮らそうとは思わない?」

 

 

「はぁ?思うわけ無いだろ、いきなり何言い出すんだ?」

 

 

「この数日間、あなたの勤務態度、生活態度を見せてもらったわ。」

 

 

「ストーカーかよ……」

 

 

「悪事をはたらくこともなく、質素で真面目な暮らし……店長からも後輩からも信頼され、自身に裏打ちされた柔軟な対応力……まさに理想的なマグドのクルーね。」

 

 

「関西人かよ……」

 

 

「その上、事実上のIS学園二人目の男性IS操縦者……そっちの方へ進んでも、十分この世界で生きていけるわ。」

 

 

「俺は一夏とは違うんだ……学生ならまだしも、女の世界とか怖すぎて入っていけねぇよ。」

 

 

「学園でのあなたの生活を見る限り、そんな感じはないのだけれど……それに、この前のあなたの話、戯言と聞き流しそうになったけど、あながち嘘でもないんじゃないかと思えてきたの……このままあなたが、この世界で人生を過ごしてくれるなら、私は無理にあなたを倒そうとは思わないわ……このままこの世界に骨を埋めたら?」

 

 

「お前、訴えたらマジで捕まりそうだな……ってそうじゃなくて、お前は仮にも魔王であるこの俺に、そんな平和な生活を薦めるのか?」

 

 

「エンテ・イスラを諦めて、ここで新しい生活を見つけなさい。」

 

 

「……ありえない、俺は必ずエンテ・イスラを征服しに戻る!」

 

 

貞夫の言葉に、二人の間の空気が重々しく変化する。

恵美は苦々しい表情で貞夫を睨みつけ、貞夫は悪魔のように邪悪な表情を浮かべている。

しかし、そんな二人の緊張は、貞夫が何かしらの衝撃で前につんのめり、コケそうになったことで解けてしまった。

貞夫が不思議に思い後ろを向くと、制服を入れていた袋が地面に転がっている。

手を見てみると、取っ手の部分だけが残っていた。

 

 

「なんだ?何が……?」

 

 

「っぷ、あんた……よく何も無いところで躓けるわね。」

 

 

「いや、躓きたくて躓いたわけじゃねぇよ!」

 

 

疑問に思いながらも袋を拾おうとした貞夫だが、紫色の光が袋に数発命中し、袋が穴だらけになってしまう。

袋とその中身の制服の事を嘆こうとした貞夫だが、それよりも先に確信したことを口に出す。

 

 

「俺たち……ひょっとして……」

 

 

「撃たれてる?」

 

 

恵美も襲撃者の気配に気付いたのか、周囲を警戒し始める。

しかし、それよりも早くに警戒していた貞夫が、危機回避の為に恵美を押し倒した。

その瞬間、先程まで恵美の頭があった辺りに、紫色の光が通り過ぎ、そのまま看板を貫通した。

 

 

「看板に穴が!?」

 

 

「ちょっと、さわらないでよ!」

 

 

「喧嘩してる場合じゃねぇだろ!」

 

 

助けたはずが、なぜか逆に怒られてしまい、げんなりする貞夫。

そんな貞夫を巻き込み、恵美はとっさに横へと回転し、恵美と貞夫の位置関係が逆転し、間もなく二人のいた場所に光が打ち込まれ、地面に穴が開く。

 

 

「っは!やるじゃないか!」

 

 

「これでも勇者よ、バカにしないで!」

 

 

「それじゃ俺の上からどいてくれ。」

 

 

「あなたが勝手に私の下敷きになったんじゃない!」

 

 

そう言いつつ体を起こし、貞夫から少し離れる恵美。

貞夫も起き上がり、襲撃者に撃たれまいと、姿勢を低くし作戦を練る。

 

 

「駅前なら人もいるはずだ……走れるか?」

 

 

「あんたなんかに遅れをとる私じゃないわよ……言っとくけど、私……あなたより速いわよ?」

 

 

「上等……行くぞ!」

 

 

貞夫の言葉に一気に駆け抜ける二人。

幸い襲撃者からの攻撃もなく、難なく駅前に着いた。

しかし、全力疾走したのか、

 

 

「はぁはぁ……どうやら、ここまでは追ってこない……みたいだな。」

 

 

「なんだったの、今の?」

 

 

「わかんねぇけど、ただの狙撃じゃねぇ……魔力エネルギー弾だ。」

 

 

貞夫の言葉に驚愕する恵美、彼女自身魔力を使って攻撃してくる者の心当たりが、一つしか無いからだ。

しかも、魔力を補充するのが、現在ほぼ不可能なこの場所で魔力エネルギー弾を乱射してきた相手となると、かなりの実力者と推測できる。

 

 

「相当な力の持ち主、しかも俺とお前の正体を知っている。」

 

 

「そんな奴いるの?」

 

 

「魔王と勇者が揃った場所に、謎の狙撃だ……エンテ・イスラ絡みだと考えるのが普通だろ、お前のせいでとんだ目にあった……」

 

 

「わ、私のせい!?」

 

 

「お前がもっと穏やかな時間と場所を設定していればこんな騒ぎは起きなかったろう……」

 

 

「あなたがこんな時間までバイトしているからでしょう!?」

 

 

「別に学校の昼休みとか、休みの日の午前とかでいいじゃん……」

 

 

「その時間帯は用事があるのよ!」

 

 

「知らねぇよそんなこと……」

 

 

そう言って貞夫はおもむろに歩き出す、恵美は無理矢理会話を打ち切られ少しばかりご立腹のようだ。

 

 

「ちょっと、どこいくのよ!」

 

 

「帰るんだよ、明日も学校なんでな。」

 

 

「一人で逃げる気!」

 

 

「当たり前だ……お前もIS学園に帰るんだろ?早くこないと置いてくぞ。」

 

 

「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 

静止の声を掛けても立ち止まらない貞夫に、恵美はしぶしぶ付いて行くことにした。

貞夫は、自身の部屋の前に到着したが、ずっと後ろをついてきている人間に振り向き、疑問を口にする。

 

 

「なんで付いてきてるんだよ……お前は、これから夜討ちでもかける気なのかな?」

 

 

勇者の不思議な行動に、少しばかり声が上擦る貞夫だが、相手の面持ちが沈んでいる様を見て、強く言い出せずにいた。

 

 

「そ、そんなんじゃないわよ……」

 

 

「だったらなんだよ?部屋に男子だっているんだ。見られたりしたら面倒だから騒ぎは起こさないでくれよ?」

 

 

「……」

 

 

上目遣いで殊勝な態度の恵美に、貞夫は気味の悪さとむず痒さを感じていた。

 

 

「ど、どうした?」

 

 

「あ、あなたにこんなこと頼むのはこうほら……それどころか世界への背信なんだけど……」

 

 

「挑発しにきたのか己は……」

 

 

「今日……と……」

 

 

「と?」

 

 

「と、泊めてもらえないかしら?財布を落としちゃって……」

 

 

「え?」

 

 

勇者のありえない言動に、しばし思考が停止する貞夫だが、恵美は言葉を続ける。

 

 

「改札のカードとかはカード入れに入れてチェーンでズボンに引っ掛けてるんだけど……財布の中に部屋の鍵を入れてて……」

 

 

必死に説明している恵美だが、未だに貞夫は思考停止していた。

しかし、部屋の中から聞こえてきた怒声に現実に引き戻される。

 

 

「……女の子との約束をちゃんと覚えていないなんて男の風上にも置けない奴!犬に噛まれて死ね!!」

 

 

その怒声から少しして、部屋の扉が勢い良く開かれる。

怒り心頭な面持ちの鈴が部屋から出てきた。

 

 

「……何見てんのよ?」

 

 

「い、いや……なんでもないですよ?」

 

 

鈴は、その後何も言わずにどこかへ行ってしまった。

その次の瞬間、またしても部屋の中から怒声が聞こえてくる。

 

 

「……馬に蹴られて死ね!」

 

 

その怒声の後少しして、今度は箒が部屋から出てくる。

 

 

「真奥か、また明日な。」

 

 

箒からは鈴と同じようにどす黒いオーラが漂っていた。

二人が去り、貞夫が部屋の中を覗き込むと、一夏がベットにもたれかかり頭を抱えていた。

不憫に思う貞夫だが、一夏に声をかける。

 

 

「一夏、大丈夫か?」

 

 

「貞夫か……ちょっと一人にしてもらってもいいか?」

 

 

「お、おう……」

 

 

一夏の心境を悟った貞夫は、恵美を連れて芦屋の部屋に行くことにした。

部屋に着き扉を開け、貞夫と恵美が部屋に入ると、そこには驚愕の表情を浮かべる芦屋がいた。

 

 

「んなっ!勇者エミリア!」

 

 

「大丈夫、こいつ今戦うような元気ねぇから。」

 

 

「何を悠長な!魔王様ともあろう御方が、勇者と二人で御前様とは!」

 

 

「さっきそこで二人して襲われたんだよ、魔力弾で撃たれた……んで、逃げる途中で財布を落としちまったんだと、しかも財布の中には部屋の鍵が入れてあって、部屋に帰れないんだとよ。部屋の予備鍵は校長が管理してるんだけど、なんかどっか行ってるみたいで鍵もらえなかったんだわ。」

 

 

「つまり……ここに一晩置いておくということですか!?」

 

 

「ほら、つったってないで入れよ。」

 

 

「お、お邪魔します……」

 

 

「芦屋、敷き布団と掛け布団……後は枕を頼む。」

 

 

「べっ別に要らないわよ。」

 

 

「魔王様がお慈悲をくださってるのに、なんだその態度は!」

 

 

「芦屋うるせぇ、千冬がくるぞ。」

 

 

出された布団の上に座る恵美、おもむろに手に持っている掛け布団の匂いを確かめる。

 

 

「この匂い……うちのと同じ洗剤?」

 

 

「今日のところは千円貸してやるから、朝飯にでも使えよ。」

 

 

「魔王様がお貸しくださった千円だ。大事に扱え!」

 

 

「分かってますよ!朝になったら出てくわよ!千円どうも!」

 

 

そう言って横になる恵美、貞夫と芦屋も寝る準備をするために立ち上がる。

 

 

「この女……」

 

 

「俺たちももう寝るぞ。」

 

 

「っは!私は気を許したわけでは無いぞ……おかしな真似はするなよ!」

 

 

部屋が暗くなり、恵美が熟睡している中、まだ起きている貞夫と芦屋は今日の出来事などを話し合っていた。

 

 

「……最初は俺らも、ずいぶん惨めな思いをしただろ?」

 

 

「……はい。」

 

 

「俺らは二人だけど、あいつは一人みたいだし……」

 

 

「魔王様も甘くなられた……」

 

 

その時、貞夫の携帯が震え、メールを受信する。

おもむろに開いた画面には、2件のメールが表示されていた。

先にきた方のメールを見る貞夫、そこには不明なアドレスとあり、[地震はまだまだ続く。気をつけろ]とだけ書いてあった。

 

 

「地震?なんだこりゃ……あっ、ちーちゃんからも来てる。」

 

 

そう言って二つ目のメールを開くと、[地震がまた起こります。どうしよ。]とだけ書かれていた。

 

 

「地震がまた起こります。どうしよって……」

 

 

「魔王様?」

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

意味不明な二つのメールに、困惑する貞夫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夏休みになると更新早くなると思ったのですが、家にいること自体が減り、更新が遅くなりました。
もし楽しみにしていた方がいたなら、大変申し訳ないです。
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